日本習合論

第13回

内田樹×後藤正文 対談「習合と音楽〜創作と想像をめぐる対話」(2)

2021.03.08更新

 2020年9月に発刊した、内田樹先生の新たな代表作『日本習合論』。刊行記念イベントとしてこれまで、「習合」をテーマに韓国の独立研究者・朴東燮さん「少数派」をテーマに疫学者の三砂ちづるさん「宗教」をテーマに宗教学者の釈徹宗さんとの対談を開催しました。そして第4弾となる今回のゲストにお呼びしたのは「ASIAN KUNG-FU GENERATION」のフロントマンであり、ソロではGotchとして活躍する後藤正文さん。

 第一線でロックの旋律に日本語の歌詞を載せることを深めてこられた後藤さんと、日本の音楽は「習合」という切り口から語ることができるのか、また習合と創作の関係をめぐって縦横無尽にお話しいただきました。

 2021年2月23日に開催したMSLive! での対談を、昨日と今日の2日間でお届けします!

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『日本習合論』内田樹(ミシマ社)

(前編はこちら

根を断つからこそ、外来のものと出会える

後藤 最近思うのが、純文学を読んでいて、芥川賞の作家ももちろん面白いんですけど、これが翻訳されたとき、海外の人が読む姿が想像できないところがあって。

 一方で村上春樹さんとかは、海外の僕らと同世代のロックミュージシャンにも読まれている。ふと思ったのは、彼が「習合」を体現しているのではということなんですけど、先生はどう思われますか?

内田 なるほど、そうかも知れないですね。『風の歌を聴け』は、まず英語で書いたそうですから。まず英語で書いて、それを自分で日本語に翻訳するという手間をかけた。それはたぶん村上さんが日本の文学の伝統から縁を切りたかったからじゃないかな。

 音楽だったら、それまでの日本の音楽の伝統とか因習とかときっぱり縁を切ったところから出発したいと思ったら、いきなり外国語で歌い出すというようなことをするでしょう。それと似ているんじゃないかな。

 一度自分のドメスティックな「根」を断つということをしないと、外来のもの、異物とは出会えないのかも知れない。『創世記』で、主がアブラハムに「父の家を出て 私が示すその地に至れ」と命令するけれど、あれは自分の家から出て、荒野をさまよわないと「神」には出会えないということなんだと思う。それと同じ。

 村上さんはとにかく日本の自然主義文学が嫌いだった。だから、日本近代文学の伝統から完全に切れたところからスタートしようとした。でも、英語で書いたり、アメリカ文学を読み込んだりして、ドメスティックな「根」を切ったつもりでいたんだけれど、気がついたら、上田秋成に繋がっていた。近代文学ドメスティックな根に絡めとられまいとして、身を遠ざけていたら、近代文学が否定した、それよりもっと古い「根」に繋がっていることに気がついた。だから、そういう意味では、村上文学も習合的なんだと思う。

後藤 自分のことを振り返って、根を断つことをしたかな、と考えていたんですけど、楽器を始める時、英語で歌っていて、日本語を歌いたいって思わなかったんですよね。見つからなかったのもあるかもしれないんですけれど、とにかく日本語以外ならなんでもいいと思っていた。

 それで、だんだんやってるうちにメロディーと日本語の押韻のやり方がわかってきて、日本語に取り組み始めたんですけど、確かに最初は根無し草な感じがありました。

 誰と対バンしても一緒に共演しても居心地悪かったんですけど、疎外感じゃなかったのかと、村上さんの話を聞いてちょっと安心しました。

プロデューサーの仕事は「床のゴミを拾うこと」

後藤 若い子と話していると、みんな「まずは売れなきゃ」って言うんですよね。そんななかで、友人が「好きなことやって売れなきゃ意味がないよ」って言ってて、本当にそうだなって思ったんです。でもやっぱり「競争」というか、一つの物差しで測れられるために扉の前に並んじゃう。習合と真逆の純化そのものだなあ、と。

「好きなことをやったらいいよ、傷つくことはないよ」とは言うんだけど、好きなことをやるという覚悟をもつためには、自分にそれなりの力があると信じられないとできないよなあ、とも思ったり。

内田 プロデューサーの仕事は励ますことだよね。若くて才能がある子たちが列に並んでいて順番を待っていたら、「君は並ばなくて大丈夫」と声をかけてあげることなのかもしれない。

後藤 本当にそうですね。若い子たちと話していて、クリシェみたいなものに囚われている気がするときは、自分の好きな海外の音楽のプレイリストを作って渡したりしています。そうするとちょっと考え方が変わって、違うエッセンスが入ることもあって。まあでもできることは、cheerというか、応援することくらいかなあ、と。

 あと、お弁当を適切なタイミングで頼むのもけっこう重要な仕事だと思うんですよ。集中力が切れて、これ以上やっても行き先がないから一回ブレイクみたいなときに、いいタイミングでお弁当を頼む。

内田 昔、大学でアートマネジメントの授業を担当していたことがあって、その時に、橋本治さんにお願いして、学生たちにお話してもらったことがあったんだけど、そのときの橋本さんの話でいちばん印象に残っているのは、「プロデューサーの心得」の話。

 そのとき橋本さんは、「プロデューサーの仕事で一番大事なことは、床のゴミを拾うことだ」って言ったんですよ。みんなで集まってものを創るとき、アーティストもスタッフもそれぞれ自分の仕事のことに夢中になっている。だから、誰も床のゴミには気が付かない。でも、そういうことが積み重なると、仕事場がだんだん不潔になってきて、空気が荒んでくる。プロデューサーはこの「誰の仕事でもないけれども、誰かがやらないと集団のパフォーマンスに影響が出る」ことに気づいて、手早く、黙って、処理する。

 プロデューサーは「全体を見る」というと、なんか上から見下ろしているように思えるけれど、そうじゃなくて、床を見ているというのが橋本さんの話で、僕はそれにずいぶん感動した覚えがありますね。

 若い人の仕事を支援するときも、テクニカルな忠告とか、資金援助とか、ネットワークにつなぐこととか、どれも大切だけれど、ゴッチの言ったように「お弁当をちょうどいいタイミングで出す」というのも年長者のたいせつな仕事だと思います。

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ロックンロールこそ、雑種文化の成果

後藤 最後に聞いてみたいと思うのは、アメリカのバンドと一緒に対バンしたときに思った事なんですけど、アメリカは移民の国で、そしてルーツを辿れば日本も大陸からきた人たちで成り立っているところもあって、似ているところがあるんじゃないかなと思ったんです。先生はどう思いますか?

内田 たしかにそういう意味では、アメリカも雑種文化ですね。いろんなものがまざっている。そのアメリカ文化の雑種性の最高の表現がロックンロールなんじゃないかな。

 エルヴィス・プレスリーがいまも「キング」と言われるのは、彼がカントリーとポップスと R & B の3つのチャートで同時にナンバーワンになったからだ思う。日本人にはちょっと分かりづらいけれど、カントリーとR&Bというのはそれぞれ白人と黒人のエスニックな音楽だから、水と油のように相容れない。カントリーのヒットソングがR&Bチャートに入ることはないし、逆にR&Bのヒットがカントリーチャートに入ることもない。この二つのジャンルを隔てる壁はほんとうに高かった。だから、プレスリーが3チャートで1位になったということはほとんど奇跡的なことなんですよ。ニューヨークの黒人もテキサスの白人もカリフォルニアの高校生も、みんなが「これは自分たちの音楽だ」と思ったんだから。プレスリーの音楽を、別の文化集団に属する人たちが「これは自分のための音楽だ」と思った。それが雑種文化の最大の強みなんだと思う。

後藤 面白いですね。日本も目にはよく見えてないけれども、アジアのいろんな人たちが混じり合った場所ですよね。だから「もう少し歴史が古いアメリカ」みたいな感じで捉えた方が、純化のイメージからは楽になる気がするんです。

内田 それ面白いね。日米雑種文化論。あと最後に、ちょっとだけものを書く仕事と音楽との関係で言っておきたいことがあるんだけれど、ものを書くときに「音読に堪える」って、すごく大切な条件だと思う。リズムとか、響きとか、韻とかについての気配りのない文章って、コンテンツがどんなにまともなものでも、読みにくいでしょ。

 僕もできるだけ音読しやすいように書いているけれど、ゴッチの文章はその点がすばらしいと思う。読みやすいの。読み出すとどんどんページをめくってしまって、最後まで止まらない。あれはやっぱりゴッチの文章が音楽的だからだと思う。

後藤 ありがとうございます。

(前編はこちら

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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Gotchさんが3rdアルバム「Lives By The Sea」をリリースしました!

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前作「Good New Times」から約4年半ぶりとなるソロアルバム「Lives By The Sea」のLP/CDが3/3から発売!

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本対談のアーカイブ動画を、期間限定配信中です!

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本対談のアーカイブ動画を、3/31(水)までの期間限定で配信中です! ぜひ動画にて、両先生のお話を全編通してご視聴くださいませ。

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