第19回
非常時を明るく生きる、ってどういうこと? 三島邦弘×Title 辻山良雄(2)
2020.11.29更新
毎年、『ちゃぶ台』発刊のたびに、本屋Titleさんにて行われてきた、辻山良雄さんと編集長・三島の対談。今年はコロナの影響で、お店での対話は叶いませんでしたが、オンラインで、全国からのお客様にご参加いただき、発売日11/20(金)夜に開催しました。
後半となる本日は、装丁を担当いただいたtento漆原悠一さんや、ちゃぶ台編集チームも加わって語らった模様をお届けします。
(前半の記事はこちら)
表紙の写真に込めた意味
辻山 ここからは、今回の『ちゃぶ台6』の装丁とデザインをされたtentoの漆原さん、そしてミシマ社編集部の星野さんと野崎さんにもお話を伺います。まずは、漆原さんが担当されることになった、デザインの全面リニューアルについて。
漆原 これまでの矢萩多聞さんのデザインに対して全く違うものをつくるという意識ではなくて、あくまで同じ方向を向いていながらも、少し角度の違う見せ方をしてみようと考えました。
辻山 表紙には齋藤陽道さんの写真が使われていますね。このデザインが上がってきたときの、ミシマ社編集部の反応は?
野崎 この写真が選ばれたのは予想外で、はじめはびっくりしました。齋藤さんに表紙の写真を依頼し、コロナの期間中に撮影された写真を何枚か送っていただきました。お子さんの姿以外にも、家のまわりを撮った写真がいろいろあるなかで、パキッとした、印象が強いものを漆原さんが選ばれたのが意外でした。でも、写真がこれだけはっきりしつつも、表紙全体としては『ちゃぶ台』のほがらかなイメージにまとまっていて、すごいなと思います。
漆原 この写真を見たときに、単純にかわいらしい子どもというだけではない、なにか含みをもって語りかけてくるような視線を被写体から感じていました。当たり前のことなのですが、ちゃんとした意思を持ち、凹凸があるひとりの個性を持った人間だなぁと。なおかつ、背景が暗いなかで表情に光がポイントで当たっていてこちらのほうを向いているという、写真そのものが持つまっすぐな強さもあった。それらの印象が、ありきたりな言葉を使わずにひとりの生活者の視点を大事にするミシマ社さんの本づくりのあり方と重なって。リニューアル後の1号目として強い印象を与えつつも、ミシマ社が大切にしていることも伝えられるのではないかと考えました。
漆原さんが参加するゼロからのデザイン=編集
辻山 造本上の工夫もたくさんあって、ページをめくると、どんどん紙の種類が変わっていきますよね。
漆原 扉や目次は割と自由な意識で遊びごころをもってデザインをしていますが、雑誌のメインとなる本文ページはストレスなく読みやすい見せ方を心がけました。肝心の読み物はシンプルに、それ以外のところで紙の種類を変えたり、雑誌の天側をアンカットでギザギザにしたりすることで、それらの"雑味"の要素が、新たな『ちゃぶ台』の特徴にもなるのではと思いました。
辻山 サイズは四六版とよばれる単行本のサイズよりも、少し幅が広いですね。ゆったりと広く行間をとったレイアウトなので、平川克美さんの論考や、藤原辰史さん・松村圭一郎さんの対談のように頭を使って考えさせる文章も、難しいと感じさせずに無理なく入ってきやすい。開いたときに、読みやすさと親しみやすさがあります。
いま、デザイナーさんもひとりの編集者の視点で本をデザインされることが求められていると思います。
三島 デザイナーさんがあってこその書籍であり、雑誌です。だから、デザイナーさんとの打ち合わせは決定的に大事ですね。今回はリニューアルでゼロからの雑誌づくりだったので、その地点に立って、これからの『ちゃぶ台』が目指そうと思っている方向性とフィットする方がいいなと思っていました。ちょうどその時期に、漆原さんが『自分と他人の許し方、あるいは愛し方』という本で最高のデザインをしてくださった。そうした流れもあって、漆原さんにお願いすることになりました。
星野 装丁の打ち合わせがけっこう進んでいた段階の途中で、漆原さんが編集部に「『ちゃぶ台』って、なんでちゃぶ台という名前なんですか」と質問されたんです。それがとても印象的でした。私たちが『ちゃぶ台』づくりを5年間も続けてきて、改めて考えることのなかった問いに立ち返るきっかけになりました。「ちゃぶ台とは?」というページを巻頭に加える提案もしていただいて。あとは、これまでの『ちゃぶ台』には存在しなかった、鬼のように細かい台割も作ってくださいました(笑)。まさに漆原さんに編集をしていただいて、雑誌が生まれ変わったなと感じます。
つながりのなかでつくる雑誌
辻山 『ちゃぶ台』の寄稿者はジャンルもさまざまな方たちですが、今回のコロナ禍で社会の状況が大きく動くという「同じ体験」をしたからこそ、その内容は違えども一体感のようなものを感じたんです。齋藤さんの写真では植物がぐんぐん伸びていくようすが切り取られていますが、どの文章でもそうした生活の実感が書かれていて。藤原さんや松村圭一郎さんの文章のように、それが論として脳を刺激するものもあれば、地に足のついた、そこに「体」を感じる言葉を書かれる方もいて。「生活者」という同じ土壌から、それぞれの内容が生えてくる印象がありました。だから一冊の本として、ひとつづきに読める雑誌になっているなと。
取材ができないなど大変なことも多かったと思いますが、雑誌づくりとして、いまだからできてよかったことはなんですか。
三島 つながりがあった方々でつくる雑誌になったことですね。町屋良平さん、猪瀬浩平さん、前田エマさんなどはじめて寄稿してくださった方も、これまでミシマ社とご縁があった延長線上で今回ご一緒できました。あるいは、木村俊介さんのMS Live!の連続講座があったから、『文藝』編集長の坂上陽子さんへのインタビューが実現したり、「ちいさいミシマ社」レーベルで高橋久美子さんの詩集を出したというご縁から、『ちゃぶ台』に初めて詩を掲載できたり。移動はできませんでしたが、これまでにできていた流れのなか、縁のなかでつくり、自分たちの足元を見つめながら丁寧に雑誌を練りこんでいけました。そういう関係性のなかだからこそ、愛の込もった文章や写真や絵が集まっていったように思います。
星野 雑誌の編集は単行本とは違って、最後までずっとチームで、漆原さんや執筆者のみなさんとも一緒になって作る感覚があり楽しかったです。いろんな原稿が入稿直前まで動きつづけて、生き物としての雑誌ができました。
野崎 この『ちゃぶ台』の見本がオフィスに届いて、それを手にしたときに、ひさしぶりに湧き上がってくる嬉しさがありました。オンラインで出版活動をする機会が増えたからこそ、その一方で、言葉が紙に印刷されて本になるという根本的なことの喜びを、深く味わったのだと思います。
辻山 なかなか直接会えないからこそ、手に取れるものからうれしさを深く感じますよね。本づくりというのは、書き手が編集者といろいろ話しながら、霊感みたいなものを知らないあいだに受けとり、それが自分の原稿に潜り込んだときに生かされていく、ということのくりかえしだと思います。今日も実際には会えていませんが、つながったという感覚はあります。オンラインであっても、そういうつながりを絶やさないことで本づくりが続いていくことが大事だなと、改めて感じますよね。
(構成:角智春)
編集部からのお知らせ
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『ちゃぶ台6』、『縁食論』の発刊を記念して、藤原辰史さんと松村圭一郎さんのオンライン対談「縁食から世界を変える」を12/3(木)に開催します。『ちゃぶ台6』でもご対談いただいたおふたりに、「縁食」というキーワードから世界を編みなおし、 その可能性について語り尽くしていただきます。