『生きるように働く』装丁デザインBAUMさんインタビュー(2)

第3回

『生きるように働く』装丁デザインBAUMさんインタビュー(2)

2018.09.19更新

 いよいよ発売日が迫ってきた『生きるように働く』(ナカムラケンタ著)。

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『生きるように働く』ナカムラケンタ (ミシマ社)

 今回は装丁をお願いしたBAUMさんのオフィスへお邪魔して、スタッフの國影志穂さんと木下由梨さん、そして代表の宇田川裕喜さんにお話を伺いました。

 前回も少し触れましたが、宇田川さんとナカムラさんは、10年も前からのお知り合いで、BAUMさんの求人は、ほとんどをナカムラさんが運営する日本仕事百貨で行うなど、親交の深いお二人。WORKとLIEEが溶けあっているような今回の表紙のデザインが生まれるまでに、どんなイメージややりとり、思考があったのか。そして「場生む会社」BAUMさんの考える、「場」とは? 2日間にわたり、お届けします。

(聞き手:星野友里、構成・写真:須賀紘也)

■前編はこちら

「まだ言葉になってない」を表現したい

―― 今回はわりと早いタイミングで、このメインのデザイン案をいただいて、見た瞬間に「わ、本ができあがったな」と思いました。このデザインはどうやって生まれたのでしょうか?

宇田川 まず最終稿よりも随分手前の原稿だったと思いますが、それを、代官山の蔦屋に行って、iPadを使って読んでみました。書店とかカフェでこの本を開いた人はどんな気持ちなのか体感したくて。

―― そうだったんですね。

宇田川 で、読んでみて、本は『生きるように働く』っていうタイトルだけど、「生きるように働く方法」は書いてないですよね。

―― そうですね。

宇田川 それよりは、いろんな人の人間模様が描かれています。必ずしも大成功物語が並んでいるわけではなく、「この人は上手くいってるのか」「ご飯食べれてるのかな」とか、読んだ人は思うかもしれない。タイトルを英語にしたときに、LIFE as WORKなのかWORK LIFEなのかという話も打合せでしましたけど、まだ言葉になってない、それらの間の話なんだなと思って。「まだ言葉になってない」を上手く表現したいなと思って。なんで、最初のラフはLIFEとWORKを重ねてみたりとか、あれやこれやして。そうやって、僕が最初に粗いグラフィックをつくって、担当者にパスします。

國影 「こんな感じで」と。

宇田川 その「こんな感じ」は、自由なんですよ。考え方とかコンセプトが通底していれば、自由に変化させていいです、っていう感じなんです。

國影 「なんかこう、シームレスにつながるというか、溶け合うみたいなことを表現できないか」ということを、言われて。

宇田川 最初はWORKとLIFEで図形っぽいものをつくって。そのあともわりとあれこれして。

國影 でも、このメインのデザインがポンって出たら、「もうこれだな」という感じになりましたね。

寿司屋で免許写真を見せ合うおじさんたちの「場」

―― BAUMさんの会社名は「場生む」から来ているそうですが、ナカムラさんも、本書の中で「場をつくりたい」ということを何回も書かれています。「場を生む」ということについて、宇田川さんが今思うことをお伺いしたいです。

宇田川 人が二人いると、そこはもう場だと思うんです。一人だと場にはならなくて。二人以上いると人間って情報の交換をしたりとか、お金と物を交換したりする。場では、なにか交流なり、交換が行われます。ずいぶん長い間、お金を中心にいろんなことが考えられてたと思うんですけど、お金を中心に考えないほうがおもしろいし、逆にお金はついてくる。

―― なるほど。

宇田川 「お金はついてくる」と言うと強い言い方に聞こえてしまいますが、でもお金はあんまりゴールじゃないですよね。最近はお金の新しい循環を作ることには魅力があるけど、お金をできるだけたくさん持つことには本質がない、と思う人が多いと思うんですよね。良い循環を生むには、場が必要なのかなと思っていて。この間、横丁の寿司屋で、30~40歳くらい年上のおじさんたちと、どこの運転免許の試験場の写真が一番かわいく撮れるかを話してたんですよ。

一同 (笑)

宇田川 「鮫洲ちょっと赤くない」とか、「神田が絶対かわいい」とか言って免許証の見せ合いっこをしている(笑)。寿司を食べに行って、お金と寿司を交換するのももちろん大事なんですが、そこで世代を超えて、飲み話ですけど、でも「次は神田に行こう」とか思うわけですよね(笑)。人生のいい部分っていうのはそういうのにあると思います。そういう出会いから、行動も変化していきますし。物質的に贅沢することより、そういう場をつくっていきたいなと思っている人は多いと思います。

『生きるように働く』は世界で売れるデザインだった!?

―― BAUMさんはアメリカのポートランドやデンマークにも拠点をもって活動されているそうで、日本で生まれ育ったのに、軽々と国境を越えている印象があります。

宇田川 最初はなんの伝手もなく、ポートランドで街づくりにかかわっている人たちに、とにかくメールを送りました。他の街でも同じことを試していたんですけど、ニューヨークとかだと、30件出して1件返ってくればいいほうなんです。でもポートランドは全部返ってきた。「アメリカの地方都市の人って、なんていい人たちなんだ」と思って。当時の僕は日本の街づくりにかかわりながらも、もやもやしてたのですが、当時のポートランドで街づくりの現場にいた人たちは話してて膝を打つ、いや膝を連打するような会話がたくさんできて、興奮してました。当時はそんなに英語も得意じゃなかったんですが、帰ってきてすぐ英会話学校に行き始めました。とにかく面白くて、それから隔月で通うようになりました。随分がんばってましたね。

―― モチベーションはおもしろさなんですね。

宇田川 そうですね。自分にとっては街づくりの仕事、デザインの仕事がグーッと伸びている時期だったので、ポートランドはどちらの面でも刺激に満ちてました。たとえば日本のオーガニック食品は、無骨なデザインのものが多いです。でもアメリカでは、楽しくブランディングされていて、スーパーで商品を眺めるだけでもゾクゾクします。「そこにいつか自分たちがデザインした商品も」というか、ワクワクするお店に自分たちの携わったものが並んでいるというのが、すごくいいなあって。本か、食品か、空飛ぶ車か(笑)、そのときなにをつくってるのかわからないですけど。

―― 本は翻訳の必要がありますが、デザインはそのまま海外の人にも伝わるのもいいですね。

宇田川 でもこの本、ハングルとか相性良さそうですよね。

―― 表紙はメインがアルファベットだから、そのままいけますね。『生きるように働く』、世界進出を目指して、まずは日本で頑張ります。

宇田川 そうですね、がんばりましょう! 海外版つくるのを楽しみにしてます。きっと海外でも売れるはず!

―― たのしみですね。

 インタビューの中で宇田川さんが話してくださった、「この本は『生きるように働く』っていうタイトルだけど、『生きるように働く方法』は書いてない。その間の本なんだな」という言葉は、まさにそのとおりで、著者のナカムラさんも「結論ありきの本にしたくない」ということを常々話しておられました。そんな中身にピッタリの装いにしていただいたこと、今回お話をうかがって、あらためて良かったなぁと思いました。

 書影では、渋くてカッコイイ色味とデザインですが、本を開くと、また少し違った印象の仕掛けもありますので、ぜひ手に取ってみていただけたらと思います。

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(終)

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

編集部からのお知らせ

出版を記念して、イベントが続々と決まっています!

日本仕事百貨 ナカムラケンタ×DRAFT 宮田識 『生きるように働く』刊行記念 ―自分たちでつくり、自分たちで届ける仕事
■日時:2018年9月25日(火) 19:30~21:00
■場所:銀座蔦屋書店

詳しくはこちら

『生きるように働く』刊行記念 ナカムラケンタ×中川和彦(スタンダードブックストア代表)-熱や香りを伝える「場」づくり
■日時:2018年9月28日(金) 19:30~21:30
■場所:スタンダードブックストア心斎橋
■参加費:1,500円(1ドリンク付)

■予約方法:
1.お電話(06-6484-2239)
2.ご来店(スタンダードブックストア心斎橋レジカウンターへお越しください)
3.メール
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