番外編・布と型紙のお店クルール 高階百合子さんしごとのわ通信

第6回

番外編・布と型紙のお店クルール 高階百合子さん

2019.10.23更新

 たくさんつくってたくさん売る、いわゆる大量生産大量消費ではなく、つくり手にも買い手にも「ちょうどいい」「ほどよい」量って、あるんじゃないだろうかーー?

 そんな視点から仕事を見つめ直し、持続可能なビジネスを探った本、『ほどよい量をつくる』(甲斐かおり著)がインプレスとミシマ社のレーベル「しごとのわ」から発刊されました。つくりすぎず、働きすぎず、それでもやっていける。本書では、そんなさまざまな視点から「ほどよい量」の仕事を成立させている人や企業が、事例として多く登場しています。

 本書の裏話や、盛り込めなかったエピソードが満載の、著者の甲斐かおりさんによる短期連載がスタートしたばかりなのですが、今回は番外編として、ミシマガ編集部が気になる人・高階百合子(たかはしゆりこ)さんにインタビューしました。
 お子さん2人を育てながら、布と型紙を販売するオンラインショップ「クルール」を2001年にスタート。以降18年間、従業員がひとりも辞めていないといいます。経営も働き方も「ほどよさ」を探りながらつづけられてきたそのお仕事について伺いました。

(聞き手・構成:新居未希)

「つくる喜び」にとことん寄り添う

 布といっても千差万別で、コットン、リネン、ナイロン、ポリエステル・・・と、素材だけでも両手にあふれるほどの種類があります。

 クルールで取り扱っているのは、アパレルブランドが洋服に使っているような布や、オリジナルのパターン(型紙)です。生地×型紙で自分だけのお気に入りが作れるようなアイテムを販売しています。

 クルールの特徴は、「手づくり」という言葉で多くの方がイメージするであろう「ふんわり、ナチュラル」というよりも、シンプルだけれどきれいめで、身体を美しく見せてくれるシルエットのものが多いこと。膝丈ワンピースからハイウエストのパンツ、オーバーサイズのテーラードコートまで、どこか「旬」な雰囲気を感じさせるお洋服を自分の手で作ることができます。ショップページを見ているだけで、「えっ、これ自分で作れるの?」と驚いてしまうほど。

「クルールをはじめるまでは、テキスタイル(織物)のデザインの仕事をしていました。産地からデザインの仕事をもらうといったふうに働いていたので、生地のことは仕事上よく知っていて、いろんな布に触ってきた経験がありました。

 それとは別に、趣味として洋裁が好きでよく服を作ったりしていましたが、手芸屋さんに行っても、幼稚園バックに使うような生地しか売ってないんです。作るなら、きちんとした生地で納得のいく洋服を作りたいなとずっと思っていました。そんなとき、『手芸店にないだけで、自分の目の前、ここ(産元)に、アパレル向けの布がある』と気がついて。これを欲しい人、待っている人はたくさんいるんじゃないのかな、と思ったんです。

『つくる』って、人間の本能というか、喜びとだと思うんです。ミシンを踏むのがたのしい、服をつくることが喜びだ。その喜びを支えられるようなものを、お客様に提供したいという思いがあります。

 クルールのコンセプトは『作る達成感、装う楽しみ、その両方を叶えます』です。つくるなら、生地も納得のいく好きな生地でつくれたら一番いい。

 パターン(型紙)もそうです。会社を立ち上げた頃は、本についているものは簡単に作りやすい、ちょっとゆったりしたシルエットが出るものがほとんどでした。

 アパレル仕様のお洋服は立体裁断になっているので、縫製も難しい。本当に欲しいデザインのものや着心地のいいものは縫製も簡単ではありません。けれどもおしゃれなものがほしい。そう思っている人は自分以外にも必ずいると思い、オリジナルでパターンを作るようになりました」

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(左)「クルール」オーナーの高階百合子さん (右)会社があるのは兵庫県丹波市。豊かな田園風景が広がる

リピーターのお客さまが90%

「生地の値段層は、いわゆる手芸屋・生地屋さんで売っているようなものよりは高めです。洋服を作りたくなる生地を仕入れることにとことん努めています。

 『簡単』『だれでもできる』というところに焦点をあわせたほうが万人に受けます。そういう意味ではすこし敷居が高く、ある程度洋裁ができる方じゃないと難しいかもしれない。でも、納得のいく物づくりを支えるセレクトがあるのがクルールだと思っています。

 お客さまは、かなり長年のおつきあいの方が多く、90%以上がリピーターの方です。

 サイトは毎日6000PV以上ありますが、購買率はおそらくほかの小売よりも低いと思います。でも『次なに買おうかな』『こういうの作ってみたいな』とウィンドーショッピングのように楽しんでくださっているようで、それはすごく嬉しいです。正直あまり『購買率』とか『どれだけ売れたか』とか、それほど気にしていなくって。決算書とかも苦手で、内容はあんまり見てこなかったんです。

 ただ、それでは経営者として良くないなとこの18年で実感しました。車のスピードメーターを見るように、今ガソリンはどれくらいで、スピードは・・・ということは、しっかりわかっていないといけない。好きな物を置いていたらいいわけではなく、敷居が高いだけでもいけません。『自分もやってみよう』と思ってもらえるようなものや、こだわりの伝え方が必要だし、もうすこし年齢層を幅広く提案していきたいなとか、いろいろと考えているところです」

20191023-3.jpgクルールで扱っている生地の一部(写真:高階さん提供)

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生地と型紙がセットになった「キット」も。アウターだけでも種類がいろいろ(画面キャプチャ)

 そうして考えながら長年やってきたけれど、2017年前後から生地の売れ行きが思わしくなく、会社がゆっくりと降下していく感じがしてとても「もがいた」といいます。

「子どもの大学受験の年とも重なり、子育て最後のひと踏ん張りと仕事と、私自身、年齢的にもとてもしんどかった年です。

 そんなもがいた2017年を経験した後、会社の規模としての『ほどよさ』を改めて模索しています。働きすぎず、在庫を持ちすぎない。人として生きていくために、私やスタッフ、クルールにかかわってくださる方にとっての『ほどよさ』はどこだろうと。

 経営はいままた軌道に乗って走っていますが、いまの状態よりももう少し大きくなるか、小さくするかの中間に立っているような気がします。そのあたりのちょうどいい塩梅を探しています」

その人にとっての「ちょうどいい働き方」を

「働いている人は何人かと聞かれると、今日は何人だったかな・・・と、なります。なぜ即答できないかというと、スタッフの働き方が自由なんです。今日○○ちゃんお休み、○○さんは子どもが夏休みだから1カ月お休み、というのもあり。だから人数を聞かれると、『・・・いま何人かな?』となってしまいます(笑)。そういう形なので、約10人です。創業当初からスタッフは変わらないままですね」

 18年間ひとりも辞めていない、ということですか。びっくりして思わず声が震えてしまいました。

「仕事は、9時にはじまり16時にはしっかりと終わります。でも、昼間は介護などで働けないけれども夜に働きたいというスタッフがいるので、夜間に働いている人もいます。

 3人子どもがいるスタッフが、まず一番上がインフルエンザにかかって1週間休みました。2番目がうつって1週間休みました。3番目がさらにうつって1週間、最後にご本人がうつって1週間、計ひと月まるまる休みました、ということもありました。これは、お子さんがいるご家庭の方はみんな『あるある』と思われることですよね。

 でも、働くスタッフの人数がきちきちではこういうふうにはできません。ある程度の利益をあげていないと、人材にゆとりは持てない。そこは会社としての責任かなと思います。

 私の中に、スタッフに対して「それぞれの人の大切な時間をクルールに分けてもらっている」という不変の感覚があって、それは18年間変わってないです。『こんな会社やめてやる!』というスタッフが今まで一人も居なかったことは、クルールの誇りです。

 リモートで働いてもらっているスタッフもいます。事務をやってくれているスタッフなんですが、ご両親の介護のために、家族でご実家に戻ることになって。

 今までのように通勤することは不可能で、退職になる予定でした。でも通勤にこだわらなければ働くことを続けてもらえると気づいたんです。すぐに本人の意思を確認して、環境を整えました。今ではインターネットで彼女の自宅と事業所のパソコンをつなぎ、通勤していたときよりも自由な時間で働いてもらうことができています。

 性別を問わず、長年生きていると、子育て、介護など『個人の事情』が生じます。そういう個人の事情に沿わずに、『そういう働き方は困ります』と言うと『じゃあ辞めます』となってしまう。そうしてまた別の新しいスタッフを募集するというのが普通でしょうが、それではダメな時代になったように思います。

 「チーム・クルール」のメンバーをすぐにまた見つけられるかと言われると、私は難しいと思っています。今のスタッフのチームワークは、やっぱり長年の積み重ねの上に成り立っています。ここにいたい、働きたいと思ってくれているのであれば、形を変えながらいてもらえたらと思うんです。

 この規模だからできていることなのかもしれません。ちょうどいい規模なのかなと」

「思いがあれば場所なんてどこでもいい」
と言える時代になった

 ちなみに、高階さんが住んでいるのは兵庫県丹波市。選んで移住したというわけではなく、丹波にお住まいの方と結婚され、たまたま丹波にきたのだそう。

20191023-2.jpg丹波の風景(写真:高階さん提供)

「丹波は、そうですね、都会ではないです(笑)。でもインターネットがあったから場所を選ばずにはじめられたし、娘が小さいときでもできた。『思いがあれば場所なんてどこでもいいんだね』と言われたことがあって、その言葉を言われたとき、スッと胸におちたことを覚えています。

 今までは仕事に合わせて自分の生活を変える時代でしたが、今は、自分の生活スタイルに合わせて働き方を変化させることができる時代へ変わっていく過程にあると思います。場所、時差、人、いろいろなしがらみを超えて自由になれる時代かなと」

 高階さんが会社をはじめられたのは、上の娘さんが当時1歳の頃。お子さんが小さいなかで起業して、つくり手から初めて売り手になり、大変じゃなかったですか? と聞くと、

「振り返れる今だからわかりますが、本当に、周りの人たち、家族に助けられました。子どもが成長してからやるという選択肢もあったと思います。でもクルールをはじめた2001年はネットというのが泡立つ前のような、『今じゃないと意味がない』という感じがすごくありました。得意なことと楽しみがマッチして、すべてが合わさっていったという感じで、毎日とにかく楽しくて、ワクワクしていました。

 娘が二人いますが、彼女たちにも自由でワクワクできる仕事を見つけて、経済的にも精神的にも、好きも嫌いをも自由に選べる生活をしてほしいですね」

しごとのわ編集部

しごとのわ編集部
(しごとのわへんしゅうぶ)


「しごとのわ」とは?
仕事について考えるとき、成果や時間、お金を意識することがあっても、輪を意識することは少ないのではないでしょうか。小さい輪でも大きな輪でも構いません。会社や家庭、地域、過去と未来、わたしとあなた。切り離さなければ、輪はできます。仕事を考えるときそんな輪を大切にしたいという想いから、ミシマ社とインプレスの2つの出版社で起ち上げたレーベルです。

編集部からのお知らせ

「しごとのわ」から新しい本が発刊になりました!


1119101054-520x.jpg『ほどよい量をつくる』甲斐かおり著(インプレス)

 大量生産・大量消費による食品ロスや環境負荷など、その弊害が叫ばれて久しいですが、「ではどうすればちょうどよい量をつくれるのか」に対する明確な回答はありません。
成長のためにはとにかく多くつくって多く売ることが当たり前という風潮のなかで、あえて生産を抑えることへの抵抗もあり、そもそも「ほどよい生産量」を決めることは覚悟が必要です。
そんななか、従来とは違う「つくりすぎない」取り組みをして成長している企業もあります。ほどよい量、ほどよい時間、ほどよい成長……。これまで当たり前だった「大量生産」や「無理な時短」、「急成長」とは異なる「ほどよさ」をどのようにとらえ、実現しているのか。本書では、そのような事例をひもとき、自分のビジネスに活用するためのヒントを提示します。

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