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第4回

番外編『ほかのつばめのおはなし』印刷&製本現場レポート

2021.04.20更新

冊子とDM.JPG

こんにちは。ミシマ社京都オフィスです。4月17日からご近所のうつわ屋さん「うつわや あ花音」で、「矢島操展 『ツバメのおはなし2』」が始まっています。この展覧会はもともと昨年4月に開催予定でしたが、緊急事態宣言を受けてオンライン上で開催されました。その際お店のインスタグラムには、矢島さんの作品と共に、作家のいしいしんじさんによる書き下ろし小説「ほかのつばめのおはなし」が掲載されました。

この度一年越しの開催を記念して、この物語を冊子にしたいとあ花音さんから相談を受け、編集とデザインをミシマ社が、京都・浄土寺にあるリソグラフのスタジオ「Hand Saw Press Kyoto(ハンドソウプレス京都)」が、印刷と製本を担当しました。ご近所さん同士で作った、ちいさくて、とってもかわいらしい一冊。今回はその制作現場をレポートします。

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スタジオ全景.JPG

 Hand Saw Press Kyotoは、ミシマ社も普段からお世話になっている、ホホホ座浄土寺店の2階にあります。もとは店主の小田晶房さんが、友人たちと東京で始めたリソグラフのスタジオで、2019年に京都にも拠点ができました(このへんの経緯や小田さんについては、こちらのウェブの記事に詳しくあるので、ぜひご覧ください)。ここにはリソグラフ、丁合機、製本機、断裁機があり、チラシなど一枚モノの印刷からZINEなどのリトルプレスまで、少部数の印刷を行っています(要予約・相談)。

リソグラフ引き.JPG

 こちらがリソグラフの機械です。リソグラフは通常のコピー機よりも印刷代が安いため、今でもほとんどの学校や役所、不動産屋などで使われています。日本では安価な印刷物というイメージが強いですが、海外では約15年くらい前からアート作品として用いられ始め、日本にはほとんどないリソグラフ・スタジオが、世界には1000近くあるようです。ちなみに「リソグラフ」は理想科学工業が作った孔版印刷機の商品名です。

表紙を印刷!

 まずは印刷の元となる「版」を作ります。今回の表紙は黒と赤の2色を使ったデザイン。黒色と赤色のパーツに分けてパソコンでデータを作り、リソグラフに取り込みます。

和紙.JPG版の材料はなんと、和紙。製版時に無数の小さな穴をあけ、そこにインクを通して印刷する仕組みです。

出来上がった版を、リソグラフの中に入っているインクのドラムに巻き付け、セットします。この機械では一度に2色刷ることができます。

ドラム缶.JPG

 実はこの前に、「あか」色の部分をどんな色味、濃さにするか、何度も試し刷りをしました。インクの特性上、あか色は濃度が強すぎると手についてしまう可能性もあるそうで、その辺も気をつけながら、目指す色を探していきます。

リソ調整小田さん.JPG

「1時間くらいやってると、突然ハッとする色に出会うことがあります」と小田さん。

次は製本!

あらかじめ刷っていた本文を、裏表や向きを確かめ丁合機にセット。スタートボタンを押すと各棚の紙が一枚ずつ吸い込まれていき、あっという間にひとまとまりになって出てきました(本当に一瞬でした・・・!)

丁合機全体.JPG

丁合機から出てきたものは、ページが見開きでつながっているので、断裁機で半分にカットし、

裁断する小田さん.JPG

※編集部注:この写真は本文ではなく別の部分の断裁をしているところです。

製本機で背をくっつけます。

糊付けのローラー.JPG

手前にセットしてある本文の束が、糊がついた赤いローラーの上を通っていきます。

一つにまとまった本文を先ほど印刷した表紙にはさみ、くっつけたら完成!と思いきや・・・

製本反対に.JPG

「あーっ!!」(←その場にいた全員で叫びました)

製本機にセットするときに裏表を間違えて、最後のページが本の真ん中にきてしまいました・・・。他にも、背表紙の位置が微妙に合わなかったりと、試行錯誤する小田さん。中古の機械なので(なんとヤフオクで購入!)毎回微調整が必要だそうですが、そのぶんうまくいったときの感動は特別です。

出来立てホヤホヤ.JPG出来立てホヤホヤの冊子。中の順番もバッチリ。

集会所みたいな場所を

現在小田さんは、ワークショップの開催や、誰でも自由に印刷ができる、リソグラフのオープンスペースを準備中。

「以前西会津に『バーバリアン・ブックス』というところがあって、ITWSTというグラフィックデザインユニットが、古い呉服屋さんを借りて、デザイン事務所みたいにしてたんです。土間があって、そこにリソグラフとか置いて、自分たちは奥でデザインの仕事とかして。

そこはちょうど小学校の近所にあって、帰り道に子どもたちが『なにしてるんやろ?』って覗くんですよね。それで、『入りや入りや〜』って中に迎えたら、子どもたちが土間で宿題をしたりして、寺子屋みたいになったらしいんですね。二人とも気のいい人たちだから、お茶を出したり、一緒に遊んだりして。そのうち子どもたちが、土間に置いてあったリソグラフに興味を持ち始めて、自分たちで小冊子を作り始めて、それが楽しくてみんな通うようになって・・・ほんまに、未来を感じる話やなーって。

小田さんスマイル.JPG 「こういう印刷工房っていうのが、ただ単にものを作るだけじゃなくって、集会所であり、メディアを作るためのきっかけになる場所になりうるんですよ(編集部注:バーバリアン・ブックスのお二人は現在、広島に移住されています)」

ーー自分たちの身の回りの、些細なことだけどその周辺の人にとってはおもしろいし、すごく大事、みたいなことを伝えていくのにいいですよね。

「そうそう。だって、そうするためには別に、大量に刷らなくていいし、しかも、リソグラフはヤフオクとかで買えちゃうわけだから(笑)。自分で機械を買えば、自分で印刷して作ることって、誰だってできるんです」

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 思ったよりもずっと気軽に自分のメディアを作ることができる、リソグラフ。流通面で難しいことも多い商業出版の世界で、「手売りブックス」シリーズや「ちいさいミシマ社」レーベルなど、ミシマ社もこれまで、様々な作り方や届け方を模索してきました。今回(自分たちにとっての)新しい本作りの現場に立ち会ったことで、いろんな可能性を感じワクワクしました。何より印刷や製本の過程に立ち会ったことで、出来上がった冊子によりいっそう、愛着が湧きました。今後のHand Saw Press Kyotoの展開が、とっても楽しみです!

Hand Saw Press Kyoto
文中にもありましたように、現在ホホホ座の一階に、リソグラフのスタジオを準備中。オープンを心待ちにしつつ、いますぐ気になる!印刷をやってみたい!という方は、メールにてご相談ください。oda@handsewpress.com

ウェブサイト:https://handsawpresstokyo.com/
インスタグラム:@handsawpress

Hand Saw Press Journal
こちらのサイトでは小田さんが、スタジオのことやリソグラフのことなどを書いています。印刷機の裏側も知ることができ、とってもおもしろいので、ぜひ!https://journal.handsawpress.com/from-hand-saw-press-kyoto/

編集部からのお知らせ

矢島操展 「ツバメのおはなし2」

2021年4月17日(土)〜25日(日)10:30〜17:30(会期中無休)

今後の社会情勢により、開催方法に変更が生じる場合がございます。
詳細はうつわやあ花音にお問い合わせください。

うつわやあ花音
京都市左京区南南禅寺福地町83-1

ウェブサイト:http://www.utsuwayaakane.com/
インスタグラム:@utsuwayaakane

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