凍った脳みそ

第3回

特集『凍った脳みそ』後藤正文インタビュー(1)

2018.10.16更新

1008_12.jpg『凍った脳みそ』後藤正文(ミシマ社)

 『凍った脳みそ』。なんとも不思議なタイトルである。いったい何の本なのか? と題名だけ見てわかる人はかなりのゴッチファンにちがいない。「ああ、ゴッチの個人スタジオ、コールド・ブレイン・スタジオの邦訳でしょ」。そんな方は、私がどうこういうのはかえって失礼。ぞんぶんにお好きなように本書を楽しんでくださいませ! 

 実は、アジカンファンだけど「この本はどうしようかな」と思っている方や、必ずしもアジカンやゴッチのファンでもないけど音楽は好きという方や、ゴッチもアジカンも音楽もとりわけ好きなわけじゃないけど面白い本は好き! という方にも、本書はおすすめなのです。その理由の一端に迫ることができればと思い、著者の後藤正文さんに直接お話をうかがいました。

  (聞き手・三島邦弘)

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アジカン・ヒストリーとしても必読!

あまりにもいいアルバム(『マジック・ディスク』)を作ってしまって、ライブで再現するのに人手が足りなくなってしまった。(略)思案の末、フジファブリックの金澤君に助けてもらいながら、全国ツアーを行なった。けれども、現場での舵とりは想像以上に難しく、徐々にメンバーの関係性はギクシャクとし、大喧嘩の果てに、このツアーが終わったら船長の職を辞するだけでなく船から降りようと、俺は日本のヘソあたりで決意したのだった。(p.7)

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ASIAN KUNG-FU GENERATION「マジック・ディスク」

ーー 東日本大震災前にバンド解散の危機があった。この事実を後藤さんの文体で伝えられると、アジカンファンもグッとくるんじゃないでしょうか。振り返ってみて、あのときはどういう心境だったんですか?

後藤 震災前ですよね。いやもう、あんまりバンドがうまくいってなくて、「どうしよう」みたいな。弦のカルテットと管楽器が入ったツアーが完結したらたぶんやりたいことなくなっちゃうだろうなと感じていたのかな。

ーー うんうん。

後藤 ・・・だし、限界も感じていました。いまとはまったく考え方がちがったので。自分の思った通りにできないことが、なんていうんですかね、もどかしいというか。「なんでお前はもっと練習しないのか」とかね。そういう気持ちが強くて。

ーー あ〜。

後藤 まあ、なんだろう。人にはできること、できないことがあるから(笑)。「それを認めた上で一番いいパフォーマンスでやる」という考え方に変わったんですけどね。

ーー ヘぇ〜!

後藤 当時は、世界にも日本にもいいバンドがいるのに、どうして向上心を持って取り組まないのかっていう、怒りがずっとありました。「もっといいバンドになりたいと思わないのか!」と。そうそうそう・・・。

ーー そうですか!

後藤 そういう苛立ちがずっと。とくに2000年代はありましたね。バンドに対しては。

ーー それがずーっと積み重なって、この2011年の記述につながる。

後藤 うん。ツアーでは・・・もう「ダメだ」っていうか。どう言ったらいいんですかね、「うまくいかない」というか。自分のやりたいことをこのバンドで叶えるのは厳しいんじゃないのかなという気持ちになりかけてた感じですかね。

ーー それで、この「日本のヘソのあたりでぶつかり合った」っていう(笑)。

後藤 はい(笑)。岐阜で大げんかしました(笑)。

ーー いやぁ〜、さらりと、後藤さん文体でおもろく書いてあるから、ちょっと読み飛ばしそうになるんだけど、けっこうヒリヒリする話が書いてありますよね(笑)。

後藤 そうですね(笑)。でも中村佑介くん曰く、「ゴッチはアルバムごとに毎回そういうことを言っている」と(笑)。そんな説もあって。「やめるやめる詐欺だ」って、中村くんは言ってました。「僕も、『じゃあ最後だったらジャケット描かなきゃ!』と思って毎回がんばって描くけど、全然解散しないじゃないか!」みたいな(笑)。

ーー そうなんですか(笑)。

後藤 僕にはその記憶がなくて。でもまぁ、毎回アルバム制作って本当に心が折れそうになるんです。最後はもう、ボキボキになって終わるので。

ーー そうですかぁ。

後藤 メンタルの全身骨折みたいな。そういう感じで終わりますね。

ーー ちなみに、今日が、そのアルバム制作の真っ最中なんですよね?

後藤 そうですね。はい。

ーー そんな中、ありがとうございます(笑)。

スタジオづくりは、福沢先生との戦いでもある

仕方がないので、それぞれのプラグインのダウンロードページへ行き、カチカチとマウスを数回クリックした。瞬時に十枚近くの福沢諭吉が消え失せてしまった。(p.75)

それはまたしても福沢先生がペンは剣よりも大事だが銭が一番大事である、みたいな顔をしながら俺の財布から消えてゆくということだった。(p.81)

後藤 今回はわりと尊重してもらってるので、メンバーに対する怒りとかはまったくないです。その代わりというか、自分のジャッジとか感覚に対する、焦りとかいろんなものが渦巻いています。

ーー 焦り、ですか。

後藤 10月にニュージャージーに行ってマスタリングという作業をするので、うまくいくといいなと思ってるんですが。僕がいまやろうとしてることがわりと、いままでのセオリーを壊しにかかってるので。

ーー それは、アジカンのセオリー?

後藤 とかもあるし、日本のポップ・ミュージックというか、「バンドものでこういうミックスはやらないよね」みたいなことを少しやってます。聴いたときにはわからなくなるようにはしたいんですけど。普通の人たちは「なんのこと言ってんのかわかんない」みたいな。
 けど、録音やミックスの技術者たちからすると、やりたくなさそうなことをやってもらっているので(笑)。メンバーは、「いいのかそれで!」って顔してるんですけど。

ーー つまり、完全に未知なところにいってるってことですか。

後藤 そうなんですよ。レファレンスがないことをしてて。それが成功するかしないかはまだわからないから。メンバーは、まぁ、止めることができるなら止めたいと(笑)。

ーー ははは(笑)。

後藤 けれども、「あいつが『凍った脳みそ』に書いてるような、ここ3年くらいのお金の使い方を見るに、今回は強く言えないんじゃないか」みたいな雰囲気です(笑)。

ーー なるほど。

後藤 このスタジオに費やしたエネルギーと、実際の金額(笑)。まぁたぶん、弁当屋さんの店主(*本文に登場します)と同じように、あいつらは額面に忖度してると思いますけどね。俺の言ってることじゃなくて、使った金額に対して、福沢諭吉の枚数に対して遠慮してる(笑)。

ーー へぇ〜!

後藤 田舎に家が建つくらい使いましたから。このアルバムのために、それだけ使ってそれで「ダメだ」って言われたら俺も「どうしよう」って感じですけどね(笑)。本格的な家出というか、バンドのなにかが破綻しますよね。そういう状況なんです。

音楽業界における「音圧戦争」の終結

ーー ニューアルバムで、セオリーを崩す挑戦をしようと思ったのはどうしてですか?

後藤 音楽をとりまく状況全部が過渡期ですよね。もうCDがほぼ終わりなんで。「終わり」って言うと、また日本のCDファンが怒りますけど。世界的には終わったんですよ。終わったっていうか、ほぼ終わりみたいな。
 絶滅はしないけど、ある種の役割は終わったと思います。配信で聴くのが一般になってきています。そうすると、文化そのものが変わっていく。配信に向けて音楽をつくっていくことになる。

ーー あ〜。

後藤 CDだったら何してたかって、音量を入れていってたんですよ。大きな音で聴こえるように音圧っていうのを上げていって。音をリミッターっていう機能で潰すんですね。
 大きい音は、まぁちょっと抑えられるんですけど、小さい音がグーッと上がってくるので、音の圧力、厚みっていうんですかね。顔の前にゴォンッとぶつかってくるような迫力が増して、音量が大きくなります。それをみんなで競争してたんですよ。音圧戦争みたいにも言われてたんですけど。

ーー へぇ〜!

後藤 ようやくその戦争が終結したんですよ(笑)。なぜかっていうと、配信になって、ちがうルールになったから。音量が大きいものは、下げられちゃうっていうルールになったんです。

ーー えぇ〜〜っ! 下げられた状態でいま配信されてるんですか?

後藤 だから、下げられないようにしてるんです。いま、やみくもに音圧を上げていっても、制限に引っかかって音量が下がったように聞こえさせられちゃう。配信サービスごとに基準が定められているんです。

ーー はい。

後藤 音楽のあり方が変わってきてるんですね。CDとかレコードに入れなくなったら、今度はものすごい低い音も再現できるヘッドホンやスピーカーが増えた。みんな重低音をだすようになったんですよね。そうすると、従来のロックバンドの演奏だとどうしても鳴らないような音まで最近は鳴るんですね。

ーー 低い音はOKなんですか。OKというか、そっちの幅は広がった?

後藤 低い方に広がりましたね。日本のミュージックは高い方をずっと気にしますよね。「高音の抜けがいいです」とか。
 たしかに、クラシックとか聴いたら、バイオリンの高いところがよく聴こえるとか、再現性が高いということだと思うんですけど。世界のポップミュージック的には低音が、ここ数年くらいでグッと下に広がったんです。どう考えても。

ーー そうなんですね!

後藤 でも、重低音をカットしている文化が日本にはあって。それは、専門家がちゃんと考察した方がいいと思うんですけど、たぶん、レコードの針飛びや騒音問題とか、日本的な居住環境やスタジオ文化とつながっていると僕は思います。
 あとは、ブーミングっていって、部屋が震えちゃったりするので。そういう問題もあってカットしていたんだと思うんですけど。ミュージシャンが狭いプライベート・スタジオに引っ込んで、音環境が悪くなったっていうのもあると思いますね。

世界的な意味におけるプロデューサーになる

ーー そういう音楽のあり方が変化しているなかで、スタジオを自分でもって、機材をそろえて実際に動かしていくのには、すさまじく勉強が必要ですよね。大変なところに踏み込まれてるんだなぁというのはすごく思いました(笑)。

後藤 そうですね、確かに(笑)。これはでも、機材のこと含め自分で吸収して実践していかないと音がよくならないんだよなと、とくに最近は思いますね。あとはなんだろ、音楽づくりのイニシアチブを握れない。

ーー なるほど。

後藤 曲をつくってサラッと歌って帰る、みたいになっちゃうから。ただ、専門の技術者たちからすると、「めんどくさいやつに仕上がったな」と思われるでしょうね(笑)。
 たとえば、ギタリストなら「もうちょっとキラキラさせてほしんだけど」って言えばいいだけなんですよね。ざっくり広い言葉で、射程の広い言葉で言い当てればよかったんですけど。それに対してエンジニアが動くので。僕だと、普通に周波数で言うから、それは嫌ですよね。

ーー そうですね(笑)。

後藤 「ちょっと5キロ上げてください」とか、そういうこと言われるとカチンとくる人はいるんじゃないかと思います(笑)。もちろん話法を大切にして、伝えてはいますけど。

ーー ワンオペでやっていく音楽づくりの方向性は、コールド・ブレイン・スタジオをつくってからそうなっていたんですか?

後藤 もともと興味があったんですよね。プロデューサーになりたかったから。そうなると録音のイロハがわからないと無理だなというのは、スタジオにいてすごく思います。日本的なプロデューサーと洋楽のプロデューサーでは、考え方や役割が全然ちがうんですよ。

ーー はい。

後藤 海外だと、エンジニアを経てプロデューサーになる人が多いんです。ミキシングの話なんですよね。サウンドメイキングの話をします。日本だと、つんくさんとか秋元康さんとか、あと小室哲哉さんとかがプロデューサー。

ーー そういうイメージになってますよね。

後藤 曲をアレンジして、編曲して、歌うやつを選んで歌わせるみたいな。アレンジャーとしての役割が濃かったり、トータルイメージをコントロールしてたり。僕がやりたいのはサウンドプロデュースなんですね。曲を書くんじゃなくて、どうやってよく録るか。

ーー だいぶちがいますねぇ。

後藤 そうなんですよ。

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書店用ポップ

(つづく)

編集部からのお知らせ

『凍った脳みそ』サイン本・特典について

今回、後藤正文さんによる『凍った脳みそ』のサイン本、購入特典をご用意しています。取り扱い店舗などの詳細と最新情報は「ミシマ社ニュース」をご覧ください。

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前作『何度でもオールライトと歌え』好評発売中です

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『何度でもオールライトと歌え』後藤正文(ミシマ社)

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