ジュンク堂書店藤沢店 堀口さんと原田さんに聞く「すべての文系人に贈る理工書コーナーの楽しみ方」

第1回

ジュンク堂書店藤沢店 堀口さんと原田さんに聞く「すべての文系人に贈る理工書コーナーの楽しみ方」

2022.10.03更新

 こんにちは。営業チームのスガです。

 本日のミシマガジンは新企画です。いままで生活者のための総合雑誌『ちゃぶ台』の68号で、全国の素敵な書店さんを紹介してきた「面白い本屋さん」のコーナー。今後はみんなのミシマガジンで、「このジャンルについてはこの書店員さんについてお話を聞きたい!」、「この書店のこの本棚が気になる!」など、今後も面白い本屋さんのお話をお届けしてまいります。

 記念すべき第1回は、ジュンク堂書店藤沢店の理工書コーナーを担当されている、堀口さんと原田さんにお話を伺いました。
 みなさまは、書店に行ったときには、まずどのジャンルの本から見始めますか? 

 数学と理科はどちらも苦手の私は、理工書に対して「難しそうな本が多いのではないか・・・」と思ってしまいますが、ジュンク堂書店藤沢店さんの理工書売り場にはいつも長居してしまい、しだいに「理工書って実はおもしろいのではないか?」と思うようになってきました。

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ミシマ社の本もたくさんお世話になっております。
『ぽんこさんの暮らしのはてな?』『もえる!いきもののりくつ』刊行時に開催したフェア)

 実際に難しい専門書がたくさん並んでいるのに、なぜついつい足を止めてしまうのか、その仕掛けを伺いながら、そもそもなぜ理工書コーナーを担当することになったのかや、おすすめの理工書のご紹介など、知られざる理工書の世界をお二人に取材してまいりました。

 次第に、数学が苦手で数式を見るだけで頭が痛くなるような方にこそおすすめしたい、理工書コーナーの楽しみ方と豊かさが見えてきました!

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原田さん(左)と堀口さん

(構成・写真:須賀紘也)

もともとは文系だった

ーー 理工書担当の書店員になるまで、どのような経緯があったのでしょうか?

堀口 書店員になる前は、埼玉県で子ども向けのサッカースクールに携わっていました。でも出身がこのあたりで、藤沢店が開店した200812月ぐらいに、ちょうど戻ってくることになったんです。ジュンク堂書店は池袋本店にはよく行っていて、すごくいい本屋だなと思っていました。まさか藤沢にできるとは思っていなかったので、「ジュンク堂ができるのか!」と嬉しくて、書店員になりました。

ーー 理工書担当になったのはそのときですか?

堀口 そうです。ただ、面接の時は「文芸書が好きです」と言っていたと思います(笑)。学生の頃からずっと文系だったので、理工書担当になりたてのころは、知らない言葉がたくさんあって、「覚えられるのかな?」と不安でした。

ーー 原田さんはもともと理系でしたか?

原田 ガッツリ文系です。最初は丸善日本橋店にいて、そのときから基本的に理工書を見ていて、30年近く理工書を担当しています。私も藤沢店の開店から加わっているのですが、最初に「どこができる?」と聞かれたので、「理工書で!」と自分から言いました(笑)。

ーー おふたりとももともとは文系なんですか! 大変ではなかったですか?

堀口 でも、次第に知らない言葉を覚えていくのが楽しくなってきました。学生の頃から、飽きない仕事をしたいと思っていて、この仕事が長く続いているのは知らないことがたくさんあるからだと思います。

原田 とくにコンピューター書は、覚えることがどんどん増えますね。最初は紙に書いて覚えようと思っていたけど、30年の間、点数がみるみる増えてきたのでそれは諦めて、それでも品出ししているうちに身についてきたり。

堀口 そういえば藤沢店が開店した2008年当時は、スマートフォンの本がちょうど増えてきたあたりでした。

原田 最初のうちだと、表紙の字がスマ「ホ」なのかスマ「フォ」なのかもバラバラだったり(笑)。

ーー そういう「今これが来ている!」というトレンドには、どのように対応されていますか?

堀口 すごく売れていて、そのテーマの新刊が増えてきたりすると、もともとそのテーマに割当てられていたスペースだけでは置ききれなくなるので「このテーマで棚を一本広げようか」とか、「あんまり目立たないから表に出しておこうかな」とか。たとえば、最初はスマホは「PDAPersonal Digital Assistant:個人向け電子端末)・携帯電話」の棚に数冊あるだけだったのが、すぐに独立して棚が広がっていきました。今だと人工知能の本が一番動きが大きいと思う。PCのところは、流行り廃りが大きくて、それに合わせて棚を変えていくことにもやりがいを感じています。

理工書コーナーの今

ーー 文系の本が「人文」「社会」「ビジネス」「文芸」と大きく分けられているように、理系の本は「理工」「PC」「医学」と3ジャンルに分けられていますよね。お二人は「理工」に加えて「PC」も担当されているのですか?

原田 最初は「理工」「PC」の2つだったよね。

堀口 そうそう、もともと「医学」は別の担当者がいたのですが、途中から「医学」も理工書の担当が見ようということになりました。関西には「自然」という棚で、担当者が理系の本を全て見ているらしいという話もあって。

ーー 理系の本は全て担当されているのですね! そして「自然」という棚の分け方が関西のお店に多いというのが不思議です。

堀口 関西に多くて、関東には少ないのかも知れない。ただ、棚の規模にもよると思います。大きいお店だと、「理工」のなかでも「建築」「化学」など、担当者が細かく分かれていたり。うちのお店はこれがちょうどいいのかな。覚えることがいっぱいですが。

ーー 先ほど流行り廃りの話がありましたが、理工書でも、PCのようにそういったことがあるものですか?

堀口 最近棚を広げなきゃと思ったのは・・・

原田 統計の本とか?

堀口 あっ、統計!

原田 ここ5年ぐらいかな? 数学全般が手に取られることが増えてきているのですが、なかでも統計が目立っています。

堀口 あとは物理学も興味を持たれている人が増えていると思う。あとは「線形代数」。

ーー それはなんですか・・・?

堀口 人工知能に携わる方や、PCでプログラムするのに使うために、勉強を始めている人が増えているようです。統計も、統計自体を手書きで資料をまとめるのではなくて、プログラムに使うために、統計学を勉強する人が増えている。

原田 文系の人も、仕事の必要に迫られて勉強する人が増えているみたいです。

堀口 「文系のための◯◯」という本も増えていますね。

理工書のはまり方

ーー 文系の人が理工書コーナーを楽しみたいと思ったら、どのあたりから見ると楽しめそうでしょうか?

堀口 人によると思いますが、僕は星座の本を読んだり、宇宙の成り立ちの本を読んだりしたとき、宇宙が生まれてからの年数がわかるとか、今は普通に感じることだけど最初のころは新鮮に感じることばかりで宇宙科学は面白いなと思いました。そのときはブルーバックスの宇宙科学の本が売れていて、読んでみたら面白かったです。

ーー 理工書コーナーといえばブルーバックスのイメージが強いです。マニアックなテーマから文系も惹かれるような本までたくさんそろっていますが、やっぱり理系の方が手に取られていますか?

原田 理系の方だけではないような気がします。

堀口 いろいろな人が手にとっていますね。難しいテーマの本もありますけど、『日本史サイエンス』とか、歴史に興味がある人も手にとっているようですし、栄養学の本だったら健康に関心がある方が手に取られています。

ーー なるほど、興味を持つにもいろいろな切り口がありますね。お二人が最初にはまった理工書はなんですか?

原田 私は養老孟司先生の本です。『からだの見方』(ちくま文庫)が好きで、先生の大ファンです。解剖学医から見たからだの話で、脳の仕組みとか、自分の体ってこうなんだなと思ったのが、やっぱりすごく新鮮で。

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『からだの見方』養老孟司(ちくま文庫)

ーー 地球とか人体とか当たり前にあるものを新鮮に思えるというのが、理工書棚ならではの力ですね!

堀口 当たり前のことを追求して、それを形として残す、そういうのって確かに面白いことですね。
 僕が最初にはまったのは、NHK出版の『脳を鍛えるには運動しかない』(著 ジョンJ.レイティ、エリック・ヘイガーマン 訳 野中香方子)かな。

ーー 最近も話題書コーナーで展開されていますね。

堀口 ずっと置いています。2009年の3月の刊行だから、ちょうど藤沢店ができて間もないタイミングだった。ほぼ同期です(笑)。

20221004-4.JPG『脳を鍛えるには運動しかない』は面陳での展開

原田 ずっと面陳は外さないですね。300冊ぐらい売れています。

堀口 自分でも運動しているときのほうが脳がフレッシュだなという実感があるし、ずっと座ったままだと気持ちも暗くなっていく。そういう実感に基づいて、みんなに読んでもらいたいと思う本をおすすめできるというのが、我々の醍醐味でもあるし、実際にそういう本が売れているということは、やりがいになりますよね。

文系の人にも「キャッチ」になる本を並べる

ーー 文系の人が理工書の本を選ぶときのポイントはどのようなものになりますでしょうか。

堀口 出版社によって出す本の性格がある程度決まっています。先程紹介した『脳を鍛えるには運動しかない』を出したNHK出版の本は、入門書としては絶妙な本が多いと思います。みんながちょっと背伸びしながら、それでも理解しやすいレベルのものを選んでくれている。すごく気になるテーマが多くて、手に取りやすさもある本が多いです。
 そうやってまずは興味のあるテーマに入門してから、みすず書房さんとか、参考文献や参考資料が手厚い学術書に近いようなハードカバーの本に手をのばすのがいいのではないでしょうか。

ーー なるほど、まずは出版社に着目してみるのですね。日常でなかなか目にしない、例えばこの「ゲノム」のようなテーマでも、入門になりそうな書籍はあるものですか?

堀口 やっぱり入門書が少ないテーマもあります。そういうときには、新書を並べて目に留まりやすくすることを心がけています。「難しい本しかないじゃん」という印象になってしまうと、やっぱりそのジャンルを勉強している人しか来なくなってしまいますから。

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 場所も重要です。例えばトイレの近くの棚の前は、理工書に興味がない人も通りやすい。通るときに、「『オートファジー』って聞いたことがある」とか、関心が高まっているワードの本を並べるとキャッチになる。あとはエスカレーター沿いも動線に入るので、図鑑などビジュアルの本やブルーバックスなど、目に留まりやすい本を置いています。まずキャッチになる本に興味を持ってもらうことが、理工書コーナーの中に入るきっかけになると思っているので、そこは意識しています。

ーー 図鑑や写真集のようなビジュアルの本は、ただ眺めるだけで楽しめるのがいいですね。

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堀口 ビジュアルの本は、手にとりやすさがまず大事なんじゃないかと思うんです。図鑑は重いけど、こういう台を使うと検討しやすくなる。この台はもともとは建築の出版社さんからもらったんです。

ーー 以前、建築の本を出されていたLIXIL出版さんが出版活動を停止されていたのを、堀口さんが惜しまれていたのが印象深いです。理系の出版社も減ってきているのでしょうか?

堀口 いままでもたくさん、専門書の出版社がなくなってきましたが、いい本を出していたら、他の出版社が引き継いで刊行を続けることもあるし、新しい出版社も出てきている。例えばLIXIL出版の本を引き継いだトゥーヴァージンズさんは、7年目の新しい出版社ですが、建築でもたくさんいい本を出されている。例えばこの『看板建築 昭和の商店と暮らし』(著 荻野正和)。そこで働く人にも話を聞いたり、本の作り方がすごくいいなと思う。ガイド本的な感じでもあります。新しく本を作りたいという出版社が出てきているから、「全然本がありません」とはなっていないですね。

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『看板建築 昭和の商店と暮らし』荻野正和(トゥーヴァージンズ)

先に知識がなくてもいい

ーー おすすめの本をご紹介いただけますでしょうか。

堀口 イタリアの物理学者のカルロ・ロヴェッリは、文章がうまいなと感じさせられます。『時間は存在しない』とか、『世界は関係でできている』とか、気になるテーマを東洋と西洋と両方の哲学を絡めて展開させている。読みやすいので誰にでもおすすめです。

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ーー 科学論や科学哲学の本を先に読んでおくと、理工書への理解が深まるものでしょうか?

堀口 それはどちらが先でもいいと思う。僕はジュンク堂に入る半年前に屋久島を放浪していたんです。

原田 似合うな〜。

一同 (笑)

堀口 屋久島に行って感動したのが、ガイドの方が苔とか自然の一つ一つを詳しく説明していて、見る人によっては、こんなに豊かな世界が広がっているのだなと思った。だから書店員になる前は花屋さんになるのもいいかなと思ったことも(笑)。生きている自然に触れてから本を読むと、「こういう環境だから、こういう植物が生えているんだね」と腑に落ちることが楽しく感じられると思います。

ーー そうなんですね。理工書を読む前に、科学論とか数学を学ばないと行けないと身構えていたのですが、実際の発見が先にあって、これってなんだと調べながら読むのもおもしろそうですね。

堀口 この前子どものお客さんが「砂浜が水をかぶると凹むのが、どうしてなのかを調べたい」と言って。そういう疑問を持って本屋さんに来たお客さんと一緒に本を探しながら、「自分が考えていたのと違う」「そういうことだったのか」と発見することは結構あります。そういう接客ができるのも、嬉しいことの一つです。

ーー それはいいですね。私も気になることがあったら、本を探しに理工書コーナーへ行きます!

堀口 ぜひ! そういう経験ができたり、理工書はあんまり不安を煽ったりする変な本もないし、自然科学担当でよかったなと思うことは多いです。ぜひみなさんも理工書コーナーへお越しください!

ーー ありがとうございました!

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「野口のタネ」やグッズなど、書籍以外のユニークな販売も!(主に原田さんが担当されているそうです)

ジュンク堂書店 藤沢店

住所:神奈川県藤沢市藤沢559 ビックカメラ藤沢店7階~8階

営業時間:10:00~21:00

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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