一泊なのにこの荷物!

第9回

すっきりしない

2020.12.01更新

 私には、かねてから、すっきりさっぱりしたい願望があります。潔い、しゅっとしたひとに憧れている。清潔感があり颯爽として、もちろんそういう方は身の回りも美しく整えているに決まっているので、家の中だって隅々まですっきりしているはずです。

 例年真新しいカレンダーを見ながらよーし今年こそ! と意気込むのですが、実際は理想とはほど遠く、家の中には吹きだまりのような山のような壁のような場所がそちこちに・・・。春夏秋が過ぎ、そしてまた、すっきりしないまま年の瀬がやって来てしまいました。

 今年はコロナの影響で自粛期間中、各ご家庭不要品を手放してすっきりなんてことを耳にすることも多かったのですが、うちは夫が東京の住まいをいったん撤収することに決めたため、逆に物が倍増するきっかけになってしまいました。二軒分の家財道具が一軒に集合。せ、狭いよ・・・。慌てて近所のアパートを一部屋借りたけどとても追いつかない量で、家のなかの至るところに段ボール箱が積み上がっているような状況です。一番うんざりするのは、冬のじめじめで洗濯物が乾かず、積み上がった段ボールの横に物干し竿を出して室内干ししなきゃいけないこと。部屋の中でカニ歩き、しかも足元にはビー玉や怪獣が散らばり、踏むと痛いのは嫌すぎる・・・。

 このエッセイタイトルでもおわかりかと思うのですが、うちはとにかく物の量が多い。

 夫婦ともに職業柄プラス元々の趣味でまず、本がやたらとある。小説、エッセイ、新書、実用書、マンガに図鑑に児童書絵本などなど、小さな本屋さんができそうな量です。昨今は子どもたちも好きなジャンル、シリーズをそれぞれ揃えたりし出したため、本の増殖はむしろ今後加速する勢い。

 衣類靴類は仕事の必需品ゆえにこれも多い。

 これまで出た雑誌掲載誌やテレビ番組の録画データ、映画などの完成品、撮影台本や資料類。広告の仕事で製作されることの多い、オマケグッズの数々。細々やってきたつもりでも、期間が長いだけに驚くべき量。また仕事の度に新しいスタッフの方と出会うので、各現場で撮った思い出の写真、アルバム。見れば一瞬で面白かったこと、頑張ったこと失敗したことが蘇るタイムカプセルです。

 仕事関連を除き個人的な所有物としては食べることが好きなので鍋釜食器、特に鍋が恐ろしい数! 夫婦で独身時代の鍋をそれぞれ持ち寄っただけで大量になったため、少なくともここ十年以上新規で鍋に手を出すのは止めていたのですが、単身赴任していた夫はこちらが気がつかないうちに東京で機嫌良く鍋をいくつも買い足していたようです。欲しいのがあれば持って行って良かったのに・・・。いま、うちに土鍋だけで4つ。ひとり鍋が家族全員一斉にできるね! しないけど。フライパンは6つぐらいあるかもしれない。鍋って手放すタイミングに悩むものの代表選手。どれもこれも丈夫なんだよなあ、まるで私のよう。

 さらに電子レンジは良しとして、別でオーブンまで買っていたのには衝撃を受けました。あのう、単身赴任でオーブン要りますかね? 帰ってきたらオーブン2台になることについて、何も考えなかったのだろうか・・・。

 そして子ども関連のものは手放すのがより難しい。思い出の服に思い出の靴、おもちゃ、工作ものやスケッチブック。お道具箱や手作りした幼稚園バッグ、上の子のランドセル、絵日記などなど。持ち主本人があっさり「要らない」とか言いそうなものたちですが、なんだか取っておきたい気がするんですよね。

 ほかにも色々あります。

 例えば、久々に出かけて行った先で「ほんじょさん、エコバッグ作ったんで、おひとつどうぞ」と言われることが良くある。「袋が有料化になっちゃって、スーパーとかさっと寄りにくくなりましたよね。いざという時困りますよね〜」なんて、店員さんがにこにこ。

 大抵はキャラクターが全面に押し出されていたり〈○○〉とお店のロゴが目立つところについていたりすることがあるので、一瞬こちらの動きも止まる。そしてお店の人と目が合います。気まずい。非常に気まずい。私はこれに弱いのだ。結局、お礼を言って、受け取ってしまいます。

 そして、家に帰ると、買い物袋入れにそっとしまうのです。台所にあるこのストックカゴは3〜40センチ四方の箱形。中はエコバッグでぱんぱんです。これらの袋は軒並み丈夫で、しゃきっとしていて何遍でも使えそうなものばかりときている。使ってくたびれてきたら手放そうと思うのですが、意外と長持ちするんですよね。いくら何でもこんなには要らないよなあって思ってしまいます。考えてみると両手にひとつずつ、ふたつあればことが足りるのです。そしてうちは4人家族。両手に持っても、予備を入れても10枚あれば十分なはず。数えるのが怖いけど、おそらく未使用品だけで30枚はあるのではなかろうか。多すぎ! ですよね。

 こういったエコバッグとかタオル、石けんなどのちょっとした頂き物が各種段ボールに一箱ずつくらいあるような気がします。それぞれは日持ちするし、ないと困るものではあるのですが、テンポ良く消耗する類いのものでもないので、なかなか減らない。

 あと、ちっともすっきりしない日用品の代表格は洗濯物を干すハンガー類。

 普段洗濯カゴにひとまとめに入れているのですが、常にもちゃもちゃっと絡まりあって、取り出す際に必ず二本三本、四本五本と芋づる式に出てくるの、あれなんとかならないものか。毎回毎回ため息が出ますね。四角い洗濯カゴにして揃えて入れても、大人用ハンガーと子供用ハンガーが干渉し合って結局もちゃもちゃ。しかも、子供用ハンガーはなぜかピンクとかブルーとか黄色だったりして、見た目にもまぜこぜ感が強いんですよね。洗濯ばさみも青とか紫とか白とかいろんな色つけてくれているんだけど、もう普通に地味にしてくれて良いのになあ・・・と思ってしまいます。劣化したり痛んでいるわけではないので買い替えるつもりはないのですが、せめてハンガーを一本ずつさっと取れるようにならないものかしら。何か良いハンガーの収納方法があれば、ぜひ教わりたいです。今のところ画期的な改善策は見つからないまま、今日も私は知恵の輪のように絡まったハンガーを(もー!)と思いながらほぐしつつ、洗濯物を干しました。本当に、すっきりせんなあ。時々気まぐれにシュッと1本だけ気持ちよく取れることがあると嬉しくなる。ささやかな爽快感がありますね。

 洗濯ですっきりしないものはもうひとつあって、靴下の片方がしばしば行方不明になることだ。特に小2息子の靴下が片っぽだけだらけで嫌になるので、同じ靴下5足、という風に変えてみたのですが穿いていくうち各選手の活躍具合が違って古ぼけさんとキレイめさんが入り交じるようになり、微妙にすっきりしない結果を呼んでいます。

 そして極めつけは卓上の醤油さしです。なかなかベストなものに出会えない。注ぎ口からいつも、ちょろっと垂れてしまうのです。大胆に垂れれば「あかんやん!」って突っ込めるんだけど、軒のつららのしずくがぽたぽた、とか、ソファでうたた寝して、ついよだれがたらり・・・みたいなのが、もやる原因だ。洗いやすくて、デザインも良くて、しゃーっぴっ、とキレの良い者はおらんのか。

 これまでわが家にやって来た歴代の醤油さしたち、五つ六つはあるでしょうか。毎回満を持して今度こそは、と迎え入れるのですが、いまいちしっくりきませんでした。売り場で、お水とか入れて液だれしないか試せたらいいのに。さらに言えば醤油さしって滅多に壊れないので、なんだかんだと在庫が増えていくのも悩ましいところです。長年放浪の旅をしているような感覚。あっちこっち紆余曲折を経て、結局のところ「キッコーマンの醤油さし」に戻ってくる、この繰り返しなのであります。

 色々なものをすっきりさせたいと願いつつ、結局潔くない性格がじゃまをして、物に囲まれる暮らしぶりとなってしまう運命ということが、書いていて良く分かりました。文章までぐずぐずまとまらないものになってしまった。

 はー、色々と、すっきりしたいわ!

本上 まなみ

本上 まなみ
(ほんじょう・まなみ)

1975年東京生まれ、大阪育ち。俳優・エッセイスト。長女の小学校進学を機に京都に移住。主な 出演作に映画『紙屋悦子の青春』『そらのレストラン』、テレビドラマ『パパがも一度恋をし た』、エッセイに「落としぶたと鍋つかみ」(朝日新聞出版)、「芽つきのどんぐり 〈ん〉もあ るしりとりエッセイ」(小学館)、「はじめての麦わら帽子」(新潮社)、絵本に「こわがりか ぴのはじめての旅。」(マガジンハウス)など。京都暮らしのお気に入りは、振り売りの野菜、 上賀茂神社での川遊び。

写真:浅井佳代子
公式サイト「ほんじょのうさぎ島」

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