料理と利他

第1回

『料理と利他』の「はじめに」を公開します!

2020.12.13更新

こんにちは。土井善晴先生のファンになって5年、この半年は師と仰いでいます営業のモリです。

来週12/15(火)、ついに土井善晴先生と中島岳志先生の対談『料理と利他』を刊行します!

1213_1.pngMSLive!で6月と8月に開催し、大反響だったお二人の対談を完全再現した対談本です!

土井先生が登場されたMSLive!の動画一覧はこちら!

刊行に先立ち、中島先生による「はじめに」を公開します。土井先生の魅力と謎、中島先生の考える利他とのつながり、などなど、本文を読みたくなる前菜というべき文章、どうぞお読みください!

『料理と利他』 はじめに

 土井善晴さんのことを強く意識しはじめたのは、数年前のことです。もちろん土井さんのお顔はテレビでなじみがありましたし、料理番組も何気なく見たことがありましたが、じっくりと土井さんの考えと向き合ったことはありませんでした。私は大阪で生まれ育ったため、同じ大阪弁の土井さんの語りを聞いて「気さくな大阪のおっちゃんやな〜」と思い、漠然とした共感をもってテレビを見ていました。しかし、認識はその程度のもので、深い関心をもっていたわけではありませんでした。
 
 一方で、土井さんのことを、私に熱心に語る人が身近にいました。妻です。彼女は料理についてとくに詳しいわけではなく、熱心なタイプでもないのですが、なぜか土井さんに強く共感している様子で、私に「土井さんの料理番組を見たほうがいい」と薦めました。そして、私と考え方が近いのではないかと言うのです。
 
 最初はなんとなく聞き流していたのですが、何度か言われると気になるもので、ある日、インターネットで土井さんのことを調べてみました。すると「土井さんの言葉に救われた」「土井さんの本を読んで楽になった」という感想をもつ人が大勢いることを知りました。

 ――なんでだろう?
 
 率直な疑問と関心が湧きました。
 
 確かに土井さんの語りはフランクで、親しみやすい。けど、なんで「救われた」とまで言い、ときに「涙が出た」と言う人がいるのか。最初は合点がいきませんでした。
 
 インターネットでの書き込みを読んでいくと、多くの人が料理をめぐる強迫観念にがんじがらめになり、苦しんでいる様子がわかりました。
 
 仕事で毎日忙しくて、料理をする時間がとれない。なのに、友だちのTwitter やInstagramを見ると、子どものためにつくった「キャラ弁」や豪華な手づくり料理の写真がアップされていたりする。それを見るたびに落ち込んでしまい、自己嫌悪に陥る。自分も家族のために、色とりどりの料理をつくりたいと思うけども、時間にも気持ちにも余裕がなくって、全然できない。そうなると、毎日の料理が辛いものになってしまう。こんなことでいいのかなと悩んでしまう。そんな悪循環のなか、料理への苦しみを抱えている人が多いことがわかりました。
 
 そして、そんな人たちに、土井さんの料理論が一種の救済になっていることを知りました。
 
 土井さんは料理番組で言います。

――「いい加減でええんですよ」「まあ、だいたいでええんですよ」。

 そして、お味噌汁のような「汁(汁もの)一品」と、漬物などの「菜(惣菜)一品」でいいという「一汁一菜」というあり方を提案しています。食卓にいっぱいおかずが並ぶことが「いいこと」と思い込んできた私たちにとって、日本を代表する料理人の土井さんが「一汁一菜でいい」と提唱することは驚きですが、その考え方を知ると、なにか一気に肩の荷が下り、楽になる。そんな経験をしている人が大勢いるのです。

 しかし、土井さんの料理論は、サボることの薦めではありません。土井さんは料理から過剰なものをそぎ落とし、シンプルにすることで、素材の本質に肉迫しようとしているのです。そして、その行為を通じて、人間と自然の関係を再構築しようとしているのです。土井料理論の背後には、日本の家庭料理を支えてきたコスモロジーと哲学があります。そこには自然に沿う生き方を探究してきた無名の日本人の生活史があります。

 私は、土井さんの考え方に触れ、一気に虜になりました。そして、土井さんのお書きになった本を片っ端から読み、雑誌などに掲載されたインタビュー記事を徹底的に集めました。
家庭料理の「職人」として、土井さんが体現してきた技や感覚のなかに、現代を生きる我々が考えなければならない重要な問題があると考えたからです。

 
 二〇二〇年二月、私の勤務先の東京工業大学に「未来の人類研究センター」という組織が立ち上がり、そこで「利他プロジェクト」という研究班がスタートしました。伊藤亜紗さん、若松英輔さん、磯﨑憲一郎さん、國分功一郎さんという現代日本を代表する知性が集結し、私もメンバーとしてプロジェクトのリーダーを務めることになったのですが、私が「利他」という研究テーマを進めるにあたって、真っ先にお会いしたいと思ったのが土井さんでした。

「利他」を考える本質が、土井さんの料理論にあるという直観と確信があったからです。
 
しかし、困難が待ち受けていました。新型コロナウィルスの拡大です。未来の人類研究センターが立ち上がり、「利他プロジェクト」がはじまった途端に、世界はコロナ危機に見舞われました。予定していた研究会はすべて中止になり、私たちはステイホームのなか、オンラインでつながるしかなくなりました。
 
そんなとき、まったく別のところで、旧知のいとうせいこうさんが、「MUSIC DON,TLOCKDOWN」(MDL)という取り組みをはじめました。ライブハウスが軒並み営業できなくなり、経営者もミュージシャンも窮地に陥るなか、そんな状況でも音楽を「ロックダウン」させてはならないとして、オンライン上での「巣ごもりフェス」(ミュージシャンが家などで演奏し、配信でつながる音楽フェス)が開催されることになったのです。私は音楽などまったくできないにもかかわらず、とっさに「なにかやらせてほしい」といとうさんに連絡しました。すると、「毎週オンライン講座をやりませんか」と返信がありました。私は後先考えず、「やります!」と返事をし、「利他的であること」と題したオンライン講座を開始することにしました。
 
ここで、私にとっては奇跡のようなことが起こります。なんとこのオンライン講座を土井さんが見てくださったのです。そして、私に連絡をくださいました。びっくりしました。
 
すぐにでもお会いしたいと思いましたが、コロナ禍です。そのときは緊急事態宣言の只中でした。
 
私は土井さんに「ぜひ、オンラインでお話しさせていただけませんか」と返信し、せっかくなので公開でお話しできないかと考えました。
 
そして実現したのがこの対談です。思いがけないつながりって、あるものですね。
 
 
ミシマ社で開催した二回のオンラインイベントには、驚くほど大勢の方が参加くださりました。質問もたくさんいただきました。その記録が本書です。ライブの雰囲気を味わっていただきたいと考え、加筆などは最小限にしました。とてもおもしろい本になったと思います。なにより、土井さんのお話がおもしろい!
 
今私たちが本当に考えなければならない問題が、料理を通じて、次々に明らかになっていきます。


ではここからは、読者のみなさんと一緒に、新しい世界の扉を開いていくことができればと思います。歴史に背中を押されながら、新しい時代に進んでいきましょう。
 
中島岳志

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

編集部からのお知らせ

土井善晴さん×中島岳志さん対談 「料理はうれしい、おいしいはごほうび。」開催します!

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料理と政治学というまったく違うジャンルにもかかわらず、名コンビとなりつつあるお二人によるオンライン対談イベント「一汁一菜と利他。『料理と利他』の刊行を記念して、3回目の対談を開催します!

詳しくはこちら

第1回、第2回の動画はこちら

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各地の協力書店さんにて、書籍とイベントチケットをお得なセットで販売します!

◎チケット(1,500円)と書籍(1,500円)がセットで2,500円に!(税抜)

◎MSLive初! 紙のチケットで参加いただけます。『料理と利他』をモチーフにデザインしたチケット、参加後も栞や記念に残していただければ幸いです。

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