そのココロは、アフリカン大仏の巻

第1回

そのココロは、アフリカン大仏の巻

2019.07.05更新

俺はずいぶん定食にやられてきた。

定食という表記は腹減り度の高い者を狂わせる。定食には実に無抵抗になっている。

単品と単品の組み合わせやとんかつと白ごはんと注文すればいいのに俺は何も考えずに〇〇定食を注文している。

別に損をしているわけではないと思うが定食と書かれているから簡単にそれを注文していた俺がもっさいなと、ふと思った。

そして今回、俺に与えられた連載のタイトルがなんと「バッキー・イノウエ定食」だ。このミッションの本意はなんなんだろう。またしてもミシマ社のボスでもある中世からやって来たボーダーマンに乗せられたのか。

いや違う。定食という隠れ蓑を使ってなんでも書けということだと俺は解釈した。解釈させてもらった。ありがとうボーダーマン。この罠に乗せてもらうぜ。

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じゃあこれはなんなんだ。これはこの夏に大丸百貨店がこしらえて京都店で販売している「泣いてるアフリカン大仏」のティーシャツ。これは俺が描いたもので紙の上の絵ではなく人の胸で踊ることをイメージしてゴキゲンの瞬間を切り取って描いているのだが、これが実に惹きつけられるキャラクターになっている。

まず表情が生きていてタッチの速さと曲線的な指し回しが伝わってくるしこのキャラクターが優れた大局観を持っていることをこの表情から読み取ることが出来る。

そしてこの絵のタイトルが俺をフラフラにする。なぜ泣いているのか。なぜアフリカンなのか。なぜ大仏なのか。なぜそこに"Someday We'll Be Together "なのか。ダイアナ・ロスがいたシュープリームスの名曲のタイトルやんか。ええんかそれで。

しかもこのティーシャツは京都の大丸だけで一週間ほど陳列販売されていただけなのに100枚近く売れたと聞く。価格も五千円近いので決して安くない。陳列されていない今でも大丸に問い合わせをして買いに行かれている人もいるらしい。どうなっているんだ。

この絵を描いた者としては「泣いてるアフリカン大仏」もいいけれど「ヌケガラニンニク」もフューチャーして欲しい。かわいいから。存在がポンとしてるから。名前がいいから。ぜひたくさんの人に着て欲しい。俺はいつからTシャツ屋になったんだ。漬物屋やん俺は。〇〇屋と言ってはあかんという人がいるが「漬物店を営む人間」ではどうも売れる気がしない。

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このヌケガラニンニクが世に登場したのは一年近く前のタバーン・シンプソンのカウンターだった。俺が飲んでいたウイスキーの下のコースターが裏返ってヒョイとヌケガラニンニクが現れた。

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描いた瞬間、なんだこれはと思ってすぐマスターにもっとコースターくださいというと、たぶん俺用だと思われる使ったあとのコースターを数枚出してくれた。それからヌケガラニンニクをその夜描きまくった。

あれから一年たってとうとう完成形のヌケガラニンニクになった。キャンバスに描いたものは売れてしまった。俺はいったいどこに向かっているのか。どこでもいいが俺はアントニオ・マルケスの踊りを見たい。

そしてなんで定食なんだ。この連載は。

あー、というしかない。

20190628 バッキー・イノウエ

バッキー井上

バッキー井上
(ばっきーいのうえ)

本名・井上英男。1959年京都市中京区生まれ。高校生のころから酒場に惹かれ、ジャズ喫茶などに出入りする。水道屋の職人さんの手元を数年した後、いわゆる広告の「クリエイティブ」に憧れ広告会社にもぐり込む。画家、踊り子、「ひとり電通」などを経て、37歳で現在の本業、錦市場の漬物店「錦・高倉屋」店主となる。そのかたわら、日本初の酒場でライターと称して雑誌『Meets Regional』などで京都の街・人・店についての名文を多く残す。さらには自身も「居酒屋・百練」を経営。独特の感性と語りが多くの人を惹きつけ、今宵もどこかの酒場で、まわりの人々をゴキゲンにしている。著書に『たとえあなたが行かなくとも店の明かりは灯ってる。』、『いっとかなあかん店 京都』(以上、140B)『人生、行きがかりじょう』(ミシマ社)がある。

編集部からのお知らせ

『人生、行きがかりじょう』のカバーが新しくなりました

 バッキー井上さんの人生哲学が詰まった名著、『人生、行きがかりじょう』のカバーが新しくなりました。
 今回の『バッキー・イノウエ定食』にも登場している、ヌケガラニンニクが目印です!

20190704163635_000011aa.jpg『人生、行きがかりじょう』

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