先生、教えて! タリバンのこと

第7回

先生、教えて! タリバンのこと

2021.10.17更新

 2021年8月15日、アフガニスタンの首都カブールがタリバンによって陥落した、というニュースが世界中を駆け巡りました。しかし、なんとなく「タリバンは怖い、危険な組織だ」というイメージが先行するばかりで、タリバンの実態やアフガニスタンの情勢に関しては、いまいちつかみきれません。
 そこで、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授であり、シリアやトルコでイスラム教徒との交流をしながら研究をされてきた内藤正典さんにお話をうかがいたいと思い、MSLive!にて「先生、教えて! タリバンのこと」を開催するにいたりました。
 内藤さんは『となりのイスラム』『イスラムが効く!』(中田考さんとの共著)の中で、西欧世界とは根本的に異なるイスラム世界の考え方をわかりやすく解説してくださり、イスラム教徒に対する誤解を解いてらっしゃいます。さらには、2012年に同志社大学で「アフガニスタンの平和構築会議」を開催されるなど、タリバンとアフガニスタン政権の両者と直接交流もお持ちです(記事後半でその模様を詳しくお話しくださっています)。
 イベントでは、タリバンのそもそもの成り立ちや、「タリバンと女性の権利」に関してなど、アフガニスタンの現状を把握する上で必須の情報から、「タリバンとアフガン政権側が京都で鍋を囲んでいた」といった、アフガニスタンを身近に感じることのできるエピソードまで、90分間たっぷりとお話いただきました。
 本日のミシマガでは、その一部を記事としてお届けします。ぜひアーカイブ動画にて、全編ご視聴ください!

アーカイブ動画はこちら

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内藤正典さん

理屈をすり替えてアフガニスタンに攻撃した

ーーそもそもなぜアメリカ軍はアフガニスタンに駐留していたのですか?

内藤 2001年の9月11日にアメリカで同時多発テロが起こり、今年でちょうど20年ですよね。そのテロの実行犯がアルカイダというイスラム過激派組織で、リーダーはウサマ・ビン・ラディンという人物だということは、みなさんご存じだと思います。
 そのビン・ラディンとアルカイダがいたのがアフガニスタンです。なぜアフガニスタンにいたかというと、タリバンがかくまっていたから。そこから始まります。

 アメリカは本土が攻撃されるという前代未聞のことが起こったわけですから、大変な衝撃を受けると同時に、即座に報復するということを決めました。
 国連の安全保障理事会も、アルカイダがそれ以前から世界中のあちこちでテロを起こしていたこともあり、「ビン・ラディンの身柄を引き渡せ」という要求をタリバンに対して出しました。さらに「アメリカが自国の防衛のためにアルカイダを攻撃することを認める」という決議まで通ったんです。そして、2001年10月7日にアメリカとNATO(北大西洋条約機構)の同盟国がいっしょにアフガニスタンに戦争を仕掛けました。ただ厳密に言うと、敵はビン・ラディンとアルカイダだったわけで、アフガニスタンの体制ごと壊していいのかというところまでは国連で議論していないんです。
 そのことが問題になりうる、ということにアメリカは気づいていたので、戦争を始めるときに理屈をすり替えました。「タリバンというのはひどい統治をしていて、女性の人権などを著しく侵害している。だから、タリバンの政権を倒して国をつくり変えてやる。女性に自由を与え、人権を守らせる国にするんだ」と。そしていつの間にかアフガニスタン自体を破壊する、ということが認められてしまったのです。

民主主義が根付かなかった20年間

ーーアメリカはアフガニスタンで20年間何をしていたのですか?

内藤 タリバンの装備はアメリカ軍に比べたら話にならないくらい弱かったわけで、すぐに追放されて消えました。ただし、壊滅はしていません。兵士も元は農民などなので、みんな自分の村へ帰ったんです。
 そのあと国際社会の合意ということで、アフガニスタン・イスラム共和国という国をつくり、初代大統領にハーミド・カルザイが就任しました。

 ただ、アフガニスタンの国家体制を作り変えるのはとても大変でした。
 なぜかというと、まず民族が多様だから。一番多いと言われているのがパシュトゥーン人で、それ以外にウズベク人だとか、タジク人だとか、トルクメン人だとか、いろんな人がいる。宗教は主にイスラム教スンニ派が多いですけど、ハザラ人はシーア派です。
 さらに厄介なのが民族以外の部族の存在です。地方の親玉がいて、その手下がたくさんいる、という構図の部族が無数にあります。軍閥といって部族が自前の民兵と武器を持っている場合もあります。

 それらの寄せ集めで国家をつくる際に、アメリカとヨーロッパ諸国は「アフガニスタンに民主主義を教えなければならない」と考えました。そして、民主主義の基本として選挙を行いました。
 しかし、先日亡命した直近の大統領・ガニ大統領が就任した際の選挙でさえ、総人口4000万人くらいのうちで選挙人は1000万人くらいしかいなかった。さらに投票に行った人となると200万人くらいしかいない。ガニ大統領はその半分、たったの100万人くらいの票を集めただけなんです。つまり選挙人のなかの10%を集めただけで大統領になってしまったということです。
 これを見ると、20年かけても民主主義は根付いていないということを認めざるをえないですよね。しかしそれはアフガン人が悪いわけではないんです。私たちは民主主義を最高のものだとしていますが、彼らには彼らなりの、イスラムに基づき主権が神にある体制があるんです(詳細はイベント内で詳しくお話しいただきました。アーカイブ動画はこちら)。

(中略)

自分を吹っ飛ばそうとした人たちと同席した

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内藤 実は2012年の6月に、私がつとめる同志社大学で「アフガニスタンの平和構築会議」をやりました。
 この白いひげをたくわえて、白いターバンを巻いた人がタリバンの元高等教育大臣です。そして前列むかって一番右の人がスタネクザイさんで、カルザイ大統領の顧問大臣だった人です。会議のときにこの人は足を引きずりながら来ていました。というのも、半年前に当時の大統領だったラッバーニさんが和平評議会でタリバンの使者を迎えたのですが、使者が自爆し、ラッバーニ大統領は即死で、スタネクザイさんも重傷を負っていたんです。自分を吹っ飛ばそうとした人たちと同席したというのは、相当な覚悟のいることですよね。タリバンもタリバンで、世界中からなかばテロ組織扱いされているなか京都に出てきて、敵である政権側の代表と同席する、というとても大変なことを実現してくれたのです。

 会議自体はみんな言いたいことばかり言って揉めました。しかし、「主催者である私の顔を立てて最後に何か一つくらい合意してくれ」と言ったら、そこは「客分としての仁義」がわかるんですね。最終的に「外国軍が撤退することが和平の第一歩だ」ということは合意に至りました。政権側もこれを認めたことは大きなことです。

 もちろん我々は大学という場でやっていましたし、政治的に介入しようという意図はまったくありませんでした。アフガニスタンの当事者同士が、まずは同席しないことには始まらないと思い、その場をつくろうとしたのです。これで一気に和平が進んだりするわけではないですけど、こういう場を通じて、信頼を醸成していくことが大切なんです。

タリバンと政権側が京都で鍋を囲む

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内藤 この写真は、和平会議の後の写真です。タリバンも政権側もそろって、出町柳にあった居酒屋で鍋を囲みました。この写真を撮ってからハッと気づいたんですけど、一番奥の右のカルザイ政権側の大臣と左のタリバン側の人間で、和やかに談笑しているじゃないですか。スタネクザイ大臣はタリバンの使者に自爆されて怪我をした人です。それでも、とりあえずは鍋を囲んでしゃべった。本当のところ、日本はこういうことを継続すべきだったと思うんですよね。この時、お互いを信頼していたとは言えませんが、しかし、まず、同席して話すところまではしてくれたのです。対話のないところに信頼はありませんし、信頼のないところには平和はありません。

 今回タリバンの政権が復活しましたけど、そのあと、我々は彼らに言わなければならないこと、言いたいことなどいろいろとあるわけですよね。でも、タリバンに何かを求めるのなら、もう二度と軍事力によって彼らを服従させたり、壊滅させたりすることは不可能だ、という前提にたたないといけないと思います。そうして、まず鍋でも囲めばいいんです。

(終)

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