一泊なのにこの荷物!

第10回

お酒

2021.01.01更新

 新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

 さて、早速ですがみなさんはお酒は好きでしょうか。

 私は好きです。ビールや日本酒、ワインも好き。いずれも少量で満喫できる「身体とお財布に優しいタイプ」であります。お酒自体も、お酒のあるひとときそのものも楽しいなと思う。

 というのも子どものころから酒の席がごく身近にあったからです。昔、年末年始は母方の田舎、山形の庄内に帰省することが多かったのですが、この母方の親族が揃いもそろってよく飲むんだ。母は五人兄弟で、兄弟たちとその配偶者、甥っ子姪っ子(私や妹にとってのイトコ)が大集結。年が明けるとそこへ近隣にいる親戚や家業のお仕事関係の方々が次々に年始の挨拶へ来られるもので朝から晩、晩から朝方まで無限ループの祭りの様な大賑わい、小学生の私たちにとってはお年玉袋がどんどん懐に飛びこんでくるという、最高に愉快な日々を過ごしていたのであります。

 山形、庄内といえば米どころの酒どころ、酒のあても海の幸から山の幸まで豊富です。夜はもちろん、ですが、日中でもお客さんによっては「さあさあ、おひとつ」なんてお銚子が運ばれてくることもありますし、何なら家のものたちのなかにも昼酒軍団、飲んべえがいるので、機嫌の良い大人が「うひひ」「ひゃはは」なんてごろごろしていたり、時折おっとっとっと、とトイレに立ったりするのを見ていました。(お酒ってずいぶんいい飲み物なんだなあ)とお給仕の手伝いをしながら思っていたものです。

 しかも、ぐだぐだしているのにもかかわらず、お客さんが来られると正座して「本年もどうぞよろしくお願いします」って一回一応かしこまるのがなんだかコントみたいで面白いなあと思っていました。

 普段はもうちょっとちゃんとしていたはずですが、一族全員根っこが陽気なのは確かで、東北人というよりも南国系、かなり愉快な面々が揃っていると言えるでしょう。私にとって、正月といえば真っ先に浮かぶのはこの人たちが集う光景なのです。ビール瓶一升瓶が次々に空き、勝手口の脇にはこれらがボーリングのピンのようにずらっと並んでいたのを覚えています。

 一時期短歌にはまっていたころ、私は自分が子どもだったときを思い出しつつこんな歌を詠みました。

ヒロジの子キヨコケンイチトミコヨシコキヨシ全員酒ばかり飲む

じいちゃんは夜はごはんは食べません米の汁だけお銚子二本

 祖父廣次ひろじもまた、お酒をよく飲む人でした。晩年まで飲みに出かけていましたし、また家でも晩酌は欠かさず、地元「大山」の熱燗が定番で、子や孫が集まるこの時期は「もう一本」「あと一本」と結構たっぷり、その量には似つかわしくないような非常に薄手の小ぶりな猪口で飲んでいたのが記憶に残っています。亡くなってお墓に入る時はもちろんこのお猪口も一緒に納められました。

 おかしかったのはカメラを向けると必ず横にいる妻や子、孫たちにお銚子を持たせ、祖父はご満悦の表情でお猪口を持って写真に写ったこと。家に限らずみんなで外食したり、温泉旅行中も、関西の私たちの家に泊まりに来てくれたときも、いつでもどこでもこの定番の"ヒロジお酌ポーズ"で撮っていたっけ。背景とメンバー、そして年代がちょっとずつ違うだけのお酌写真たち・・・私たちにとっては観光地に必ずある顔出し看板みたいなお決まりと言えましょう。うちは親戚がとにかく多いので、オジオバイトコたちが色んなヒロジ写真を持っているに違いない。そちこちに分散しているこれらの写真を集めたらかなりの枚数があるはずで、みんなに声をかければすぐに祖父の「お酌アルバム」ができると思います。面白そう。試しに一回呼びかけてみようかな・・・。

 私たち廣次の孫14人も、ほぼもれなく酒飲みになりました。みんな酒のあてでごはんを食べて育ったようなものなので、きっと口が似ているのかも。昨年は結局コロナ禍で一度も集えなかったけど、早く宴会が再開できたらいいなあ。

 最近のお酒の場で楽しかったのは、昨年末に出演したNHKの『あてなよる』という番組です。料理研究家の大原千鶴さんがいくつもの酒のあてを、そのあてにぴったりのお酒をソムリエの若林英司さんがそれぞれ準備してくださるという、お酒好きにとっては夢のような番組。

〈大根で呑む〉というテーマで、一品目に出てきたのはフライドポテトならぬフライド大根でした。ファストフード店で出てくるみたいに小さな紙袋にささっと入っているというのが愉しかったなあ。揚げたて熱々を口にすると、かりっとした食感、程よい塩味。しゅっとにじみ出る冬大根特有の甘みが何とも言えず美味しいの。そこに合わせたビールはカールスバーグでした。淡い味の大根をうまく引き立ててくれるんだそうです。ホップと大根それぞれのほろ苦加減もバランス良く、お腹に溜まりすぎずに軽やかで、最高の組み合わせ!

 3年程前にも一度呼んでいただいたのですが、大原さんと若林さんのお家に招いていただいたような寛げる空間なもので、またもや仕事ってことはすっかり忘れて満喫してしまいました。

 今回ご一緒させていただたのは落語家の桂米團治さん。お目にかかれて嬉しかったなあ。映画『細雪』で演じられた"奥畑の啓ぼん"のお話も伺えて幸せなひとときでした。なんと、お父さんの米朝さんが演技指導というか、セリフの言い方をアドバイスしてくれたのだそう! それを現場で実践してみたところ市川崑監督が「いやいや、もっと力抜いてふわっとやってください」って仰ったそうです。ずいぶん練習してから行ったもので、力抜くのは大変でしたよ・・・と笑いながら語ってくださいました。私の脳内で再現するにはメンバーが豪華すぎるエピソードだけど、想像するとものすごく面白い。素敵なお話です。

 古典落語「たちぎれ線香」、米團治さんの柔らかい甘い声の若旦那が私は好きなのです。愛する小糸の名を繰り返し呼ぶのが、なんとも切なくって。いつか寄席に聞きに行きたいなと思っています。昔のお話はどれもお酒が似合いますよね。

 さてと。今夜は冷えるのでお鍋でもして温まろうかな。お酒はお燗がいいかなあ・・・。お猪口からほわっと立ちのぼる香りがいいんですよね。私のお気に入りは五条通りで求めた清水焼、鳥獣戯画の絵のついた薄手の小さなお猪口です。

本上 まなみ

本上 まなみ
(ほんじょう・まなみ)

1975年東京生まれ、大阪育ち。俳優・エッセイスト。長女の小学校進学を機に京都に移住。主な 出演作に映画『紙屋悦子の青春』『そらのレストラン』、テレビドラマ『パパがも一度恋をし た』、エッセイに「落としぶたと鍋つかみ」(朝日新聞出版)、「芽つきのどんぐり 〈ん〉もあ るしりとりエッセイ」(小学館)、「はじめての麦わら帽子」(新潮社)、絵本に「こわがりか ぴのはじめての旅。」(マガジンハウス)など。京都暮らしのお気に入りは、振り売りの野菜、 上賀茂神社での川遊び。

写真:浅井佳代子
公式サイト「ほんじょのうさぎ島」

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