第205回
クリエイティブ読書会2025
――出版社のメンバーは本をどう読むのか?(後編)
2026.01.08更新
新年おめでとうございます。今年もミシマガジンをどうぞよろしくお願いいたします。
さて、ミシマ社は、昨年末に「クリエイティブ読書会」なるものを敢行しました。
クリエイティブ読書とは、「こんな読み方があったのか!」と本の楽しみ方が広がる、創造的な読書のこと。
日頃からゲラを読み、そこから本の作り方・届け方のアイデアを広げているメンバーたちは、どんなふうに読書するのか?
2025年に刊行したすべての新刊を読み返し、語り合いました。担当編集や営業も唸る「驚きの読み」が披露されます。本日は後編をお届けします!
後編では三島の著書『出版という仕事』も取り上げます!
(収録:2025年12月26日)
就活生に向けてつくった章
【読んだ本】ミシマ社(編)『新・仕事のお守り』/2025年7月刊
スミ 本書は働く人の「お守り」になるような言葉を、いろいろな本の中から選んで紹介するという内容なのですが、今日取り上げたいのはこの言葉です。
明かりがなかなか見えないときに歩み続けるために必要なのは笑顔なんです。どんなことが起きても笑って済ませるくらいのマインドがないと長期戦は続けられない。
――内田樹「街場の農業論~序」『ちゃぶ台』より/『新・仕事のお守り』p.38-41で引用
じつは本書の制作をはじめたとき、編集部が最初に選んだ言葉がこれでした。
制作の初日、メンバーが数十の言葉を持ち寄ったなかで、ミシマさんがこの言葉をパッと選んで読み上げたときに、その場がなんだかすごくいい感じになったんです。「これだ!」と。ひとつの言葉で「この本はおもしろくなる!」というふうに視界が開けた感覚を今でもよく覚えています。
この言葉を意識して読んでみると、本書では「長期戦」というキーワードが各所に出てくることにも気づきました。ひとつの引用に注目する。そういう視点で読んでもらえると、本全体の感じ方もまた変わってくると思います。
ヤマダ この最初の言葉が、完成した書籍では第二章に入っていますよね。なぜここに入れたのですか?
スミ 当初は本当に最初の言葉として、第一章冒頭に入れる予定だったんですが、原稿を練っていくうちに、あるときミシマさんが「冒頭に別の章をつくろう。『就活万歳』みたいなテーマはどう?」と。
ミシマ そうやった!
スミ 本書の制作を手伝ってくれた学生さんが、ちょうどまわりが就活中で、「あなたは何ができるんですか?」と問われつづけて苦しそう、と言ってたんですよね。だから第一章の冒頭は就活の話にしよう、と。
ミシマ ちょうどこれから就活シーズンだから、この本を読んでほしいですね!
ミシマ社の採用面接を十数年やってきて思うのは、「これができます」というアピールは本当にいらないということです。一番大事なのは、素直であること。それに尽きると思います。話をちゃんと聞いていくと、アピールではなくて、本当の根っこのところでその人がどう思って応募したのかという芯に触れるときがある。この人いいなと思うのはそういうときです。
・・・ということが言いたくて、冒頭で中村明珍さんの「『自分』がなくてまあまあよかった」という言葉を引用したんだと思います。
「企画の三角形」をつくりだす
【読んだ本】三島邦弘『出版という仕事』(ちくまプリマー新書)/2025年7月刊
ホシノ 7月に「ちくまプリマ―新書」から発売となった三島さんの著書『出版という仕事』を紹介します。まずは73ページ、長谷川さんが描かれた「企画の三角形」の話のところです。

ハセガワ これ描くの大変だった~。
ホシノ ここで言われているのは、テーマと著者の属性が一つに重なりすぎていると、企画として成立しづらい、という話ですよね。
ところが、そもそも、『出版という仕事』というテーマで、三島邦弘という出版社の代表が書くというこの本の企画自体が、その難しさを体現しているんですよね。では、著者の三島さんはいかにして、企画の三角形をつくりだしたのか。
そう探りながら読むと、三島さん、かなり早い段階、p.5の「はじめに」の後半に、すでに布石を打っていました。
「終わった」と言われる世界でどうすればおもしろく働いて(生きて)いけるか?
「未来がない」と予想される世界で、今、そしてこれからできることは何か?
こうした問いに答える本でありたいと願い、筆を進めます。(略)
願わくは、「〇〇という仕事」には、「出版」のみならず、建築、農業、林業からAIビジネスに至るまで、何を入れても通用する内容でありたいです。
ーー『出版という仕事』p.5
つまり、「出版という仕事」というタイトルだけど、「いかにおもしろく生きていくか」の本でもありますよ、とテーマ設定を変えることで、タイトルと著者を離して三角形を作り、たとえば働き方に迷っている人などに読者層を広げようとしたんだな、と読みました。
ミシマ 明確には意識していなかったけど、きっとそうですね。
ホシノ 新書は、テーマそのままのタイトルを立てて、その道のプロの著者が書くことが多く、ちくまプリマー新書の場合は、読者の年齢層もある程度想定されていたり、結構カッチリしたフォーマットがありますよね。そのあたり、ミシマ社の単行本づくりとはまた違う、編集や執筆の発想や技術がたくさんあるのだろうなと思います。
ポップをつくるための読み方
【読んだ本】川島蓉子『仕事の壁はくぐるのだ』/2025年8月刊
ハセガワ 「仕掛け屋をするときの読書」、今日はポップ(拡材)制作編です。もし本をお持ちの方は、帯がついた状態で裏にひっくり返してください。
人が集まり働く、そこに起こる
さまざまなトラブルや葛藤=壁。
その壁をくぐったり、ずらしたり、かわしたり......。
戦略的な手段ではなく、声高な権利の主張でもなく、
真摯に楽しく仕事をするため、
編み出された実践の数々。
柔らかでしなやかな川島さんからのエールが、
たくさんの方に届きますように。――編集部一同
・・・というのがこの本の内容です。今日は、本の中身はすでにわかっている上で、そこからポップにしていくときの本の読み方について考えてみます。
ではミシマ社メンバーのみなさん、目の前にある本を眺めたり、触ったりしてみましょう。

ヤマダくん、帯の紙は触ってみてどうですか?
ヤマダ ちょっと、質感がある感じ。
ハセガワ ニシカワくん、カバーやイラストについてどう思いますか?
ニシカワ 蛍光色で鮮やか。すがすがしいイメージですかね。
ハセガワ スガくん、本をパラパラめくってみて、どんなことを感じますか?
スガ 上品さと言うか・・・ととのった印象があります。

ハセガワ こんな風に、本って外側にも「読む」ところがいっぱいあります。ポップは本と一緒に置くものだから、並べたときの相性が大事で、そういう意味でも、ブックデザインは重要ポイントです。
装丁・造本に特殊な技法を施した、スペシャルな本ももちろん素敵だけれど、『仕事の壁〜』のように、一見さりげないふつうの本だって、今みんなが言ってくれたみたいに、じっくり見てみたら、色とか、質感とか、いろんな気づきがある。
もしこの記事を読んでいる人で、読書が苦手だなって思っている人がいたとして、だけどこんなふうに、「なんか見た目が好き」とか、そういうところから楽しむ読書もあるんじゃないかなって私は思います。だから、本屋さんとか図書館に、ふらりと行ってみてほしいです。ついでにミシマ社の本もちょっとみてくれたら、なおうれしいです(笑)。

ポップとともに
営業の技の参考に
【読んだ本】本上まなみ『みんな大きくなったよ』/2025年9月刊
ニシカワ このエッセイ集から今日取り上げたいのは、「おかん弁当」という文章です。
長引くコロナ禍で遠足、運動会などイベントごとがうんと減ってしまったこの数年間。息子に弁当を持たせる機会は数えるほどもなかったんだな......ということにも気づきました。(...)
さて、お弁当といえば、長新太さんの絵本『なんじゃもんじゃはかせのおべんとう』(福音館書店)をご存じでしょうか?
「そうしたら、へんな きが ドッチラ ドッチラとやってきました。おべんとうをたべたいらしいよ。」
「はかせ」と「ともだちのゾウアザラシ」がお弁当を食べようとすると、それを狙ってオバケの木の集団が迫って来る!
「『おべんとうだ、おべんとうだ!』と、きが うれしそうに おどっています。」
長さんのお話はどれも思考がぶっとんでいてはちゃめちゃで、予定調和ゼロ。「芸術は爆発だ」とおっしゃった岡本太郎さんのことも私は大好きですが、長さんの作品もまさに爆発、ユーモアもたっぷり系。この絵本は何回読んでも、また読みたくなり、お弁当が食べたくなる、私の大事な一冊です。
はかせが逃げても逃げてもいろんな生きものがお弁当を目がけてやってきます。
「『おべんとうを ちょうだい!』『おべんとうを ちょうだい!』」
敵からお弁当を守るため、はかせは必死。手に汗握る展開、こちらも力のぐっと入るところで、窮地に立つはかせ、渾身の一撃!
お弁当を取られちゃうのって最悪な事態だもの、そりゃあ必死になるのもわかります。頑張れはかせ!......天才、長新太さんが、どんな風にはかせをオバケと戦わせるかは実際の絵本を見ていただくとしましょう。
――『みんな大きくなったよ』p.142-143
この文章を選んだのは、本上さんの絵本紹介が本当にすごいと思ったからです。読んでいて、純粋に「この本を読みたい」と強く思わされました。文章が美しくて柔らかくて、しかも続きが気になる。こういうふうに、人の心を自然に動かす言葉を、営業としても使えたらいいなと思ったんです。
ハセガワ 自分の営業の技の参考として読んでいるのが面白いね。
ミシマ 本上さんは、あらためてエッセイがめちゃくちゃうまいですよね。この文章にもそれがよく出ている。「さて」という一言で話題が転換していて、気づいたら本が気になっている。子どものお弁当の話から、長新太さんの絵本の話へ移っていく、その切り替えが本当に自然で素敵です。
アグレッシブ読書
【読んだ本】益田ミリ『中年に飽きた夜は』/2025年10月刊
ノザキ この本、オフィスに届く読者はがきの量がほんとうにすごいですよね。益田ミリさんの作品は、おもしろくてどんどん読み進めてしまうので、今回はあえて「できるだけゆっくり読む」ということをやってみました。たびたび夜のシーンが出てくるのですが、夜を目安にして、だいたいひとまとまりのシーンを読んだら眠り、先を読まずに、1日ぐらい自分の生活を進めます。そうすると、作中のセリフだったり、登場人物の考え方だったり、自分がハッとしたところがずっと記憶に残る。それがとてもいい感覚でした。
さらに、そのハッとしたところに付箋を貼って、「自分へのお題リスト」をつくってみました。
ノザキ 「前向き」ってありますけど、私は「つかれたー」「さむいー」とすぐに言ってしまうので、「きょうもよく働いたな!!」「いよいよ冬が深まってきたなあ」と言い直すようにしていて(笑)、これはけっこう大事だなと実感中です。
今回やってみて、読んでよかったなおもしろかったな、の先には、書かれてることをどんどん自分のものにしていって、自分で自分の人生をよくしていく段階があることをあらためて感じたので、この読み方はみなさんとシェアしたいなと思いました。
ハセガワ 読書はがきにも、「いっぺんに読むのがもったいなくて」「寝る前の楽しみにしています」というコメントがあって、つながりました。
ホシノ 自分にとって実用的に読むっていう方法は、やろうと思ったら全部の本でいけるかもしれないですね。面白い。
山場はひとつだけじゃなかった
【読んだ本】益田ミリ(作)平澤一平(絵)『ゆっくりポック』
ヤマダ ミリさんはこんな思いを込めて『ゆっくりポック』の物語をつくったとおっしゃっています。
ゆっくりポックはマイペースでのんびり。でも、キケンが迫ると、ポックーン!と力が湧き出てくる。ポックみたいなスーパーパワーがみんなにもあるんだよ、と伝えられればいいなと物語を考えました。――益田ミリ
ここで言っているスーパーパワーというのは、物語の山場でもある、ポックが熊から逃げるときに「ポックーン」と飛ぶシーンのことを指していると思うのですが、何回か読むうちに、「それだけじゃない」と感じるようになったんです。
飛んだ先でカメに助けてもらい、そのお礼にポックはクッキーを焼きます。
それまではずっと寝てる、マイペースで怠け者、という印象のポックだったのですが、こうやって人のためだったらがんばれる、これこそがスーパーパワーなんじゃないかな、と思いました。子どものころからこういった物語に触れていたら、その後の人生においても支えになりますよね。
クリエイティブ読書のしがいがある雑誌「ちゃぶ台」
【読んだ本】ミシマ社(編)『ちゃぶ台14 特集:お金、闇夜で元気にまわる』
スガ 今回の特集「お金、闇夜で元気にまわる」の中で、実はポイントは「まわる」なんじゃないかという推理をしています。その裏付けとなるのが、斉藤倫さんの小説「窓」のここです。
きょうだなんておもわなかった。
まだ先だとおもってたな、受験って。
ぼくは、じゅんびをしていたかな。
(...)
答案用紙は、まだ配られない。
そうおもってたら、つくえのうえにのってた。最初からあったんだな。
はじまりのベルも、チャイムも鳴らない。もうはじまってたのかもしれない。どこからか、ずっと。
――『ちゃぶ台14』p.104-105 斉藤倫「窓」より
「もう試験始まってたんかい」って、人生こんなことばっかりです。
この号は人生がテーマだと思うんですよ。藤原先生の「愚民論」という強烈なタイトルの論考で「プロ野球」が語られている。生活が厳しくてなんとか日常生活を回すために、野球のような娯楽が寄りどころとして必要な人の心というのも切実に感じるのですが、僕が大好きな韓国野球はそこに政治が付け込むようにスタートした歴史が書かれている。
人生を考えるうえで、「回る」っていうのは二つあると思うんです。ウィー東城店の佐藤社長のご活躍のように「自分で回してる」というのもあれば、日常や欲望に追われて回ってんだか回らされているんだかみたいなのもある。今回のちゃぶ台からは、そういう深い小説を読んだかのような印象を受けました。
ホシノ 「ちゃぶ台」の「特集タイトルわかりにくい問題」は、編集ミーティングでもつねづね議論しています。特に今回は長い。でも、だからこそ「お金」に一番惹かれる人もいるし、「闇夜」や「元気」に反応する読者もいる。著者も特集のどれに反応して書いてるかにグラデーションが出て、通して読む面白さにつながっています。
ノザキ 今日の話を聞いていて、「ちゃぶ台」はクリエイティブ読書のしがいがあって、面白いことができそうな気がします。
例えば、今までの全10号から自分が編集長として記事を選んだ「カスタマイズちゃぶ台」をつくって、それについて自分の考えを話す読書会とか。そういう取り組みをみんなで面白くやれたらいいなって思いました。
(終)
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