尾崎世界観×寄藤文平 いま、表現者であるということ(2)

第1回

尾崎世界観×寄藤文平 いま、表現者であるということ(2)

2018.04.29更新

0408-1.png昨日の話では、情報をとりまく環境の変化と自らの表現について発言したお二人。SNSの普及によって多様な声が耳に入りやすくなる中、それでもデザインの方法は変わらないという寄藤さん。一方で自分への声を積極的に調べ尽くす尾崎さん。こんな話を受けて後半では、これからの表現についてお二人が思うことを訊いてみました。

(前半の記事はこちら
(聞き手:三島邦弘)

より偏っていくために必要なこと

0408-1.pngこれからの表現者にとって大切なことってどんなことですか? 

0428-0002.png今の時代って、偏っていることがすごく大事なんだと思うんですよ。僕は「TwitterやSNSが普及してみんなが平板になっている」っていう捉え方そのものが、あんまりリアルじゃない気がするんです。むしろどういうふうに偏りを持つかっていうことに視点はシフトしていると思う。バランスのとれた、全体に対して間違わない答えを言うっていうこと自体がダサいというか、つまらない人だと思われることさえもうみんなが理解しているっていうのが現在で、だからどうにか偏らなきゃいけないっていうのが今のリアリティなんじゃないかと思います。

でも一方で、偏った人って不愉快じゃないですか。だから偏るための作法が必要なんです。それはつまり、「僕はこのように偏っている」っていうことを本人が理解していることだと思う。「これは極論なんですけどね」ってひとこと言って極論を言ってくれる人と、極論を露骨に信じ込んで言っている人だと、「極論なんですけど」っていうひとことがあるだけでその考えは、少なくともひとつの意見として聞いてもらえる。でも本人がその極論を信じ切っていると、こいつはちょっと頭が悪いのかもしれないって思われて、意見の中身がどうであれ、耳を傾けてもらえない。

ozaki-icon4.png同じ内容でもそうですよね。俯瞰で見れているかどうかですよね。

0428-0002.png正しい必要はないんですよね。話としてはちょっとメチャクチャでも、全体としてはそれを自分が理解しているというポジションというか。いろんな場所で話したりとか、それこそ尾崎さんみたいに大観衆の前で話をするっていうときには、「その偏りを僕は理解しています」っていうことが普通の人よりも求められるんだと思います。より偏っていきたいからこそ、その偏りを理解した状態で話さないといけないというか。それはすごく現代的なコミュニケーションの作法だと思います。マナーだよね。

0408-1.pngたしかに。偏りへの憧れがあるのに、そこを自分で客観視しないまま突っ走っている人が結構いますよね。

ozaki-icon4.png自分の偏りをちゃんと自分で理解するというか、納得しておくというか。

0428-0002.png少なくとも把握されている状態、もうどうしようもないっていうことも含めて、その偏りがあるっていうことを知っていることが重要ですよね。

自分からひっぱり出したものに責任を持つ

ozaki-icon4.pngマナーの話で言えば、最近どうしても許せないことがあったんです。新しいバンドが出てきたときに「あのバンド、クリープハイプに似てるね」と言われることがあるんですけど、今までそういうものに対してありがたいなと思っていたんです。でも最近あからさまに腹の立つ真似の仕方をしているバンドがいて。いやらしいというか、そこにリスペクトがない気がするんです。

0408-1.pngそれってわかりますよね。やっぱり先達への敬意が必要ですよね。

ozaki-icon4.pngたとえばクリープハイプを好きでいてくれて、影響を受けてこうなりましたというなら、「ありがとうございます」と思うんですけど、このメロディがこう動いているからこの部分をこうしたらこうなるんじゃないかって、でもここまでやったらやりすぎだからここはこうしておこう、そんな真似の仕方なんです。

0428-0002.pngそこに生えてるクリープハイプを成分に分解して、サプリメントとして再構築しているわけですね。

ozaki-icon4.png真似されないよりはされたほうが絶対にいいんですけど、真似の仕方が、それこそさっき言った、「ひとことあれば」というところなんです。

0428-0002.png「ファンなんです」っていうひとことを言ってくれて、そういう関係があってのことだったらね。

ozaki-icon4.pngむしろこうしたほうがいいんじゃないと教えます(笑)。

0428-0002.pngでもなんだろうね。そういうのってどういうわけか、何か変だぞって、わかりますよね。変だぞって感じることの原点っていうのは、なんというか見えてないところにある作った人の動機の違いなんだよね。

ozaki-icon4.pngそもそも最初から「作る」という感覚でやっていないのかもしれませんね。0から1を作るのではないというか、そこまで「作る」ことが大事じゃないというか。それよりむしろ、もっといいものを着たいと服を着るような感覚で曲を作っているんだと思います。

でも僕は0を1にしたいので、自分の中からひっぱりだしたものがダサかろうが着るんです。でもこの人たちはダサいものは着たくない、自分で作ったものでもダサかったら着ないんですよ。僕は、ダサいものでもそれが自分から出てきたものだったら、これがかっこいいんだと言ってかっこよくするのが本当のプロだと思っています。でもこの人たちは、かっこいいとされているものを着て、かっこいいと言われたい。そこは全然違いますね。

0428-0002.pngそうだよね。出てきてかっこよくなくても着るしかないっていう覚悟みたいなものを感じたいですよね。

ozaki-icon4.pngそれこそストーリーがあるじゃないですか。あえてこれを着ているとか、この人が作った服だから着ているとか、そういうのはありますね。

0428-0002.pngそこが分かれ目だと。本当にそうですね。

0408-1.png尾崎さん、寄藤さん、ありがとうございました。7月に完成予定の「ミシマ社サポーターページ」では、お二人からサポーターの皆さんへのメッセージと取材時のオフショット写真の掲載を予定しています。こちらもどうぞお楽しみに!

(終)

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プロフィール

尾崎 世界観(おざき・せかいかん)
1984年生まれ。東京都出身。クリープハイプのヴォーカル・ギター。2012年4月にアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャー・デビュー。2016年6月に初小説『祐介』(文藝春秋)、2017年5月にエッセイ集『苦汁100%』(文藝春秋)を刊行。2018年5月11日に約4年ぶりとなる日本武道館公演『クリープハイプのすべて』の開催が決定。www.creephyp.com

寄藤 文平(よりふじ・ぶんぺい)
グラフィックデザイナー。1973年生まれ。1998年ヨリフジデザイン事務所、2000年有限会社文平銀座設立。広告やプロジェクトのアートディレクションとブックデザインを中心に活動。 著書に『死にカタログ』(大和書房)、『元素生活』(化学同人)、『ラクガキ・マスター』(美術出版社)、共著に『ウンココロ』(実業之日本社)などがある。

ミシマガ編集部

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

 

編集部からのお知らせ

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尾崎世界観さんの小説「祖父と」が掲載されています!

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ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台vol.4 「発酵×経済」号

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