一泊なのにこの荷物!

第1回

ごあいさつ

2020.04.01更新

 こんにちは、はじめまして。

 このたびミシマガジンで連載の機会をいただきました本上まなみです。

 新年度、新生活のスタートの月、4月。とは言え、コロナウィルスの影響でいつもと違う春をお過ごしの方がほとんどと思います。本来なら陽気に誘われ活動もうんと増える時期ですが、なかなかそうもいかず。

 せめて、おうち時間も飽きたなあという方に少しでも気分転換になるようなものをお届けできるようにがんばりますので、どうぞよろしくお願いします。

 まずは自己紹介を。

 仕事、生活の拠点にしていた東京から京都に越してきて八年目になります。もともと関西人で、子どものころは万博記念公園、太陽の塔を見ながら小学校に通っていました。家族は夫と中2娘、小2息子の4人。

 今回、夫と交代でのエッセイ連載というのは、私たち夫婦としては初の試みです。このようなご依頼は気恥ずかしさが先だってしまい、通常であれば丁重にお断りするところなのですが、以前からミシマ社さんの作る本が大好きでよく手に取っていたため、まさかのこの企画にえっ? わっ、ミシマガジンだ! とテンションが一気に上がってしまいました。頭上にふわふわと輝く「光栄」の文字。ありがたいありがたいと、お受けしたわけです。

 ですが、第一回目を書き出した今、「不安」の二文字がもやもやと私の脳内に垂れ込めている。順ぐりに執筆ということで、だんだんに相手の動向が気になってくるんじゃあないだろうか。

 結婚生活はもう18年近く、育児業のどたばたは別として、夫婦間は争いもなく平穏、というか平凡、と言っていいでしょう。ですが、これを改めて活字にするとなると意外と緊張するものです。それは例えばここでもし夫のへっぽこ失敗談でも書こうものなら「仕返しされるかもしれない」という恐怖です。

 先日も夫は息子を駅まで迎えに行くのに「急に連絡が来たんで慌てて自転車こいでたらな、足が変にすうすうして、あれっと思って下見たらユニクロのパッチ(アンダーウェアね)で・・・ズボンはいてへんかってん。上におっきいコート着てたから助かったけど」と言いました。聞いた娘が「いや、助かってない! 変質者やん・・・」とどん引きしていました。夫は「黒色だったからスリムなズボンか、しゃれたスパッツに見えたはずやわ」と主張をしていましたが、誰がどう見ても裾のもわもわはパッチだったはずだ。

 が、そんなことあんなことも、公表は慎重にしないといけないのかもなあ。なぜなら私も数々のへっぽこ体験やしょぼしょぼ談があるからです。今後泥試合とか、みっともないこと合戦にならないように気をつけようと思います。

 ところで、このタイトル、「一泊なのにこの荷物!」は、久美浜くみはま小天橋しょうてんきょうにあるお気に入りの民宿で、私がつぶやいた言葉を夫が拾ったものです。

 わが家は物が多く、昨今流行のミニマムな暮らしからはほど遠い状況なのですが、旅行に行くときも例外ではなく荷物が大量で。

 通称「欲張り袋」と呼んでいる大きなトートバッグがひとりひとつ(着替え)。加えて夫は携帯スピーカーやタブレット、ワインなどが入った巨大手提げかご、娘は両親以上の活字中毒者で本が何冊も詰まった手提げ袋、息子は塗り絵やトランプ、本やボールやベイブレード、ぬいぐるみなどがぎゅうぎゅうに詰まったリュック。さらに旅先で見つけた美味しそうなものを入れるクーラーボックス、ちょこっと味見に便利なペティナイフとタッパーウェア、虫取り網と虫かご、魚掬い網にバケツ、ビーチサンダル、日よけテントにレジャーシート、立ち寄り湯で使うお風呂セット一式・・・と、あると嬉しいものをケチらず持ち込むもので、毎回ものすごい量に。必然的に移動は車が多くなり、車だと思うと安心してさらに荷物が増幅。私たちって欲深い・・・。

 仕事柄か旅慣れしているため、準備自体はみな早いのですが、旅慣れ=小荷物、というわけではない。自分で自分の機嫌を取るのが得意、というのがこの一家の特徴でもあるが、全員が満足度120%目指しでいるのもまた共通点と言えましょう。

 宿に着くと、隙間なくぎゅうぎゅうに詰まった車のトランクと、そこから持ち出されるてんこ盛りの荷物が恥ずかしい。宿の人に運んでいただくのも申し訳ない。

 で、出たのがこのタイトルのひと言。私たちの暮らしぶりをよく表しているということで採用となりました。

 いつかはしゅっとした装いで身軽な旅行をしたいと願うものの、このメンバーでは夢のまた夢。叶う気配は全くありません。オレたち潔くなれる日は来るんだろうか?

 こんな冴えない家庭生活の一端が、これからお届けするエッセイの端々に漏れ出てくることと思いますが、夫婦で基本テーマは同じものを据えつつ、内容は個人的なことが中心になる、予定です。たぶん。

 それから、一応ふだんの仕事のことを。基本的に俳優、ラジオのパーソナリティ、時々文章書き、ごくたまにアニメの声優(デビュー作は『おでんくん』)をやっています。のんきな性格は、おとんから受け継ぎました。「まあなんとかなるやろ」がモットーですね。あと、野性味あふれるおかんの影響で、大抵のことは大丈夫と思える人間に育ちました。例えば仕事でワイルドな場所に連れて行かれても、「キャンプしてると思ったらまあこれくらいは」と考えられる、得な性格です。お腹もあまり壊さないし、どこでも寝られるのは強み。天敵は・・・なんだろうか? ちょっと考えておきますね。

澤田康彦さんによる
「ごあいさつ」はこちら

本上 まなみ

本上 まなみ
(ほんじょう・まなみ)

1975年東京生まれ、大阪育ち。俳優・エッセイスト。長女の小学校進学を機に京都に移住。主な 出演作に映画『紙屋悦子の青春』『そらのレストラン』、テレビドラマ『パパがも一度恋をし た』、エッセイに「落としぶたと鍋つかみ」(朝日新聞出版)、「芽つきのどんぐり 〈ん〉もあ るしりとりエッセイ」(小学館)、「はじめての麦わら帽子」(新潮社)、絵本に「こわがりか ぴのはじめての旅。」(マガジンハウス)など。京都暮らしのお気に入りは、振り売りの野菜、 上賀茂神社での川遊び。

写真:浅井佳代子
公式サイト「ほんじょのうさぎ島」

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