第215回
三好愛さんインタビュー
『犬のうんちとわかりあう』は、
他者との距離のとり方を考える教科書です。by編集部
2026.07.15更新
イラストレーターの三好愛さん3冊目となるエッセイ集が刊行されました。タイトルは、『犬のうんちとわかりあう』。過去作『ざらざらをさわる』や『怪談未満』同様、日常のなにげない出来事を描いているのは共通していますが、「子育てエッセイ」「仕事エッセイ」として読むこともできます。タイトルからは想像できないですが・・・。
そもそも、『犬のうんちとわかりあう』ってどういう意味なのでしょう?![]()
(取材日:2026年7月2日 聞き手:三島邦弘)
「犬のうんちとわかりあいたい」という心意気
――作者としてはこのタイトルにどんな思いがございますか。
三好 タイトルの「犬のうんち」は、道に落ちている犬のうんちのことなんです。簡単に通り過ぎてしまえるような存在という意味です。
でも、実はこれ、ミシマさんが考えてくださったタイトルなんですよね。
――はい、たしかに。『ちゃぶ台10』に寄稿いただいた絵とエッセイ「近寄りたいのに」の一文から考案しました。
小学生の頃、自分以外の人間やものと距離がはかれず、途方にくれることがありました。(略)
犬のうんちが落ちているのを見かけては、素知らぬ顔でそばを通り過ぎるのも、うんちに対してうしろめたいと感じていました。(三好愛「近寄りたいのに」『犬のうんちとわかりあう』p66-67)
三好 タイトルをもらった瞬間にうんちでもりあがっちゃって、何を意味しているタイトルかを正確にはミシマ社さんと共有しないまま連載をつづけていったんですけど、なんとなく根底にあったのはこんなことです。
どこかの知らない犬がだしたうんちでも、どうしてその犬がそこでうんちをしたかっていう文脈がちゃんとうんちの中に潜んでいて、でも私たちはそのそばを通過してしまうから、たいてい犬の文脈は無視される。けど本来、犬には犬の人生があり、私には私の人生があって、そこがちゃんと交錯したり、そのことを「わかりあう」ほうがおもしろいよな〜みたいな。
――なるほど。
三好 犬のうんちとわかりあうことはできない。けど、犬のうんちとわかりあうような心意気は忘れたくない。そういうスタンスのタイトルかなと思っています。
――その心意気、タイトルににじみでてますね。
三好 この心意気は、子どものころには持っていたのですが、大人になってからはわからないこととか納得できないことを簡単に通り過ぎてしまうようになった気がしてて、やっぱり忘れたくないなと。そういう気持ちで、この言葉を起点に連載を進めていた感じです。
――犬のうんちが落ちているのを見かけてはそしらぬ顔でそばを通り過ぎる。そのうんちに対してうしろめたいと感じる。この一文は、ほんとうに衝撃でした。私自身は、全然思ったことがなかったので。
三好 そうですよね、あんまり共感しにくいよなとは思うんですけど(笑)、小さいころの私は、知らないことやわからないことも全部知ってみるのが、つまり大人になることなんだって思ってたんですよね。
――ああ、なるほど。
三好 火災報知機のボタンを押してみたいとかそういうのに近いかも......。
――子どものとき、なんか押してみたい気持ちになりました。大人は、頭でどうなるかを知っているから、実行しない。けど、子どもは体験することで初めて知る。ほんとうの意味で「わかる」ことを大事にしているわけですよね。
三好 住民税とか、何に使われているかよくわからないまま、払ってるみたいなところがありますよね。
――思考停止してしまっていて、払えと言われるから払っている。とはいえ、この道端のうんちに対してうしろめたさをおぼえたのは、すごいことです。あらゆる子どもがもつ感覚ではないと思います。
三好 私も、変なこと考えていたな〜と思います!
カバーを外した装丁も、三好さんのイラストによるかわいい仕上がりです
『犬うん』を言い換えれば、『目をそむけたいものともわかりあう』??
――この本のタイトルをわかりやすくいえば、こうなりますよね。『目をそむけたいものともわかりあう』。
三好 はい、つい無視しちゃうものとか、通り過ぎちゃうものとも対話の可能性を探りたいですね。
――ところで、本が出てからどういう本ですかって聞かれたことはありますか?
三好 犬を飼っているんですか?とは聞かれます(笑)
――私は、「結局、うんちを見たら犬の気持ちがわかるって本なん?」と訊かれました。それを聞いて、タイトルからすでに結論を求めている人は多いのかな、と思いました。
三好 『犬のうんちとわかりあう』、タイトルからだと全貌がわからないんですが、内容を読んでいただくことで、ゆっくり意味が伝わっていくと良いなと思います。
――一編一編味わいながら読む。そうでしか味わえない良さがある。本書はまさにそういう読書にぴったりと思うのですが、目的直結思考の人たちにも読んでほしい思いはあります。
三好 わ、可能ですか?
――はい! 「仕事エッセイ」、「子育てエッセイ」としても本書はおすすめです、という観点から「ぷよぷよの扱い」と「三時に産まれたあかちゃんのキリン」の2篇をフィーチャーします。「三時に〜」は、文藝協会が選ぶ今年のベストエッセイにも選ばれました!
後編につづく
*後編は、7月22日(水)に公開予定です。
*『犬のうんちとわかりあう』の詳細は、こちらからご覧ください。
編集部からのお知らせ
「犬のうんちとわかりあう」展が開催中です!
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『犬のうんちとわかりあう』(ミシマ社)の発売を記念した企画展を全国2ヶ所で開催中、今後も全国の書店にて巡回予定です。
本の装画や新聞連載の挿絵といったイラストの仕事にとどまらず、エッセイや絵本においても異彩を放つ三好さんの「対象との距離感」や「視点の持ち方」に注目することで、絵とことばの魅力に迫ります。仕掛け屋ハセガワによる渾身の展示にも、ぜひご注目ください!
*現在開催中の店舗*
●cozyca products shop HIRAETH(京都)
会期:7/4(土)〜7/20(月)
住所:〒604-0903 京都府京都市中京区河原町通夷川上る指物町322
TEL:075-253-0640
営業時間:12:30〜19:00
定休日:会期中7/6、13はお休み
サイト:https://cozycaproducts.net/hiraeth/hiraeth.html
三好さん在廊日:7/19(日)13:00〜17:30
●リバーブックス(静岡)
会期:7/3(金)〜8/2(日)
住所:〒410-0885 静岡県沼津市下本町34
営業時間:13:00〜20:00(日曜・祝日は18:00まで)
定休日:火曜、7/25、26はお休み
サイト:https://www.instagram.com/riverbooks_numazu?igsh=eHA0ODZ2Nm55Y3ky&utm_source=qr
三好さん在廊日:8/2(日)13:00〜18:00ごろ
*7/8(水)本屋B&Bで開催した、刊行記念イベントのアーカイブ動画が配信中!
著者の三好愛さんとミシマ社から担当編集のミシマ・ノザキが登壇し、盛況に終わった刊行記念イベント。ぜひ当日の空気をアーカイブ配信でお楽しみください。詳しくは本屋B&BのHPからご確認をお願いします。




