ミシマ社ご近所マップ

第7回

お菓子工房 sampo

2022.02.27更新

外観正面.JPG

ミシマ社京都オフィスから歩いて5分もかからないところに、ちいさな焼き菓子屋さんがあります。チリリンとドアを鳴らして中に入れば、棚いっぱいにクッキーやパウンドケーキ、キッシュなど、様々な焼き菓子が並びます。レジの横にちょこんと座っている人形や、壁にかかったアンティークのおもちゃなど、内装もかわいらしくて、おやつを買いに行くたびに、しあわせな気持ちになります。

そんな話をご近所さんとしていたら、どうやら店主の方はフランスに飛び込みで修行に行ったらしい、という大胆エピソードが。レジでお見かけするやわらかな雰囲気からは、全然想像がつかない・・・。そんなわけで、こちらも"飛び込み"で取材を依頼。店主の田中さんにお話を伺いました。

***

シンプルだけど、こだわりの材料で

ーーあの、本当においしくて・・・。すごく素朴な味というか、こう、じんわりと、おいしいなぁって。

田中さん(以下、田中) ありがとうございます。うちは基本的にはできるだけ無添加で、自然なものを使っています。材料もめちゃめちゃシンプルで、保存料も全く使ってないので、できるだけ早めに食べてもらうほうが、やっぱりおいしいです。

カヌレ.JPG(レジ横のガラスケースを指して)そちらは毎朝焼き立てをお出ししていて、カヌレとかは特に、焼きたてと何日か経ったのでは、食感が全然違うんですよ。次の日になると全体的にフニャっとなってしまうので、やっぱり焼きたての、このカリっとしたのを味わってほしいです。あとは、バターは9割くらいは発酵バターを使っています。香りが全然違うんですよ。溶かしバターにするとよくわかるんですけど、もう、チーズみたいな香りがしてきます。

ーーお菓子のレシピはどうやって思いつくんですか?

田中 いろんなところからですね。今まで作ってきたものを、ちょっとアレンジしたりとか。あとは昔食べて、「あれおいしかったけど、どうやって作ってたんかなぁ?」っていうのを、自分なりにひも解いてみたり。

クッキー.JPG

最初のフランス修行は悔しい思いの方が大きかった

ーーフランスで修行されたと伺いました。

田中 一番最初にフランスに行ったのは19歳の時です。大阪の辻製菓専門学校に通っていて、そこの2年目のコースでフランス校があったんですね。半年間、毎日、授業を受けて。

ーーどんな授業なんですか?

田中 常に作ってました。フランスのケーキ屋さんて、お菓子も出すけど、クロワッサンとか、ブリオッシュとか、ああいうパンも出すんですね。そういうのを作ったり、レストランの皿盛りのデセール(デザート)を作る授業もあって、お菓子だけでなくいろんなタイプのデザートを学びました。

ーーだからこのお店にもキッシュが売っているんですね。

田中 そうです。そして残りの半年は、現地のお菓子屋さんで研修。

ーーそれはパリですか?それともどこかの地方に?

田中 リヨンです。

ーー地域によってお菓子って違うものですか?

田中 全然違いますね。パリは日本でいう東京と一緒で、洗練された最新のお菓子が並びますけど、地方に行くと、昔ながらの伝統菓子が残っているお店が多くて。私はどちらかといえばそういうのが好きで、学びたいと思っていました。

最初の滞在の時は、悔しい思いの方が大きくて。言葉もわからなくて、こう・・・モヤモヤしてることも多かったんで、ちゃんと言葉もある程度身につけて、もう一回働きたいなっていう思いは、ずっと持っていました。帰国後は日本のお菓子屋さんを何軒かまわって働いて、その間にフランス語を習いつつお金を貯めて。20代のときにもう一回戻った時は、半年間、語学学校だけ通ったんですよ。で、いったん帰国して、そのあとワーホリ(ワーキング・ホリデー制度)のビザをとって、また行きました。

粉.JPG

製造から販売まで、すべて田中さんがお一人でやられています。

2度目の修行は憧れのお店で

田中 (レジの写真を指して)実はこのお店、私が初めてフランスに行ったときに、どうしても行きたくて、一人旅で行った老舗のお菓子屋さんなんです。その時食べたお菓子が、すっごいおいしくて。いまうちでも出してるリンツァートルテ、これはまさしくアルザスの伝統菓子なんですけど、あとはクグロフっていうパンのようなイースト菓子とか、そういうのを買って食べて、感動して。でもそのときはまさか、10年近くあとに自分がここで働くなんて、夢にも思っていませんでした。

ーーここに飛び込みで行ったんですよね?どんな感じだったんですか?すごく緊張しそう・・・。

田中 向こうに行く前にまずメールでコンタクトはとっていたんです。働けるかはわからないけど、とりあえず面接をしてくれることになって。もう本当に、断られたらいっかんの終わりや!と思って。断られたら路頭に迷うところでした(笑)。

ーーうわあ~~~っ。

田中 行って、とりあえずホテルに荷物置いて、そのままお店に行って・・・私の前に働かれている日本人の女性がいて、その方がちょうど他の店に移るタイミングやったんで、本当にたまたま・・・ラッキーとしか言いようがないです。

ーー面接ではどんなお話を?

田中 どういうお店で今まで働いてきたかとか、軽く、そういう感じでしたね。

ーーその頃はもう、習ったフランス語で!

田中 そうですね。へへへ。

レジ横の写真.JPG

ーー働いてみて、どうでしたか?

田中 オーナーはその時もう80歳近くのおじいちゃんでしたけれど、まだ現役でバリバリ働いていて、厳しい人でした。

ーー厳しい、ってどういう感じなんですか?

田中 本当に、とことん材料とかにこだわっているんですよね。そういうのもあって、絶対無駄にしない。生クリーム一滴さえ残しては怒られる! みたいな。本当に基本的なことから言ったら、水を使うのも、日本人だったら感覚で(蛇口をひねって)ガーッて出すじゃないですか。それをしたらめっちゃ怒られます。

ーーきっちり何グラム、みたいなことですか?

田中 っていうよりも、向こうは日本よりも電気代とか光熱費がすごく高いんですよ。ヨーロッパに行って、ホテルでシャワーのお湯とか出なくなったことありませんか? 日本は全然そういうのがないですけど、向こうはやっぱり一定量のお湯とかしかないんで、それを使いきったら、沸くまで、ね。

ジャムを塗る.JPG

フランスの伝統菓子・リンツァートルテの仕上げをする田中さん。sampoでも人気です。

地元の人に愛されて、今年で10周年

ーーこのお店はいつからあるんですか?

田中 今年の9月で丸10年です。

ーーわぁー!おめでとうございます。お客さんは近所の方が多いですか?

田中 完全にそうですね。自転車で来たり、仕事帰りとかに、ちょっと寄ってくれはる感じです。

ーー全部お一人でやられてますよね?作る量はどうやって決めていますか?

田中 それはもう、天気とかによっても変わりますし、

ーー天気ですか?

田中 雨の日は半分くらい客足が落ちるので、もとから作る数を減らします。あとは春夏秋冬で言うと、忙しいのは春と秋なんですよ。観光で来る人も増えるので、その季節はいっぱい作ります。

ハリネズミ焼き上がり.JPG

ーークッキーが星とか動物とかいろんな形があって、いつもかわいいなあと思っていて。でもこのへんのクッキーって、微妙に種類が変わっていっていますよね?

田中 季節によってなくなるものもあります。チョコを使っているものは溶け始めたらやめたり。

ーー(別のクッキーを指して)これはどうやって作っているんですか?

田中 それは絞りでウネウネウネって・・・。

ーーこのボタンの形のクッキーも、バターの味がして、おいしいですよねぇ。

田中 それはマルの抜型を二種類使って、真ん中は竹串であけてます。

ーー本当にひとつひとつ、手作りなんですね。このお菓子たちのベースにあのフランスのお店の味が。

田中 そうですね。それもあるし、いままで働いてきたお店の、いろんないいところを入れています。

棚全体.JPG

今月のご近所マップ

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