特集 「ほどよい量」は、自分の動機で働く人たちから生まれる (2)しごとのわ通信

第9回

特集 「ほどよい量」は、自分の動機で働く人たちから生まれる (2)

2020.01.19更新

 2019年12月3日、『ほどよい量をつくる(しごとのわ)』の出版を記念して、「これからの時代の"ほどよい量"とは?〜個人から始まる未来の仕事、働き方のヒント」をテーマに、紀伊國屋書店新宿本店にてイベントが開催されました。
 ゲストに、株式会社スマイルズ代表取締役社長の遠山正道さん、クラフトチョコレートブランド「Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)」を経営する山下貴嗣さんをお迎えし、著者の甲斐かおりさんが司会を務められたこのイベント。
 "ほどよい量"をめぐる対話は、それぞれの人がいかに自分の理由で、自分のエンジンで仕事をするか、というテーマに発展。深くうなずき続けたお話の内容を、2日間にわたりお届けします。

(1日目はこちら)

ダメな職場はめちゃくちゃやりがいがある

甲斐 ここまで経営者としてのお話を伺ってきましたが、従業員の立場としての話も伺いたいと思います。会社員として働いていて、自分がやりたいことと会社から与えられている仕事や会社の方向性が違った場合は、どうすればいいのでしょうか?

遠山 まず、ダメな職場っていうのはめちゃくちゃやりがいがあるわけです。自分で良くしていけるから。逆に私が絶対行きたくない職場は、たとえばアップルに年俸5億円でヘッドハンティングされるとかですかね。そんなの5億円の価値うみだせないもん。それよりもダメな組織のほうが変えがいがあるというか。だからダメな上司とか最高です。

甲斐 なるほど(笑)。できることがたくさんあるってことですね。たとえば遠山さんの会社であれば、先ほどのお話にあったように「お金が一番ではない」と言い切れると思うんですけど、まだまだ世の中には売上を伸ばすことだけが目標というような会社も多くあります。そういう中にいて、もっと今の世の中に合ったやり方などを提案していくためのヒントがあったら、お聞かせください。

遠山 たぶんそういう会社って、今、上手くいっていないんだと思います。そこだけをやるよりももっと違う視点を持つべきだというのは、みんな思っているはずで。
 私はよく「ハンコのいらない仕事こそやりがいがある」と言っています。たとえばスープストックトーキョーの店舗で、カップが置いてあるんだけど、「これ、伏せて置いておいたほうが良いな」とか。そんなの店長のハンコとかいらないわけですよね。自分でこのほうがいいなと思ったら、勝手にやっちゃえばいい。

甲斐 小さなことから、ということですね。

遠山 そう。小さなことこそやりがいがあります。ハンコがいるようなことだと、そこでダメだと言われたりとか、上の人の手柄にされちゃったりとか。でも、どんどん小さなことをやっていくと、絶対見てくれている人っているんですよね。お、こいつは「コレ」と言ったら「コレ」だけで返してくるのではなく、そこに自分なりの付加価値を付けてくる人だなって。そういう人の元に仕事は舞い込んでくるんです。だってせっかく仕事をしているんだったら、ただ打ち返しているラリーだけではつまらないじゃないですか。

山下 小さなことなら、そんなに責任を取らなくていいから、自信を持って失敗できますもんね。

遠山 そうそう。そういうことが、成功体験として蓄積していきますよね。

会社側ではなく、自分自身の理由で働いてほしい

甲斐 Minimalさんでも、部下から上がってくるアイデアが実現しやすくなるような仕組みはありますか。

山下 僕らは、マニュアルもないので、どんな接客をしてもいいですし、基本的にはすべて自由です。Minimalも社長の権限はほぼないです。
 ひとつ決めているのは、アルバイト面接でも最終面接は僕がやるのですが、必ず質問することがあるんです。ホームページに、ブランドストーリーを3000文字ぐらい書いていて、「こんな長い文章誰も読まないよ」とWebの人に言われたんですけど、面接の時に「ブランドストーリーを読みましたか、読んだとしたらどこが一番心に残りましたか?」と聞くんです。それでなんとなく、根っこが一緒かどうかがわかる、というのを大切にしています。

甲斐 そこでちょっとふるいにかけているというか。

山下 少しだけ。能力については正直わからないんですけど、でもMinimalの目指すところに共感できているかという根っこの部分の想いの凝縮性を高めてやっているので、自分の言葉になっていなくてもいいから、自分ごとになる火種みたいなものがあって面接に来ているのかどうか、というのはみていますね。

遠山 ちなみにうちはちょっと違って、スープストックトーキョーをどんなに好きですと熱弁されてもあんまり意味がない。共感はもう当たり前。私の表現で言うと「自分にエンジンがついてる人」を採りたいですね。自分にハンドルとアクセルがついていて、自分で石炭をくべられる人。後ろの貨車は、ただくっついているだけで、自力では1ミリも動かないわけです。だから共感は最低限してほしいけど、どっちかというと、自分のストーリーを持っていてほしいですね。自分の将来が具体的であれば、なお良いです。
 たとえば、クリーニング屋をやっている自分のおじいさんが生きているうちに、自分なりのクリーニング屋をやりたいと言っているスタッフがいました。彼なんかは、スープストックトーキョーの店長をやってるときも、お客様からご意見をいただこうが、うるさがたのアルバイトのおばちゃんがいようが、全部将来クリーニング屋を開いた時のための経験になるじゃないですか。だから、やりたいことのために会社を舞台にしていく人はありがたい。それに将来ずーっとスマイルズで雇っていくわけにもいかないから、自分のセカンドライフというか、自分の将来のイメージを持っている人で、そこに我々もくっついて一緒になってやっていく、みたいな感じがいいなと。
 ファンというのは、依存型になる可能性があるんですね。それにビジネスの世界って大変だから、外から見ているスマイルズ像と違う部分もあるだろうし。だから会社側に理由を求めるのではなくて、自分自身の理由で働いてほしいですね。

自分にしっかり興味を持っている人の集合体がいい

甲斐 そういうこともあって「働き方『開拓』」というのを始められたんですね。1つは休みを年間120日取れるようにするということ、もう1つはピボットワークといって、複業を応援するというもの。それが今の話とつながってくる。

遠山 そうですね。まあいきなり転職って大変なんで、グラデーションがあって少しずつ試していけるといいなと。結局ゲーム作家になった社員もいて、そこに出資していたりもします。理想でいうと、その火種みたいなものが自分のストーリーの中にあって、「ミニマルさんもまあまあいいんじゃない」という感じで入ってくる人。

山下 おっしゃる通りで、独立したいという人のほうが明確にビジョンがあるので、ものすごく貪欲にいろいろなこと学びますし。

甲斐 お二人のお話を聞くと、会社員であっても自分起点の何かを持っているほうがいいのだなと思います。

遠山 そうですね。「この部長の下では働けません」と言って辞めていった人は、次の会社でも同じことを言ってますよ。要するに、外に理由を求める人は全部そうなんです。それはダメな理由もそうだし好きな理由も。

山下 めちゃめちゃ本質な気がしますね。今、情報の非対称性がどんどんなくなっているんで、隣の芝生がすごく青く見える時代だと思うんです。店をやりたい人って多くないですか? 僕は店なんて、めっちゃしんどいんで絶対やりたくないんですけど(笑)。でもそういう人にかぎって、外に理由をつけて、長く続かないというか。

遠山 福沢諭吉が言った言葉に「独立自尊」というのがあるんです。独りで立って自らを尊ぶと書くのですが、すごい言葉だなあって。隣の芝生の話でいうと、私は自分の庭先を整えようと言っているわけなんです。
 自分の庭もやらないで、他人の庭のことばっかり言ってるとね、お互い荒むわけです。でも一人一人が自分の庭をきちんとやってたら、全体も良くなるわけじゃないですか。だから、自分にしっかり興味を持っている人の集合体がいいですね。

甲斐 それであれば規模が大きくなっていったとしても、一人一人がしっかり自分を持っているから、成り立っていくということですよね。

山下 「ほどよい量をつくる」ということでいうと、僕たちは現時点で、もうちょっと量を作らなくてはいけないと思っているんです。今日、遠山さんのお話を聞いて、そのためにはやっぱりそうやって独立自尊している人が増えていくということでいいのかなと、ちょっと安心しました。
 今いろいろなことが二律背反しているように見えるんです。たとえば5店舗から10店舗にするのがいいんじゃないのか、そのほうが売り上げも単純計算であがるよなとなったときに、いやでもちょっと待てよ、おれらほんとにこのクオリティで10店舗いけるんだっけ、と。量かクオリティのどっちをとろうとなった時には、戻るのはクオリティでありたいと思っています。

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遠山 正道(とおやま・まさみち)

株式会社スマイルズ 代表取締役社長
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるというビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。最近では、もっともシンプルな結婚の在り方「iwaigami」、小さくてユニークなミュージアム「The Chain Museum」、アーティストを支援できるプラットフォーム「Art Sticker」などをスタート。

山下 貴嗣(やました・たかつぐ)

株式会社βace 代表取締役CEO
チョコレートを豆から製造するBean to Bar(ビーントゥバー)との出合いをきっかけに、世の中に新しい価値を提供できる可能性を見出し、2014年に渋谷区・富ヶ谷にクラフトチョコレートブランド「Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)」を立ち上げる。
年間4か月強は、赤道直下のカカオ産地に実際に足を運んで、カカオ農家と交渉し、良質なカカオ豆の買付と農家と協力して毎年の品質改善に取り組む。カカオ豆を活かす独自製法を考案し、設立から3年で、インターナショナルチョコレートアワード世界大会Plain/origin bars部門で日本初の金賞を受賞。2017年にはグッドデザイン賞ベスト100及び特別賞「ものづくり」やWIRED Audi INNOVATION AWARD 2017 30名のイノヴェイターにも選出される。

甲斐かおり(かい・かおり)

フリーライター。長崎県生まれ。会社員を経て、2010年に独立。日本各地を取材し、食やものづくり、地域コミュニティ、農業などの分野で、昔の日本の暮らしや大量生産大量消費から離れた価値観で生きる人びとの活動、ライフスタイル、人物ルポを雑誌やウェブに寄稿。携わった書籍に『ソーシャルデザイン』『日本をソーシャルデザインする』(以上、朝日出版社)、取材本に『暮らしをつくる』(技術評論社)

しごとのわ編集部

しごとのわ編集部
(しごとのわへんしゅうぶ)


「しごとのわ」とは?
仕事について考えるとき、成果や時間、お金を意識することがあっても、輪を意識することは少ないのではないでしょうか。小さい輪でも大きな輪でも構いません。会社や家庭、地域、過去と未来、わたしとあなた。切り離さなければ、輪はできます。仕事を考えるときそんな輪を大切にしたいという想いから、ミシマ社とインプレスの2つの出版社で起ち上げたレーベルです。

編集部からのお知らせ

1/23(木)『ほどよい量をつくる』刊行イベント@B&Bを開催します!

 今回は、本書の著者であり、ものづくりや農業、地域コミュニティなどの分野で日本各地を取材してきたライターの甲斐かおりさんをファシリテータとして、ゲストにALL YOURS代表の木村まさしさんと、無人古本屋やブックマンションを運営する中西功さんをお招きします。
 テーマは、「僕たちがこれを選ぶ理由。これからの売る・届けるを考えよう」。

 奮ってご参加ください!

詳しくはこちら

「しごとのわ」から新しい本が発刊になりました!


1119101054-520x.jpg『ほどよい量をつくる』甲斐かおり著(インプレス)

 大量生産・大量消費による食品ロスや環境負荷など、その弊害が叫ばれて久しいですが、「ではどうすればちょうどよい量をつくれるのか」に対する明確な回答はありません。
成長のためにはとにかく多くつくって多く売ることが当たり前という風潮のなかで、あえて生産を抑えることへの抵抗もあり、そもそも「ほどよい生産量」を決めることは覚悟が必要です。
 そんななか、従来とは違う「つくりすぎない」取り組みをして成長している企業もあります。ほどよい量、ほどよい時間、ほどよい成長……。これまで当たり前だった「大量生産」や「無理な時短」、「急成長」とは異なる「ほどよさ」をどのようにとらえ、実現しているのか。本書では、そのような事例をひもとき、自分のビジネスに活用するためのヒントを提示します。

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