K氏の◯×論

第2回

『K氏の大阪弁ブンガク論』刊行!「はじめに」を掲載します

2018.06.28更新

 2018年6月22日、江弘毅さんの新刊『K氏の大阪弁ブンガク論』が発刊になりました。

kshi_shoei.jpg『K氏の大阪弁ブンガク論』江弘毅(ミシマ社)

 長年街場を見つめてきた江さんが今回綴るのは、なんとブンガク!

 谷崎潤一郎、司馬遼太郎、山崎豊子といった国民的作家から、黒川博行、町田康、和田竜など現代の人気作家まで縦横無尽。

 大阪弁、関西弁を使っていなくても、そこには大阪、関西の水脈が流れている・・・。

 ミシマガジンでの連載も好評だった本作、じっくりと手を入れていただき、これまでにない異色のブンガク論が完成しました!

 今回はその『K氏の大阪弁ブンガク論』より「はじめに」を公開します。

 7月には関西でめっちゃおもろいイベントが2連発。一番下に案内を掲載していますので、ぜひ「ライブで大阪弁ブンガク論」を聞きにいらしてください!

***

発刊によせて

 「発刊によせて」を書くべしと発注があったとする。

 で、「何、書いてこましたろ」とまぎれもない自分のことばで思うのだが、「書いてこましたろ」とは書かない。そう書くと「そら違うんちゃうか」となるからだ。「何を書けばいいのだろう」「それは違うのではないか」とストレートにいかないところに、大阪弁話者にとっての「書くこと」がある。

 いわば、そういうことを書いた本です(わ)。(「わ」は省略した)

江弘毅

***

はじめに

 この本は大阪弁の小説についてのあれやこれやを書いたものだが、ほぼ「大阪弁のエクリチュール」というものについて多くを考えたものである。「エクリチュール」というのは、ある地域や社会集団にふさわしい言葉遣いのことだ。

 同じ大阪のミナミでも、千日前のお好み焼き店の親父が話す言葉と心斎橋筋の瀬戸物屋さんの女将が話す言葉は違う。どちらの場合も子どもの頃から自然に身についた日本語=言語体としての大阪弁は共通するはずだが、従事する職業など社会的属性や地域的なコミュニティとリンクする言葉遣いはさまざまである。

 さてこの本で採り上げているように、町田康さんや黒川博行さんなど大阪弁を駆使する現代作家は多く、ここ数年は芥川、直木賞の受賞連発のみならずその活躍ぶりは目を見はるものがある。谷崎潤一郎や司馬遼太郎、山崎豊子といった国民的作家も大阪弁による名作をたんまりと書いている。

 そこに見られる言葉遣いのユニークさと、主人公や登場人物の頭のてっぺんからつま先までの「その人となり」を表す言語表現のリアリティは、標準語がベースになっているものとはまったく違う。「大阪弁ブンガク」の魅力は、標準語として国語教育的に制度化された言語表現を超えるエクリチュールの「突き抜け加減」にあるのだ。

 関東甲信越地方のとある街に取材に行ったときに、地元メディアに関わるスタッフが、「ここは方言がないですからね」と口にした。こちらはばりばりの大阪弁で喋っていたわけではなかったが、イントネーションから「この人は関西の人なんだ」ということがわかってそう言った。加えて「毎週のように原宿や代官山に行ってる。ここから近いから」という発言には、「ここは地方じゃない」といった調子のちょっと都会ぶった態度が垣間見えた。そこのところに

 「おもろないなあ」と感じ、「いなかくさいな、この人らは」と思った。

 「いなかもの」というのは都会の中にしかいない。甲信越の山林で樵が働くのを見かけたり、瀬戸内の島や南紀の小さな漁港で漁師の姿を目にしたりするときに、「この人はいなかものだ」などと思ったりはしない。もちろんかれらを蔑むようなことはない。

 かといって逆に、そこで穫れる米のブランド銘柄をことさら誇って大語するような「お国自慢」は、「大阪すっきやねん」とぶっ放すことと同じ感覚でちょっと苦手だが、明治時代半ばの「東京山手の教養ある中流家庭のことば」が大原則にある標準語、なにかを書く際の言葉を話し言葉に近づける言文一致体の文章や、大正末期のNHKラジオ放送がオリジンの話し言葉は、それを「標準語」と措定した「つくられた架空のコトバ」であるから、言葉によってものを考える様式や自分表現の方法は、とりすましたり、へなちょこなものになってしまう。ある具体的な人物が書いたり話したりする言葉と、それを担保しているはずの根の部分の人間性にズレが見えてしまうのだ。

 近代的な中央集権国家をつくる際の要請として出来た「標準語/共通語」は、日本語が「ひとつの公用語」であることを前提としているが、そこからどうしょうもなくはみ出ているなにかが過剰にあるのが大阪弁だ(そのひとつが「おもろい」かどうかだ)。誰かが世界のうちのなにかの事物を表現しようとするとき、今起こりつつあることをありありと著すときの「エッジの立ったコトバ」は、よい言葉、正しい言葉、美しい言葉・・・といった座標軸とは違うところにある。

 そこらへんをわからんとなあ、という議論はともかく、まあわからんでもこの文章、突き抜けてるなあ、という強度こそが良質の大阪弁ブンガクのおもろいとこである。

(『K氏の大阪弁ブンガク論』より抜粋)

江 弘毅

江 弘毅
(こう・ひろき)

1958年、大阪・岸和田生まれの岸和田育ち。『ミーツ・リージョナル』の創刊に携わり12年間編集長を務めた後、現在は編集集団「140B」取締役編集責任者に。「街」を起点に多彩な活動を繰り広げている。著書に『「街的」ということ』(講談社現代新書)、『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『濃い味、うす味、街のあじ。』『いっとかなあかん店 大阪』(以上、140B)、『有次と庖丁』(新潮社)、『飲み食い世界一の大阪』『K氏の遠吠え』(以上、ミシマ社)など。津村記久子との共著に『大阪的』(ミシマ社)がある。神戸松蔭女子学院大学教授。また2015年から講義している近畿大学総合社会学部の「出版論」が大ブレイク中で、約200名が受講している。

編集部からのお知らせ

7月は江弘毅さんが登壇するめっちゃおもろいイベントがぞくぞく開催されます。ぜひ足をお運びください。

7/16【町田康×江弘毅】「ライブで大阪弁ブンガク論」@紀伊國屋書店梅田本店

■日時:2018年7月16日(月)14:00~(開場受付開始13:45)
■場所:OITタワーセミナー室203
■入場料:1,500円(税込)
■お申し込み方法:
紀伊國屋書店梅田本店③番カウンターにてチケットを販売いたします。(定員:先着100名様)
■お問合せ・ご予約:
紀伊國屋書店梅田本店 06-6372-5821 10:00~22:00

7/23 【黒川博行×西岡研介×江弘毅】「極道(アウトロー)の大阪弁とブンガク性 」@スタンダードブックストア心斎橋

■日時:2018年7月23日(月)19:30~(開場18:45)
■場所:スタンダードブックストア心斎橋カフェ
■入場料:2,000円(1ドリンク付)
■お申し込み方法:
スタンダードブックストア心斎橋店頭、お電話:06-6484-2239 、もしくはメールにて承ります。(メール本文に【予約イベント名】【お名前】【電話番号】【人数】を入力して、info@standardbookstore.comへお送り下さい)

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