気のはなし

第2回

『気のはなし』刊行記念 坂本美雨×若林理砂「先生、気のことが気になります!」(前編)

2022.04.04更新

 ミシマ社の2022年最初の1冊として1月に刊行された若林理砂さんの『気のはなし 科学と神秘のはざまを解く』。おかげさまで、「こんな気の本は初めて!」というたくさんの声をいただき、発売後すぐに増刷もかかりました。
 発刊直後の1月末、若林さんの長年の患者さんでもありご友人でもあるミュージシャンの坂本美雨さんをお迎えして、オンライン対談イベントを開催。
 歌と呼吸と気の関係、養生にどうやって気を活かすか、どうやって気を整えるのか、などなど、まさに「気になる気のはなし」が満載で、最後には美雨さんの愛猫サバちゃんもご登場となったイベントの一部を、前後編でお届けします!

(構成 星野友里、田村洸史朗)

普段絶対に話さないことを丸ごと書いた本

若林 普段美雨さんの治療をしているときに、私ほとんど「気が・・・」とか言わないじゃないですか。

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左:若林理砂さん、右:坂本美雨さん

坂本 言わないです。まったく。

若林 私たぶん、一切そういう話をしてこなかったと思うので、今回この本を書くときに、普段絶対に話さないことを丸ごと突っ込んでやれという感じで書いたところがあるんです。臨床でたまに話す場合でも、西洋医学の言葉に全部翻訳して話すところを、中国の古典など原典に基づいて、そのまま出してみるという思い切った試みをしました。そして、できるだけ一切スピらない(スピリチュアル的にならない)で書くという。

坂本 そうなんですよ。スピっていない気の本というのは、本当に珍しいと思うんです。待ってました! それで読んでみると、先生は普段からあまりにスピっていないので、全くそういうのがないのかなと思いきや、一通り通ってらっしゃるという。

若林 はい(笑)。そうなんですよ。面倒なことになるから、ひた隠しにしてきたに近い。「そういう感覚を使っています」と言うと一般化されなくなっちゃうじゃないですか。それに、そういう感覚的なところというのは、体調によってすごく左右されたりして、検査機器みたいに一定ではなく不確かなので、きちんと技術をくっつけて多方面からバックアップしてあげないと、使い物になんないんですよ。

坂本 でも臨床で使ってはいた?

若林 調子が悪いところを探ったりするのに便利は便利なんですよ。この辺がおかしいなという当たりがつけられるので。

坂本 それは昔から?

若林 そうですね、でもすごく役に立つわけではなくて、小学校の頃に、くじ引き当てるの得意だったとか。後になってから、なんかの役に立てようと考えて、治療に使うのはいいなと。

音楽が持っている気の作用

坂本 私もいろんなスピを知識として取り入れるのは嫌いではないし、それを極めている人たちに敬意はあるけど、完全に信じきって頼っているわけではなくて。でもやっぱり歌をやっていると信じざるをえないところもあったりして。

若林 それこそ昔から、歌い手さんというのは、魂を呼んでくる人たちだったりするから、巫女さんみたいなもんですよね。音楽と宗教って絶対に切り離せなかったですし。

坂本 そうなんです。だから歌っているときに・・・。

若林 降りてくるとか?

坂本 そうなんです。天とつながっている気がするとか、自分がなくなって万能な気がしたりとか。万能って自分が偉いとかじゃなくて、たまになるのは、地震とかがあってもこの空間は私が守れるという気持ちになるんですよ。普段は本当に自信のない私が、そういう気持ちになれてしまうっていうのも、やっぱり気の作用だし、お客さんと気の交感をしていると思うんですよね。

若林 おそらく音楽が持ってるそういう気の作用が、あるんだと思うんですよ。何らかの音の組み合わせで、何かが起きるんですよ。「波動」「グルーブ」「バイブス」もたぶん同じなんでしょうけど。そういうのがまあ言ってみれば、音楽の「気」ですよね。とくに、自分の力じゃないのに普遍的な力が備わったような感じになるのって、芸術をやってる人特有の感覚でしょうね、きっとね。

坂本 ボーカリストとして、私はそんなにテクニックがあるわけではなく、とても勝てないなという人がいっぱいいるんですけど、それでも歳を重ねてもずっと歌っていくなと思えるのはやっぱり、自分しか出せない、たんなる声とは違う何か、それを愛と呼ぶのか気と呼ぶのか、何かその物質的な届くもの以外にも伝えているもの・・・。

若林 絶対ありますよね。

坂本 モヤッとした何かが立ち上っているとは思うんです。

メンタルの不調を体に引き戻してアプローチする

坂本 「病は気から」と言いますが、気と養生の関係、私たちがすぐできること、生活に役立つことみたいなのを聞けたらなと思うのですが。

若林 みんな「病は気から」って、「気分から」みたいなつもりで言うけど、あれは本当に東洋医学の言葉なんです。東洋医学では病気の原因を、気が多いか少ないかで考えます。余っている場合は発散させる、足りない場合は補うもしくは養う。そうすると養生の三本柱「寝る・食う・動く」のうち、「寝る」が養うと補う。で、「食べる」は補う。「動く」が発散させる。これで病気を治していくわけです。なので、このバランスをうまくとっているのが一番強いんです。

坂本 それが現代社会だと一番崩しやすいところでもありますけれどもね。本の中では、抑うつのような気の滞りも、やっぱり運動で巡らせるって書いてらっしゃいましたね。
 私も、そんなに激しくはないけど、わりとメンタルと体の不調は素直に連動するほうで、先生のところに駆け込んで、何かしら体を整えてもらうと、「まあいっか」という気持ちになって帰っていくことが多くて。

若林 「よっしゃ元気になった!」というところをめざしてしまうと、それは逆の方向に振れるだけだから、またどうせ揺り戻しが来るわけですよ。そうではなくて、要は気が詰まっているのを流してちょっと足したという状態にすると、うまく巡る状態になるから、それで治ってくるという考え方ですね。

坂本 そういうふうに微調整するのが、ここ数年は先生のおかげで日常化して。そうすると、メンタルが不調でも焦らないというか、体がこうこうこうなって、これがあったから疲れてるんだなとか、そういうふうに多方面からアプローチできるっていうのはあります。

若林 それって大事なことだと思います。鬱っぽくなっちゃうと、自分が向いている方向が詰まっているだけで、実は後ろを振り返ったら全部開けている状況でも、それが見えなくなっちゃうので、そこを少し疎通してあげる。早く寝てみようとか、食事変えてみようとか、ひょっとしたら運動が足りないのかもしれないとか、体のほうに引き戻せるのが一番大事なことだと思ってます。

後編へつづく)

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

編集部からのお知らせ

若林理砂さん連続講座「気のはなし」期間限定販売中です!

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書籍『気のはなし』の元となった若林理砂先生による連続講座「気のはなし」、書籍化記念復刻としてアーカイブ販売をしております。書籍に入りきらなかった、あんな話やこんな話も語られていますので、よろしければぜひ!

詳しくはこちら

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