大島依提亜さんに聞きました!『今日の人生』の秘密

2018.05.08更新

 2017年4月20日に発刊となる、益田ミリさんの『今日の人生』。初版限定での「仕掛け」(写真が6枚ついてます!)など、本当にいろいろてんこ盛りなんです!

old95-18.jpg『今日の人生』益田ミリ(ミシマ社)

 そんな、盛りだくさんな本づくりを一緒にしてくださったのが、デザイナーの大島依提亜さんです。とにかく物として持っておきたい、存在感のあるような一冊を、という気持ちで作った本書には、紙の本だからこその魔法がかけられています。いったい、どんな魔法がかけられているのか? 『今日の人生』の秘密を紐解きます。

old95-4.jpg

***

―― 本文では、マンガのコマがぎゅっと詰まっているところと、そうでないところがあります。このコマの秘密を教えてください!

大島 まずはじめの打ち合わせのときに、ミリさんが作られたサンプルを見せていただいたんですが、このサンプルの本文のコマが、歯抜けの形だったんですよね。この不均一な感じが、すごい面白かったんです。

old95-3.jpg益田ミリさんが作られたサンプル

大島 1日は誰にとっても24時間で、物理的には日々まったく同じ時間のはずです。けれども、やっぱり日々の人生において、ひとつの出来事しかなかったり、盛り沢山の1日だったり、いろいろ差があるじゃないですか。それが、この歯抜けのコマに出ているような気がして。それがすごく面白かったので、これはそのまま使おう、と思いました。

 そこからさらに、24時間というくくりを8コマという単位にして、そのコマを穴埋めしていく形だと、今日は1コマだった、2コマだったとか、何もなかったとか、そういう感じが出るかなと。

 たとえば、最初のミリさんのラフの段階でそうでしたが、こういうコマが飛ぶところとか、かなり斬新ですよね。

old95-1.png

大島 でもこのコマみたいに、思いを引きずったまま次の日を過ごしたりすることって、往々にしてありますよね。昨日のもんもんとした考えごとを、また次の日も考えていたりする。その雰囲気がでないかなと。

 あと、何も描いてないコマも、固定して確定されてはいるんだけれど、外線のない淡い色になっています。1日の時間はきっちり決まっていてもその時間の境界はあいまいじゃないですか。

 この淡い濃淡を出すのに、みんなでがんばりましたよね。この、背景とコマの濃度の割合を何度も印刷所でテストしてもらってりして。15%と10%とか、いやでも違う、もう少し薄く、とか・・・ほんと、おつきあいいただきありがとうございました(笑)。

old95-13.jpg

―― 本文は赤、緑、青の3色です。この色分けはどうしてですか?


大島 たとえば、特別悲しいことがあったわけじゃないけど、なんか今日は暗いなぁとか、そういう日ってあるじゃないですか。あるいはなんかウキウキしてる日とか、日々の出来事に関わらず、季節にも左右されますよね。

 実際に起こっていることは違う感情の浮き沈み、そういう気持ちを、色のトーンがかわっていくということで表現できたらいいなと思って。人の心も変わっていくように、色も変わっていく、というイメージです。

old95-14.jpg

―― カバーが素敵です! これは、何の模様ですか?

大島 一番はじめの打ち合わせのときに、ミリさんがいろいろ記憶の詰まった箱を持ってきてくださって。そのなかに、ミリさんが子どもの頃に作った、この切り絵があったんです。

old95-2.jpg

大島 これを見て、「全然変わってない!」と思う部分がありました。それでいて、少しはじけたような、子ども時代のパワーがプラスされているものが今のミリさんとシンクロすると、力強いものになるかなと思ったんですね。

 ミリさんの作品って、ニュートラルな絵のなかに、するどさやあたたかさが、あるいは淡々としてみえて実はエモーショナルな部分とか、相反する要素が両立していますよね。今までの作品の装丁の入り口もシンプルでストレートなものが多いのかなという印象がありました。でも、僕はけっこうやりすぎちゃうところがあるので(笑)。華々しさと、シンプルな感じの両立を、どうしようかなあとけっこう考えていました。そのときにこの切り絵を拝見して。このちょうどいい華やかさが、必然性もあって、すごくよかったんです。

old95-12.jpg

―― 実は、表紙の色が赤、緑、青の3種類あると聞きました。

大島 そうなんです、表紙が3色あるんですよ。これ、買った人もまったく気づかないかもしれないよね(笑)。本屋に本が並んでいても、カバーと帯が巻かれてるし、どれが何色かとかまったくわからない。

 これはまさに、『今日の人生』なんです。今日たまたま買った赤い表紙も明日選んだとしたら青かもしれない。ちょっとした偶然で1日が変わるかもしれない可能性、そこがまさに、「今日の人生」的だなと思ったので。たとえそれがそのとき気づかれなくても、もしかしたら、5年後とかに、この本を持ってる友達の家にいって、表紙を開いたときに「あれ?」ってなる人がいるかもしれない。青だと思ってたけど赤だ、もしかしたら赤だったのかな? 帰るころにはそんなことすらすっかり忘れて自分の本棚も確認せずに終わる。そんな些細な気づきくらいでもいいかなと思ったんです。

old95-5.jpgold95-8.jpg

―― 1ページ目から、開くとすぐにマンガが始まる、というのも特徴的です。

大島 この、最初のプロローグは非常に重要なのでまず真っ先に読んでもらいたかった。その先にタイトルの扉が入るほうが導入になるのかなと。

 通常の書籍ですと、本扉がはじめにあって、本文のフォーマットに基づいたタイトル文字が繰り返されて・・・と本の流儀があるじゃないですか、そういったルールはいわば装飾的なものだと思うんですけど、物語の演出としてのブックデザインというのを最近よく思ってるんですよね。

old95-9.jpg

―― 途中に入っている、「昨夜の夢」のページは、紙がガラッと変わって黒色ですね。

old95-6.jpg黒色の紙に銀色で刷られているページが挿入されています。

大島 これはミリさんが見ている夢の話なので、ここだけ世界がだいぶ違うんですよね。夢特有の不思議な感じ。豚しゃぶ用の生肉の台紙が何故か封筒だったりして笑ってしまうんだけど妙にリアルで、すこし怖くもあって。

 なのでこの章は大胆に変化をつけようと思い、黒の紙をつかいました。黒白反転するのは、ミリさんのタッチだとあわないかもとはじめは思ったんですけど、このシュールさにあってましたね。

 グザヴィエ・ドラン監督の映画『たかが世界の終わり』のパンフレットを作った際に、今回同様に黒色の紙に銀色で本文を印刷したのですが、今回の場合は漫画の線がだいぶ細かったので、印刷所からは「こんなにハッキリ出すのは無理」と言われちゃいましたね(笑)。でも、試行錯誤の結果、綺麗に仕上がってよかったです。

old95-10.jpg

―― 実はここが好き!というポイントはありますか?

大島 これはあんまり一般の人には伝わらないと思うんですけど・・・今回のカバー、アラベールという白色の紙にベタで色を刷っているんですよね。この、色ベタで刷ったときに色がしょわしょわになるのが大好きで。これがね、出るときと出ないときがあって全然よめないんです。色と紙の性質によるんだと思いますが、黄色とかはフラットに色ムラなく出てますよね。でもこの、緑のしょわしょわ。これね。

old95-7.jpg

 デザインを始めたばかりの頃に、自分で納得してないままのデザインで入稿せざるおえないときがあったんです。一つ一つを全力で挑んできちんと成果を出さないといけない、若手の頃だったのにも関わらず。それで、泣きそうになりながら色校を待ってたら、こういう「しょわしょわ」が出たんですよね。すると全然表情が違うくて、自分ではダメダメだと思ってたんだけど、めちゃめちゃいいデザインに見えた。

 Mac上だと色がフラットで、なんとなく面白みに欠けるデザインに思えた成果物がなんだか輝いて見えた。印刷ってすごいなと。印刷にはまったのはその頃からと記憶してます。そのときのことをすごく思い出しました。

 今回、このカバーのデザインでいこうとなったとき、つるんとした感じになってしまったら嫌だなと思っていたので、実はそこが一番どきどきしていました。それによって、この表紙の成功が左右されちゃうから。

 でも、すごくいい感じにこの「しょわしょわ」が出て、実はこれが一番嬉しかったんです。しかもこの「しょわしょわ」には名前がないからね、なんて言えばいいのかな(笑)。

old95-11.jpg

*緑の「しょわしょわ」や表紙の色、黒色の紙・・・実際はどうなっているのか? ぜひ手にとってご覧ください!


*映画のグラフィックをはじめ、書籍など幅広い分野にわたって活躍されている大島依提亜さん。大学時代は映画専攻で、監督を目指していた時期もあったそうです。そんな大島さん、『今日の人生』をどう読んだのでしょう?

1.カメラアングル

大島 ぼくはあまりマンガを読まないので、コミックとしてのテクニック的なところは正直わからないんですけども、カメラアングルみたいなものがすごくうまいなと思いました。たとえばここ。この、よりどころのタイミング。絶妙ですよね。

old95-15.png

2.こんな作品を思い出しました

大島 マンガを読まないと言っておきながらですが、アメリカのアンダーグラウンドコミックに、『アメリカン・スプレンダー』という作品があるんですね。ハービー・ピーカーという人が原作者で、ロバート・クラムとか、なかなか錚々たる人たちが絵を描いているんですけど。ただのおっさんのたんたんとした日常を綴っているだけなんですよ。延々と思考実験だけで終わるコマもあったりするんです。さえない中年がさえない街で悶々としている、という作品で、ミリさんとタッチも物語も全然違うんですけど、コミックエッセイを越えたすごみという点で共通しているというか、それをちょっと思い出しましたね。

 それから、夏に公開予定のジム・ジャームッシュ監督の新作『Paterson』は何気にミリさんの世界に通じる部分があると思います。ミリさんにもぜひ観てみてほしいですね。

3.迷いがない言葉

大島 読んでいて、がつんと打ちのめされる言葉やシーンがあってもそこでとどまってくれるわけでもなくて、どんどん先にいっちゃうんですよね。ここ(ミシマ社)に来るまで、電車のなかで『今日の人生』を読みかえしていたんですけど、これとか、すごいですよね。

old95-16.png

 何と比較して長いと言ってるんだろう? と思うんだけれど、これ、すごく確信を持って言ってますよね。迷いなく。

4.表情のバランス感覚がすごい

大島 本文用に書き下ろしていただいた手のイラスト(本文p.171)は1ページ全体に大きめに描いて頂いたんですけど、ちょっとなまめかしくってというか色気があってリアル。実はこの写実的な感じを生かして、カバー用に「顔のアップを描いてください」って言おうかと思っていたんですよ。

 ミリさんの絵は、顔の表情があまり読み取れないように描いてあるのがミソですよね。たとえばこの、東洋大学を応援していると思ったら、突然プイッといってしまうところ。

old95-17.png

 さっきまで応援してたのに! って、ちょっと冷たいふうにも思うんですけど、顔がすこし笑ってるんですよ。これがいい。この、バランス感覚が抜群ですよね。

 こういうときにどういう表情であるべきか、ということをすごく考えてらっしゃるんだと思います。かつ、そのなかで、涙を流したりする表現まではいかない。そこがやっぱりすごいですよね。

 そこで先ほどのカバーの話ですが、顔の表情をアップにすると、曖昧な表情に逃げられないじゃないですか。それをちょっとやってみたかったんです。顔のアップ、絶対かっこいいと思ったんですよ。


*大島さん、ありがとうございました!!いよいよ発刊となった『今日の人生』、いろんな仕掛けがつまっています!ぜひ店頭で手にとってみてください。

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

  • 尾崎世界観×寄藤文平 いま、表現者であるということ(1)

    尾崎世界観×寄藤文平 いま、表現者であるということ(1)

    ミシマガ編集部

    2018/9/26(水)に発売されたクリープハイプの新アルバム『泣きたくなるほど嬉しい日々に』。そのデザインを手がけた寄藤文平さんと尾崎世界観さんは、4月にミシマガで対談しています。ミシマ社とも縁の深いお二人の対談、この機にぜひお読みください。(実は、今回の新アルバムの特装版の詩集と、タワーレコード特典の豆本の編集をミシマ社がお手伝いしています!)

  • 西村佳哲×ナカムラケンタ 最近〝仕事〟どう?(1)

    西村佳哲×ナカムラケンタ 最近〝仕事〟どう?(1)

    ミシマガ編集部

    みなさん、最近、仕事どうですか? ナカムラケンタさんの『生きるように働く』と、『いま、地方で生きるということ』の著者でもある、西村佳哲さんの『一緒に冒険をする』(弘文堂)の2冊の刊行を記念して、2018年9月18日、代官山 蔦屋書店にてトークイベントが行われました。「最近〝仕事〟どう?」をテーマに、それぞれの角度から「仕事」について考え続けてこられたお二人が、自著の話、人が働くことの根っこについて、そして「働き方改革」までを語り合いました。そんなお話の一部を、前・後編2日間連続でお届けします。どうぞ!

  • 町田 康×江 弘毅 「大阪弁で書く」とはどういうことか(1)

    町田 康×江 弘毅 「大阪弁で書く」とはどういうことか(1)

    ミシマガ編集部

    2018年6月22日、編集者であり長年街場を見つめてきた江弘毅さんがはじめて「ブンガク」を描いた、『K氏の大阪弁ブンガク論』が刊行になりました。司馬遼太郎や山崎豊子といった国民的作家から、黒川博行、和田竜など現代作家まで縦横無尽に書きまくっている本作で、2章を割いて江さんが絶賛しているのが、作家・町田康さん。本書の刊行を記念して(そして江さんが熱望して!)、紀伊國屋書店梅田本店にておこなわれた、お二人の対談の様子をお届けします。

  • 凍った脳みそ

    特集『凍った脳みそ』後藤正文インタビュー(1)

    ミシマガ編集部

    『凍った脳みそ』。なんとも不思議なタイトルである。いったい何の本なのか? と題名だけ見てわかる人はかなりのゴッチファンにちがいない。ぞんぶんにお好きなように本書を楽しんでくださいませ! 実は、アジカンファンだけど「この本はどうしようかな」と思っている方や、必ずしもアジカンやゴッチのファンでもないけど音楽は好きという方や、ゴッチもアジカンも音楽もとりわけ好きなわけじゃないけど面白い本は好き! という方にも、本書はおすすめなのです。その理由の一端に迫ることができればと思い、著者の後藤正文さんに直接お話をうかがいました。

ページトップへ