バッキー・イノウエ定食

第3回

いい店というだけではなかなか行かれないの巻

2019.08.08更新

0806_1.jpg 「あんたは京都のいろんな店のことをよー知ってはんにゃろ」とよく言われるが実は最近の店というかここ十年くらいに出来た店のことはほとんど知らない。
 一応、街で仕事をしているので近所の人やお客様とのお付き合いで食事に行くこともあるし仲間と居酒屋に行くこともあるので比較的お店にはよく行く方だと思うが新しい店にはほとんど行く機会がない。
 新しい店にも興味はあるし、顔が利く店しか行かないというせこいタイプの男でもない。
それよりもあまりこだわることなくどこにでも肩肘張らずに適当に行けるタイプな俺だが新しい店になかなかたどり着かないのだ。

0806_2.jpg まわりにいる人が俺を誘う時はだいたいいつも同じ店だ。
 豆腐屋やお寺の奴と行くのは年中おでんのある川端の居酒屋だし、八百屋の社長とは安くで飲める七条の寿司屋、古い付き合いのカメラマンとは煮込み屋ばかりで、岸和田の編集者とは堂島のバーが多いし、仕事仲間と帰りに行くのは裏寺の食堂だ。

0806_3.jpg 誰かと行く時はその人が馴染みの店やその日の条件に合ったところに行くことになるので自分でどこに行くかを決めることはあるようでとても少ない。
 さらに昔からよく行っていた店へ季節に一度くらいは顔を出したくなるのでそんな店が5軒あるだけで年に20回になる。古くから世話になった店に行く回数を減らしてまで新しい店に行くのはどうかと思うし、それ以上に余裕も時間もないというのが実際のところだ。
 俺は仕事や大事な会食の時は予約もするがそうでない時はほとんど予約をすることがないので、目指している店に行って満席であったり臨時休業だったりすることも時々ある。そんな時に臨時休業していた店の近所の行ったことのない店の引き戸をガラッと開けて入ったり、見知らぬ店のメニューを見る楽しさや新しい何かと出会えることにワクワクする普通の奴なのだ。

0806_4.jpg くどいようだが新しい店が嫌いなのではなく自然にそこにいくことになるかどうかが大事だと思っているだけなのだ。
 長い間、
雑誌や新聞に街やお店のことなどをたくさん書かせてもらってきたのでいろいろなお店には行った。

0806_4.5.jpg どの時代にも街にはいい店がいっぱいあるしあった。それを知ったとしても全部行こうとは思わない。

0806_5.jpg 街や時代やそこで暮らす我々には流れがあるのでそれにおまかせすればいいと俺は思っている。あー。

バッキー井上

バッキー井上
(ばっきーいのうえ)

本名・井上英男。1959年京都市中京区生まれ。高校生のころから酒場に惹かれ、ジャズ喫茶などに出入りする。水道屋の職人さんの手元を数年した後、いわゆる広告の「クリエイティブ」に憧れ広告会社にもぐり込む。画家、踊り子、「ひとり電通」などを経て、37歳で現在の本業、錦市場の漬物店「錦・高倉屋」店主となる。そのかたわら、日本初の酒場でライターと称して雑誌『Meets Regional』などで京都の街・人・店についての名文を多く残す。さらには自身も「居酒屋・百練」を経営。独特の感性と語りが多くの人を惹きつけ、今宵もどこかの酒場で、まわりの人々をゴキゲンにしている。著書に『たとえあなたが行かなくとも店の明かりは灯ってる。』、『いっとかなあかん店 京都』(以上、140B)『人生、行きがかりじょう』(ミシマ社)がある。

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