第39回
『ちゃぶ台12』の「捨てない」本づくり?
2023.12.04更新
こんにちは。
ミシマ社の「生活者のための総合雑誌」最新号、『ちゃぶ台12』が、ついにできあがりました~! いま、オフィスの机の上にある本誌を眺めながら、「とても、うれしい・・・」という思いをかみしめている、編集部員のスミです。
今号は12月7日(木)にリアル書店先行発売となります。今週です!
今号の特集は「捨てない、できるだけ」。
本日のミシマガは、やっと現物になった今号のデザインについてたっぷり写真をお見せしつつ、今号で編集部がとりくむことになった「捨てない、できるだけ」な本づくりの紆余曲折と、予想を超えた「一冊の雑誌ができるまで」をご紹介します。
まずはじめに、お知らせです。制作を終えたばかり編集長・三島が、できたてほやほやの今号を持って、イベントを行います!
捨てない本をつくる、捨てないように本を売る
刊行を記念して、書店「Title」の辻山良雄さんと三島が対談します!
●辻山良雄×三島邦弘「捨てない本をつくる、捨てないように本を売る」
日時:12月7日(木)19:30~
会場:リアル会場@Title(東京・西荻窪)+オンライン開催
辻山さんは、これまでも刊行イベントをご一緒したり、誌面にご登場いただいたりと、雑誌「ちゃぶ台」のことをもっともよく知り、応援してくださっている書店員さんのおひとりです。
そんな辻山さんと、今回は「捨てない、できるだけ」について、本を「つくる」と「売る」という両方の立場から考えてみます!
「出版社としてできることは何かを考え、迷い、考え、今号をなんとか形にした」という三島。いったい、制作の過程で何を見つけたのでしょうか?
一方、辻山さんは、「本が買われたあと」に関心を寄せていて、「なるべく関わった人の身になるように本を売っていきたい」と考えるようになった、とおっしゃいます。それはどういう売り方なのでしょう?
モノだけでなく、思いや、人の関係や、生きる力までもがもっと循環していくような、これからの出版の話になるのではないかと思います!
【詳細・チケットはこちらから】
捨てない本づくりは、できる?
それでは、三島が「迷い、考え、なんとか形にした」という今号の制作についてご紹介します。
まずは、やっとできた現物の、表紙をご覧ください!
網のような柄、何に見えますでしょうか?
地球環境が限界の状況にあることは知っているのに、自宅で、職場で、学校で、日々何をするにおいても、大量のゴミを捨てている私たち。
いつもしている「捨てる」って、何? 「捨てない」生活・仕事・商売は、できるの?
この問いを足下から考えるべく、今号をつくっていきました。そんな感触をこの表紙からも受け取っていただけたらうれしいです。
表紙には、「ダイワフィールド」という再生紙を使っています。本誌に再生紙を使うのは、はじめてのことです。
本紙には、牛乳パックなど飲料容器古紙と、長繊維古紙、そしてなんと、競技場由来の「芝」が混ぜ込まれています。
つまり、表面に浮かぶ破片の模様は、ひとつとして同じではありません。すべて一点ものの模様・風合いをもっているというところも、どこかで「捨てない」の気持ちにつながりそうです。
今号は8種類の紙を使っています。
装丁デザインは、今回も tento の漆原悠一さんに手掛けていただきました。
「せっかくだから、造本も、特集を体現したようなものになったらいいですね」と漆原さんからご提案いただき、デザインをいちから再検討することに。
その第一歩として、いつもちゃぶ台の印刷・製本をお願いしている「シナノ書籍印刷株式会社」さんにお話を伺ったのですが、ここで編集部一同は、印刷・製本の段階でいかに大量の紙が廃棄されているのかということをはじめて知り、衝撃を受けました。
シナノ印刷さんいわく、書籍用に作られた紙は、どれだけムダなく使ったとしても、10.4%はかならず廃棄する前提で設計されているそう! なぜそんなことに・・・? インタビューの模様は、本誌でお読みいただけます。
再生紙を使用すればいい、といったシンプルなやり方は意味がなく、いかに余白(断裁して捨てる部分)の少ない判型(サイズ)にできるか、「廃棄する紙は増えるのに、なぜかコストは安くなる」という条件になったときに何を優先するか・・・など、ものづくりの当事者として、足元を知り、具体的に考える時間でした。
実際にどんな造本になっているか、ぜひ実物をお手にとってみてください。
絵本からメモ帳、紙を9種に分別
「ちゃぶ台」は毎号、編集部が「なぜだかわからないけれど、すごい気になる」というフレーズを特集に掲げてみることでキックオフします。最初から「答え」や「知識」があるわけではまったくなく、さまざまな著者の方々とともに、問いをあらゆる角度から探っていく雑誌づくりです。
今回「捨てない、できるだけ」がどうしても気になったのには、いくつかの流れがありました。
ひとつめは、ミシマ社が「捨てないミシマ社」というレーベルを発足しようとしていること。
シナノ印刷さんへのインタビューでも明らかになったのですが、本をつくり、流通させ、売るなかでは、多くの廃棄物が出ます。そのうちの大きな過程のひとつが、一度書店に並んだあとに返品され、傷や汚れが原因で「再出荷不能」となった本の「断裁」です。
「捨てないミシマ社」は、そんな断裁対象となっていた書籍ばかりを集めて、再び販売しようという試みです。
このプロジェクトを進めるうえで、まずは現状をしっかり知り、「捨てない」以外の選択肢も含めて、メーカーとしてどんなものづくりをできるのかを探りたいという思いから、今回のテーマが見えてきました。
「捨てないミシマ社」については、三島による巻頭文や「新レーベル『捨てないミシマ社』って何?」のコーナーでご紹介しています。
流れのふたつめは、絵本からメモ帳が生まれる、という新しい経験をしたことです。
ミシマ社は2023年7月に『みえないりゅう』(ミロコマチコ著)という絵本を刊行しました。
この本をつくっていただいた製本所さんが、通常は廃棄される紙の端材を活用して、なんとも素敵なメモ帳をつくってくださるという出来事がありました!
端に実際の本の絵の一部や、印刷時につける「トンボ」という目印などがそのまま残っていて、ふしぎときれいな、さりげない柄のようになっています!
オフィスにたくさんのメモ帳が届き、それを手にしたとき、本来だったら捨てられていたモノの存在感や重みと、そこから別のものづくりがはじまるおもしろさを、同時に実感しました。自分たちが見ようとしてこなかったところに、新しいことをできる余地がまだまだありそう、と思う大きな刺激となりました。
このメモ帳のこと、そして、これからのものづくりの可能性の話は、歴史学者の藤原辰史さんへのインタビュー「九回裏の『捨てる』考」に登場します。
地球や社会を損なう巨大装置としての「テクノロジー」と、素朴な楽しさやおもしろさに根差した「技術」の違いについての藤原さんの言葉は、ほんとうに、目から鱗です。経済活動や生産をすること自体に罪悪感が芽生えてしまうような状況のなかでも、まだできることはある。思いもよらない開放感とこれからの指針に出会えます。このインタビューの日以来、私は、「自分の仕事はちゃんと『技術』につながっている?」と日々自問しています。
そして、みっつめは、上勝町ゼロ・ウェイストセンターとの出会いです。
2023年5月、ミシマ社メンバー数人が、藤原辰史さんと、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんとともに、徳島県上勝町を初訪問しました。
上勝町は地域をあげて「ごみゼロ」を目指し、リサイクル率約80%を達成しています。その中心にあるのが、世界最先端のごみ収集施設であるゼロ・ウェイストセンター。町民がみずからゴミを持ち込み、「燃える」「プラ」などではなく、もっともっと細かく、13種類・45分別に分けて捨てています!
たとえば、一見同じ「紙」であっても、そのなかでさらに9種類の分別が。自分たちのつくっている本、扱っている紙たちは、いったいどう分解され、どこに行く? ということを考えざるをえない、生活風景がぐにゃっと変わってしまうような感覚が残りました。
このセンターをあらためて知るため、『ちゃぶ台12』では料理研究家の土井善晴先生と訪問! 土井先生と、センターの広報代表・大塚桃奈さんの対話は、「ごみ」への意識が芽生えた上勝の歴史からはじまり、「ゼロ・ウェイスト」はどういう意味?、人間の活動が生み出す「ごみ」と自然との関係性・・・と、どんどん膨らんでいきます。
訪問の様子は、写真たっぷりのレポートでお届けします!
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今日は、『ちゃぶ台12』を作っていった過程と、そのうしろにあったさまざまな流れのことをご紹介しました。
実は、ご紹介までたどり着けなかった、でも、「捨てない、できるだけ」についての想像力をぐんぐん広げてくれる読み物が、本誌にはまだまだ詰まっています。最高にかっこいい「生活者のエッセイ」と呼びたくなるような文章、おもしろすぎて読みながらうろうろ歩きまわりたくなるような論考、モノではなく「人」も捨てない社会とは? と問いかけてくるコラムや対談・・・。
ぜひ、12月7日(木)発売の『ちゃぶ台12』をお手に取ってみてください!!
そして、同日に開催のイベント「捨てない本をつくる、捨てないように本を売る」へのご参加もお待ちしております!