第216回
三好愛さんインタビュー(後編)
『犬うん』は、仕事や子育てにも効く!
by編集部
2026.07.22更新
ミシマ社から6月に発刊した『犬のうんちとわかりあう』について、著者の三好愛さんへのインタビューを前後編に渡ってお届けしています。
前編では、「犬のうんち」は「目をそむけたいもの」の比喩であることがおわかりいただけたと思います。その意味で、『犬のうんちとわかりあう』は、「自分以外のもの」との距離のとり方をかつてない解像度で探った一冊。こうも言えます。
さて、後編では、「仕事」「子育て」にも効く! そうした一冊であることに迫ります。
というのは、仕事であれ、子育てであれ、「自分以外のもの」とのかかわり方や距離の問題抜きには、ありえないからです。その「加減」次第で、楽しくもなり、苦しいものにもなる。その実例を絵と文章で見事に描かれているのが、本書です。
たとえば、イラストレーターである三好さんの場合、作家さん(書き手)の作品に挿画(挿し絵)を描く仕事もされていますが、そのとき、作品との距離はどうされているのでしょう? 挿絵の構図が思い浮かばなかったとき、よく「コメダ」に行くそうで・・・
原稿の中にはすでに世界ができていますが、読むときは、そこに自分の身をまるごといれるのではなく、半身をこちら側に浸しながら、半身をうんと伸ばして向こうにつっこむ、ダックスフントのような姿勢を持つようにしています。そういうふうにするほうが、文章の読み手でも書き手でもない、挿絵の立ち位置としてバランスがとれ、原稿の世界は固定されているけど、私がいる場所は変更がきくので、家かコメダかの平穏な選択でも私側の空気は変わり、文章と向かい合うときの気持ちも刷新されるような気がします。(「コメダでムフン」同書、p101)
イラストを描くとき、原稿とどう距離をとるか? 編集者である私も、この「半身」術を初めて知りました。こうした三好さんの仕事術はおもしろいものばかりで、読者の方々の仕事にもお役にたつと自信をもっておすすめします。
(取材日:2026年7月2日 聞き手:三島邦弘)
「ぷよぷよ」があるから大丈夫!
――仕事に効く、という視点で、ぜひ読んでほしいのが、「ぷよぷよの扱い」です。
あのとき、これ以上言葉を発しないとなにかが破裂してしまうような焦りを私は明確に感じていました。会話の中には、なにかそういうぷよぷよとしたかたまりが存在しているのだ、と思いました。場に応じてそれをふくらませたり、しぼませたり、適当にただよわせたりして、言葉と言葉のあいだにぷよぷよがあるのが、人間同士の会話、ではないでしょうか。(「ぷよぷよの扱い」、p.13-14)
――ここで、「ぷよぷよ」という言葉が出てくるのがすごいです。
三好 もう、ここは「ぷよぷよ」でした。
――以前から、ぷよぷよの存在を感じていたのですか?
三好 そうですね。なんか形が変えられる不定形の何かが隙間にあるとは思っていました。その隙間の存在感を「ぷよぷよ」と表現した感じですね。
――それって、どういう段階からですか?
三好 コミュニケーションの取り方を絵的に置き換えるみたいなことを、割と昔からしてたんですね。イラストの仕事を始めたときくらいから。![]()
本書「ぷよぷよの扱い」より
――ああ、なるほど。
三好 このページでいったら、文章の隙間にいろいろ形を変えながら存在していますよね。
――このぷよぷよは生き物ですか?
三好 そうですね。なんとなく主体性がちょっとだけあるようなイメージではあります。 でも形が固定されているわけではないから、コミュニケーションの間に存在するときにどんどん形が変わっちゃう。哺乳類的なものではなく、アメーバのようなイメージではありますね。
――おもしろいですね。このエッセイで言えば、おしゃれなコーヒー屋さんに入り、「心が窮地にたたされる」。どの豆を選んでいいか、わからない。それで、沈黙するわけですが、これ以上沈黙を延ばせばぷよぷよが破裂するのでは、と焦る。ということは、途中までは、ぷよぷよは意識されていないんですよね?
三好 そうですよね。会話が発生すると生じるんでしょうね。コミュニケーションってめっちゃ難しいじゃないですか。むずかしくなったとき、絵的なものに逃げ場をつくる感じというか。
――なるほど。私は、ぷよぷよがある、と思えたことで、すごく救われた感じがありました。他者との関係がヤバくなってきたら、その子が膨らんで、守ってくれる。そんなふうにも思えました。
三好 たしかにあったらあったで助かる、そういう存在でもあるわけですもんね。 先ほど、逃げ場をつくると言いましたが、ぷよぷよや、自分ではないものに主体を託すようなイメージです。自分がピンチなときに、自分の主体を無くして他者に依存させると言うか...
――ああ、言われてみたら、そんな感じがしてきました。
子どもとの距離を考えるのにもおすすめ
――「三時に産まれたあかちゃんのキリン」(ベストエッセイ2026に選出)での、お子さんを尊重される姿勢がステキです。
三好 子どもがだいぶ小さな頃、ちょろっと書いた線をキリンだと言い出して、親側もそれがキリンだと受け入れてみた話ですね。
――はい。
三好 大事なのは想像力に干渉しすぎないことだと思ったんです。「キリンはそういう線じゃなくて、これがキリンだよ」って、大人が知っているキリンを押し付けてはいけないかな、って。大人の世界に引き込んで、これが答えだよって言わないようにしたり、逆に線の先になにがあるのか詳しく聞いて、子どものなかのキリンに踏み込みすぎないようにしてて。子どもがそれをキリンと言うならばそうなんだね、とそのまま受け入れていました。そういう意味では距離を保つというか、尊重しすぎないというか。
――ああ、なるほど。尊重しすぎてるわけではないのですね。
三好 はい、子どもも私も別個の生き物なので、できるだけ適度な距離をとったほうが良いよな、とは思っています。
ただそしたら、最近はなんでも生き物化するようになり、ポリ袋に水を入れて結んで、「ほよちゃん」と呼んでかわいがったりするようになりました......
――ぷよぷよや三好さんの絵など、すでに影響を受けてらっしゃるのでは?(笑)
三好 水入りポリ袋と添い寝しようとしていたので、さすがにそれは止めました。
――(笑)。
お子さんとの距離もそうですが、本書で印象的なのは、子どもと「うんち」の距離を正確に観察されている点。うんちという「自分ならざるもの」が自分の中にある。その捉え方自体、目からうろこだったのですが、子どもは成長とともに、うんちとじょじょに距離をとっていくわけですよね。
子どもが、うんちと距離をとりはじめました。 言葉を覚えるにつれ、「うんち、でた」「うんち、でてない」と、自分とうんちとの関係について状況を逐一知らせるようになったのです。(「うんちとの距離」同書、p.80) いいうんちだねえ、と思わずもらすと、ありがと!という声が元気よく返ってきました。(略)すばらしいなと感心しました。けれど同時に、私は激しい寂しさに襲われました。うんちが子どもをつつみこむ時代は、確実に終わってしまったんだ、と思いました。(「うんちを世界に馴染ませる」同書、p.148)
三好 そうなんです〜、生まれた直後は、子どもは自分がうんちをしたことにも気づいてもいなかったのに、便意を徐々に感じ始めたり、排泄に対して羞恥心を覚えたりする過程が、かなり興味深くって......。子どもがうんちと距離をとっていく様子が、人間が自分以外の存在を通して世界を認識していく様子に重なっているように思えました。
三好さんのイラストが存分に楽しめるのも、本書の大きな魅力です
――前編で、「犬のうんち」を「目をそむけたくなるもの」と言いましたが、本書全体をとおして、「うんち」が自分と他者をつなぐひとつの重要な役割をしていますよね。
三好 はい、小さい頃の私は犬のうんちとどうすればわかりあえるのかわからなくて、もどかしい思いをしていたのですが、身近な存在から出てくるうんちを観察し続けることによって、そのときのもどかしさは回収されたように思います。そういう意味でもこの本を書けてとてもスッキリしました!うんちだけに。
――たしかに!
***
仕事、子育て、など人との関わりが溢れる毎日。この本を読むと、そんな日常への見え方がちょっと変わるかも。ぜひ本書を手に取っていただき、三好さんの絵と言葉の魅力を堪能していただけたらと思います。
編集部からのお知らせ
「犬のうんちとわかりあう」展が開催中です!
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『犬のうんちとわかりあう』(ミシマ社)の発売を記念した企画展を全国で開催します。
本の装画や新聞連載の挿絵といったイラストの仕事にとどまらず、エッセイや絵本においても異彩を放つ三好さんの「対象との距離感」や「視点の持ち方」に注目することで、絵とことばの魅力に迫ります。仕掛け屋ハセガワによる渾身の展示にも、ぜひご注目ください!
*開催店舗*
●リバーブックス(静岡)
会期:7/3(金)〜8/2(日)
住所:〒410-0885 静岡県沼津市下本町34
営業時間:13:00〜20:00(日曜・祝日は18:00まで)
定休日:火曜、7/25、26はお休み
サイト:https://www.instagram.com/riverbooks_numazu?igsh=eHA0ODZ2Nm55Y3ky&utm_source=qr
三好さん在廊日:8/2(日)13:00〜18:00ごろ
●本屋 Title(東京)
会期:8/8(土)〜8/25(火)
住所:〒167-0034 東京都杉並区桃井1-5-2
TEL:03-6884-2894
営業時間:12:00〜19:30(日曜日は19:00まで)
※ 最終日25日(火)は17:00にて閉場
定休日:水曜・第一、第三火曜
サイト:https://www.title-books.com/
●toi books(大阪)
会期:9/4(金)〜9/27(日)
住所:〒546-0043 大阪府大阪市東住吉区駒川5丁目14-13
営業時間:11:00〜19:00
定休日:不定休 HP、SNSをご確認ください。
サイト:https://mailtotoibooks.wixsite.com/toibooks
●TOUTEN BOOKSTORE(愛知)
会期:10/2(金)~10/15(木)
住所:〒456-0012 愛知県名古屋市熱田区沢上1-6-9
営業時間:月曜日~土曜日 10:00〜18:00(平日の金曜日は 21:00まで)
定休日:日曜・第一、第三月曜
サイト:https://www.touten-bookstore.net/
●ブックスキューブリック 箱崎店(福岡)
会期:2027/1/19(火) ー 2/21(日)
住所:〒812-0053 福岡県福岡市東区箱崎 1-5-14 ベルニード箱崎 2F
営業時間:火〜金/11:00〜16:30 土日祝/10:30〜17:30
定休日:月曜
サイト:https://bookskubrick.jp/
*7/8(水)本屋B&Bで開催した、刊行記念イベントのアーカイブ動画が配信中!
著者の三好愛さんとミシマ社から担当編集のミシマ・ノザキが登壇し、盛況に終わった刊行記念イベント。ぜひ当日の空気をアーカイブ配信でお楽しみください。詳しくは本屋B&BのHPからご確認をお願いします。




