クモ博士にきいてみよう!

第4回

クモは自分の張った巣にどうして絡まないのですか? ほか

2019.09.11更新

 

 発刊まであと2週間となった『クモのイト』。より多くの読者の方に本書を届けるための、社内のミーティングも白熱しました。書店に並ぶポップやパネルにもその熱量が滲み出ていると思うので、どうぞお楽しみに! 

 著者である、中田兼介先生がみなさまのクモに対する質問に答える『クモ博士に聞いてみよう』も4回目。今回もユニークな質問が集まりました。
 皆さまも、クモに関する質問・疑問がありましたら、奮ってお寄せください。受付の方法は、記事の最後に掲載しております。

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『クモのイト』中田兼介(ミシマ社)


質問1:

 クモは自分の張った巣にどうして絡まないのですか?

0724_111.jpg  森の中とか歩いていると、いきなり顔がクモの網(クモがエサをとるために糸で作る巣のことを「網」と呼びます)に突っ込んだりして、くっついた糸をとるのに往生します。なのに、どうしてクモは平気で網の上を歩けるのか?不思議ですよね。

 この質問は、私がよく尋ねられるものの一つで、これをネタにテレビに出演したことが二度もあるくらいです。そのうちの一度では、テレビの人が「ついでにクモが網を張っているところを映像に収めたい」というので、朝の4時起きでロケに同行し、大学キャンパスの脇にある崖に面したところで、網を張っている最中のクモを見つけました。これを撮りましょう。

 円い網は、おおざっぱに言って、外枠の糸に向かって中心から四方八方に走る「たて糸」と、中心の周りに何十もの細かならせんを描く「横糸」からできています。私たちが撮影を始めた時、クモはすでに外枠とたて糸を張り終えて、最後の仕上げとばかりに、網の外側から内側に向かってグルグル歩いて横糸を張っているところでした。

 クモは何種類もの性質の違う糸を使い分けていて、円い網の中では、横糸だけがネバネバしています。液状の粘着物質が球になったもの=粘球が横糸の上に並んでいるのです。で、網を張る時は、まずネバつかない外枠とたて糸を作って、その上を歩きながら最後に横糸を張るので、完成までクモは糸に絡むことはありません。

 エサをとるため網の上を移動する時も、たて糸をつたって歩きます。この歩き方がよくわかるのが、網の端の方にかかったエサを捕まえている最中に、別のエサがかかった時です(撮影中にも一度ありました)。その場所がすぐ近くだったとしても、クモは一旦たて糸沿いに中心まで戻り、新しいエサに向かうたて糸に乗り換えてから、やっと捕まえに行きます。ちょっと面倒くさいけど、やむを得ません。

 ですがよく見ると、たて糸の上を歩いていても、時々脚が横糸に触れてしまうことがあります。なぜそれでもクモは困らないのでしょう? これを最初に調べたのが「昆虫記」で有名なファーブルで、油でクモの脚を洗うと横糸がくっつくようになると書いています。また脚には途中に枝分かれのある毛が生えていて、万一横糸がくっついても粘球が枝分かれの部分で引っかかることが最近わかりました。このおかげで、ネバネバに触れるのはわずかな面積で済み、クモは横糸に触れた脚を毛の根本方向に引き抜くように動かすので、粘球がスッと毛から離れて、それ以上絡まなくなるようです。

 さてテレビロケの話。撮影の日は秋だったので周りはまだ暗く、糸がきれいに映るよう、スタッフさんが照明をこうこうとつけていました。すると、光に虫が引き寄せられてきて、張っている最中の網に次々かかるのです。その度にクモは網張りを中断してエサを食べます。おかげで網が完成するまで普通は1時間くらいのところ、延々待ち続け、すっかり明るくなって通学する女子学生の好奇の目に絡みとられたのは、カメラを何もいないように見える崖に向けて立ちつくしている私たちだったという...結局10時半までかかりました。


質問2:

 私の実家は千葉 ( というか、もう房総半島ですねぇ。内房です。 ) の海っぺりにあるのですが、巨大なクモがたくさんいます。
 見た目は茶色くて、足が速く、家の中でしか見かけたことはなく、たぶん巣は張らず、畳の上を高速移動していたり、トイレのスイッチの横でじっとしていたりと、
人の生活のすぐ横で暮らしている様子です。
 そして脱皮してどんどん大きくなります。長い足を広げると、多分大人の手のひらぐらいまで育つのではないでしょうか。
 で、この大きなクモを、ハエトリグモを呼んでいたのですが、これってひょっとして間違い? このクモがアシダカグモ?
 何を好きこのんでだか長靴の中とかにいるせいで、うっかり素足で踏むと何ともいえない足触りのする、あの茶色いあれの名前はいったい・・・?

0724_111.jpg それはまごうことなきアシダカグモ 、、、と言いたいところですが、私も専門家の端くれです。わずかなりとも違う可能性があるときは断定を避けるのが習い性。家の中にいる茶色くて大きなクモというところで9分9厘アシダカですが、コアシダカグモ、というよく似た種類のクモが稀に家の中にあがり込むことがあるので(普通は森の中など野外にいます)、写真も標本もないところで100%間違いないか?と言われるとためらいます...と、これだけ予防線を引いておけば、少々踏み込んでも大丈夫でしょう。アシダカグモだと思います。より確実に知りたければ、メスを探して頭の先を見てください。白い横線が入っているなら確定です。

 少なくともご質問の文面からは、くだんのクモがハエトリグモでないのは確実です。見まごうことはありません。前回も出てきたハエトリグモは小さくて脚も短めのかわいらしいクモですが、アシダカグモは大柄で長い脚にヒョウ柄のついた、精悍さを感じさせるルックス。英語でハンツマン・スパイダーの名の通り、家の中で素早くゴキブリなどを襲って食べる、インドア派の狩人です。

 そう、このクモはゴキブリが大好物。なべて世の人はゴキブリを過剰なほどに忌み嫌うわけですが(そこまで憎むこともないのに、と私が思っていることは内緒です)、おかげで「"敵の敵は味方"の論理に従って、アシダカグモは大事にすべき存在なんだよ」というPR戦術が使えます。こう訴えると、そんな究極の選択を迫らないでくれえ、という反応が返ってくることも多いのですが、キングギドラが現れてからゴジラが悪役でなくなったという歴史から人類は学ぶべきです。ゴキブリさんにはごめんなさい。

 夜行性なので、昼間はタンスの後ろとか物陰に隠れています。長靴の中も良さげな隠れ場所ですが、暗くなるとエサを求めて出撃していきます。ゴキブリも夜行性なのです。長靴はくなら夜がオススメ、、、って、そんなわけにも行かないですね。

クモにまつわる疑問を募集中!!

本連載では、クモ博士・中田兼介先生に質問したいクモにまつわる疑問を募集しております

質問がある方は、質問の内容(200字程度)を、
hatena@mishimasha.com宛に、【件名:クモ博士に質問】としてお寄せくださいませ。

中田 兼介

中田 兼介
(なかた・けんすけ)

1967年大阪生まれ。京都女子大学教授。専門は動物(主にクモ)の行動学や生態学。なんでも遺伝子を調べる時代に、目に見える現象を扱うことにこだわるローテク研究者。現在、日本動物行動学会発行の国際学術誌「Journal of Ethology」編集長。著書に「まちぶせるクモ」(共立出版)「びっくり!おどろき!動物まるごと大図鑑」(ミネルヴァ書房)「昆虫科学読本」(共同執筆、東海大学出版会)など。こっそりと薪ストーバー。

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