詩画集『幸せに長生きするための今週のメニュー』をつくりながら考えたこと

第5回

詩画集『幸せに長生きするための今週のメニュー』をつくりながら考えたこと

2023.01.18更新

 いきなりですが、見てください!!

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 2023年1月20日に、「ちいさいミシマ社」レーベル9冊目となる本『幸せに長生きするための今週のメニュー』を刊行します。

 作者はロビンさんと中川さん。日英併記の詩画集です。きっとミシマガジンの読者の中には、初めて知るという方も多くいらっしゃると思うので、まずは紹介をさせてください。詩は、アメリカ生まれ神戸在住で、カリンバや尺八を自由自在に操る民族楽器奏者のロビン・ロイドさんによるものです。

 カリンバや尺八、と書きましたが、実はロビンさんのライブにいったときに私が認識できた楽器がそれぐらいという事態でして、一曲のうちに、一夜のコンサートのうちに、いくつ楽器を変えるのじゃ〜〜というほどに、ロビンさんはとにかくたくさんの楽器を演奏しておられました。演奏後のライブ会場には、見たことのない楽器がたくさん。今度お会いしたら、楽器の名前をちゃんと聞こうと思いますが、あらゆる国の楽器をとっても気持ちよく、楽しそうに優しく演奏する方です。素敵なカフェの情報、いいお宿の情報、絶対行った方がいいよ、という場所を国内に限らずたくさん知っていて、日々教えてもらっています。

 そして絵は、京都・瑞泉寺で住職をしながらイラストレーターとしても活躍する中川学(がく)さんが手がけています。ふたりが一緒に本をつくるのは、これで3冊目。過去に出版された『HAPPY BIRTHDAY Mr.B!』と『1年に1度のアイスクリーム』以外にも、絵本『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(編・くさばよしみ)や『だいぶつさまおまつりですよ』(文・苅田澄子)など、中川さんのイラストを見たことがある! という方であれば、ひょっとすると同じ中川さんの絵だとは思われないかもしれません。それほどに今回の本は、雰囲気がずいぶん異なります。

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 申し遅れました。本日は、編集チームのノザキがこの本の制作の裏側をご案内します。

完成した時の気持ちは「うわぁできてしまった」

 本ができあがったのは、今からちょうどひと月前。クリスマスや年末を前に、もう一年も終わるなぁ、という締めくくりの頃。オフィスに本が届き、梱包の茶紙をむしり、できあがった本を手にするときは、いつも緊張と楽しみで動悸がします。

 手にした瞬間の内心は「できてしまった」。一年の終わりに、なんだかすごい本が誕生してしまった。2019年にミシマ社で制作がスタートした時点からすでに3年以上が経過しており、ロビンさんと中川さんで企画がはじまった頃にさかのぼると、もっともっと長い年月が経っていました。

 「やった〜できた〜」というよりも、海の深いところまで素潜りして必死に掴んできた本、「どぉりゃあああ」と水面を浮かび上がってやっと地上たどりついたときに手に持っていた本、そんな感覚です。このイメージは今書きながら思ったことですが、図らずも表紙には貝殻の絵がちりばめられています。

 本にカバーはありません。通常、書店で本を「宣伝」する役割の帯もなし。変な言い方かもしれませんが、本しかないのです。私が担当したもので帯なしの本ははじめてです。届けたかったのは、ものとしての存在感と絵と言葉。以上です。今振り返ると、私にとっては入社5年目にして本づくりという「ものづくり」をあらためて実感した一冊となりました。

はじまりは、中川さんのノートから

 さて、一見するとノートのような見た目の一冊。合計104ページの中綴じ製本で、開くとすべてのページに絵が入っています。並製本によく見られる「無線綴じ」ではなく、「中綴じ」にすることで、小学生の頃に使っていた自由帳みたいなノート感と、紙の束をふわっと受け取るような柔らかさが気に入っています。でもどうしてノートのような造本に?

 いまから、おそらくミシマ社内でも見たことがない人がほとんど、というものを見せます。どん!

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 切り貼りしたテキストの脇を生い茂るように、絵が描き込まれています。ロビンさんの詩にどんな絵を描けばよいのか、中川さんがそれを試行錯誤する中で、手を動かしてつくった一冊のノート。ここから少し時を遡り、掲載する詩の内容や順番をロビンさんと考えた際も、ロビンさんは紙を切って並べて貼って戻してもう一度並べて、という様子で決めていきました。パソコンを使ってポチポチやれば何度も修正が効くし、スムーズにも思えるけれど、そうしていたら生まれなかった痕跡が手作業の中にたしかにある。

 中川さんのノートのページをめくっていくと、書いた本人と、そのとても近い人だけに見せてきたものを覗かせてもらったような特別感、自然と自分に熱いものがこみあげてくる不思議な感覚がありました。

 ここで登場するのが、今回の装丁を手がけてくださった、デザイナーの鈴木千佳子さんです。鈴木さんにはこれまでたくさんのミシマ社の本の装丁をお願いし、私が担当した本でも『縁食論』(藤原辰史 著)や『つくるをひらく』(光嶋裕介 著)、『仲野教授の 笑う門には病なし!』(仲野徹 著)など、素敵なものばかり。鈴木さんと一緒にロビンさんと中川さんの本をつくれたら、今自分たちが予想していないものができる気がするぞ...。

 こうして中川さんのノートを鈴木さんにも見ていただき、本の形を相談しました。そして鈴木さんとともに感じたこと、それは「これでいいじゃん」。中川さんが切り貼りして作ったノート。やわらかくて、いつも持って歩きたくなるような、でも大切にしたくなるような、この感じを大事に守りつつ、本にする。造本の奮闘は、中川さんがノートを買った店に、自転車を走らせるところから始まりました。

スムーズにいかない

 結論から言うと、ノートのような本をつくることは、想像以上にいろいろなことがありました。手元に見本となるノートはありますが、それは本ではなくノートです(そりゃそうだ、ということをつい言ってしまいました)。どちらも紙でできているとはいえ、ノートと本をつくるのでは、つくる現場も、一度につくるロット数も、中に印刷があるかないかも、まったく異なります。

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 「ノートのように背にはテープを巻きたいので、テープの見本を見たいです」と印刷所の方に伝えると、後日、製本用のテープの見本帳を手配してくださりました。届いたものを見て、あ! ちがうわ。これノートのテープだ。ビニールのような素材の、薄い製本用テープ。求めていたのは、布の素材のテープ。もう一度やりなおし。(当たり前ですが、印刷所の方にはまったく非がありません。)

 これまでなかったものをつくっているので、印刷所の方とイメージしているものが全然違ったり、そのことにしばらく気づかず進行したり、私が一冊の制作にかかる全体の時間感を見誤ったり、現時点で振り返ればあちゃーということが山ほどありました。それでも、作者、デザイナー、校正者、印刷所、製本所、それぞれの現場のみなさんが一冊の本に全力を注いでくださったからこそ、「できてしまった」一冊と言えると思います。

 結局、背のところには、テープではなく、布張りの本をつくる際に使う布をカットして用いることになりました。

いったいこの本は、なんなのか?

 本を開くと、ロビンさんの言葉が飛び込んできます。中川さんの絵が目にうつります。同時に、読んでいる自分の中に浮かぶのは、目の前の言葉と絵を飛び越えて、自分自身の過去の記憶や、これまで気づけていないこと、たしかにあるのに見ていなかったとても豊かな変化だったりします。

 本をつくっておきながら、「いったいこの本は、なんなのか」だなんて、何言ってんだかと自分でも思いますが、でもこの一冊を触っていると、わたしは本をとても限られた用途や意味や存在としてしか、捉えられていなかったかも、と思うのです。この本を通して訪れる「感じ」を、きちんと説明できずに恥ずかしい限りですが、手にとってくださった方に味わっていただけたら本望です。

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本について詳しく知る

刊行記念イベントを開催します

 本書の発売を記念して、2月1日(水)に一夜限りの読書と音楽のイベントを開催します。トークイベント、読書の時間、ロビンさんによる演奏、中川さんによるライブペインティングと、盛りだくさんの1時間です。

 京都のお寺で、ロビンさんによる民族楽器の演奏の中で、できあがったばかりの本を手に、静かな読書の時間を過ごしませんか。同じ場所、同じ時間に、一冊の本を参加者のみなさんが自分のペースで味わい、食事を共にするようなあたたかな読書の体験を、みなさんとつくりあげたいと思っています。

 中川学さんのライブペインティングを間近でご覧いただける、貴重な機会ですので、そちらもお見逃しなく!

イベント詳細

【時間】19:00-21:00(18:30開場)
【会場】瑞泉寺(〒604-8002 京都市中京区木屋町通り三条下ル石屋町114-1)
【出演】ロビンロイド、中川学
【参加方法】1/20に発刊する『幸せに長生きするための今週のメニュー』をお持ちの方は、無料でご参加いただけます(要申し込み、投げ銭大歓迎)。お持ちでない方も当日会場でお買い求めいただけます!
【内容】
 第1部
 作者の二人による発売記念トーク(30分程度)
 参加者のみなさんとの静かな読書の時間(ロビンさんによるカリンバ演奏有)
(休憩 10分)
 第2部
 ロビン・ロイドさんによるコンサート&中川学さんによるライブペインティング
 サイン会&交流会

詳細・お申し込みはこちら

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