名久井直子さんインタビュー 「この本、味出てなんぼです」(1)

第1回

名久井直子さんインタビュー 「この本、味出てなんぼです」(1)

2018.05.21更新

 2018年5月22日に発売となる「手売りブックス」。店頭に並ぶ日がまもなくです! 表紙の鮮やかな色や質感、一つ一つ手作業で貼られたシール・・・これまで見たことのないシリーズが出来上がりました。

 間違いなく目に飛び込んでくるであろうこの装丁。デザインを担当してくださったのは、名久井直子さん。これまで数多くの本の装丁を手がけ、ミシマ社から出ている本でも『何度でもオールライトと歌え』(後藤正文著)、『似合わない服』(山口ミルコ著)、『家のしごと』(山本ふみこ著)などを手がけてくださっています。

 さて、完成した「手売りブックス」を手にした名久井さん。おもわずある反応をしてしまったとのこと。一体どんなことを思ったのでしょうか? 2日間にわたってお届けします。

0521-8.jpg

(聞き手:三島邦弘、構成・写真:野崎敬乃)

見本を見て、「ブッ(笑)」ってなりました。

―― まず見本が届いて、どうでしたか?

名久井直子(以下、名久井) 笑いました。

―― 見本が届いて笑ったのは初めてですか?

名久井 初めてです。見本が届くと、いつもは検分するというか、いい悪いというよりは合っているか、ちゃんとできているかを見るんですけど、今回そういうのはいいかっていう感じで。「ブッ(笑)」ってなりました。まあ綴じられているからいいか、みたいな。

―― そうですよね、そういう細かいところを超越したシリーズですよね。

名久井 5冊セットで背を見たんですけど、背もばらばらで。自分がやっているのですが「あ〜ぜんぶちがうや〜」みたいな(笑)。

0521-9.jpg(手売りブックス5冊の背表紙)

―― 本当ですね。全く統一感がない。新書や選書の概念ではありえないですよね。

名久井 でも実は新書ぶってるんですけどね。

―― なのに、統一されてないと。

名久井 もうなんでも受け止めよう! みたいな感じです。

読者や書店が参加できる!世界初(?)の「オープン・デザイン」

―― でも表紙にシールって面白いですよね。

名久井 ここまでオープンな感じになっていれば買った人も自分の好きなシールをどんどん貼れるんじゃないですか? 

―― シールを貼っていいんだなというのを表紙自体が全面的に語りかけてくれていますもんね。「表紙」というものの捉え方も変わりますよね。

名久井 そうなんですよ。カバーもかかっていないですし、ボロボロ上等! みたいな感じですよね。

 流通されている本って、返本されて改装のときに本体がきれいじゃなきゃいけないとか、すごく流通されるコミックなんかはPP加工がかかっていたほうがいいとかの制約があって、すごく「着てる」感じがしますけど、これはパンツ一丁みたいな感じですよね。

―― たしかに。パンツ一丁、ふんどし一丁ですね。

名久井 そういう、味出てなんぼですっていう雰囲気を醸し出しているのがいいなと。

―― 本の装丁でこういう装いをリクエストされることってあまりないですよね?

名久井 ないですね。でも「コーヒーと一冊」が先にあるというのは、やっぱり心強かったです。あれがあるから大丈夫というか。

―― へ〜そうなんですか。

名久井 「手売りブックス」を作っているときは「コーヒーと一冊」をよく見てました。あのシリーズは寄藤文平さんのデザインですごくエレガントな感じだけど、とても許容量があって、ものすごく懐の深いシリーズですよね。あれがあったからこそ、手売りブックスのこんな感じができたのだと思います。こっちのほうが粗野な感じで、ふんどし感がありますけども。

―― そうなんですよ。やっぱりシリーズ名に違いが出ている気がするんです。「コーヒーと一冊」には100ページ前後という作りの制約があるんですけど、「手売りブックス」は手売りなので作りの制約がほとんどないですしね。

ちゅうちょなく、カスタマイズを

―― 「手売りブックス」という、届け方の方をシリーズ名に冠した世界初のシリーズ(自社調べ)のネーミングはデザイナー視点からするとどうですか?

名久井 私としては完璧に手売りにしてほしかったので、バーコードも入れなくてよかったのにって思うところはあるんです。でも売り場が面白くなって、それが軌道に乗っていくといいですよね。著者の直売りや、書店さんでのカスタマイズが進んでいく場面が見れたら楽しいなと思います。これにカバーをかけて売る人がいてもいいですしね。

―― そうですよね。書店さんも面白がってくれているんです。このシリーズは本屋さんによって表紙の遊び具合がだいぶ変わってくると思うので、1店1店どんな展開をしてくれるのかなっていう楽しみがあって、僕自身がどのお店で買おうかなっていう楽しみもあるのは、ちょっとこれまでの本にはなかった気がします。

名久井 よく本屋さんで、店名のロゴが入っているテープってあるじゃないですか。ああいうのを貼ってほしいですね。コンビニエンスストアで「袋いいです」って言うと、テープを貼ってくれたりするじゃないですか。ジュースとか。そういう感じで「袋いいです」って言うと貼ってくれる、みたいな。

―― そういうのもいいですね。コメントを書いて貼るだけじゃなくて、自前のシールとかもどんどん貼ってほしいですね。

名久井 ぜひ貼ってください。なんというか、ちゅうちょなく、頑張ってほしいです。ちゅうちょなく、カスタマイズを。どんどん地元感出していってください。

0521-2.jpg

―― デザイナーからのゴーサインがでました!

名久井 むしろ、そのまま売らないでください。

名久井直子さんから書店員さんへご提案

1.ちゅうちょなく、カスタマイズしてください
2.たとえば、オリジナルカバーをつけて売るのもOK
3.自前のシールも貼ってください。どんどん地元感を!

(つづく)


プロフィール

名久井直子(なくい・なおこ)
ブックデザイナー。1976年岩手県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、広告代理店勤務を経て、2005年独立。ブックデザインを中心に紙まわりの仕事を手がける。第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。最近の仕事に、『ウィステリアと三人の女たち』(川上未映子著)、『水中翼船炎上中』(穂村弘著)、『口笛の上手な白雪姫』(小川洋子著)など。著書に『紙ものづくりの現場から』(グラフィック社編集部)など。

編集部からのお知らせ

手売りブックスいよいよ明日5/22発売です!

本シリーズに込めた想いはこちらをご覧ください!
ミシマ社の話 第64回 「当社調べ・世界初のシリーズ名」三島 邦弘

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

  • 特集『三流のすすめ』発刊記念 安田登×平川克美 対談(前編)特集『三流のすすめ』発刊記念 安田登×平川克美 対談(前編)

    特集『三流のすすめ』発刊記念 安田登×平川克美 対談(前編)

    ミシマガ編集部

     7月22日、平川克美さんが店主をされている隣町珈琲のブックレビュー対談に、『三流のすすめ』著者の安田登さんがゲストとして登壇されました。リアルイベントにお客としてうかがったミシマ社のホシノとイケハタが、そのあまりの面白さに、これはもっとたくさんの方に届けたい! と切望し、その一部を公開させていただくこととなりました。 中国の古典から現代の政治まで、止まることなく転がり続けた、“落ち着きがない”お二人の対話、2日間にわたってお届けします。

  • 『辛口サイショーの人生案内DX』刊行記念 最相葉月さんに訊く!「人生案内」の職人技 (前編)『辛口サイショーの人生案内DX』刊行記念 最相葉月さんに訊く!「人生案内」の職人技 (前編)

    『辛口サイショーの人生案内DX』刊行記念 最相葉月さんに訊く!「人生案内」の職人技 (前編)

    ミシマガ編集部

     先日ついに『辛口サイショーの人生案内DX』が発刊しました! 多種多様なお悩みに対する最相さんの回答は、「どうやったらこんな答えを編み出せるのか?」と思ってしまうものばかり。「誰かの悩みに触れつづけると、どんな感覚になるのだろう?」という問いも湧きました。とにかく、舞台裏が気になってしかたがありません。 そこで、新人スミが最相さんご本人にインタビューさせていただきました! 「人生案内」の職人技を垣間見れば、本に収録された回答も一層おもしろく読めること間違いなし。貴重なお話の数々を、2日間にわたってお届けします!

  • あの仲野徹先生による「初」のエッセイ集を刊行します

    あの仲野徹先生による「初」のエッセイ集を刊行します

    ミシマガ編集部

    大阪大学医学部教授の仲野徹先生による、初のエッセイ集『仲野教授の 笑う門には病なし!』を刊行いたします。明日8月21日よりリアル書店先行発売ということで、担当編集による制作裏話を掲載します。

  • 安田登×いとうせいこう 一流めざすの、やめません? ~「三流」頂上対談!(前編)安田登×いとうせいこう 一流めざすの、やめません? ~「三流」頂上対談!(前編)

    安田登×いとうせいこう 一流めざすの、やめません? ~「三流」頂上対談!(前編)

    ミシマガ編集部

    『三流のすすめ』の発刊を記念して、著者の安田登先生×いとうせいこうさんの対談イベントをMSLive!にて開催しました。本書でいう三流とは、多流=いろいろなことができる人のこと。さまざまな分野で活躍し、まさにトップオブ三流=多流であるお二人の対話は、どこかに飛んでいったかと思えば、いつの間にか話の核心に着地していたり、かと思えばまたすぐにどこかへ飛んでいったり、まさに三流的、怒涛の展開でした。目が離せなかった対談の模様の一部を、2回にわたってお届けします!

ページトップへ