仲野教授の こんな座右の銘は好かん!

第1回

まずは自己紹介であります。

2022.05.22更新

 みなさん、こんにちは。仲野徹です。と言ってもご存じない方がほとんどでしょう。4月までは、大阪大学医学部の仲野です、と言うてたんですが、定年になったんで、肩書きがなくなりました。公式の職業(?)は「隠居」なんですけど、そんなこというても、どんな人かわかりませんわな。

 定年退職までは病理学の教授として生命科学の研究に携わってきました。そのかたわら、いろんな本をすでに10冊も出してます。ちゃんと仕事してたんかい、というツッコミは不要です。自分でも思ってますから。専門領域をわかりやすく解説した(つもりですが、難解であるとのご批判をたくさん賜っている)岩波新書の『エピジェネティクス 新しい生命像をえがく』とか、病気の成り立ちを一般の方向けにわかりやすく解説したベストセラー(自分でいうな! と言われそうですが、8万部近くも売れたので堪忍してください)の『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社)とか。

 この2冊なんかは、一応、本職がらみです。が、ミシマ社の『仲野教授の 笑う門には病なし』や、ちいさいミシマ社の『仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう』なんかは、仕事とまったく関係ありません。そう思うと「仲野教授の」とつけてあるのが、なんとなく言い訳っぽくてええ感じがしてきます。いずれも元は雑誌連載で、前者は日本医事新報の「なかのとおるのええ加減でいきまっせ」、後者は東海大学出版『望星』の「大阪しち~だいば~」に掲載したエッセイをまとめたものです。なんでそんな脈絡のない連載を持ってたんですか、という質問は却下。義を見てせざるは勇なきなり。とは、ちょっとちゃうけど、頼まれたからとしか言いようがありませんわ。

 じつは、もうひとつ「座右の銘は銘々に」というタイトルの連載を持ってました。これは医療専門の求人紹介サービスである「民間医局」が発行してる『ドクターズマガジン』という雑誌での連載だったので、関係者以外には目につかなかったはずです。しかし、これも自分でいうのもなんですが、むっちゃ好評やったんですわ。それやったら、なんで連載をやめたんやと言われそうですが、ちょっとした理由がありますねん。

 最初、なんでもええからと頼まれて連載の企画を考えました。で、思いついたのは、えらそうにも、自分の座右の銘を紹介しようというものです。毎回、座右の銘をひとつずつと、どうしてそれを座右の銘にしてるのかという解説です。ちょっと考えてみてください。座右の銘というのは、それほどたくさんあったらおかしいでしょう。なので、最初は、6回、月刊誌なので半年の連載として開始したわけです。

 ところが、あまりに好評で、ぜひ続けて欲しいということになりました。「好評」というのは自分で勝手にいうてるんじゃなくて、編集部の判断であります。もちろん、おべんちゃらをかまされたという可能性は否定できません。が、半年の休載を経てさらに9回、トータルで15回の連載になりました。座右の銘が15個って多すぎません? ということで、とりあえず連載は終了させてもらうことに。念のためにいうときますと、その雑誌では引き続き『押し売り書店 仲野堂』という連載を始めてますんで、やっぱり、おべんちゃらと違ってホンマに大好評やったんでしょうな。へへ。

 ちなみに、その15回の連載でとりあげた座右の銘は以下のとおりであります。

ついに学ばずして終わるは、学んで忘るに如かず
――ジャン=ジャック・ルソー 中江兆民訳(たぶん)

何かを得れば、何かを失う、そして何ものをも失わずに次のものを手にいれることはできない
――開高 健(作家)

いややなぁと思うような仕事ほど引き受けたほうがよろしいで
――松本圭史(恩師)

Part of being a big winner is the ability to be a big looser. 
(偉大なる勝者たるには、偉大なる敗者たれ)
――エリック・シーガル(作家)

専門のことであろうが、専門外のことであろうが、要するにものごとを自分の頭で考え、自分の言葉で自分の意見を表明できるようになるため。たったそれだけのことです。そのために勉強するのです。
――山本義隆(科学史家)

確実に予見できる出来事が一つだけある。それは、自分がいずれ死ぬということである。
――ジャック・モノー(生物学者)

Do not lie, if you don't have to. 
(嘘はつくな。必要がない限りは)
――レオ・シラード(物理学者・生物学者)

世界は「使われなかった人生」であふれてる
――沢木耕太郎(作家)

人みなの よしといふとも われひとり よしと思わねば よしとは云わじ。われひとり よしとおもわねど 人みなが よしとし言はば よしと思はむ。
――長谷川如是閑(評論家、作家)

手間はミニマム vs 横着は敵
――仲野 徹(自分です)

神よ。 変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。 変えることのできないものについては、それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。 そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を与えたまえ。          
――ニーバーの祈り(大木英夫訳)

The sun'll come out tomorrow. Bet your bottom dollar that tomorrow there'll be sun.
――ミュージカル Annie "Tomorrow" から

夢見て行い 考えて祈る
――山村雄一(元大阪大学総長)

しんどいのは君だけと違うんや
――心の師匠

座右の銘はない
――石毛直道(文化人類学者)

 どうです? なかなか面白そうですやろ?最後に「座右の銘はない」などという、ちゃぶ台返しするような銘をとりあげていることからわかるように、ホンマにこれで打ち止め、と決めてたんです。ところが...

 これまでに二冊の本でお世話になったミシマ社の編集者・野崎さんに、こんなおもろい大絶賛をうけた連載(←しつこい)があるんですけど、本になる可能性はありますやろかと、自己肯定感フルオープンのメールを送りました。折り返し、むっちゃおもろいです、ぜひ! との返事が来ました。しかし、なにぶんにも字数が足りません。今の三倍、計45回分は必要ですということで、書き足すことにあいなりました。

 とはいえ、先にいったような理由です。自分の座右の銘はすでに使い尽くしています。はたと困りました。が、ええことを思いつきました! 世の中にはさまざまな座右の銘にあふれてるはずです。中には、なんやねんそれは、とツッコミをいれたくなるものもあるやないですか。

 次はそれや! ということで、「座右の銘は銘々に」の続編として、「仲野教授の こんな座右の銘は好かん!」シリーズ計15回を連載することになりました。

 ん、まだ本にするには15回たらんやないかって? それぐらいの計算はできてるっちゅうねん。残りの15回については、「好かん!」シリーズ15回を書きながらどうするか考えるという、行き当たりばったり作戦なんですわ。そんなんを「作戦」と呼ぶかどうかはやや問題がありますけど、まぁ負けといてください。それより、こんなんを座右の銘にしてるんですけど、どないですやろ、とかいうネタを送ってもらったらむっちゃうれしいです。ぜひ、とりあげさせてもらいたいんで。横着なことですけど。

 今回は連載の予告に終わってしまいましたが、乞うご期待! 次回からはとばしていきまっせぇ~。

仲野 徹

仲野 徹
(なかの・とおる)

1957年大阪生まれ。大阪大学医学部医学科卒業後、内科医から研究の道へ。ドイツ留学、京都大学・医学部講師、大阪大学・微生物病研究所教授を経て、2004年から大阪大学大学院・医学系研究科・病理学の教授。2022年3月に定年を迎えてからは「隠居」として生活中。2012年には日本医師会医学賞を受賞。著書に、『エピジェネティクス』(岩波新書)、『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社)、『仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう』(ちいさいミシマ社)、『考える、書く、伝える 生きぬくための科学的思考法』(講談社+α新書)など。
写真:松村琢磨

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