& BOOKS

第1回

【ガソリンスタンド & BOOKS 】有田石油(和歌山)

2023.04.06更新

 本日から、ミシマガで新たな連載がスタートします! その名も「& BOOKS」です!
 全国各地で書店の閉店が相次ぎ、特に地方では、ひとつも書店のない「無書店自治体」が半数を占める県も存在するとのニュースも報じられました。そんな深刻な現実がある一方、ここ数年である良い流れが生まれているとも感じています。書店以外のお店で本をお取り扱いいただく機会が、特に「一冊!取引所(※)」がスタートしてから、顕著に増えているんです! カフェ、雑貨屋から、洋服店、ガソリンスタンドまで、そのお店の種類は本当に多岐にわたります。

 この「& BOOKS」の連載では、何か他のものと組み合わせて本を取り扱っているお店を「〇〇 & BOOKS」として紹介し、 本を販売することになった経緯や本を置くことによる変化などをお店の方にうかがっていく予定です。

 記念すべき第1回は、和歌山にあるガソリンスタンド、有田石油さんです。本の販売とは無縁に思えるガソリンスタンドで、なぜ本を扱っているのか、実際に営業担当ヤマダがお店にお邪魔して、専務取締役の薮野睦士さんにじっくりとお話をうかがいました。

一冊!取引所:株式会社一冊が開発、運営している、書店と出版社をつなぐクラウド型受発注プラットフォーム。一般の方も本の情報などをご覧いただけます。

(取材・構成:山田真生)

お客さんとの関係性を作ることを第一に

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ーー有田石油さんはどんなガソリンスタンドなんですか?

薮野 有田石油は昭和34年に祖父がはじめて、今の社長である親父がそこの足場をしっかりと固めてくれて、僕が専務として引き継いでいるという状態です。今は車の数も少なくなっているし、車の燃費も良くなっているので、ガソリンスタンドはどちらかというと衰退していく産業なんですよ。
 そこで何か変わっていかなければと考えて、車検であるとか車の塗装であるとか、車屋のように車に関するサービスをなんでもするようになりました。来店件数の点では車屋に勝っているのがガソリンスタンドの強みなのでそこが生きると思ったんです。ただ実際にやってみると、お客さんはガソリンを入れに来ているだけだから、車にまつわる他のサービスを売り込んでも、基本的には響かなかったんです。
 そんな中で僕らは基本に立ち返って、お客さんとの関係性を作ることを第一にしようと思ったんです。お客さんと何回か顔をあわせるうちになんとなく人となりを知って、「この人のためになんかできることあるかな?」と考えて実行する、ということをやってきたのがガソリンスタンドなので。たくさんの人が訪れる場所だからこそ、訪れた人を元気にすることはもちろんのこと、こういう地域にしていきたい、この人のことをもっと知ってもらいたい、といったことを発信していける場でありたいと思っているんです。

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ガソリンスタンドをワクワクする場所に

ーーガソリンスタンドの枠組みを超えて、イベントなどの試みをするようになったきっかけや経緯を教えてください。

薮野 それまでも車に関するイベントはやっていたんですが、それだと関係性を大事にするという点では中途半端に終わる印象だったんですよ。イベントをやる一番の目的が、お客さんと仲良くなって、僕らのことを信用してもらうことなのに、新車の展示イベントだと、どうしても「買わされるんじゃないか」とお客さんも身構えてしまって。
 そんなときに参考になったのが、カフェをはじめとした飲食店だったんです。たまたまオオヤコーヒのオオヤミノルさんが和歌山の白浜に出店されるというタイミングで知り合いを通じて紹介してもらい、有田石油でオオヤコーヒさんのイベントを開催したんです。大盛況で、そのときのお客さんの顔が本当によかったんですよね。基本的にガソリンスタンドってワクワクしてくる場所ではないじゃないですか。洋服や本、食べ物に使う5000円と、ガソリンに払う5000円って金額は一緒だけど、心持ちが全然違う。ガソリンスタンドでの買い物に何の喜びもないし何の期待もしていない、それが少しでも変わればと思ったんです。

本の仕入れは案外簡単

ーーそこから本を売るようになったのはどんな経緯があるんですか?

薮野 本はもともと好きだったんですが、売るようになったのは偶然なんですよ。
 オオヤさんを通じて京都の誠光社さんを紹介いただき、誠光社さんが白浜で出張販売をする帰りに本を預かって1週間販売することになったのが最初のきっかけです。そのときに、自分が学生時代に大阪の本屋さんで味わった感覚を思い出したんです。本屋さんに行くと、結局買うのは一冊くらいなんですけど、たくさんのタイトルを浴びて、自分の中の世界が広がる感覚になるじゃないですか。
 さらに誠光社の堀部さんに街から本屋がなくなっている現状や、街における本屋の役割について話を聞くうちに、常設で本を置きたいという気持ちも大きくなりました。そこで堀部さんに相談しながら本の仕入れなどについて調べていくと、案外簡単にできそうだということがわかったんです。
 そうして一冊!取引所に登録していくつかの出版社から仕入れて置いたところ、お客さんの反応も良かったんです。その後子どもの文化普及協会さん(絵本をはじめとした書籍や雑貨をお店に卸す専門卸会社)からも仕入れるようになって、ご覧の通りかなり冊数もかなり増えましたね。あまり本屋さんで見かけない本を売っているという印象を持つ方も多いようで、新しい世界を知ってもらうっていうことを少しは達成できてるかと思いますね。

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ーー本の取り扱いに関して、今後こうしていきたいなどの展望はありますか?

薮野「本を売り始めたんですよ」ってお客さんに声をかけても、「俺は本読まんしな~、文字無理なんよ」っておっしゃるお客さんもまだまだ多いんです。そういう人たちに無理しておすすめするわけではないけれど、少しくらい興味を持ってもらうことができたらと思いますね。まだまだ本=勉強って思っている人が多いので、知らない世界を教えてくれるワクワクするものだっていうことをもっと伝えていきたいと思います。

***

〜取材を終えて〜

 ガソリンスタンドで本を販売していると聞き、勝手に奇抜なお店や店主の方なんだろうと想像していました。ただ実際にお店を訪れてみると、ガソリンスタンドという商売の強みや弱点をしっかりとみつめ、基本に立ち返ってお客さんと向き合っているお店だということが印象的でした。その中でご縁なども作用し、自然と始まったのがイベントや書籍販売だったのです。
 また、思っていたより簡単に仕入れができたという薮野さんの言葉も印象的でした。独自の商習慣があり閉じられたイメージの強い出版業界ですが、実際は一冊!取引所などを通じて、基本的にどんなお店でも本の仕入れが可能になっています。この記事を通じて、読者のみなさまに少しでもそのことが伝わっていればうれしいです。

(終)

有⽥⽯油株式会社

住所:〒6430-004 和歌山県有田郡湯浅町湯浅1457
TEL:0737-62-4646
営業時間:7:00〜19:00

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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