一泊なのにこの荷物!

第20回

秋景色

2021.11.01更新

 秋です。街路樹のハナミズキが赤くなり、イチョウは黄色く、ケヤキは茶色くなりました。ご近所さんの庭先も白や紫の小菊が満開、わが家の南天、千両も実が赤く色づき始めています。あっちを向いてもこっちを向いても秋、秋のど真ん中だ。

 先週末、夫の滋賀の実家の庭の草むしり、柿もぎをしてきました。私と子ども二人と私の母と。長袖上下に首タオル、農作業用の大きな麦わら帽、ゴム引きの軍手もはめて準備OK!

 「早く早く! いっぱいなってるよ!」小学3年生の息子が2メートル以上ある竹の棒を引きずり出してきて勇んでいます。2週間ほど前に、息子が夫と藪から切り出してきた竹。先端を割った、柿の枝を折り取るための〈柿もぎ道具〉なのですが...。「それなあ、割る側が逆やわ。先の方は細いし折れてしまうんや」「それに青竹はあかんのや。やわらかいし...」と義母。ここで育ったのにそんなことも知らんのかしらと、もうだいぶん良いお歳の息子に呆れている言動であります。当の息子はというと今回は京都で留守番、代わりに聞いた息子の息子は「これじゃあダメなのか」とがっかりした様子で竹の道具を諦め、高枝切りばさみに持ち替えました。

 長い竹で柿を穫るときには、落ちてくる柿を下で受け止める役が必要になります。ちゃんとキャッチしないと地面に落ちて割れてしまうため、できるだけ大きなザルを持ってスタンバイする。失敗するとさるかに合戦のかにのように自分の頭に柿がごちーん!「ぎゃあ、痛いっ」となるので、びくびくと首をすくめながら右へ左へ動くという恐ろしい作業です。結婚したばかりのころ、夫にザルを持たされ、へっぴり腰でうろうろしていたのが懐かしい。今の私はオレの柿と言わんばかりに、大きい顔をして遠慮なくガシガシもいでいる。ひたすらもいでいる。高枝切りばさみはストッパーがついているので柿を落とす心配がなく、受け子不要なのがありがたいね。

 息子と50〜60個ほど穫ったものの、ちっとも減った気がしないなあ。すかっと晴れた青空を見上げれば鈴なりの赤い実。今年は大豊作なのです。熟れて下に落ち、ハチがいっぱいくるのを避けるため、できるかぎり収穫すべしなのですがこの柿の木は樹高が10メートル以上。実がなっているところも、最低でも3メートルの高さなのです。人の手が届く範囲がずいぶん少ないんですね。ずーっと上を向いて作業するのは首が痛くなるので、一旦やめて草むしりすることにしました。

 今回草むしりをしようとしている庭は恐ろしく広い。

 とりわけ苔むした主庭は、義母がひときわ手をかけてキレイにしていたのでいつも美しく保たれていたのですが、ここ1年ほど膝が痛んでしゃがみにくくなったために荒れてしまっていました。

 そのことで心を痛めていたので地域のシルバー人材センターに庭仕事を頼もうかということになったのですが、見積もりをとったら3万5000円。「立派な値段やわ」と顔を曇らす義母の隣で突然、中3の娘が「おばあちゃん、その草むしり私がかわりにやってもいい?」と申し出たのであります。

 お小遣い狙いなのは明らかですが、それでもこの孫のひと言が嬉しく響いたようで「嬉しいねえ」「頑張る!」「ちゃんとできたら3万5000円あげるわ」と娘の目論見どおりとなりました。娘はすかさず弟を呼んで「草むしり手伝ったら2500円あげるよ」と。あくどい姉ですが、一仕事25円の息子は100倍の報酬に「やるやる、やったー!」と喜んで、手下として仕事を請け負うという図式が完成。資本主義社会の縮図がここに!

 息子は前に、ミシマガジン「遊ぶ子ブタの声聞けば」の連載でもお馴染みのクモ先生、中田兼介さんの田んぼにお邪魔した際に稲刈りの楽しさに目覚め、鎌さばきのコツを掴んだので葉蘭ばらん刈りを担当。さらには直径7〜8センチほどの立ち枯れたイボイボのついた木を見つけたのでこれもノコギリで切ってもらうことにしました。その様子を後ろからのぞき込んだ私の母は「あ! これ山椒の木やん、これですりこぎ作ってみようか!」と目をぴかっと光らせた。

 植物好きのうちのおかんは、常日頃から珍しい草木を見つけると写真を撮って図鑑やネットで調べ、家でも狭い庭にもの凄い量の花、果樹や野菜を育てている。散歩の際は道ばたの雑草に至るまで目を配って歩くので、わが家のヘムレンさんと呼んでいます。ヘムレンさん、というのは『楽しいムーミン一家』というテレビアニメに出てくる、虫眼鏡で葉っぱをみているムーミン谷の一員だ。おかんの虫眼鏡はヘムレンさんのよりもごつい。曾祖父が新聞読むのに使っていたやつで、お日さまで紙を焦がすのなんて一瞬でできる、笑えるくらいに大きなものなのです。しかも、母の見た目はミィにそっくりなので、ムーミン谷にいてもなんの違和感もない感じ。

 娘と息子はどれが雑草か、いまいち判らないため、おかんと私が抜くべきものを指示し、あとはみんなで黙々と作業をし始めました。

 木漏れ日の差す庭は苔で覆われているはずなのですが、その上に落ち葉がたまって雑草が生え、目も当てられない状況。苔が剥がれないように手で押さえながら草を抜き、落ち葉を手で集め、木々に絡まりついたツルを取り、増えすぎた南天や茂りすぎた葉蘭は刈って、間の枯れ葉を抜き取って...。

 お隣のおじいちゃんが自転車で通りがかりに「よう頑張ってるなあ!」と声援を送ってくれました。「立派な庭や、ええ苔も生えて。1年や2年ではこうはならんのや」「まあ、根をつめすぎんようになあ」。

 はーい! 

 もくもくもくもく、黙々と草を抜いていきます。

 いたたっ! 種が飛んだのかそちこちにチビ山椒が芽生えていて、草に熱中しているとお尻に刺さる。また集中力が途切れそうになるときも主張してくる、草むしりのスパイス役だ。こいつめ、とこれも抜く。山椒は大好きだけど、全部残しておくと木の芽畑になるからね。

 息子はバラのとげで指と足を引っ掻いたようでしたがおねえちゃんに絆創膏を貼ってもらって復活、いつもはすぐ飽きてどこかへいなくなるのですが今回は思った以上に集中し、鎌仕事ノコギリ仕事に励んでいました。なにかぶつぶつ言っているのを聞くと「3500円と言えばよかった」。

 午前も午後も頑張って、手押し車に5、6杯になるほど草を取りました。それでも全部は終わらないくらいに、まだ生えているのですが。いやはや、植物の力ってすごいな。

 落ち葉をどけて、草を抜いた後の庭は素人目にもすっきり。万年青おもと万両まんりょう など、背の低いものたちもちゃんと姿が見えるようになって、一安心です。

 地面を覆っていた苔もきらきらと輝きを取り戻しました。全体が明るい緑になり見違えるように庭がぱーっと明るくなったので思わず子どもたちも歓声をあげる。

 みちみちと密集した苔を手で押してみるとすごい厚みです。「ふっかふか!」「気持ちいい〜!」「あたしが動物ならここで日なたぼっこするね」と娘。確かにとても気持ちのよい空間が広がっていました。

 おしまいにまた柿をちょっともいで、それからだいぶ成長してきた大根畑を見回り、混み合った場所を少し抜いて整理しました。間引き菜は軽く干して塩で揉み、漬けものに。そうだ、2、3本よけておいて晩のお味噌汁の具にしようかな。やわらかくて香りも良くて、おいしいんだよね。

 ぶっとい山椒の枯れ木はものすごく堅くて切るのに難儀したものの、最後には無事に切り出され、しばらく軒下で保管することになりました。次の機会に程よいところで切り分けてやすりで削り、すりこぎを完成させようと思っています。

澤田康彦さんによる
「秋景色」はこちら

本上 まなみ

本上 まなみ
(ほんじょう・まなみ)

1975年東京生まれ、大阪育ち。俳優・エッセイスト。長女の小学校進学を機に京都に移住。主な 出演作に映画『紙屋悦子の青春』『そらのレストラン』、テレビドラマ『パパがも一度恋をし た』、エッセイに「落としぶたと鍋つかみ」(朝日新聞出版)、「芽つきのどんぐり 〈ん〉もあ るしりとりエッセイ」(小学館)、「はじめての麦わら帽子」(新潮社)、絵本に「こわがりか ぴのはじめての旅。」(マガジンハウス)など。京都暮らしのお気に入りは、振り売りの野菜、 上賀茂神社での川遊び。

写真:浅井佳代子
公式サイト「ほんじょのうさぎ島」

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