第210回
木村泰子×税所篤快 本気で考える!「こんな教育あったらいいな」
2026.03.23更新
3月3日、『大地との遭遇 こんな幼稚園ありかよ』の刊行記念で開催した本イベントは、木村先生の「この本は、あっちゃん(著者の税所さん)が思っているより、深い本だよ」という言葉から始まりました。教育現場のど真ん中で子どもたちと触れ続けてきた木村先生による本書の読み解きと、税所さんとの語らいは、胸に深く迫るもので、開催前には予定していなかったのですが、一部抜粋の記事をここに掲載し、アーカイブも販売する運びとなりました。ぜひ触れていただきたい言葉が満載です。
税所篤快さん
木村泰子さん
この本は、あっちゃんが思っているより、深い
木村:いやー久しぶりやね、あっちゃん。
税所:今日は久しぶりに泰子さんに会うから、朝から床屋に行ってきました。シリア人の方がたくさんドイツで床屋をやっていて、これはシリアで流行りのカットだそうです(笑)
木村:かっこいいよ。
税所:ありがとうございます。
木村:この本(『大地との遭遇』)、読ませてもらって。きっとね、あっちゃんが思っているより、深い本だよ(笑)。失礼だったらドイツ語で怒っていいけどね、絶対あっちゃん、そこまで気づいてへんやろと思うぐらい、すごく深い。あっちゃんは親の目線でこの本を書いているけど、私なんかはやっぱり、学校の子どもたちが目の前にあるから、立場的には園長先生に近くて、そんな立場から見ると、この本は日本の学校現場にも本当に浸透していくんちゃうかなってすごく思った。
税所:あの大地での2年間の体験を、はたしてどれだけ僕は書けたのかなと思っていたところもあったので、泰子さんにそう受け取っていただいて、安心しました。
木村:この本はあっちゃんの理想論とかではなくて、大地で体験した事実がすべてで、それをあっちゃんの目線で言葉にしている本やん。一回スラッと読んでも、「あれ?」って立ち止まって、私は3か所くらい何度も読み直したけど、あっちゃん自身が、この本のなかで「ここ」と思うベスト3はどこ?
税所:1つは、第3章の中の「彼は修羅場に舞い降りた」というところですかね。息子のたかちゃんがギャン泣きモードに入ってしまって途方に暮れていたときに、園長の青ちゃんがサッとやってきて、たかちゃんをさらっていって、あっという間に平常モードに戻したっていうことがあって。忘れがたいシーンの1つなんですよね。
木村:いやー、この場面を選んでくれて安心した。ここよね。青ちゃんがこの場面で、あっちゃんにすごく深い言葉を伝えてくださっているやろ。ギャン泣きしているたかちゃんの手があっちゃんの鼻にあたって鼻血が出たわけやんか。その瞬間にたかちゃんはもう気ぃついてるやん。今日ここに、学校関係者の方や保育の関係者の方が聴いていらしたら、まさにここやねんな。
目の前の困っている子に向き合う、大人の覚悟
木村:今の日本は、1年間で532人の子どもが自殺をしてしまっている国やねん。耐えられへんやろ。35万人の子どもが学校に行っていない公教育やねんな。その中で学校に行っていない比率が激増しているのが、小学校の1年生、2年生やねん。
税所:そうなんですか。
木村:私は今に始まった話やないと思っている。中学生になってから「不登校、不登校」と言うけど、勝負は、小学校1年生の子どもやねん。さっきのこの場面に話を戻すと、あっちゃんが途方に暮れているときに、青ちゃんがたかちゃんをぎゅっと抱きしめて連れて行った。それを、まず先生たちができるか、と。そこやねん。私もそうすると思うねん。どうなるかわからへんけど、もう今この瞬間、「たかちゃん大丈夫、私がいるんやから」って。そんな大人がなかなかいない。そのあたりは、あっちゃんどう思う?
税所:それは、たとえば小学校とかだと、ぎゅっとして持っていくみたいなことが、規則とかでできにくくなっているということなのか、体の反応自体ができづらくなっているのか・・・。
木村:まあね、一概には言われへんけど、たとえば今、ちょっと触ったらセクハラとか、めんどくさい話がいっぱいあると思うけど、それが先ちゃうやん。困っている子が困らなくなるために自分がどう動くかってことやろ。そこに魂入ってて大人の覚悟があったら、そこになんかルールある? 目の前の子どもが崖から落ちかけてるのに、つかまえへんかって。いろんな縛りがあって動きにくくなっているということがあるかもわからへんけど、青ちゃんの行動をあっちゃんが書いてくれているこの場面に対して、すべての大人が、「いいよね」とかじゃなく、その行動を学ぶべきやなというのが、一番自分の中に深く入ったところやね。
税所:うーん、そうですね。
全世界の子どもに関わる大人へ
木村:何よりさ、このシーンで青ちゃんが教えてくれたことが一つ。もうここほんとに、全世界の子どもに関わる大人がこのことを学んでくれたら、子どもはもっと安心しておれるよなって思う場面。
たかちゃんがギャン泣きしているのを、まわりのお友達みんなに見られていたのよね。それを青ちゃんが、みんなに見られていたから、引くに引けなくなっていたよねと教えてくれたでしょ。「泣いてる場所も最悪だった」って。
税所:そこかぁ。
木村:そこをさ、全然気づいてへんかったやろ。なんでこんなに言うかっていうと、子どもが亡くなった学校にも、お声がけいただいて話をしに行くことがあるねん。どんな授業をしてもその子の命は戻ってけえへんわけやけどな。
たとえば、カンニングしたことで、1カ月停学処分になる。その子は停学処分になった1日目に死んでしまってんな。それでメモが残っていて、カンニングをしたのは、100-0で自分が悪い。そんなのは納得やねん。自分のやったことやから、子どもはみんな納得。
でも、学校で、まわりのお友達の前で、「こいつはカンニングをした」と見せしめに指導されるわけやん。「卑怯者」って。その子が死を選択した理由はな、先生に怒られたからとか、停学処分がつらいからちゃうねん。このまま卑怯者と呼ばれて、学校に行ってみんなの中に入っていくのは、とてもつらい。それやったら自分は死を選ぶって書いて死んじゃってるわけや。
大空小学校でも私らね、指導っていう言葉を実は捨てた。指導って、一瞬で子ども同士を分断するってことに気づいたから。たとえばここで、AがBを殴ってる。みんな先生はAに「殴るな」って指導するやろ。そうするとまわりの子どもたちは先生に怒られているAを、困った子って思うやろ。そしたらそのうちに、この子はみんなの中から、結果的に排除されていく。だから、私たちね、殴ってるAに、「Aちゃん大丈夫? 何困ってる? 私らなんかできることある?」って声をかけるように変えた。そしたら、もう学年が上がっていくにつれて、殴られへんねん。
私たち大人はいつもいるわけではない。子どもは子ども同士の関係性で社会をつくる大人になる。大人のやり方を見ている子どもたちが、殴った子に「お前大丈夫か? 何困ってる? 俺らなんかできるか?」ってなることが、これが大人の背中を見るっていうことやろ。
税所:そうか。
木村:169ページかな。
税所:これは第5章ですね、僕が2年間、幼稚園の大地に通いながら何を学んだかというところなんですけど、「大地で学んだことの一つは、子どもたちにこう生きてほしいという願いがあるなら、そのように自分が生きてみるということ。なぜなら、子どもは親や大人の後ろ姿をよく見ているから。」というところですかね。
木村:私、この本からいっぱい学ばせてもらってるよ、本当に。
***
・・・このあとも、まだまだ、核心に触れる対話が続きます。
・子どもを変える前に大人が変わる
・学校が変わると地域が変わる。地域が変わると社会が変わる。
・自然に囲まれた環境だから、特定の指導者がいるからできる、のではないということ。
・子どもにとっての本当の「楽しさ」ってなんだろう?
・先生が子どもを「楽しませる」のではない
・大人も、子どもに気づかされたら、やり直せばいい
・不登校、いじめ、自殺。こんな言葉は本来子どもの世界にない。
...etc.
6月末まで視聴可能なアーカイブ(1100円・税込)を販売しておりますので、ご興味ありましたら、こちらからどうぞ。
<登壇者プロフィール>
木村泰子(きむら ・やすこ)
大阪府生まれ。 2006年に開校した大阪市立大空小学校の初代校長を9年間務める。 大空小学校では「すべての子どもの学習権を保障する」という理念のもと、教職員や地域の人たちとともに障害の有無にかかわらず、すべての子どもがいつもいっしょに学び合っている。2015年には大空小学校の1年間を追ったドキュメンタリー映画「みんなの学校」が公開され、大きな反響を呼んだ。この映画は文部科学省の特別選定作品にも選ばれ、現在も全国各地の教育現場などで自主上映されている。2015年春に、45年間の教員生活を終え、現在は講演やセミナーで全国の人たちと学び合っている。
税所篤快(さいしょ・あつよし)
19歳のとき、失恋と1冊の本をきっかけにバングラデシュへ。同国初の映像授業プログラムe-Educationを立ち上げ、最貧の村ハムチャーから国内最高峰ダッカ大学への合格者を輩出する。その後、中東のパレスチナ難民キャンプ、アフリカのソマリランドなどでプロジェクトを展開。2021年、長野県小布施町へ引っ越し幼稚園「大地」に出会う。現在はドイツ・ザールラント在住。ドイツの風力発電企業VENSYSにて、世界各地の風車プロジェクトに取り組んでいる。著書に、『前へ!前へ!前へ!』『「最高の授業」を世界の果てまで届けよう』『未来の学校のつくりかた』『僕、育休いただきたいっす!』などがある。3児の父。




