どうやったらクモに、ズッキーニの葉を守ってもらえますか? ほか

第1回

どうやったらクモに、ズッキーニの葉を守ってもらえますか? ほか

2019.07.24更新

 突然ですが、今年9月に、『クモのイト』という本を発刊する予定です。動物行動学者として日々クモの研究をされている中田兼介先生による、クモ愛に溢れるこの一冊。ミシマ社一同、原稿を読むと、自宅や会社で見かけるクモへの眼差しが変わりました。「クモ、おもしろい!!」。そして、クモについて、まだまだ知りたいことがたくさん出てきたのです。

 そんなわけで、このコーナーでは、クモ博士である中田先生に、クモにまつわる素朴な疑問をぶつけてゆきたいと思います。読者の皆さまも、クモに関する質問・疑問がありましたら、奮ってお寄せください。受付の方法は、記事の最後に掲載しております。


質問1:

 クモ博士こんにちは。私は会社の庭で野菜を育てているのですが、甲虫に葉っぱをごっそり食いちぎられてしまい、悲しみに暮れています。なかなか現行犯で退治することができず、もしやクモならば、きゃつらから可愛いズッキーニを守ってくれるのではないか? と思いついたのですが、どうやったら狙ったところ(野菜のまわり)にクモの巣を張ってもらえるのでしょうか? 人間の都合でクモを利用するなんて! と先生からのお叱りは覚悟の上です。野菜が可愛くてすみません。アドバイスいただけますと幸いです。

0724_111.jpgクモ博士の回答:

 採れたての新鮮なズッキーニをベーコンとオリーブオイルで炒めて食べる。サイコーです。私も若い時から野菜づくりが趣味で、今は90本植えたトウモロコシの収穫を楽しんでいます。一人前のオトナとして自分で野菜くらい作れなくてどうする。というわけで、葉っぱ食われないようにしましょう。

 クモに網を張ってもらう方法ですが、まずは足場を用意してください。私は自宅の庭にクモを放しているのですが、木でも竹でも杭にして、程よい間隔で立てています。そうして捕ってきたクモを放してやれば、良い感じに居着いてくれます。畑だと、日当たりのよいところを好む種類のクモが良いですね。

 それから、いろんな虫がたくさんいる環境をまわりに用意してあげてください。害虫しかいないと、すぐにエサの数が減ってクモがどこかに引っ越してしまいます。害虫は虫の中で少数派です。例えばまわりを草ぼうぼうにしてやって虫だらけになっても、それで葉っぱがもっと食われることはなさそうです。

 ところで、ズッキーニの葉っぱを食べる甲虫ならウリハムシあたりでしょうか。大きくなったズッキーニはマンモスフラワーかというくらい手がつけられなくなって、少々ウリハムシがついても平気ですから、葉っぱを食べられたのはまだ苗が小さい5月頃と思います。

 網を張らせてウリハムシ退治しようというアイデアには、これが少々問題です。5月頃だと、円い網を張るクモはまだ子グモの種類が多いのです。放してもあまり役に立たないかも...

 でもまだあきらめるところじゃありません。草地に住んで、網を張らずに歩き回ってエサを捕るコモリグモが5月にはすでにたくさんいます。外国での研究で、実際にクモがウリハムシを食べて減らすだけではなくて、ウリハムシが危険を避けるのに一生懸命になって、葉っぱを食べる量を減らすこともわかっています。

 つまり、草ぼうぼうの虫パラダイスが、美味しいズッキーニのベーコン炒めへの道なのです!お試しください。


質問2: 

 クモは殺してはいけないというのが頭にありまして、部屋で見つけると、手のひらで捕まえて外に逃がしてあげるのですが、これから夏です。炎天下のコンクリート目がけて窓からクモを投げるのは、結局殺しているのと一緒ではないか? と、想像したら恐くなりました。クモを室外に逃がす際に気をつけたほうがいい点などあれば教えてください(いやむしろ、逃がさず室内に飼っているほうがよいでしょうか?)。

0724_111.jpgクモ博士の回答:
 
 夏ですね。この季節、私は仕事柄、外で生き物の観察をすることが良くあります。ある時田んぼでカメが卵を産むところを見ようと追っかけを始めたところ、ウッカリ相手に気づかれてしまい、警戒され甲羅の中に引っ込まれてしまいました。仕方ないので動きだすのを炎天下で待ち続けたのですが、相手が悪かった。カメと我慢くらべをして勝てるはずがありません。1時間半ほど粘って、ついにはあきらめざるをえませんでした。痛恨です。

 それでも人間は帽子をかぶったり汗をかいたり、こんな状況でも体温が上がりすぎないようにできるから良いのです。クモは変温動物で、周りの温度で体温が変わります。体が小さいおかげで、熱が中にこもる心配はいらないのですが、夏の日差しは要注意。開けた場所に網を張って、降り注ぐ陽光を浴び続けるクモの中には、体温が上がりすぎないよう、お腹の先を太陽の方向に向けて、他の部分に陽が当たらないようにするものがいます。お腹を日傘がわりにするわけです。かようにクモにとっても、夏の暑過ぎる環境はよろしくありません。

 真夏に日光を浴び続けたコンクリートは、裸足だと飛び跳ねて歩かなきゃならないくらい熱くなり、色の濃いアスファルトともなれば65℃くらいまで温度が上がります。クモは気温が45℃程度になると、数十分で生きていけなくなるので、65℃の環境に曝され続けるのはヤバいですね。

 しかしそこは彼らも主体性を持った生き物です。ヤバい状況からは逃げ出すことができます。部屋の中から外に出されて、体温が危険なレベルに上がってくるまでには少し時間がかかるので、その間に高いところに登ったり日陰や土のあるところに移動できればセーフです。ということで、外への出し方はあまり気にしなくて良いかと。

 むしろ気にすべきは、外に逃がしてどうなるのか?ということです。そもそも、どうしてクモが部屋の中にいるのか。ひとことでクモといってもたくさん種類がいて、それぞれ特徴が少しずつ違います。その中には家の中が好きなインドア派の種類もいて、逆に野外では見つけにくかったりします。ですから、そういうクモをいくら外に放しても、また大好きな屋内に戻ってきそうです。小さなクモにとって、使える入り口はいくらでも開いていますから。

 というわけで、やはりここはムダにあがかず、下宿人として暖かくお迎えしてあげるのがオススメです。人間だって、あまりに暑いときには、快適な屋内で過ごしたいところです。ほんの少しで良いのですから、クモにもスペースを分けてあげましょう。

クモにまつわる疑問を募集中!!

本連載では、クモ博士・中田兼介先生に質問したいクモにまつわる疑問を募集しております

質問がある方は、質問の内容(200字程度)を、
hatena@mishimasha.com宛に、【件名:クモ博士に質問】としてお寄せくださいませ。

中田 兼介

中田 兼介
(なかた・けんすけ)

1967年大阪生まれ。京都女子大学教授。専門は動物(主にクモ)の行動学や生態学。なんでも遺伝子を調べる時代に、目に見える現象を扱うことにこだわるローテク研究者。現在、日本動物行動学会発行の国際学術誌「Journal of Ethology」編集長。著書に「まちぶせるクモ」(共立出版)「びっくり!おどろき!動物まるごと大図鑑」(ミネルヴァ書房)「昆虫科学読本」(共同執筆、東海大学出版会)など。こっそりと薪ストーバー。

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