一冊!取引所「現場からは以上です。」

第11回

人と人とをつなぐ出版流通でありたい

2021.03.20更新

「一冊!取引所」とは?

書店と出版社をつなぐ、クラウド型受発注プラットフォーム。
株式会社カランタが運営し、ミシマ社は共同開発として関わっているサービスです。

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注文作業は大変?

 皆さんこんにちは。「一冊!取引所」のワタナベです。
 突然ですが、こちらの図をご覧ください。まずは、上半分のご説明から。

一冊!取引所のサービスモデル.png

 これは、書店さんに「一冊!取引所」のサービスを説明するときに使っているスライドから抜粋したものです。
 現時点での「一冊!取引所」は、クラウド上で「書店ユーザー」と「出版社ユーザー」のあいだに立って、情報のやり取りをする役回りです。書店さんは、出版社が登録した本のなかに「仕入れたい本」があれば、クリック操作のみで簡単に発注をすることができます。「一冊!取引所」側は、この発注情報を、出版社にパスしていきます。たとえば、本を10アイテム、各5冊ずつまとめて発注するとします。その10アイテムを出している出版社が全部バラバラでも、システムの力で、一瞬にして各社へ注文情報を伝達することができます。
 もし書店さんが同じ作業を電話でやろうとすると、「電話番号を調べる→番号をプッシュする(ときどき掛け間違えたり)→相手が出るのを待つ(営業時間外ならまた明日)→声で注文する、受け手はそれをメモする(メモ間違えたらアウト)」、これを10社分、繰り返す形です。
 FAXの場合は、「書名や冊数を紙に書き込む→FAX番号を調べる→番号をプッシュしてFAXをセット(押し間違えたら別のお宅に届いたり)→注文できたことを信じて入荷を待つ」、これを10回。メールの場合は、「メアドを探して→件名と本文を入力(過去メールをコピペして文面修正忘れたり)→注文したい書名を打ち込むか、別で用意した注文リストをファイル添付→間違いがないかチェックしてから送信ボタンをクリック」といった感じ。これを10回。
 情報の中身が変わりつつ同じ所作をひたすら繰り返すのです。人間がやることですから、ミスもしそうだし、まあ、なんといっても、神経使う。メンドクサイ。電話ですと、途中でちょっとつっけんどんな対応をする相手に運悪く出会っちゃったりして、気が滅入ったりもする。そんなこんなで、疲れます。
 その点、「一冊!取引所」は、ネットでお買い物をするかのような楽しい気持ちで仕入れ業務ができるので、書店さんには、ぜひご利用いただきたいところです。また、注文は勝手に出荷されるわけではなく、いったん、相手出版社の担当者さんがキャッチします。各社の皆さん、出版DXに熱く取り組む方ばかりで、嫌な対応をする方などひとりもおりません。運営の私が保証いたします。

注文をするときに「取引タイプ」を選ぶ

 というわけで、「一冊!取引所」を介して、注文情報が受け渡されるわけです。が、欲しい本が見つかったとしても、誰でも何でも発注できるわけではありません。発注の際、相手出版社に「どのルートで本を仕入れたいか=取引タイプ」を指定する必要があるためです。

一冊!取引所の単品で発注.png

 なお、この「取引タイプ」という言い方は、業界共通ではなく、当サイト固有の用法です。選択肢は3つあり、「取次経由」、「直取引(自社)」、「直取引(トランスビュー扱い)」の3種。
 「取次経由」を使える書店ユーザーは、たとえばトーハン日本出版販売(日販)といった会社が有名ですが、要するに問屋(=出版取次)に口座を持っていることが必須の条件となります。「取次経由」と指定されて注文された本は、出版社から取次に搬入され、取次の物流を介して、書店まで届きます。冒頭の図の下半分は、そのことを示しています。
 次に、直取引のうち「トランスビュー扱い」は、出版社のトランスビューさんが始めた「直取引代行」の流通システムを共同利用して出版活動を行う会社がいま100社以上あるのですが、それら「トランスビュー取引代行」を使っている出版社の本を注文するときだけ選べる選択肢となります。(余談ですが、このトランスビューさんが始めた直取引の方法論を参考にして組まれたのがミシマ社の直取引。偉大なる先人、この方法を編み出した工藤社長は、私が尊敬する出版人のひとりです。気になる方は、『まっ直ぐに本を売る』(苦楽堂刊)をぜひご一読を。)
 最後の取引タイプ、「直取引(自社)」について。これは、相手の出版社と直接取引をして本を仕入れたい、という選択肢となります。ですが、どの出版社でも、直取引に応じられるわけではありません。現状、「条件さえ合えば、直取引できますよ」という出版社に対してのみ、この取引タイプが使えます。
 なぜ、直取引に応じられないことがあるのか。それは、世の中に取次(=問屋、卸売業)というプレーヤーがいる理由を考えてみたら、わかります。もし問屋がいなければ、「すべての書店」と「すべての出版社」は一社一社、大商いから小商いまで、ぜんぶ個別に行わなければならなくなります。これでは事務作業が膨大になりすぎて、本来やるべき「売る仕事」に「作る仕事」がおろそかになりかねません。発注の部分だけ取っても10社相手に個別に連絡するだけでまあまあ大変なのに、その全社からバラバラに請求書が届いて、そのたびに振込み、入金確認、あーだこーだ・・・、となると、想像するだけで大変。ここに問屋を挟めば、なんて素敵な。問屋数社とやり取りするだけで事務作業はおしまいにできるのです。こういった事情があるため、作業効率の面で「直取引はあまり増やせない」という書店や出版社は、多いです。

取次があればすべて解決、とはならない事情

 では、みんなが取次と口座を作れば、すべてハッピーだね! と、そうならないのが、この出版流通の難しいところです。多品種少量を扱う出版取次業とは、そのスケールメリットを生かして商流・物流・情報流を効率化することで流通上のマージンを得るビジネスモデル。「本が売れて売れて仕方がなかった」人口増加局面にあったかつての日本では、その良さが大いに発揮され、バブル崩壊後も数年間は売上規模を伸ばし続けるほどでした。ですが、1996年の業界推定販売金額2兆6564億円をピークとして、そこから縮小局面に突入。刊行点数と返品数の増加、また市場構造の変化や出版輸送の制度疲労といった問題が大きく、この20数年のうちに紙媒体の市場規模および全国の書店数は約半分ほどになり、大取次の経営も、非常に苦しくなっているのが現状です。決算書が読める方は、直近の数字を見比べると、その大変さが伝わると思います。となると、大取次からしたら、小さい取引先は「非効率」となるため、いちいち相手にすることが難しい。これは、書店でもそうですし、出版社でもそうです。大取次とて、決して、門前払いをしているのではなく、新規取引をするためには、条件設定、与信、担保を、より厳しくせざるを得ないのです。
 そういう時代にあって、しかし、「本屋をはじめたい!」、「出版社をやりたいんだ!」という方々の思いは、より強くなっていると感じます。その気持ちを叶えるために、自分たちの立場からできることはなにかを考え、やれることを形にしていきたい、カランタメンバー一同、そういう想いでこの事業に取り組んでいます。「一冊!取引所」は、規模の大小を問わず、どの書店でもどの出版社でもご利用いただけるような柔軟な設計をしています。ですが、大取次も発注システムを持っているし、大手出版社もウェブ発注システムを持っている。またナショナルチェーンのなかには自社内の流通システムを構築しているようなところもある。いま、そういう経営環境のなかにあって、「一冊!取引所」は、「流通の大動脈」になかなかマッチできない方々に対しても、元気に楽しく、ユーザー同士でつながれるような場でありたい。私は運営として、日々、そこに向かって仕事をしているところです。

じゃあ、直取引の良さってなんだ?

 ということで、業務面でのコストが高くつくものの、「直取引」という選択肢が、水面下で少しずつ重要度を増しつつあることが、すこしお分かりいただけたかと思います。この「直取引」をめぐる話題は、論点を精査するほどに、いろいろな視座・切り口から語れそうなところですが、この私が「当事者目線」で語れるにふさわしい切り口は、「私も新しく本屋を始めたい!」そんな読者さんに、直取引の実際をお伝えすることかなと。はい。今までの話、すべて前振りでした・・・。
 まず、最初の大きな一歩は、相手出版社が「私に対しても、取引に応じてくれるのだろうか?」ということ。どういうふうにドアをノックしたらいいのか。
 そんなときは、「一冊!取引所」にアカウントを申請してください。私こと運営が審査の上、2営業日以内を目安にログイン情報を返信いたします。ログインしたら、各出版社が提示する「取引・流通について」という情報が開示されますので、そこを見て、直取引に応じられる出版社が示す条件をチェックしていってください。「まずは連絡をください」と書いているところには、システム内のチャット機能を使ってお問い合わせをしてみてください。
 それとあわせて、お願いしたいことがあります。自店紹介ページの情報を充実させてほしいのです。自分がどんなお店をやるのか、それを画像やテキストで目いっぱい表現してください。YouTube動画リンクも埋め込めます。

一冊!取引所の店舗紹介ページ.png

 出版社側は、直取引の打診がきたら、このページを参照したり、そこからそのお店のホームページを閲覧しに行ったりします。それは、皆さんが気になる出版社のホームページを見に行ったりするのと同じ動機です。先ほどの大取次の場合は、現実的な信任金や保証人を与信管理の軸に据えますが、小商い的な直取引に応じてもいいかどうかは、出版社側から見た場合、もちろん御代をちゃんと支払ってもらえるかは当然として、それ以外だと、「相手が大切に本を扱ってくださる方なのかどうか」。これがどんな感じなのか。そこがやたらと気になるのです。もっと言うと、直取引に限らず、どんな流通ルートであっても、すごく気になるのは、この点です。
 もしそこが伝わってくるならば、最高の気分です。「この方ならば、自分たちが作った本を、むしろ、こちらからお願いしてでも預けたい!!!」みたいな。書店さん側がやりたいことと、出版社側がやりたいことが、「本」という売り物を通じて重なり合う瞬間というのが、どこかにあるのです。それが、流通の大動脈にいると気づきにくい、「直取引」ならではの良さではないか? そんな気がしてなりません。かつての私は、ミシマ社の三島編集長が心を込めて、込めて、込めに込めて練り上げた本たちを「じみち営業」として最初に預かり、それを流通させる役回りで直メインの営業を13年もやったものですから、とりわけこの「エモーショナル」なところが実はポイントだよなあと、そう思うのであります。本を大切にしてくださる方というのは、ほぼ間違いなく、そこにお越しになるお客様(=未来の読者)に対しても、大切な心を持って接していらっしゃる。本当にそうなのです。片手でも両手でも収まりきらないくらい、何人も出会ってきましたから。そういう方々って、もう、会う前からでも、そういうのが伝わってくるわけです。不思議なくらいに。
 そういう観点から、これは「一冊!取引所」を始めてからお目にかかった素敵な方の、とっても素敵な実例をご紹介します。鹿野青介さんの場合です。鹿野さんは、東京都北区上十条の自宅を開放した「暮らすLaboratory しかのいえ」というコミュニティスペース兼「しかのいえ本の茶屋」という屋号で本とお茶の販売をしている方です。なにか聞き覚えがあるぞ、という方。はい。去年の11月にYouTubeライブ「一冊!Live」にゲスト出演してくださった、あの鹿野さんです。

一冊!Live vol.25 ゲスト:鹿野青介さん(しかのいえ本の茶屋)


 鹿野さんが、本の販売を構想し、その準備を進めるなか、どうしても直取引をしたかった出版社がありました。ナナロク社さんです。鹿野さんがナナロク社さんにはじめて送ったメール文面を、ご本人の掲載許諾をいただき、ここにご紹介いたします。

======================
【御社書籍の仕入れについてお尋ねします】
株式会社ナナロク社
代表取締役
▲▲▲▲ 様
突然のメールにて失礼いたします。
こちらは、
東京都北区上十条という町で、
自宅スペースの一部を開いて
様々なイベントやコンサートや教室、
またスペースのレンタルなどを
去年から始めている者です。
その前は、出版業界に
長く身を置いてきたこともあり、
近々「本」を含むいくつかのものの
販売も始めたいと考えております。
つきましては、
御社刊行の『悲しみの秘義』(若松英輔氏著)を
ぜひともお取り扱いさせていただきたく、
ご連絡を申し上げました。
物販による利益はもちろん大切ですが、
本当に心のこもったモノを仲立ちにして
お客様と交流することも
同じように大切にしたいと考えております。
そのためにも、
御社のこの一冊が
無くてはならないのだと
思い極めております。
私どもは御社帳合の
株式会社 地方・小出版流通センター様始め、
取次様とは取引がございません。
小さな商いで誠に恐縮ですが、
この機会にご発注の最低ロットや
販売条件など、
直接のお取引の方法について
教えていただければ幸いです。
私どものプロフィールや
活動内容などについては、
下記のリンクからウェブサイトや
ブログなどをご覧ください。
また参考までに、
4年前にFacebookにあげた
本の感想文のリンクも貼っておきます。
よろしければご覧ください。
◆『悲しみの秘義』感想文
https://www.facebook.com/seisuke.shikano/posts/916554028458645

それでは、大変お手数をおかけしますが、
どうぞよろしくお願いいたします。
ご返信を楽しみにお待ちしております。
=======================
しかのいえ 代表 鹿野青介
〒*******
東京都北区上十条*****
TEL******************
sshika@*************
https://shikanoie.com/
https://www.facebook.com/384862395546663/
https://www.facebook.com/seisuke.shikano

 鹿野さんは、このメールを送ったあと、「なんとかお取引ができますように」と祈るような気持ちで、ドキドキしながら返信を待ったそうです。ナナロク社の皆様、このメールが届いて、きっと嬉しかっただろうなあと私は想像します。本を作ったからこそ、読まれたからこそ立ち上がった、このご縁。いま、「しかのいえ」に行くと、ナナロク社さんの本が買えるんです。どこで買っても中身は同じですよ。でも、鹿野さんから買うナナロク社さんの本は、格別です。同じなわけがない。
 私、思うんです。人と人とをつなぐ出版流通でありたい。そうじゃない出版流通なんて、寂しすぎます。はい。現場からは以上です。

一冊!取引所 運営チーム

一冊!取引所 運営チーム
(いっさつとりひきじょ うんえいちーむ)

株式会社カランタが運営する、出版社と書店をつなぐクラウド型受発注サービス「一冊!取引所」。

運営・開発チームの生の声をお届けします。主にカランタの営業・ワタナベが執筆しています。

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