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第3回

京都 LAND(パン屋)

2020.02.09更新

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京阪・神宮丸太町駅から北に歩くこと約10分。鴨川にかかる荒神橋近くにある「LAND」は、2015年12月にオープンして以来、地元のひとをはじめ、多くのひとに愛されるパン屋さんです。

こじんまりしたお店にならぶパンは日によって違い、今日はなにがあるかなと覗くのが楽しみに。お店は週休2日で、パンがなくなり次第営業終了、早い日はお昼すぎにお店を閉めることもあるのだとか。

パンもおいしければ、お店のありかたもなんだか面白くて、気になる。とにかくLANDのパンがすごく好きなアライとハセガワが、店主の吉川潤さんにお話をうかがいました。

あんぱんがかわいくて

――吉川さんは、以前ここにあったパン屋さんで働いていたと聞きました。

吉川 そうです、hohoemiというパン屋さんがあって、そこで働いていました。いまは「ひつじドーナツ」いうドーナツ屋をやってはるんですけど(御所南)、ドーナツ屋をはじめるタイミングで(hohoemiを)閉めることになり、僕もそれで辞めました。そのあとコーヒー屋さんで働いたり、石窯で京野菜を焼いたりするお店で誘われて働いて、いまに至ります。

ーーパン屋さんは、前から「いつかやるぞ!」と思っていたんですか?

吉川 いや、いちばん最初はケーキ屋さんになりたかったんです。大学もフランス語専攻だったんですけど、やってみたら正直あんまりフランス興味ないなって気がついて(笑)。大学生のとき、姉貴がたまたまパン屋さんでバイトしていて誘われて・・・というところからです。そのときに「なんかいいなぁ」「パンつくれるようになったらいいなぁ」と。そんな、めちゃくちゃ情熱があったわけじゃなくて、なんとなく、です(笑)。なんか、パンしかできへんしパン屋さんをはじめただけで。

ーー「パンいいなぁ」と思ったのは、何でですか?

吉川 えーっと・・・あんぱんを発酵させて窯に入れるときって、ぷりっぷりなんですよ。「めっちゃかわいいなぁ」と思って(笑)。めっちゃかわいくて、なんかいいなぁと思って、そのままここまできました。その初期衝動のままで。

land3.jpg店主の吉川さん。「写真撮られるの苦手なんですよね」

パン屋さんってハードワーク?

ーーパン屋さんってけっこうハードワークなイメージがあって、定休日がなかったり、年末年始だけ休みというところもありますよね。そんななか、LANDは週休2日で、それがいいなと思っていたんです。

吉川 そうですね、パン屋は楽ではないです。この店もオープンしたてのときは休みが週1日だったんですけど、「しんどいな」と思ってもう1日増やして。そうしてるうちに忙しくなって回らなくなって、休みを週3日に増やしたんですけど、今はスタッフも入ってくれて、お客さんも来てくれるし、もうちょっと開けようかなと週休2日になっています。

ーー仕込みは何時ごろからやっているんですか?

吉川 遅いですよ、朝5時くらい。

ーーええ、5時で遅いんですか・・・。

吉川 たぶんほかのパン屋さんは、3時とか4時とか、それくらいちゃいますか。僕のところは、前日に仕込みを全部やってしまって朝から焼いていくっていう作業なんです。従来だったら、夜中から仕込んで焼いて、ということをしているんですけど。いわゆるパン屋さんの仕事は、15~16時間お店にいて、ちょっと仮眠して・・・というのばっかりやと思いますね。

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もういやや!ってならへん量だけやってます

吉川 僕も以前はどっちかというと働きづめのタイプだったんです。けど子どもができて、「働いてるだけやったらあかんな」と。家族の時間を大切にしたいし、週1日はゆっくり休むようにしています。うまいこといかんくて、仕事に出なあかんときもあるんですけど、いわゆるパン屋さんよりはだいぶ楽してると思いますね。もっと夜中から仕込みをして朝を迎えて、そのまま夕方までお店開けてっていうところが多いと思うんですけど・・・それをやっていると、僕はたぶんおもんなくなっていくから。しんどいんですよね。

ーー毎日のことですもんね。

吉川 だから今も、「いや、もういやや!」ってならへん量だけやってます(笑)。

ーーめっちゃ大事なことだと思います。売り切れたら終わりにしているのも、それでですか?

吉川 そうですね、量を作ろうと思ったらもっと作れるとは思うんですけど・・・クオリティの問題もあるし、はよ帰って子どもの成長をみたいなっていうのが一番大きいです。

 商売なのでシビアな部分もあるけれど、これしたらお客さんたくさん来るかな、実入りがいいかなというより、「あれやりたいな」「これやりたいな」が先行しています。うまいこといったらお客さんの反応もあるし、たくさん来てくれたらパンも売れるし、そうして早く売り切れたら早く帰って家でゆっくりできるなと。

ーーとくに週末、パンがなくなるのが14時ごろとか、けっこう早いですよね。

吉川 ありがたいことに。でも平日もそんなに変わんないですよ。

 その店のゴールデンタイム的なものってあるじゃないですか。うちは朝8時半オープンなんですけど、朝の時間からたくさんパンが並んでいて、その日1日を充実させてほしいなという気持ちがあるんです。なので夕方に(並んでるパンが)1個、2個のところに来て「なんもないやん」ってなるくらいやったら、そこで利益とらんでいいし、近所のいつも行ってるお店とかにあげて終わったりします。最後にたまたま寄ってくれて何個か買ってくれたら、「これもどうぞ」ってあげて終わったり(笑)。商売的にはナシなんでしょうけど、僕は全然いいかなって思っています。それを狙ってるわけじゃないけど、それで1個もらったりしたら「ラッキー、親切やなー」って思って、またいっぱい並んでるときに来てくれたらいいかなって。

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自分が毎日食べても大丈夫やと
思えるもんじゃないと出したらあかん

ーーあの、ベーコンやハムもご自身で作っていますよね。サンドイッチのメニューボードを見ていたら、小さい字で「自家製」って書いていて、びっくりしたことがあります。

land5.jpgサンドイッチのメニューボード(2月7日撮影)。日によってサンドイッチのメニューも変わる

吉川 作ってますね。ベーコンもスモークサーモンもハムも、ぜんぶ1からやってます。

ーーなんで、全部自分で作ってはるんですか?

吉川 うーん、単純においしいからかな、売ってるやつより。自分でやったほうが自分の好きな味にできる。ハムもサーモンも、出来合いのもんやったら添加物多いんですよ。発色剤やら防腐剤やら入ってる。僕は私生活でマクドも食べるしなんでも食べるんですけど、毎日買いに来てくれはるお客さんがいる状況で、自分があんまり気持ちよく出せないものを出すって不健全やなと感じているんです。やから、「健康にいいですよ」と謳って出しているというよりも、最低限の責任として、自分が毎日食べても大丈夫やと思えるもんじゃないと出したらあかんなと思っていて。

 やるんやったら自分でやりたい。できへんねやったら出さない。それが普通なんですけどね、自分でできへんことはやらへん、というのがほんまやと思いますけど、いかんせん世の中が便利すぎるんで、手に入っちゃう。言うてしまえば、無責任なものでも使えます。パン屋やから、無添加で○○酵母で・・・といって生地はこだわっていても、チーズは市販のプロセスチーズだったり、中の具材って意外とみんなこだわってないんですよね。ベーコンは添加剤たっぷりだったりして。でも、うちみたいな個人店がずっとそれを続けていたら何も変わらないから。

ーー昔から、そういうふうに考えていたんでしょうか?

吉川 いやいや、自分でここ(LAND)をやり始めてからです。それまではやっぱり責任感ないんですよね、働いていても。こういう作り方ですと決められていたら「そうかー」と思っていたし、「あんまり出来よくないな」と思っても上の人に出せって言われたら出していた。でも自分の店は全部自分の責任で、すべてが自分にかえってくる。お客さんが毎日食べるという責任は僕にかかってくる。あとは、娘が生まれたことも大きいかなと思いますね。

 裏側のことはまったく知らずに、ただ「おいしいな」「なんか落ち着く味だな」と信頼して食べていたLANDのパン。仕事にささくれ立ったときに助けを求めるように買いに行っていたパンが、誠実なひとの手によって作られていたことを知って、なんだか自分も誠実に働こうと思ったのでした。

 作る人たちが誠実なだけでなく、すごくおいしいパンたちが並んでいます。いちど足を運んでみてください!

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LAND
京都市上京区荒神口通河原町東入ル亀屋町128

営業時間:朝8時半~売り切れ次第終了
定休日:水・木曜日(ほか不定休)

ミシマ社メンバーからのおすすめコメント:
早い時間帯にパンが多く並んでいるので、いろいろ種類を見たい方は朝方に行くのがおすすめです。注文してから作ってくれるサンドイッチは、食べ応えがあって抜群においしい!

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