村瀬秀信さんに聞く 野球のこと・ライターの生き様のこと(2)

第2回

村瀬秀信さんに聞く 野球のこと・ライターの生き様のこと(2)

2019.05.22更新

 こんにちは、新人のスガです。突然ですが、私は野球が大好きです。そんな私が、昨年出会った一冊が、『止めたバットでツーベース』という、野球ノンフィクションの短編集でした。

止めツー.jpg

『止めたバットでツーベース』村瀬秀信(双葉社)

 ヤクルトスワローズの絵を書き続けることで、チームの一員になろうとする芸術家の話や、階級や宗派の壁を超えて、一緒にカープを応援するお坊さんの話など、様々な角度から野球を描くこの本。

 そのなかに、ファンを描く作品も複数収められています。そのどれもが「熱狂するとはどういうことか」を語っている、印象深い作品ばかりです。

 「選手も、ファンも、自分の出来得ることで、誰かのために力になりたいと願う。野球を動かしているのは人間の情だ。人間のよろこび、悲しみ、義侠心。怨念にも似た妬み嫉み。そんなものがどちらへ転ぶともしれない白球を媒介としてぶつかり合う。だからプロ野球は人間くさい。だからプロ野球は人の心に突き刺さるのだ」

『止めたバットでツーベース』p286〜p287

 今回の「教えてください」は、『止めたバットでツーベース』の著者である、村瀬秀信さんにお話を伺いました。
 この18の短編からなる作品集で、ご自身も熱狂的なベイスターズファンである村瀬さんが、ファンにも焦点をあてた理由や、ライターという職業について、そして、この短編集のカギを握っているのは、実は「生と死」であるということについてお話してくださいました。2日にわたり掲載します!(前半はコチラ

(構成:須賀紘也 写真:星野友里)

「悪の組織」で得たもの

―― ライターとしての心構えはありますか?

村瀬 ありますけど、言わないです。古いなぁと思うんです。最近になってようやく時代じゃないと悟りました。僕は編集プロダクションもやっていて、巣立ってフリーになった子たちが今もライターを続けてくれているんですけどね。その中のひとりが最近本を出したんですよ。それを読むとね、その子は僕が言ってきた「ライターとはかくあるべし」みたいな戦陣訓並みに前時代的な精神論の影響を見事に受け継いでいる。個人的には「立派な物書きになったなぁ」とは思うんですけどね。一方でこんな時代遅れの帝国軍人がこの先の文明社会で食っていけるのかな。申し訳ないなぁという仄暗い気持ちになりました。

―― その方に言っていたのは、「ライターは生活を切り売りしていくんだよ」みたいなことですか?

村瀬 とは言わないけれど、似たようなことではあるのでしょうね。ものごとに興味を持てなくなるときが、ライターが死ぬときだってよく言われますが、今じゃ売るべき生活もあらゆるメディアで飽和状態の値がつかない状態。そんなやり方じゃ、興味の前にお金が尽きて死んじまいますよ。だから、いろんな人がどうすればいい本を作れる仕組みを繋いでいけるかってことを必死で考えてくれているんでしょうけど。志がある人がまだ結構いることがまだ続けていける救いですよ。

―― 村瀬さんは、もともとデストロンという悪の組織でライターをされていたと読んだのですけれども、これはどういう組織なんですか?

村瀬 悪の組織です(笑)。肩書は戦闘員でした。今から20年前に、コンプライアンスなどない時代のことですよ。
 当時ある雑誌で毎週合コンをやり、戦略や戦果をおもしろおかしくレポートするという連載記事がありました。その企画の合コン仲間が集まって、デストロンができた。悪の組織でしょう?

――(笑)

村瀬 当時、ライターになるのにどうすればいいのかなと、フロムエーを読んでいたら、「ライター募集・デストロン」と書いてあるんですよ。「なんかすげえなあ」と思って、気合を入れて書いた履歴書を応募したら、それまで書類選考に落選しまくっていた僕がドラフト1位で採用になりました。

―― 運命的ですね。

村瀬 入ったら、毎週合コンの手伝いやら、エロ本の撮影やら、カルト集団への潜入やら、常識が180度ひっくり返るような経験をたくさんして改造人間にされました。最初に持たせてもらった連載はキセル乗車で北海道までいってカニを買ってくるというね。しかも2回で打ち切り。いまでも古い出版の人には、「あー、お前はデストロンの生き残りか」、と言われる。だから、まっとうなものを書きたいな、という気持ちは強いんです(笑)。

―― デストロン時代の経験がいきているな、と思ったことはありますか?

村瀬 感謝しかありません。一番は取材ができたことです。入って最初にやらされたのは、街頭でのキャッチでした。女性に声を掛けて、写真撮らせてもらう。当時は雑誌の企画などで「パンツを撮らせてくれ」とか、言わなきゃいけなくて。とにかく嫌でした。でもやれって言われたらやらなきゃいけない。できないは通用しませんでしたからね。 

―― 大変ですね・・・

村瀬 でも、取材で聞きづらいことをインタビューで聞くことも、常識的には失礼なことじゃないですか。そういうのって、「パンツを見せてください」のパンツがなにかに変わるだけ。大事なものを見せてもらうために、手を変え品を変え押したり引いたりするわけで。たとえば内川聖一選手に「ベイスターズから出た時の話」を聞くことだってそうそういう取材の基礎的な体力なり、手段の引き出しなりを、悪の組織にいた2年間で鍛えてもらったと思っています
(注)内川聖一選手・・・プロ野球選手。2009年に、低迷するベイスターズから、ホークスにFA移籍。それにともなって、一部のファンからバッシングを受けることもあった。

文系の野球

―― 第5章は「文系野球の聖地」という、東京ドームのそばにある山下書店さん(現オークスブックセンター東京ドーム店)のお話が出てきました。よく行かれるんですか?

村瀬 あの文章を書いた当時は、近所に事務所を構えていたので、本当にしょっちゅう行っていたんですけど、ベイスターズが東京ドームでの試合一勝もできなかった年があって。それ以来足が遠のきました。

―― それはトラウマですね(笑)。ところで、お勧めのノンフィクションの本ってありますか?

村瀬 スポーツだと、永沢光雄さんの『強くて淋しい男たち』がベストです。松井浩さんの『打撃の神髄 榎本喜八伝』も大好きです。あとはえのきどいちろうさんが書かれたエッセイとかコラム集。面白いですよね。

強くて淋しい男たち.jpg『強くて淋しい男たち』永沢光雄(ちくま文庫)

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『打撃の神髄-榎本喜八伝』松井浩(講談社)

―― 読みます。ありがとうございます。
 第5章のタイトルにも出てくる、「文系野球」という言葉を、最近よく耳にして、熱が来てるなと思います。文系野球とは、なんなのでしょうか。

村瀬 来てるんですか? 全然実感がありません。なんなのでしょうね。
 野球は体育会系だけのものではなくて、そもそも文系のものでもあるんです。近藤唯之さんのような名だたるスポーツライターたちが活躍していた時代は、活字だけの野球、文系野球も盛り上がっていたんです。
 しかし最近そういうのがあんまりなくなっています。もっと文章のほうから野球を盛り上げたり、野球の面白さを伝える動きがあればいいと思います。

―― それで始められたのが、村瀬さんがコミッショナーを務める「文春野球」ですね。各球団ファンの著者が自分の球団について、選手のドキュメンタリーから、球場の小ネタ集のようなものまで書いていておもしろいです。

村瀬 いろんなことがあっていいと思うんです。データのものがあってもいいと思うし、選手によったものでもいいし、周りの人の生き方でもいい。様々な角度から、野球のおもしろさをもっと提示して行ければいいですね。

―― 文春野球は、読者がおもしろいと思ったら押す「HITボタン」が押された数を競うことで、記事で試合をします。まさに「文系の野球」ですね。

村瀬 みんなプライドを掛けて本気で戦っています。だから、コミッショナーとしては大変です。というか、コミッショナーってなんなんでしょうね。今更ですけど。

目の前の試合で命を燃やせればそれでいい

―― 第18章『止めたバットでツーベース』の一節、「野球は人生に似ている、こちらの意図など関係なく、球の行方は神のみぞ知る。止めたバットでツーベースになることもあれば、ベストを尽くしたバックホームが、目の前で大きくイレギュラーしてしまうこともある」、この言葉は人生そのものを言い表していると思います。

村瀬 なんだか宗教的な話になってしまいますが、生きていてなにかに導かれている感じってありますよね。
 おととし死ぬかもしれないってなったときに、いろいろなめぐり合わせがあったんですよ。ノイローゼになって、お坊さんに話を聞いてもらいに行ったら、そのお坊さんが実は小学校の同級生だったり。そんなとき、ベイスターズが19年ぶりに日本シリーズに出場した。

―― はい。

村瀬 日本シリーズは最初3連敗。いきなりもう負けられない状況に追い込まれたところで、僕が43度の高熱を出して救急車で運ばれて入院した。
 そこから2連勝して、「これはベイスターズが日本一になると死んじゃうんじゃないか」と思いました。まわりの家族も病人が多くなってきて。

―― 日本一にならなくてよかったかもしれませんね(笑)。

村瀬 今みんな元気なのも、内川が打ってくれたおかげですよ。
(注)ベイスターズの2勝3敗で迎えた第6戦。1点リードの9回裏に、ソフトバンクの内川に同点ホームランを打たれ、その後延長戦で敗れる。

 これもすごいめぐりあわせで、もともとはベイスターズにいた内川が同点ホームラン打つんですよね。「優勝したいんだ」、という思いが強くて、どうしようもなかったかつてのベイスターズに絶望してFAで出て行った、ソフトバンクで、「優勝ってこんなにいいもんなんだ」と知った内川が、セリーグの3位だったのに、短期決戦のクライマックスシリーズで勝って、ひょいと出てきたベイスターズに、「そんな簡単に日本一にはなれないよ」と立ちはだかる。これもすごいめぐりあわせでした。

―― すごいですね。

村瀬 最後日本一を決めた、ソフトバンクの川島慶三のサヨナラタイムリーもね、最後のホームへの送球が素晴らしくて、完全にタイミングはアウトなんですよね。そのボールがイレギュラーして逸れる。

―― ドラマを感じますね。

村瀬 はい。だから最後の章の最後にもってきました。

―― イレギュラーとどう付き合うのか、というは難しいですね。

村瀬 人生イレギュラーばっかりですもんね。

――  そうですよね。イレギュラーとどう付き合えばいいのでしょうか?

村瀬 どうすればいいんですかね。でも受け入れるしかないですよね。大事なことは、その場その場で一生懸命やることだと思います。

―― 18章の「勝った負けたは一瞬の幻で、僕らは目の前の試合で命を燃やせればそれでいい」という言葉は、すべての人に贈りたい言葉だと思います。

村瀬 ありがとうございます(笑)。

―― 今年のベイスターズはいかがですか?

村瀬 (難しい顔で)いやいや。

―― (笑)

村瀬 今年は70周年ですから。頑張ってほしいです。いっつも言ってますけど。


プロフィール

村瀬秀信さん

1975年生まれ。神奈川県出身。全国を放浪後、2000年にライター事務所「デストロン」の戦闘員に採用。幅広い媒体で執筆したのち03年からフリーに。主な著書に『止めたバットでツーベース 村瀬秀信 野球短編自撰集』、『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ 涙の球団史』、『気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている』など。現在は編集プロダクション、Office Ti+代表。

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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