ヨーロッパ企画に聞く、『ヨーロッパ企画の本』
2018.05.08更新
2016年9月17日、京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画のはじめての本『ヨーロッパ企画の本 我々、こういうものです。』が発売になります。
1998年旗揚げから18年。『サマータイムマシン・ブルース』『曲がれ!スプーン』などの作品が映画化されたことでご存知の方も多いかもしれません。
でも、劇団といっても、劇をするだけではないのがヨーロッパ企画のすごいところ。本公演はもちろん、映画の脚本を書いたり、本屋をしたり、映像作品を作ったり、役者さんが映画監督をしたり、はたまた発明まで!? ひとことでは言い表せないのがヨーロッパ企画なのです。
そんなヨーロッパ企画の魅力をぎゅっと詰め込んだ『ヨーロッパ企画の本』について、メンバーの皆さんにお話を伺いました。現在絶賛ツアー中の第35回公演「来てけつかるべき新世界」、京都公演を間近に控えた劇場控え室より、たっぷりお届けします。(※すでに公演は終了しています)
(聞き手・構成:新居未希)
『ヨーロッパ企画の本 我々、こういうものです。』ミシマ社編(ミシマ社)
本作りをすることに。
上田 はじめ、ミシマ社さんと一緒に本を作ろうという話になったとき、誰がいましたっけ?
角田 ヨーロッパハウス(ヨーロッパ企画の事務所)で、ミシマさんとアライさんと、鍋食べたときか。
上田 角田さんと大歳(ヨーロッパ企画の作家)と・・・
永野 にっしゃん(西村)が手あげてるよ。
石田 手あげててもテープには録音できないよ! わかんないよ!(笑)
上田 そのときは、ミシマさんがすごい嬉々として「本作りしましょう」という話をもってこられた印象が強くて。すごい面白いことが始まりそうな予感がしましたね。あのとき、諏訪さんはいなかったでしたっけ?
諏訪 僕はその、はじめのときはいなかったね、途中から上田に誘われて。
上田 そうでしたね。最初はそういう感じでしたね。
―― そのあと、上田さん、諏訪さん、角田さん、西村さんたちが、中心になって本作りを進めてくださいましたよね。このメンバーは、どういう・・・?
上田 僕ら、グループで何かをつくるときは、はじめに何人かそれっぽい人に声をかけて、進めていくなかでしかるべき形になっていくことが多いんですね。なのでとりあえず今回も、西村さんは「西村ブックセンター」(イベントなどで突如現れる、西村さんが店長の本屋さん)をやっているし、角田さんは絵が描けるし、諏訪さんは『ヨロッパ通信』という公演のパンフレットも作ってるから、その3人に声をかけていきました。そしたらそれが丁度よくて、最後までこのメンバーを核としていったという感じですね。
永野 だから実はまだね、中心メンバーじゃなかった僕たちは、最終的にどういうものになったのかわかってないという・・・
石田 全貌を知らないんですよ。
―― わー、そうか、そうなんですね!(笑)
土佐 本の全貌を理解してなさすぎて、宣伝しにくいから、今日はいろいろ教えてください。
全員 笑
(左)「ハイタウン2016」での「西村ブックセンター」の様子。
(右)ミシマ社にて、本の打ち合わせ第3回目くらいのころ(大歳さん撮影)。
みんな一体何書いてんの?
永野 僕はね、本を作るという話を聞いたとき、なんとなく「2〜3年かけて作る本なんだろな」って思ってたんですよ。もうじき20周年なんで、そこへむけてのビックプロジェクトが動き出したんか、のちのち呼ばれていろいろみんな話したりとかするんかな、と思ってたら、あっという間に本ができた(笑)。
石田 え、でもみんないろいろ、寄稿とかしてるんでしょ?
永野 中川さん原稿書いたりしてるんでしょ。
中川 え? みんな書いてないの?
本多 え、寄稿してんの? なに書いてんの?
中川 映画についてのエッセイを・・・
石田 アイドルについて?
中川 いやだから映画だって、ヤクザについては書いてるけど。
石田 本多くんはなにしたん?
本多 え、僕はねー、俳優の前野朋哉さんと対談しましたね。
石田 そう、みんなそれぞれやってるときに、僕は何にも言われてなくて、「僕だけ何にもないなあ」と思って、諏訪さんにその話をポロッと、
本多 相談したん?(笑)
石田 大丈夫なんですかね、みんな何かやってんですよね? って相談したら、「あ、石田は大丈夫だよ。石田は本秀康さんが漫画描いてくれてるからそれで」って。
土佐 じゃあ、石田はなんにも書いてないってこと?
―― あ、その本さんが書いてくださった漫画に対するコメントをいただきましたよね。
石田 うん、書いた、5行ぐらいのやつ。
土佐 あ、じゃあ書いてないな。
全員 笑
メンバーがひとこと何かを発すると、それにみんなで総ツッコミしていくという賑やかな座談会に。
幻のボクシング対談
上田 あと、土佐さんが西垣くん(ヨーロッパ企画のディレクター)と対談して、ボツになった原稿もありますね。
全員 笑
土佐 にっしゃんに「なんでもいいからやって」って言われてさ、前、いろんなイベントにいく連載をしてたから、それしようかなって思ったんやけど。でもイベントに行く時間がなくて、あわてて西垣とボクシング対談したんやけど、綺麗にボツになりましたね。
諏訪 にっしゃんが、「なんかわかんないですけど、土佐さんから音声が届いたんですよね」って言ってたもん。
土佐 え? にっしゃんが!?
酒井 あれ!
西村 いやいやいやいや、違う違う違う。
角田 やばい、やばいぞ〜。
酒井 出版差しどめや。
土佐 あれ、僕が急に送った感じになってる?
石田 そらー、ボツになるわなあ。
土佐 それやったらしゃーないな。夢でオファーされたんかもしれへん。
酒井 なんでもいい、っていうのも夢っぽいですもんね。
西村 いや、あのね、土佐さんに頼んだときはちょっとフワッとしてたと思う、章にそって最終的にコーナーがいろいろ移動することになったから・・・
永野 西村大慌て。
西村 ちがう、慌ててない!(笑)
ヒストリー本ではありません
石田 過去の公演の何かがあったりはするの? 舞台写真が見れたり。
上田 過去の公演のは、諏訪さんがピックアップして書いているのと、あと年表が最後にできたんですよね。
―― そうですね、挟み込みのものなんですけど。
上田 最初は載せない予定だったんですけどね。入稿の2日前くらいに連絡がきまして。
―― (笑)。ほんとすみません、その節は・・・。
石田 年表いいよね、年表すきだもんね。
土佐 でも年表すきなん、年寄りだけみたいよ。
諏訪 え?
土佐 若者は「なう」なことに興味あるらしいよ。
石田 ええっ、年表なんて、ずっと見てられるやん。
上田 そうそう、最初は本自体をヒストリーものにしようかという話をしてたんですけど、西村さんと大歳がやや反対というか、年表とかはちょっと・・・みたいな。
西村 過去を振り返るのってちょっと古臭いっていうか・・・。
石田 ええっ。
土佐 そんな、むっちゃ好きやのに!
永野 歴史大好きやのに・・・。
諏訪 劇団のとおった道のりとか、大好きやもんな。
本多 この劇場でやってたんや、とかねぇ。
中川 ええっ、ないの? そういうの全然ないの?
西村 ないです、ないです。
石田 もう一冊いるやん、もう一冊!
諏訪 ヒストリー本作らなあかんやん。
―― あ、じゃあヒストリー本は20周年にということで。
石田 はっ、ぜひそれは!
「ヒストリーは古い」と言われて、気持ちショボンとするメンバー。
知られざる暗黒期、解明
酒井 でもヒストリーは、若者には人気ない・・・?
上田 そう、でもそういう意見があって、わりと「そうか」ってなりましたよね。
諏訪 え、僕居た? その会議。
上田 いましたよ!
諏訪 僕、同意してた?
西村 してた。
諏訪 ええー! 僕、全作品解説やろうやって言ってたくらいやのに!
西村 でもやっぱり劇団のヒストリーとかは、馴染みのない人にはとっつきにくいっていうか。
石田 あー、それはたしかにねえ。劇団のヒストリー本とかって、読む人一部ですもんね。
―― そう、ヨーロッパ企画は、本公演がおもろいのはもちろん、それ以外もいろんなことをしてる集団やで、っていう本にしたほうが、新しい読者の方にも手にとってもらえるな、と思うんです。
諏訪 なるほどなあ、そうですねえ。
上田 そういうことで、ヨコにきっていく側面の強いものになりましたね。でも、タテもありますよ。諏訪さんと永野さんと僕で、ヨーロッパ企画ができるまでの鼎談をやったりとか。
諏訪 旗揚げ鼎談、やったね。
上田 けっこう、ヨーロッパ企画の初期の頃の、今まであんまり言いたくなかった、ベールに包もうとしていたことたちが明かされてます。
諏訪 暗黒期ね。卒業事件とか。
上田 隠蔽していた過去が、ミシマ社さんによってあばかれていってしまったという。
永野 なかでもミシマさんがね、もう、ものすごく聞きたそうだったよね。
本多 勘づいてたってこと?
永野 そうそう。
上田 がさ入れみたいな感じで、言い淀んだところを・・・
土佐 マルサが。
永野 まだそんな、全部話す覚悟なかったもんね、僕ら。
上田 ほわっとしゃべってたんですよ。「幻の第二回公演が・・・」「それは何ですか?」「いや、まあ・・・」とか、もやっと言ってたら。
諏訪 どんどんね。
酒井 そういうところにぐいっと(笑)。
上田 大汗をかきましたからね。
土佐 それも載ってんの?
上田 そうそう。あれほど赤を入れた原稿はなかったですね。
―― オブラートに包もう包もうとされる努力の痕跡が赤字に見えました(笑)。
永野 酒井くんだけ劇団に残されかけた事件も載ってるよ。
酒井 ああ! 僕以外全員、同志社小劇場やめるっていったときですね。
永野 事件だったからなあ。
上田 そこが一番読み応えがあるかもしれないですね(笑)。
こちらは、諏訪さん・永野さん・上田さんによる鼎談中にふと撮影していた1カット。昔の写真を見ながらのお話しになりました。このテープレコーダーだけがすべてを聞いていたという・・・
寄稿もたっぷり!
上田 森見登美彦さんが、僕らのことについて書き下ろしてくださったりもしてますよ。
永野 森見さん、劇観に来てくださってること、これ読んで知ったよ。
上田 え? ほんまですか? 毎回観てくれてますよ。
―― 今回も、新刊のご執筆でお忙しいなか素晴らしい原稿を書いてくださいまして。
石田 そうそう、諏訪さんが読んで泣きそうになったわ~って言ってましたもんね。
諏訪 ほんまに。
上田 あとは「水曜どうでしょう」ディレクターの嬉野雅道さんと、本秀康さんですね。嬉野さんは、僕らの劇のアフタートークにもよく出てくださってますけど、まさにそのときに話してくださることとかを書いてくださって。
本多 本さんのは、石田くんが主人公の漫画なんやろ?
諏訪 そうそう、石田は実はむちゃくちゃイケメンなんやけど、ウケるために実は・・・っていう漫画。
本多 なにそれ、めっちゃおもろそう(笑)。
石田 ウケるためにっていうのがね、漫画のなかでもセリフで「ウケたわ~~」って言ってるんやけど、「ウケたわ~」とか言わないですよ!
上田 いや、言いそう。
永野 言いそう、言いそう。
土佐 言う言う。
上田 本さんから、石田くんが言いそうなことばを教えてほしいって言われて僕が送りましたから。「アンケートでも褒められてたわ」とか。
土佐 じゃあわりと、ほんまの感じなんや(笑)。
石田 いやー、恥ずかしかったけど、嬉しかったですね。
まだあった、ボツ原稿
土佐 でも、ぜんぶ読むのんたのしみやなあ~。
永野 ぜんぶ中身把握してんのは、諏訪さんと上田くん?
諏訪 いや、僕もぜんぶは把握してないなあ。
―― 上田さんだけかもしれないですね。
上田 そうかー。
土佐 上ちゃん、短編書き下ろしたんでしょ。
上田 書き下ろしました。そうそう、はじめはその短編を書き下ろして、それを途中でいろいろつないでいって、短編を軸にした構成にしよう、っていう話をしていたんですけど、それもなくなって。書いていきながら紆余曲折していって、全貌ができあがったという本なんです。でも、まとまりがありますよね。
―― はい。すごく良いまとまりだと思います!
上田 本のサイズも、最終的にはA5サイズになりましたけど、もうひとまわり小さいサイズにしよう、って言ってたんですよね。
―― そうですね、はじめは四六判という、通常の単行本の大きさにしようかと言っていました。ある日コロッと変わりましたね(笑)。
上田 だから、ミシマさんたちの中でもいろいろ考えながらやっていっている感じがしましたね。なんというか、本ってこんなに融通きくんやと思いました。僕らの劇もそうなんですけど、台本が先にあってというふうにつくっていくのが正統な劇の作り方だとしたら、僕らはよそでは怒られるような作り方をしているんですよね。なんか、出版ってそういうイメージじゃなかったんですけど、そんなこと全然なかったというか。
―― なるほど、それはたしかにそうですね。
上田 あと、その短編戯曲ができるまでを大歳がレポートしてます。
土佐 へー。上ちゃんが短編書いてるのを、大歳が見てるってこと?
上田 大歳が横にいて、それをレポートするっていう企画です。
永野 ええー! それは、でもそんな何か起きる? 起きたりする? ドラマ。
上田 でもすごい名文ですよ、これ。アツい。
本多 えー、アツいんや、それはちょっと楽しみやね。
諏訪 あれ、大歳、小説も書いてなかった?
―― ・・・あ!
上田 あー! それね、それはボツになりましたね。
―― すみません、そうです、ボツになりました。
土佐 よっしゃぁ、仲間おった。
上田 作り始めの初期の段階では、にっしゃんの自由コーナーを作ろうって言ってたんですけど、それがどんどんこう、形がかわっていって。
土佐 じゃあけっこう、エチュード(即興劇)っぽく作っていった本ってことか。
上田 内容はね、そうですね。
これ以外にも、酒井さんの発明品たちの紹介や土佐さんのラジオ語りなど盛りだくさんです。」
第35回公演「来てけつかるべき新世界」
―― 今回の劇はどんな感じになりそうですか?
上田 はじめは、ドローンとおっさんが戦う劇、というのを考えてたんですが、それだけだと劇にならんなということで、いろいろ足してたら、足しすぎてしまいまして。今までで一番長い劇になってしまいました。大長編というか。みなさんの感じとしてはどうですか?
石田 いやちょっと・・・がんばろうと思ってますね、今回ほんとに。
上田 あれ、ちょっとトーンが急に真面目に。
石田 ヨーロッパ企画の新基軸というか。この先10年つづけるため、くらいな気持ちで上田が書いたと聞いたので、がんばらなあかんなと思ってますね。
本多 真面目や(笑)。
土佐 どうなん、新しいシリーズにいく一作目としては。
上田 え、いいんじゃないですか? そんなことないですか? わりと楽しいというか・・・
土佐 いや、うん、楽しい。
上田 最近けっこう、トリッキーな劇が多かったから、今回はなかなか王道というか。
永野 うんうん。
諏訪 いや、コメディしやすい劇ですよ。舞台装置が。
土佐 足場があるもんね。
中川 いつも足場がないから。
本多 舞台裏も、ここから行ったらこう出れるってわかりやすいもんね。
―― (笑)。
上田 舞台、ってかんじですよね。でも屋根の上をメインにするか、地上にするか、迷ってたんですよ。
諏訪 いや、屋根の上でせんでよかったよな、ほんま。
上田 なので今回は、堂々たる長編です。
がんばりたい、という石田さんのことばを神妙な面持ちで聞くメンバー。
はじめての関西弁劇です。
―― 今回はじめて関西弁で劇をされるということですが、そのあたりはいかがですか?
上田 永野さんがけっこう苦しんでるかんじですよね、あとは中川さんができた感じになってる・・・・・・。
全員 笑
中川 なってないよ! そのいじり方はいかんわ!(笑)
上田 永野さんと中川さんは、関西弁ネイティブじゃないんですよね。
石田 僕も、僕もですよ。
上田 あ、石田くんもか! でも石田くんはなんかいけてるんじゃないですか。
石田 いや、僕も相当どきどきしてますよ。
上田 石田と中川さんはクリアした感はあるんですけど、永野さんはね。
永野 本番の当日、上田くんに「どっちでいったらいい? 関西弁をきっちりマスターすべきか、別にいいか」って聞いたもんね。
酒井 本番の日に?
永野 本番の日に。
酒井 本番の日に、急にマスターできないでしょう!(笑)
本多 それ、すでにマスターした人がいうやつや(笑)。
酒井 どっちでもいけるけど、どっちがいい? っていうやつですよね。
永野 上演した映像をみても、あんまり自分では違和感はもたんかったんやけど・・・。
石田 映像をみて、他の人のやつを聞いてて?
永野 うん。
石田 耳が悪いんですよそれ。
上田 それでも今回はね、石田とか永野さん、中川さんを、関西弁じゃない人にする、っていう設定にはしなかったから。
永野 勢いはね、すごい増している気はしますけどね。
上田 たしかに、台詞はすごいいつもより多いのに、上演時間もそこまでは長くないというか。ずっと台詞しゃべってますもんね。
―― 新世界、関西弁、おっちゃん、という要素だけを聞いていると、関西じゃないところでの反響は、どう想像されてますか?
石田 うーん、ほんとに、わかんないですね。どうなんでしょうね。
上田 そうですね、いろんな場所でみてもらわないとね。
石田 まあでも、ミナミの帝王とか、関西の芸人さんが東京でも活躍されてたりしますから、違和感なく楽しんでもらえるんじゃないかなと思いますね。
上田 そうですね。
―― 楽しみにしております!