演劇と氷山演劇と氷山

第12回

「2」なる魔海へと。

2019.04.15更新

 「20周年にはなにか20周年らしいことしたいねえ」というメンバーからの声が、いつからか「サマータイムマシン・ブルースとその続編なんていいねえ」という剣呑なものに変わり始めたとき、おいおい冗談だろと思ったけど止めはしなかったし、それはもしかすると僕が言い出したことかもしれなかったし、「このままだと続編を書くことになるなあ未来の僕は」なんて他人事のようにぼんやりと考えていたし、そんなふうに、メンバーやもう一人の僕や未来の僕に取り返しのつかなさをちょっとずつしょわせながら、船は行ってはいけないと言い伝えられる方角へと、ゆったりと舵を切っていったのだった。

 続編。ツー。セカンドシーズン。ビヨンド。そこは死の海、サルガッソー。「うまくいった2はない」というのは誰かが言った風説で、僕もそれを信じていたし、2匹目のどじょうはいない。1には初期衝動とフロンティアスピリッツが溢れていて、2には惰性と打算とひね媚びた笑いが満ちている。狼の1、豚の2。そして自分は2には目もくれず、一生涯「1」を作り続けるのだ。
 そんな風に考えていた僕にとって、自作の「2」を作る、というのは想定外のことだったし、ましてや「サマータイムマシン・ブルース」の2を作るなんてことは、蛇に足を描きたすがごとき悪手に違いなかった。

 ちょっとやっぱり特別な作品ってあるもので、僕らにとっては「サマータイムマシン・ブルース」が、まさによく描けた蛇、それも我ながら「これは」と惚れ惚れするような、円環構造をなすウロボロスなんでした。
 僕らがまだ大学生だった2001年に初演し、地元・京都で大いに好評を博して、2003年には大阪と東京で再演。それが「踊る大捜査線」のヒットメーカー・本広克行監督に見出され、転がるように映画化してもらい、ヒットこそしなかったものの、こちらもまた佳作として根強いファンを獲得。
 そんな、何者でもなかった僕らをすこし何者かにしてくれた、劇団初期の代表作であり、青春期に放った一度きりのラッキーパンチであり、僕らをいまだ祝い呪うように包むアンセム。

 そしてそれは年齢設定上、僕らにはもう二度と上演できない作品でもあったので、「サマー」のことはもう考えないようにしていたんです。大学のSF研究会の部室を舞台に、大学生たちがタイムマシンで昨日と今日を狂騒的に行ったり来たりする、若さがまぶしいタイムトラベル青春群像劇でしたから。
 一方で映画のほうは、そのメディアの特性上エバーグリーンみを獲得し、フィルム(デジタル撮影でしたけど)には映画のキャストたちの躍動がいまも焼き付いています。そんな色褪せない物語がかつてありましたとさ、として、僕らは以後そのことを振り返らないように振り返らないように、今現在の肉体でやれる、次の会心作を目指してやってきたんでした。

 いや、じつは5年ほど前に、本広監督からふと「映画『サマー』の2を作んないの?」って打診されたことがあったんです。「みんな待ってるよ、やろうよ」って。
 軽く言わないでくださいよ監督、と思いながら打ち合わせに臨み、冗談じゃないですよ、と思いながらプロットを考えました。いちばん「2」を作っちゃいけない作品であることは監督も分かっているでしょう。決定論からのオープンエンドが肝なのに、その後を描いてどうすんですか。ふざけんなよ。そう思いながら、大学生だった彼らの10数年後に思いを馳せました。
 しかしそんな半身ではやはりうまくゆくはずもなく、脚本はこれといった活路を見いだせないまま、なんとなくその企画ごとうっちゃられ、映画版「サマー2」は幻に終わりました。僕は心底ほっとしながら、ふがいなさと少しの心残りと、「これはいつか2を作らないとどうにもならないな」という思いを、その時抱えました。本広監督は恐ろしいです、いつだって悪びれずライフチェンジャーなんです。

 それ以来、僕と「サマー」の彼らには、あり得なかった世界線の続きが、点線となっていつも傍らに伸びていました。行ってはいけない方角。魔の海域。うまくいった2はないし、他にも作りたい作品が僕らにはたくさんあって。呪いを振り切る速度だって近ごろじゃ獲得できたはずだし、彼らの物語はあそこでもうきれいに閉じていて。
 視界の端ほどよく見えるもので、点線はいつだってちらつくけれど、旅に出る理由なんて何一つないし、旅に出ない理由はだいたい100個ぐらいあって。

 きっかけなんてなんだってよかったし、「20周年」というぞんざいな惹句はおあつらえ向きだぜと思った。劇団20周年を記念して、劇団の代表作「サマータイムマシン・ブルース」を13年ぶりに再演し、そしてその続編「サマータイムマシン・ワンスモア」を新作でやります。カウントダウンイベントの壇上でそう発表したとき、やってしまったという思いと、誰が作るんだろうこれという思いと、俺たちが作るのだという高揚と、もう引き返せないぞという絶望と、それにしてもお客さんの反応が思ったより薄いなという動揺がありました。

 反応の薄さは杞憂で、深夜3時という時間帯を考えるとむべなるかなでした。翌日のタイムラインには、再演と続編に期待を寄せる声と、再演ってことは大学生を演じるの? というイノセントな声が並びました。疑問符がアラフォーの俺たちの心の肉をすこし抉りましたが、ともあれ20周年を迎えた2018年の1月1日、「サマータイムマシン・ブルース」とその続編「サマータイムマシン・ワンスモア」に、船出の紙テープがわたわたと投げられました。ウロボロスの輪を悠然と引きちぎり、疑問符のカギ手を高らかに振り上げ、船は魔海へと進んでゆきます。

上田 誠

上田 誠
(うえだ・まこと)

1979年京都生まれ。1998年、大学入学とともに同志社小劇場に入団し、同年、劇団内ユニットとしてヨーロッパ企画を旗揚げ。ヨーロッパ企画の代表であり、すべての本公演の脚本・演出を担当。外部の舞台や、映画・ドラマの脚本、テレビやラジオの企画構成も手がける。2016年に劇団初の書籍『ヨーロッパ企画の本 我々、こういうものです。』(ミシマ社)が刊行。2017年、「来てけつかるべき新世界」で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。

ヨーロッパ企画

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