演劇と氷山演劇と氷山

番外編 ヨーロッパ企画・上田誠さんに聞く「ギョエー!旧校舎の77不思議」

2019.07.20更新

 1998年、大学の演劇サークルで一緒だった上田誠、諏訪雅、永野宗典の3人によって旗揚げされた劇団「ヨーロッパ企画」。演劇のみならず、テレビドラマやバラエティ番組、ラジオなど、京都に根をはりながら幅広く活躍しています。

 昨年には結成20周年をむかえ、映画化もされた代表作「サマータイムマシン・ブルース」を13年ぶりに再演。さらに新作としてその続編を上演するという、20周年ならではの本公演ツアーをおこないました。「20周年をしっかり打ち出してツアーをまわったことで、お客さんもすごくお祝いしてくださって、うれしかったしありがたかったです。充実したパーティーをやった感じでした」と上田さん。そんなヨーロッパ企画が満を持しておこなう2019年・本公演は、なんと初めてのホラー(オカルト)青春コメディ!

 すべての脚本・演出を手がける、劇団代表の上田誠さん(本コーナーでエッセイ「演劇と氷山」連載中!)にお話を伺いました。

(構成:新居未希、写真:田渕洋二郎)

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エンタテイメントとして、
やったことのないジャンルを

―― 昨年再演された「サマータイムマシン・ブルース」は、大学のSF研究会を舞台に、壊れたクーラーのリモコンを探して昨日と今日を行ったり来たりするというSF青春コメディでした。今回はそれとはガラッと変わり、初めてホラー(オカルト)に挑むということで、おお、そうきたか! と新鮮な驚きを感じました。

上田誠(以下、上田) いたずらに驚かされたりするのはあまり好きじゃないんですけど、笑いのネタとして怪談を使うというのは以前からけっこう好きだったんです。ホラーを対象化して笑いに変える、というような。実は今回タイトルに入れている「77不思議」というアイデアは昔から持っていたもので、映像の企画なんかにも出したりしてたんですよ。「77不思議」って、なかなかなパワーワードかなと思っていて(笑)。

―― たしかに、「7不思議」じゃなくて「77不思議」ですもんね。77って、とにかく、多い・・・

上田 そうなんです。いつかやりたいなと思いながら頭に入れていたのを、20周年のあとに盛り下がりたくないなと思って、景気づけに! と、今回のタイミングで出しました。なので「死をテーマに」とか、そういうのじゃないんですよ。単純にエンタテイメントとして、本公演で自分たちがやったことのないジャンルをやろうと思って。

 「出てこようとしてるトロンプルイユ(2017年)」という劇では、初めてアートという分野を扱いました。もともとアートの世界に興味はあったんですが、それほど詳しくはなくって。アートって深遠な世界なので、たとえば現代アートを正面から扱うとなると自分にはすこし手に余る。切り口を考えたときに、「だまし絵(トロンプルイユ)なら入れる!」って思ったんです。だまし絵なら自分もそれなりに語れることはあるかもしれない、と。

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第38回公演「サマータイムマシン・ブルース」(撮影:清水俊洋)

0720-5.jpg第36回公演「出てこようとしてるトロンプルイユ」(撮影:清水俊洋)

 それと同じく、ホラーというとジャンルがけっこう広いですが、たとえば「未解決事件」「山怪」とか、人間心理がどうとか、そういうものは好きで興味はあるんだけど、そういったホラーをやると自分には手に余るところがあるだろうなと思いました。でも「学校の七不思議」なら自分がやる、語れることがあるなぁって。

 ただ、「学校の七不思議」を劇でやるとなると、現在性からは遠のく感じがする。だからそこは今探っているところなんですよね。現在的なところとの接点がやっぱりどこかにないと、おとぎ話になってしまうから。

―― 本当に77個、不思議を出現させるつもりだそうですね。

上田 そうなんです。77もあるので、スタッフ総がかりで取り掛からないといけない(笑)。今回は高校の旧校舎という設定なんですけど、ヨーロッパ企画のメンバーには先生をやってもらいます。生徒たちには、ホラーと立ち向かいながら青春をおくってもらおうと思っています。

「笑い」と同じで、
恐怖やホラーも時代によって進化する

―― あのー、怖い話とかお化け屋敷とかあまり好きじゃなくて、ビビリな人でも観れますか?

上田 「怖い」って幅が広い言葉ですよね。「さっき居たアイツって誰ですか?」「いや、僕知らないです」「いや、僕も知らないですよ」「・・・え、アイツ誰だったの?」みたいな怖さが、僕の好きな怖さなんです。カッターで切られて血が出る、みたいなものはあんまり好きではなくて。それは怖さというより「痛さ」なのかもしれないですけど。「笑い」にもいろいろありますよね。好きな笑いもあるし嫌いな笑いもある。そういうマナー感覚のようなものが自分のなかにあって、ホラーもそういうものなのかなと思います。

 ホラーって、やな感じにしようと思ったらいくらでもできると思うんです。たとえば「ボンッ!」って急に大きい音を出すと誰でも怖いんですよね、びっくりするから。でもそれってちょっとだけルール違反な感じが僕はしていて。それしたら誰だってそうなるやん、というのは、僕らはやらないでおきたい。

 番町皿屋敷に幽霊がいて・・・というのは今やトラディショナルで、それ自体に様式美みたいなところがあって、いまの怖さとはまた違う。いまの怖さって、家帰ったらマンションの家の中に知らん人が立ってる、みたいなことかなと思うんです。秩序が乱される、条理を逆撫でされるのが怖い。なんでかわからない、ルールがわからない怖さ。それって血だったり痛さだったりということを使わなくてもできることです。

 笑いも、昔はダジャレや、人がバナナの皮を踏んで転ぶようなことが構図がズレて面白かったんだけど、今やそれはもうベタになっている。自分が思っていた常識からズレる、そのズレ方が面白いから笑うんだけれど、そのズレは経年変化で当たり前になるから、ひと昔前や子どもの頃はダジャレで笑っていたけれど、聞き慣れてしまった今ではもうそれはズレにはなりません。それと同じで、恐怖やホラーも進化するんだと思います。

 「学校の七不思議」自体は、人体模型が廊下を走るとか、トイレの花子さんとか、大人になったいま聞くとそんなに怖くはないですよね。じゃあ本当にいま怖いことって何やろう? ということをどこかで考えながら作ってます。

 あの、怖くない・・・というふうは言いにくいんですけど、面白いと思います、ほんとに。安心して観に来てもらえたら(笑)。

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恐怖の生まれどころはどこだろう?
探りながら書いてます。

―― 上田さんは脚本を書くときに大量の本を読まれるそうですが、今回はなにか「これ!」という本はありますか?

上田 いろんなものを読みました。読んだんですけど、あのー、あんまり学ぶところがないというか・・・(笑)。いろんな怪談を読んだりしたんですけど、「校庭の木の根っこに立つと人が消える」とか、よくわかんないなと。怪談ってなかなかデタラメなんですよ。

 でも、怖い話の法則性を見つけるのは面白い。

 「アフォーダンス」という考え方があります。ドアだったら、引き手がついていたらそれを引くと開きますよ、凹みがあったら横に引いたら開きますよ、ということをそのデザインが発信しているという考え方なんですけど。ホラーもそうで、椅子はひとりでに倒れる。ピアノは勝手に鳴る。バッハは夜中に笑う。そういう恐怖を想像させるアフォーダンスが学校のそこかしこにある。そのなかでもみんなが「それ!」と思うようなものが今も語り継がれていて、そういうものが面白いなと思ってるんですよね。恐怖の生まれどころ、想像が生まれる温床は何なんやろう? と。共感を生む想像とそうでない想像がきっとあって、それを探るのは楽しいです。

 生み出したことのないところから恐怖を生み出す、というのもやってみたいことです。僕はあまり「笑い」に使われたことのない材料から笑いを生み出すというのが好きで、これまで文房具だったり(「遊星ブンボーグの接近」)、ビルのゲートを使ってみたり(「ビルのゲーツ」)してきました。あまりホラーに使われたことのない題材からホラーを作るというのには興味がありますね。

 でもこういうことが書いてある本って、「これ!」という一冊があるわけではないので、いろいろ探りながらやってます。

 あとはでも、学校のことはきちんと書かないといけないなと思って、学校の本はいろいろ読んでます。学校の部活の問題だったり、不登校児の話。学校の先生をしている知り合いにインタビューをして話を聞いたりもしています。そこは現在を書こうと意識しているところです。

 ちなみに上田さんご自身は怪異などには懐疑的で、霊的なものに取り憑かれたことは一度とてないのだそうです。いやはや、そんな上田さんが描くホラー(オカルト)青春コメディ、ますますたのしみです!

 本公演は2019年8月からスタート。京都公演を皮切りに、11都市をまわります。ヨーロッパ企画の本公演は年に1度だけなので、ぜひ舞台でご覧ください。しあわせいっぱいで帰路につくこと間違いありません。託児サービスがある会場もありますよ!


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ヨーロッパ企画第39回公演
「ギョエー!旧校舎の
77不思議」

作・演出=上田誠 音楽=青木慶則
出演=石田剛太 酒井善史 角田貴志 諏訪雅 土佐和成 中川晴樹 永野宗典 本多力/
祷キララ 金丸慎太郎 亀島一徳 日下七海 納谷真大

・栗東プレビュー公演 栗東芸術文化会館さきら 中ホール 2019/8/3(土)
・京都公演 京都府立文化芸術会館 8/9(金)~8/12(月・祝)
・東京公演 本多劇場 8/15(木)~8/25(日)
・広島公演 アステールプラザ中ホール 8/29(木)
・福岡公演 西鉄ホール 8/31(土)、9/1(日)
・名古屋公演 名古屋市東文化小劇場 9/4(水)
・大阪公演 ABCホール 9/11(水)~9/18(水)
・高知公演 高知市春野文化ホール ピアステージ 大ホール 9/21(土)
・愛媛公演 松山市民会館中ホール 9/23(月祝)
・横浜公演 関内ホール 9/28(土)
・札幌公演 道新ホール 10/5(土)

チケットについてはこちら

上田 誠

上田 誠
(うえだ・まこと)

1979年京都生まれ。1998年、大学入学とともに同志社小劇場に入団し、同年、劇団内ユニットとしてヨーロッパ企画を旗揚げ。ヨーロッパ企画の代表であり、すべての本公演の脚本・演出を担当。外部の舞台や、映画・ドラマの脚本、テレビやラジオの企画構成も手がける。2016年に劇団初の書籍『ヨーロッパ企画の本 我々、こういうものです。』(ミシマ社)が刊行。2017年、「来てけつかるべき新世界」で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。

ヨーロッパ企画

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