ちいさいミシマ社の挑戦

第1回

作品が消費されず、作品として残っていくために――「ちいさいミシマ社」レーベルの思い

2022.07.09更新

 こんにちは。ミシマガ編集部です。本日よりはじまる新連載「ちいさいミシマ社の挑戦」。

 2019年に始動した少部数レーベル「ちいさいミシマ社」については、これまでもたびたびミシマガジンにてご紹介してまいりました。が、読者の方からも、書店員さんからも、さらには著者の方々からも、「ずっと聞こうとおもってたんですよ〜。ちいさいミシマ社ってなんなんですか?」という声が後を立ちません。

 そこで、このレーベルで目指そうとしていることをこの場所に書きためていくと同時に、編集部の私たちも、出版流通の仕組みについて、人口が減少しつづけていくなかでの作品の届け方について、勉強し、考えていく場をつくっていけたらと思っています。

 第一回は、ちいさいミシマ社の最新刊『動物になる日』の著者、前田エマさんとミシマ社代表三島邦弘がこのレーベルについて、エマさんの本について、語らいました。

(※本記事は、音声プラットフォームvoicy 前田エマの「エマらじお」にて2022年6月13日(月)に公開された音声をもとに、構成しています。収録日:2022年6月13日(月))

20220709-1.JPEG

ちいさいミシマ社の「ちいさい」って?

前田 みなさんこんばんは、前田エマです。
今日はミシマ社の三島邦弘さんと一緒にお話をしていきたいと思います。よろしくお願します。

三島 お招きいただき、ありがとうございます。

前田 今回私が本を出させていただいたのは、ミシマ社のなかの「ちいさいミシマ社」というレーベルです。普通のミシマ社とはちょっと違うんですよね? これはどういうレーベルなんですか?

三島 僕は「ミシマ社」という出版社をやっていまして、「ちいさいミシマ社」は2019年の7月に立ち上がったレーベルです。より濃く、太く、書店さんとつながっていくことを目指しています。具体的には、「ちいさい」という言葉の通り、初めから大きな部数を狙っていくよりも、小部数であっても、読者や書店と太くつながることで、その本がより愛されていく、そういうことですね。
 今の出版の市場の話をすると、ややもすると、その作品がいいかどうかという以前に、その作品が売れてるか売れてないかという価値軸で判断されてしまう可能性もどうしてもあります。消費という観点だけが価値のようになり、その価値軸に流されていってしまうことだってあるんです。
 そういう状況の中で、濃さや熱量とともに作品のことを書店員さんに理解してもらって、一冊一冊をできるだけ丁寧に営業していく。
「ちいさいミシマ社」の「ちいさい」という言葉に込めているのは、自分たちのヒューマンスケールというか、身の丈の延長上に出版という行為を置く、ということでもあります。だからといって、結果自体を小さく終わりたいと思っているわけではなく、最初にそういう温かさのなかで大切に、一冊一冊を届けることで、本当に長く、広く読まれるような土壌の中にその作品を置きたい。そうしたことを目指すことに特化してやっているレーベルです。その手法として、書店に対して、「買切」というやり方をとっています。

前田 このあたりの仕組みを私は全然わかっていなくて・・・今回、本の発売に合わせいろんな本屋さんを回らせていただいて。中には本屋さんじゃないお店もあるのですが、すごく大事に、この本の感想などを、SNSに載せてくださったり、「こんなに予約が入って本当に嬉しい!」ということを言ってくださったり。
 今までも、本屋さんが本を売っているのはもちろん知っていたけれど、言うなれば今の時代、通販でもすぐに本が届くシステムで、いつでも本が買えますよね。でも、実際に自分が本を出して、本屋さんを回っていくなかで、なんかそうじゃない部分にすごく触れていったような感じがしています。
 そもそも本屋さんに本が置いてあるっていうのは、どういうふうにしてお金が回ってるのかなーとか、大手の通販サイトってどういう仕組みになってるのかな、とか、そういえばそういうことを全然知らないなと思って。その話をちょっと知りたいです。

三島 そうですね、多くの本は、まず本屋さんに「委託」という形で置かれて、それは「いつでも返品していいですよ」という感じの取引形態なんですね。さきほど「ちいさいミシマ社」レーベルについて説明した「買切」というのは、本屋さんがその商品を「買い切る」ということで、「絶対この本は売るんだ、届けるんだ」という本屋さんの明確な強い意志がないと置いてもらえません。

前田 そうですよね。私の小説って、本屋さんが「この本を扱うぞ!」と決めて入荷したら、もう返品はできないので、それを売らないとお金にならないわけじゃないですか。でも逆に、返品ができるというのは、出版社からするとどうなんですか? だって、本を本屋さんに卸してその瞬間売り上げになったと思っても、そのあと返品されたらお金も・・・あれ? 売れたはずなのに、またお金を返さなきゃいけないってことですか?

三島 そうなんです。だから、いっぱい仕入れてもらうと、出版社側はその瞬間はすごく売れた! って気になるんですけど、実際それは売れているわけではなくて、そこからしばらく経ったあとに返品、ということが多々ありまして。だから、広く、薄くというふうになっていく危険性も当然ありますし、逆にプラスの面としては、それでも一旦店頭に置かれる可能性が増えるので、その本が届いていくチャンスが広がるとも言えます。
 ミシマ社は、もともとそれでも他の出版社さんと違うのは、「取次」を介さずに「直取引」をメインに営業をしているので、「ちいさいミシマ社」以外の通常の本も一冊一冊、丁寧に案内して書店に置いてもらっているんですけど、それでも返品は可能、という形での取引をしています。

取次と直取引のしくみ

前田 「取次」というのは、どういうシステムなんですか?

三島 取次は、出版社と書店がつながる卸業ですね。出版社にとって、商品を取次に卸したあとはそこから配本されていくので、どの書店に本が置かれているかわからないということも起こりうるんです。

前田 そうなんですね。出版社側は、自分たちがこの店に置いてほしいと思ったとしても、取次の人たちが分配していくから、「あ、ここには置かれてるんだ、ここには置かれてないんだ」っていうのあまり把握できないってことですか?

三島 ということもあります。例えば書店側は10冊注文したいんだけれども、取次側で5冊になって配本された、ということも以前はしょっちゅうあったんです。今はそのあたりが改善されているかもしれないですけど、いずれにせよ、ミシマ社も2006年に創業した16年前から取次を介さない「直取引」の形でやっていまして、それでもやっぱり返品が出るというなかで、出版社側も本屋さん側も、まあ最後は返したらいいやっていう感じの捉え方が定着してしまっているのかなと。

前田 逃げれられる、みたいな部分がちょっとありますよね。売れなくてもいっか、みたいな。

三島 そうなんです。そこに業界全体が慣れてしまっている部分があるんですが、そもそも本来の商売を考えたときに、やっぱりそこは改善しないと、とずっと思っていまして。
 「ちいさいミシマ社」レーベルをはじめる以前から「コーヒーと一冊」というシリーズをはじめて、本屋さんには6掛けで卸し、つまり本が売れると一冊の本の売上の4割が本屋さんの利益になる。これは取次から仕入れてる本よりも倍くらいの利益が本屋さんに入ることになります。

前田 取次ってそんなに売り上げを持っていくんですか。

三島 取次が持っていくのかはわからないですが、書店の利幅としてはそうですね。でもこれもそもそもが大量生産・大量消費時代にできたシステムで、とにかく数を撒いて売って、薄利多売で成り立っていたということ自体が、人口が増えていた時代の仕組みですから、こんなに急速に人口が減っていっていて、しかもそれはもう止まらないだろうっていうなかで、僕たち出版社、そして本屋さんもこれから10年、20年後を見据えていった時のあり方というのは、ちょっと今のやり方では限界がきてるのは間違いありません。
 ある意味この「ちいさいミシマ社」はその走りというか、次の時代、新しい時代に合わせた出版のあり方を探っているつもりでいます。

著者、出版社、本屋さんが一緒に喜べる

前田 今回私は「ちいさいミシマ社」で初めての本を出させていただきましたが、どういう部分が私の本に合っている、となったんですか?

三島 はい、まず間違いなく言えるのは、まずこのエマさんのデビュー作である『動物になる日』を絶対に届けたい! 推したい! って思っている本屋さんのところに本が置かれている、と。
 だから、この本をすでに読んでくださった方も、これから買おうとしてくださっている方も、そういう本屋さんでこの本を見つける喜びがあって、本屋さんと読者と出版社と著者が一緒に喜べるところが、他の本では絶対にないというか。
 もちろんどの本でも、本屋さんがすごく推してくださっているケースもありますが、この「ちいさいミシマ社」レーベルで出ている本に関しては100%と言っていいくらいです。だから僕たち出版社、そして著者、そして本屋さん、全員の意志が一致しているという、すごく幸せなケースがこのデビュー作で、そして今回のこの形で出せたというのが、やっぱり僕はすごく嬉しく思っているところです。

前田 私自身、大きい本屋さんにも行くんですけど、セレクトが"ある意味偏った"ちいさい本屋さんにもかなり行くほうで、そこで置いてる本を見ていると、「この本、あそこでも見た! こっちの本も! あっ、じゃあ私が好きな本屋さんは、みんな今この本を推しているんだな」っていうのがわかる。置いてある本のセレクトが、大きい本屋さんとだいぶ違っていることもあって、その面白さってすごくあるなと思っていて。「この本屋さんもあの本屋さんも置いてるんだから、じゃあこれは面白い本なんだろうな、買ってみよう」っていうことってありますよね。
 今回、本当にこだわって本を作っていただいたので、普段あんまり小説を読まない人とか、活字が苦手な人も家に置きたくなるような、美しい本になったところが嬉しいです。

三島 本当にそうですね。美しいです。

前田 ありがとうございます。次回は、この私の本が、三島さんの目にどう映ったかについて、お話ししていただきたいと思います。ひとまず前編、ありがとうございました。

三島 ありがとうございました。

この対談を音声で聞く

編集部からのお知らせ

52F7DDE3-1E43-40FE-AA9C-33877434EE9D.jpeg

7/1(金)~7/31(日)
「はじめての本と、1カ月のこと。」@本屋B&B(下北沢)


前田エマによる、はじめての著書が発売を迎えた2022年6月の1カ月にわたる日記を、写真と文で展示します。とっておきのトークイベントや、本をめぐるツアーも計画中です!

◎本屋B&B
住所:東京都世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK 2F
会期:2022年7/1(金)~7/31(日)
営業時間・定休:11:00~21:00・年中無休(年末年始および特別な場合を除く)
電話:03-6450-8272

店舗の詳細はこちら

63254085-79F3-43D9-8050-DC72153FE083.jpeg

7/23(土)BOOK MARKET2022会場イベント
前田エマ×中村暁野トークイベント
「わたしとわたしたちのちいさな話」


前田エマ『動物になる日』(ちいさいミシマ社)と中村暁野『家族カレンダー』(アノニマ・スタジオ)の刊行を記念して、著者のお二人によるトークイベントを開催いたします。

前田さんは今年6月に初めての著書にして初の小説集を上梓。
学校や飲食店を舞台に、日常に生まれる素朴な疑問や感覚、他人と過ごす中でどうしても生じてしまう違和感、それを手放さずに生きる、ある少女の姿が描かれています。

中村さんは、一年をかけてひとつの家族を取材し、一冊丸ごと家族を取り上げる雑誌「家族と一年誌 家族」を2015年に創刊。家族という最小単位の社会から、環境のこと、世界のことについて考え、執筆や発信をつづけてこられました。昨年11月には、5年間にわたって綴った日記をもとに初の自著『家族カレンダー』を発表されています。

自分のまわりにある「ちいさな話」をひろい集め、言葉につづり、本にする。

こうして世界と向き合いつづける二人の言葉には、大きな出来事を自分事として捉えるためのヒントが詰まっています。ちいさな声を信じ、自分の言葉で今を生きる二人のトークイベント、ぜひご参加ください。

日時:7月23日(土)11:00〜12:30
会場:台東館 7階南側会場 イベントスペース(BOOK MARKET2022 会場)
住所:東京都台東区花川戸2-6-5 
参加費(会場のみ):¥2,000+税(税込2,200円)

詳細・お申し込みはこちら

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

この記事のバックナンバー

12月18日
第11回 書店員さんも推す! 大注目の小説『ビボう六』 ミシマガ編集部
11月15日
第10回 『ビボう六』刊行記念!
佐藤ゆき乃さんってどんな人?(後編)
ミシマガ編集部
11月14日
第10回 『ビボう六』刊行記念!
佐藤ゆき乃さんってどんな人?(前編)
ミシマガ編集部
08月26日
第9回 作品が消費されず、作品として残っていくためにーー前田エマ×三島邦弘 対談 ミシマガ編集部
05月12日
第8回 『ここだけのごあいさつ』がいよいよ発売! ミシマガ編集部
02月13日
第7回 一冊の本ができるまで~新人全力レポート(2) ミシマガ編集部
01月25日
第6回 『幸せに長生きするための今週のメニュー』刊行記念  ロビン・ロイドさん、中川学さんインタビュー ミシマガ編集部
01月18日
第5回 詩画集『幸せに長生きするための今週のメニュー』をつくりながら考えたこと ミシマガ編集部
01月17日
第4回 一冊の本ができるまで~新人全力レポート(1) ミシマガ編集部
08月26日
第3回 那須さんとの永遠の本づくり ミシマガ編集部
07月10日
第2回 作品が消費されず、作品として残っていくために――『動物になる日』は小商い本? 新種の子育て本? ミシマガ編集部
07月09日
第1回 作品が消費されず、作品として残っていくために――「ちいさいミシマ社」レーベルの思い ミシマガ編集部
ページトップへ