第40回
『ちゃぶ台13』の特集を発表します!
2024.03.19更新
こんにちは。ちゃぶ台編集部のスミです。
本日のミシマガは、「月刊ちゃぶ台」をお届けします。
「ちゃぶ台」とは、ミシマ社が半年に一度刊行している「生活者のための総合雑誌」です。
最新刊『ちゃぶ台12 特集:捨てない、できるだけ』(2023年12月刊)は、ついこのあいだ発売されたばかりのはずなのですが、もう次号の制作が本格的に始まっているから不思議・・・。(編集部の体感)
さて、ちゃぶ台の雑誌づくりは、特集テーマの決定からはじまります。
そのときごとに、編集部が「これかも」と直感的に思った言葉を掲げ、著者の方に寄稿をお願いしたり、取材をしたりして、いろいろな角度から問いを探るように雑誌をつくっています。
左から『ちゃぶ台10 特集:母語ボゴボゴ、土っ!』、『ちゃぶ台11 特集:自分の中にぼけを持て』、『ちゃぶ台12 特集:捨てない、できるだけ』
次号『ちゃぶ台13』の特集は、こちらに決定しました!
「三十年後」
いつも以上に、編集部が悩みに悩んで辿り着いた特集名です。その思いを編集長の三島が綴った「巻頭文」を公開いたします。
三十年後
編集会議が硬直した。「自分と⚪︎⚪︎のあいだに線を引き直す」。昨年末、一度はこの特集に決まった。が、年始、能登半島の地震を経て、これではすこし弱い気がした。もっと直接的に不安を抱えて過ごす人たちに届くほうがいいのではないか? 企画を白紙に戻し、編集チームで話し出したところ、「ハラ(肚、腹)で考える」「どっしり(箱)」とかなんとか、重心を下のほうへ持ってくる案が出た。主に私が出したわけだが、やんわり、時に、はっきり否定された。そうして三、四時間が経過し、冒頭の状態へ陥った。
沈黙。しばしの無言の間が長く感じられた。メンバーの一人が、「たとえばですが、むしろ今を取り上げるのではなく」と言って続けた。「三十年後、とか」。
三十年後――。このひとことで場が動いた。場に接着していた自分たちの脳がひき剥がされるように、解放されるのを実感した。
ああ、そうか、これこそが自分たちの役割なのかもしれない。震災などが起こると、私たちは知らず知らずのうちに、自らを檻のような狭い空間に閉じ込めてしまいがちだ。いや、災害がなくとも私たちはSNSの世界で日々自らを息苦しいほうへと追いやっているのだろう。まずはその状態から解き放つ。そのために、生きたことばを投げかける。「ちゃぶ台」の意義はそういうところにあるのではないか。
と、そのとき思えたわけではない。この会議の2カ月ほどあとである。本誌の巻頭に掲載した松村圭一郎さんにインタビューした際、特集の意図を説明し、松村さんの話を聞いているうちに、全てが重なって見えてきた。全てというのは、松村さんがもっと長いスパンで思考をしたくて一年間日本を離れたこと、私たちが「三十年後」を掲げたことで硬直状態を抜け出せたこと、今に向き合うためにはときに今を離れた遠くに投げる必要があること、など。
その意味で、本号の掲げる「三十年後」は未来予測とはすこしちがう。「今」を大切にするために、一度、今から離れてみる。ことばと思考と感覚を、ぽーんと遠くへ飛ばす。そうして見えてくるものは? 期待に胸を膨らませながら、本号を編みたい。
本誌編集長 三島邦弘
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この特集にたどり着くまでの話を、「ミシマ社の話」で2回にわたって、読者の存在と震災という二つの視点から三島が書いています。そちらも合わせてお読みいただければ幸いです。
●2024年1月23日掲載「雑誌の特集は誰が決める?――読者・著者・編集者をめぐる一考察」
●2024年3月4日掲載「遠くへ」
近日中に、次号の執筆陣や特集ページの内容をご紹介する予定です。どうぞお楽しみに!