月刊ちゃぶ台

第4回

もっと菌を!? ミシマ社が考えるこれからの10年(1)「未来の種はこんなふうに」

2018.11.10更新

 『ちゃぶ台vol.4「発酵×経済」号 』の発売日である先月の19日、ちゃぶ台編集長の三島が、荻窪の本屋「Title」さんにお邪魔して、店主の辻山良雄さんと対談を行いました。
 辻山さんの聞き上手で穏やかな人柄に乗せられて、三島は全国各地で出会った「すでに起こっている、ちょっと先の未来」について、情熱的に語り続けました。
 平成の後の元号が取りざたされていますが、「黄金」というのはどうでしょうか。「青春」なんてのもいいですね。暗いニュースが多い今ですが、そんな気持ちになれるくらい、未来を前向きに捉えた対談になりました。 chabudai4_shoei.jpg

(構成:須賀紘也 写真:池畑索季)


「言葉の菌」が発酵した

辻山 今回の『ちゃぶ台』は、発酵と経済号なんですよね。2、3年ぐらい前から、『スペクテイター』が発酵を扱ったり、発酵の本がいろいろ出てますよね。みんな「発酵」という言葉を気にしているんじゃないかと思います。なんで『ちゃぶ台』で発酵をやろうと思ったんですか。

1110_1.jpg本屋Title店主 辻山良雄さん

三島 「発酵」をスペクテイターさんがやっているなとか、うすうす知っていたのかどうかもよくわかんないんです。僕はいろんなことをちゃんとウォッチすることを、あんまりやっていないので、情報が遅れて届いて来がちでして・・・。僕の中では、去年急に「菌」が大ヒットしたんです。

1110_2.JPG『ちゃぶ台』編集長 三島

辻山 自分の中で?

三島 はい。元を振り返ると、鳥取県智頭町にあるパン屋さんで、今はビールも作っているタルマーリーの渡邉格(いたる)さんが、『ちゃぶ台vol.3 「教育×地元」号』の中で、スタッフの気持ちが良くないときやスタッフの関係が良くないときには、糀が育たず青カビが生えるということを書いています。人間がコントロールして糀を育てて、発酵させようとしてもうまくいかない。糀のほうに主導権がある。そういう内容を読んだときに、「これだ」って思ったんですよね。

chabudai3_shoei.jpg『ちゃぶ台vol.3 「教育×地元」号』


 もちろん、そういう文章はこれまでにも出会っていたはずです。格さんが『ちゃぶ台vol.1「移住×仕事」号』にも書いていたし、元をたどれば『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社+α文庫) という本の中でも書いておられます。だけど自分の中で深くヒットしていなかった、というより、発酵してなかったんだと思います。そうしたすでに体内に入っていた「言葉の菌」が『ちゃぶ台Vol.3』を発刊しようとしているタイミングで、急に自分の中で発酵しだして、「菌だぁ!」っていうふうに盛り上がったんです。辻山さんも1年前にお会いしてたらビックリしたと思いますよ。口を開けば、「キン、キン、キン、キン」言ってましたから。

辻山 (笑)

1110_4.jpg渡邉格『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社+α文庫)

「分けない」というところから始める

辻山 今回の『ちゃぶ台』にも登場する、タルマーリーの渡邉夫妻と小倉ヒラクさんが、菌を語る2大スターですね。

三島 ヒラクさんと話したときに、『数学する身体』の森田真生さんと会ったときのような感覚がありました。2人とも脳みその回転が非常に高速。言葉が鋭利で知的だし、単なる思いつきじゃない。2人は数学と発酵という全然違う分野を研究されてますが、目指している方向は実は似ているなと感じています。数学や発酵を入口にして、次の社会のあり方をずっと考えている2人ですね。

辻山 おお。

三島 渡邉格さんは真の実践者。ヒラクさんが師匠と呼ぶのもよくわかる。あそこまで思想と実践を一致させるのは、なかなかできることではありません。タルマーリーさんでつくったビールを飲ませてもらったんですけど、「生きた菌」の味がしました。今の日本のビール業界は、絶対に乳酸菌は入らないようにしるそうです。乳酸菌を入れると味が一定にならないとかいろいろな理由でカットしているわけですけど、格さんは「すべての菌に意味がある」という考えです。あらかじめ排除するっていう考え方は、善悪とかで・・・

辻山 分けてしまうことになる。

三島 そうです。二元論的な社会をつくってしまうので。だからどんな菌でも一緒にやろうっていう思想を持ってるんですよね。
 今回寄稿してくださった日経新聞の記者である高井浩章さんが、ロンドンのパブもそうだって書いています。パブって毎日常連さんが通ってるって印象がありますよね。それは木樽の中で毎日発酵していって、毎日ビールの味が違うから。日本だと、いつでも同じ一定の味をつくることがプロの仕事とみなされますけど、ロンドンでは、菌に任せて日々変わっていくビールを楽しむ。大人の時間をもたずに、消費者という立場しかないとクレーマーになってしまう。

辻山 「昨日と違うじゃないか」って(笑)。

三島 やたらと均一性、確実性を求めることの危うさとかを考えながら、僕個人も生きてるし、会社の運営も考えているなかで、「そうか、僕自身にも決定的に欠けてたのは菌だったんだ」って思えた。というか、内なる体内菌が僕に訴えてきた(笑)。


生産量を減らすという決断

三島 この号を本当に早く出したかったんですよ。つくりながら、「この人たちが今の時代のトップランナーだな」って、震えるような感動があったんです。今回ヒラクさんが記事で取り上げた、福禄寿酒蔵の社長である渡邉康衛さんが、大学を出て親父さんに呼び戻されたとき、福禄寿は経営的にたいへんきつかった。そこから彼がいろいろ変えていったんです。まず、普通酒から純米酒っていうのをメインにしました。

辻山 その違いはなんなんですか?

三島 普通酒は、添加物というか、「工業的に糖類やアルコールを薄く」伸ばして、短期間に効率的に大量生産します。それによって味が一定になる。発酵と腐敗って表裏一体なんで、それこそ普通酒以前の昔のお酒は、腐ってダメになることもあったそうです。

辻山 それをなにより恐れていたと。

三島 あとは敗戦後、安酒をみんなが求める経済状況だったこともあって、普通酒が人気だった。でもワインが入ってきたりして、だんだん頭打ちになって、「このままでは日本酒業界がなくなります」という報道がされていた時期も、私が学生時代あったのを覚えています。2000年代初頭、康衛さんは自分の家で営む福禄寿に戻って、そのときに普通酒から純米酒に大半を切り替えた。
 天然の麹を育ているわけで、おそらく手間は10倍ぐらいかかるでしょうし、生産量を半分以下にした。生産量を大幅に減らすということは・・・

辻山 売り上げが減ると。

三島 はい。それでもやるんだと決断して。「一白水成」という福禄寿さんのブランド酒が、今年の全国新酒鑑評会で金賞を取りましたが、今とても売れていますよね。
 あとは、流通のやり方も変えています。ちょっとミシマ社と似てて、直卸しにしたそうです。日本酒の業界も卸しの会社があって、そこが撒いてくれるそうなんですけど。

辻山 新刊配本みたいに。

三島 そうですね(笑)。置かれるお店の数は当然減るけれども、待っているお客さんの元にちゃんと届けることができる。そういう感覚があるとおっしゃってました。

「未来のちいさな種」を取り上げたい

三島 生産量を半分にしたという出版社は聞いたことないですし。つくり方においても、添加物混ぜてつくってるみたいな感じって実際あると思う。マーケティングで「売れる」と結論づけられたキーワードを多めに入れる、とか。
 だから康衛さんに「僕らの先を行っていると思います」って言ったら、「三島さんそうじゃない。僕らは本当に底を見たんだよ」と答えられた。座して死を待つのみか、それともこれまでのこの数十年をなくしてでも次のために大きな舵を切るかどっちかっていうときに、その選択肢しかなかった、と。

辻山 追い込まれていたんですね。

三島 本当にやりきったわけなんですごいですよね。こういう動きは、たぶん日本中いっぱいあるはずなんです。『ちゃぶ台』は創刊の時から、そういうなかなかメディアにはのっかってこない、「未来のちいさな種」を取り上げようとしてきました。まあ種なんで、すぐには気付かれないのですが。たいていメディアで取り上げられるのは、芽が出たり大輪が咲いてからですからね。

辻山 見えるようになってから「次のモデルはこれだ」と言っている。

三島 はい。でもその時には、もう過去だと思うんです。こういう大きな変化が求められる時代に必要なのは、種レベルの動きを探知すること。種であるっていうことは、芽が出ていく保証が無いんですよ。地中に埋まったまま、なんの変化も生まれないこともあるわけですけど、そういうことやっていかないと次の流れが見えてこない。中途半端な過去の成功モデルに戻るっていう感じが、今の大局の流れだと思うんですよね、政治も経済もあらゆるところで。そうしてどんどん逆に苦しくなっていってる。これが現状ではないでしょうか。でもそうじゃない動きがいっぱいある。そのことを『ちゃぶ台』ではとりあげていきたいなって思っています。

(続く)

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

編集部からのお知らせ

『ちゃぶ台』編集長三島邦弘が、『ちゃぶ台Vol.4』ツアーとして全国を巡りイベントに登壇します。ぜひ足をお運びください。

「もっと菌を!? ミシマ社が考えるこれからの10年」 〜『ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台vol.4 「発酵×経済」号』刊行記念トークイベント〜

■日程:2018年11月15日(木) 19:30 – 21:00
■場所:香川県高松 本屋ルヌガンガ

詳細はこちら

「本」で世界を面白く。「一冊」が起こす豊かさ。

■日程:2018年11月16日(金)18:30~20:30
■場所:高知県土佐郡土佐町 町の学舎 あこ

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もういちど「近代」を考える:次の『ちゃぶ台』Vol.5はどうなるの?

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