ミシマ社ご近所マップ

第6回

お菓子工房 sampo

2022.02.27更新

外観正面.JPG

ミシマ社京都オフィスから歩いて5分もかからないところに、ちいさな焼き菓子屋さんがあります。チリリンとドアを鳴らして中に入れば、棚いっぱいにクッキーやパウンドケーキ、キッシュなど、様々な焼き菓子が並びます。レジの横にちょこんと座っている人形や、壁にかかったアンティークのおもちゃなど、内装もかわいらしくて、おやつを買いに行くたびに、しあわせな気持ちになります。

そんな話をご近所さんとしていたら、どうやら店主の方はフランスに飛び込みで修行に行ったらしい、という大胆エピソードが。レジでお見かけするやわらかな雰囲気からは、全然想像がつかない・・・。そんなわけで、こちらも"飛び込み"で取材を依頼。店主の田中さんにお話を伺いました。

***

シンプルだけど、こだわりの材料で

ーーあの、本当においしくて・・・。すごく素朴な味というか、こう、じんわりと、おいしいなぁって。

田中さん(以下、田中) ありがとうございます。うちは基本的にはできるだけ無添加で、自然なものを使っています。材料もめちゃめちゃシンプルで、保存料も全く使ってないので、できるだけ早めに食べてもらうほうが、やっぱりおいしいです。

カヌレ.JPG(レジ横のガラスケースを指して)そちらは毎朝焼き立てをお出ししていて、カヌレとかは特に、焼きたてと何日か経ったのでは、食感が全然違うんですよ。次の日になると全体的にフニャっとなってしまうので、やっぱり焼きたての、このカリっとしたのを味わってほしいです。あとは、バターは9割くらいは発酵バターを使っています。香りが全然違うんですよ。溶かしバターにするとよくわかるんですけど、もう、チーズみたいな香りがしてきます。

ーーお菓子のレシピはどうやって思いつくんですか?

田中 いろんなところからですね。今まで作ってきたものを、ちょっとアレンジしたりとか。あとは昔食べて、「あれおいしかったけど、どうやって作ってたんかなぁ?」っていうのを、自分なりにひも解いてみたり。

クッキー.JPG

最初のフランス修行は悔しい思いの方が大きかった

ーーフランスで修行されたと伺いました。

田中 一番最初にフランスに行ったのは19歳の時です。大阪の辻製菓専門学校に通っていて、そこの2年目のコースでフランス校があったんですね。半年間、毎日、授業を受けて。

ーーどんな授業なんですか?

田中 常に作ってました。フランスのケーキ屋さんて、お菓子も出すけど、クロワッサンとか、ブリオッシュとか、ああいうパンも出すんですね。そういうのを作ったり、レストランの皿盛りのデセール(デザート)を作る授業もあって、お菓子だけでなくいろんなタイプのデザートを学びました。

ーーだからこのお店にもキッシュが売っているんですね。

田中 そうです。そして残りの半年は、現地のお菓子屋さんで研修。

ーーそれはパリですか?それともどこかの地方に?

田中 リヨンです。

ーー地域によってお菓子って違うものですか?

田中 全然違いますね。パリは日本でいう東京と一緒で、洗練された最新のお菓子が並びますけど、地方に行くと、昔ながらの伝統菓子が残っているお店が多くて。私はどちらかといえばそういうのが好きで、学びたいと思っていました。

最初の滞在の時は、悔しい思いの方が大きくて。言葉もわからなくて、こう・・・モヤモヤしてることも多かったんで、ちゃんと言葉もある程度身につけて、もう一回働きたいなっていう思いは、ずっと持っていました。帰国後は日本のお菓子屋さんを何軒かまわって働いて、その間にフランス語を習いつつお金を貯めて。20代のときにもう一回戻った時は、半年間、語学学校だけ通ったんですよ。で、いったん帰国して、そのあとワーホリ(ワーキング・ホリデー制度)のビザをとって、また行きました。

粉.JPG

製造から販売まで、すべて田中さんがお一人でやられています。

2度目の修行は憧れのお店で

田中 (レジの写真を指して)実はこのお店、私が初めてフランスに行ったときに、どうしても行きたくて、一人旅で行った老舗のお菓子屋さんなんです。その時食べたお菓子が、すっごいおいしくて。いまうちでも出してるリンツァートルテ、これはまさしくアルザスの伝統菓子なんですけど、あとはクグロフっていうパンのようなイースト菓子とか、そういうのを買って食べて、感動して。でもそのときはまさか、10年近くあとに自分がここで働くなんて、夢にも思っていませんでした。

ーーここに飛び込みで行ったんですよね?どんな感じだったんですか?すごく緊張しそう・・・。

田中 向こうに行く前にまずメールでコンタクトはとっていたんです。働けるかはわからないけど、とりあえず面接をしてくれることになって。もう本当に、断られたらいっかんの終わりや!と思って。断られたら路頭に迷うところでした(笑)。

ーーうわあ~~~っ。

田中 行って、とりあえずホテルに荷物置いて、そのままお店に行って・・・私の前に働かれている日本人の女性がいて、その方がちょうど他の店に移るタイミングやったんで、本当にたまたま・・・ラッキーとしか言いようがないです。

ーー面接ではどんなお話を?

田中 どういうお店で今まで働いてきたかとか、軽く、そういう感じでしたね。

ーーその頃はもう、習ったフランス語で!

田中 そうですね。へへへ。

レジ横の写真.JPG

ーー働いてみて、どうでしたか?

田中 オーナーはその時もう80歳近くのおじいちゃんでしたけれど、まだ現役でバリバリ働いていて、厳しい人でした。

ーー厳しい、ってどういう感じなんですか?

田中 本当に、とことん材料とかにこだわっているんですよね。そういうのもあって、絶対無駄にしない。生クリーム一滴さえ残しては怒られる! みたいな。本当に基本的なことから言ったら、水を使うのも、日本人だったら感覚で(蛇口をひねって)ガーッて出すじゃないですか。それをしたらめっちゃ怒られます。

ーーきっちり何グラム、みたいなことですか?

田中 っていうよりも、向こうは日本よりも電気代とか光熱費がすごく高いんですよ。ヨーロッパに行って、ホテルでシャワーのお湯とか出なくなったことありませんか? 日本は全然そういうのがないですけど、向こうはやっぱり一定量のお湯とかしかないんで、それを使いきったら、沸くまで、ね。

ジャムを塗る.JPG

フランスの伝統菓子・リンツァートルテの仕上げをする田中さん。sampoでも人気です。

地元の人に愛されて、今年で10周年

ーーこのお店はいつからあるんですか?

田中 今年の9月で丸10年です。

ーーわぁー!おめでとうございます。お客さんは近所の方が多いですか?

田中 完全にそうですね。自転車で来たり、仕事帰りとかに、ちょっと寄ってくれはる感じです。

ーー全部お一人でやられてますよね?作る量はどうやって決めていますか?

田中 それはもう、天気とかによっても変わりますし、

ーー天気ですか?

田中 雨の日は半分くらい客足が落ちるので、もとから作る数を減らします。あとは春夏秋冬で言うと、忙しいのは春と秋なんですよ。観光で来る人も増えるので、その季節はいっぱい作ります。

ハリネズミ焼き上がり.JPG

ーークッキーが星とか動物とかいろんな形があって、いつもかわいいなあと思っていて。でもこのへんのクッキーって、微妙に種類が変わっていっていますよね?

田中 季節によってなくなるものもあります。チョコを使っているものは溶け始めたらやめたり。

ーー(別のクッキーを指して)これはどうやって作っているんですか?

田中 それは絞りでウネウネウネって・・・。

ーーこのボタンの形のクッキーも、バターの味がして、おいしいですよねぇ。

田中 それはマルの抜型を二種類使って、真ん中は竹串であけてます。

ーー本当にひとつひとつ、手作りなんですね。このお菓子たちのベースにあのフランスのお店の味が。

田中 そうですね。それもあるし、いままで働いてきたお店の、いろんないいところを入れています。

棚全体.JPG

今月のご近所マップ

【営業時間】11時〜19時、不定休
【住所】 京都市上京区河原町通荒神口下る上生洲町221 キトウビル 1F
【電話】 075-241-3673
【Facebook】  https://www.facebook.com/okashikoubousampo/
【Instagram】 @sampo_kyoto(DM不可、お問い合わせはお電話でお願いします)

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

  • 『中学生から知りたいパレスチナのこと』を発刊します

    『中学生から知りたいパレスチナのこと』を発刊します

    ミシマガ編集部

    発刊に際し、岡真理さんによる「はじめに」を全文公開いたします。この本が、中学生から大人まであらゆる方にとって、パレスチナ問題の根源にある植民地主義とレイシズムが私たちの日常のなかで続いていることをもういちど知り、歴史に出会い直すきっかけとなりましたら幸いです。

  • 仲野徹×若林理砂 

    仲野徹×若林理砂 "ほどほどの健康"でご機嫌に暮らそう

    ミシマガ編集部

    5月刊『謎の症状――心身の不思議を東洋医学からみると?』著者の若林理砂先生と、3月刊『仲野教授の この座右の銘が効きまっせ!』著者の仲野徹先生。それぞれ医学のプロフェッショナルでありながら、アプローチをまったく異にするお二人による爆笑の対談を、復活記事としてお届けします!

  • 戦争のさなかに踊ること─ヘミングウェイ『蝶々と戦車』

    戦争のさなかに踊ること─ヘミングウェイ『蝶々と戦車』

    下西風澄

     海の向こうで戦争が起きている。  インターネットはドローンの爆撃を手のひらに映し、避難する難民たちを羊の群れのように俯瞰する。

  • この世がでっかい競馬場すぎる

    この世がでっかい競馬場すぎる

    佐藤ゆき乃

     この世がでっかい競馬場すぎる。もう本当に早くここから出たい。  脳のキャパシティが小さい、寝つきが悪い、友だちも少ない、貧乏、口下手、花粉症、知覚過敏、さらには性格が暗いなどの理由で、自分の場合はけっこう頻繁に…

この記事のバックナンバー

02月27日
第6回 お菓子工房 sampo ミシマガ編集部
01月17日
第5回 SOCO(カレー屋・バー) ミシマガ編集部
07月21日
第4回 西荻窪 日常軒(お弁当・豚饅) ミシマガ編集部
04月20日
第3回 番外編『ほかのつばめのおはなし』印刷&製本現場レポート ミシマガ編集部
02月09日
第2回 京都 LAND(パン屋) ミシマガ編集部
06月27日
第1回 京都 玉の湯 ミシマガ編集部
ページトップへ