「ほどよい量」を考えるしごとのわ通信

第5回

「ほどよい量」を考える

2019.10.17更新

 9月25日に、しごとのわの新刊『ほどよい量をつくる』が発刊となりました。

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 この発刊を記念して、著者の甲斐かおりさんに、本書には収めきれなかったエピソードや、本書を綴りながら考えたことなどを、5回にわたって短期連載していただきます。


 つい最近、『ほどよい量をつくる』という本を出した。正直なところを告白すれば・・・最後の最後まで、私自身このタイトルには自信がなかった。一度はシンプルでわかりやすいと思ったものの、発売が近づくほど不安になってしまったのである。

 ほどよいって、いくらなんでも曖昧すぎやしないか。何の本かわかってもらえるんだろうか・・・・・・??

 ところが結果、まったくの杞憂だった。本を差し出すと、知人友人たちは瞬時にその意味を察してくれる。「ほどよい量=つくりすぎない量」の話だとわかってくれて「最近ちょうどこういうことを考えていた」と言う人も一人や二人ではなくて、むしろちょっと驚いた。

 もともとこの本は『お客さんは100人いればいい』という企画が発端になっている。私はここ10年ほどフリーランスでライターをやっていて、日本の各地を取材してきた。

 取材する相手は地方で働くものづくりの職人や工房、農家、カフェやゲストハウス、製造会社などさまざまな仕事をする人たちで、田舎へ行くほど小さな規模の商いをしている人が多かった。売上を伸ばすより日々の充足感を大切に仕事をしているような人が多く。フリーランスになる前、会社員として売上を上げよ伸ばせよと仕事をしてきた自分にとって、このことはすごく新鮮だった。

 こけしをモチーフにした木工雑貨ばかり店にたくさん並べている職人さんや、ベーグルを自宅の一角で販売し始めたら人気になって田んぼの中に長蛇の列が......なんて光景にも出くわした。でも都会で会社勤めをしている人たちから見ると、どこか遠い世界だろうなぁとも感じていた。

 そんな中で5年ほど前に出会ったのが、千葉県四街道市で西洋野菜を育てる農家の栗田貴士さんだ。栗田さんはカラフルなシャツを着て洒落た帽子をかぶった、楽しげな農家さん。千葉の住宅街のそばの1ヘクタールほどの広さの畑で、150種類以上の珍しい野菜やハーブを育てている。

 畑を案内してくれた際、「食べてみてください」と次々に差し出される野菜のタネや花、根っこをおそるおそるかじりながら、野菜のあれこれを教わった。ネギは根っこまでネギの味がすること、キャベツは花まで食べられること、ナス一つとってもいくつも種類があってそれぞれどんな料理に向いているかが違うということ。知らない味との出遭いの連続で、栗田さんの畑はワンダーランドのようだなと思ったりした。

 栗田さんは一般的な農家のように一つの作物を畑一面大量に栽培するのではなく、さまざまな野菜をあれこれ、それも見た目や形だけにこだわらず「おいしさ」を追求するような農業を営んでいる。収穫した野菜はシェフなどのプロにだけでなく、一般家庭向けに宅配やイベント出店を通して販売する。

 2度めに畑を訪れた時だっただろうか。栗田さんはこんな話をしてくれた。

 「僕考えたんですよね。僕一人が一年でつくることのできる野菜の量って、せいぜいお客さん100世帯分くらいだなって。だったら、その100人は自分の大好きな人たちにしたいなと思ったんです」

 その時、私の中で何かがカチリと音を立てた気がした。栗田さんのいう「100世帯」は栗田さんにとっての数字であって、誰にでも当てはまるわけではない。100という数字は象徴的な数字にすぎない。

 でも私にはこれまで各地で出会ったものづくりやお店をやっている人たちもそんな気持ちで仕事していたのではないだろうか?と思えたのだ。

 お客さんの喜ぶ顔を見ながら、好きな仕事を気持ちよく続けていけるなら、生産規模を拡大せず一定で持続させたい。必要以上にお客さんを増やしたくはない。みんながはっきりそう口にしたわけではなかったけれど、どの人の仕事ぶりもそれに共通したものがあった。

 だからといって趣味の延長というわけではなく、生活のために稼げれば何でもいいというのでもなく、やりたいことにきちんと向き合って、最低限ちゃんと稼いで生きていきたい。

 栗田さんが見せてくれた世界は、その考え方さえヒントにすれば、いろんな仕事に応用できるところがあるのではないかと思えた。自分にとってちょうどよい規模感の生産量を、独自で開拓したルートで販売して、100世帯ほどのお客さんがいて、生活が継続していく。

 ある時ミシマ社の編集者、星野友里さんにその話をしたら、星野さんは「会社勤めをする人にも、そんな風に自分の仕事を無理に拡大せず、丁寧につくったり、届けたりしたいと思っている人は案外多いんじゃないだろうか」と言った。自分自身もそうだから、と。

 それから2人であれこれ話しているうちに、企業としてそうした「ほどよい量」を目指してものづくりしているところはないんだろうか?という話になったのだ。

 そもそも売上は上げてなんぼと思われているけれど、ここまででいいと上限を決めているような会社はあるんだろうか? 生産量を減らす努力をしているようなところは? 仮に量産していても、つくり手の熱量を保ったままお客さんに届ける方法もあるのでは?

 星野さんと話した後一人になって、これまでの数年間に自分が取材してきた先を振り返ってみると、あるあるある......。あれもそうかも、これもそうかなと思える人や企業がたくさん思い浮かんだ。

 つくりすぎないためにパンを2種類に絞った店、機械的に量産していたモノを高品質高単価のこだわりのものに変えたメーカー、量産型の業界にありながらクリエイティブなものづくりをできる工房へシフトした会社。

 さらに調べてみると、生産量を減らすだけでなく、逆に少量生産しかできなかった価値あるものを市場で通用する量にして、生業として成立させている会社もあった。天然染をアパレル業界でも使えるようにした工房や、新規就農者のオーガニック野菜だけを扱う野菜の流通企業。

 みんな「ほどよい量をつくる」ことを目的にしているわけではないけれど、それぞれ大量廃棄しなくて済む量、無理して働きすぎない量、自然に負荷をかけない量、など、丁寧にやり甲斐をもって仕事することや、お客さんにちゃんと届けるための工夫を自然と行っている企業ばかりだった。

 この、量に関してバランスを取る試みが、そのまま新しい価値観のものづくりや働き方にもつながるんじゃないか。そんな視点から集めた話を「つくる」「売る」「届ける」の3つの面でまとめたのが本書『ほどよい量をつくる』である。

 こちらのミシマガジンでの連載では、本に掲載した話の中からと、紙面の都合上入れることが叶わなかったエピソード、本では取材できなかった新たなケースも紹介できたらいいなと思っている。これから先「ほどよい量」を追求する試みはもっと増えて多様化していくだろうと思う。

 このテーマに関していえば、書けることはどんどん増え続けていくと思うのだ。

甲斐かおり(かい・かおり)

フリーライター。長崎県生まれ。会社員を経て、2010年に独立。日本各地を取材し、食やものづくり、地域コミュニティ、農業などの分野で、昔の日本の暮らしや大量生産大量消費から離れた価値観で生きる人々の活動、ライフスタイル、人物ルポを雑誌やウェブに寄稿。携わった書籍に『ソーシャルデザイン』『日本をソーシャルデザインする』(朝日出版社)、取材本に『暮らしをつくる』(技術評論社)。

しごとのわ編集部

しごとのわ編集部
(しごとのわへんしゅうぶ)


「しごとのわ」とは?
仕事について考えるとき、成果や時間、お金を意識することがあっても、輪を意識することは少ないのではないでしょうか。小さい輪でも大きな輪でも構いません。会社や家庭、地域、過去と未来、わたしとあなた。切り離さなければ、輪はできます。仕事を考えるときそんな輪を大切にしたいという想いから、ミシマ社とインプレスの2つの出版社で起ち上げたレーベルです。

編集部からのお知らせ

「しごとのわ」から新しい本が発刊になりました!


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『ほどよい量をつくる』甲斐かおり著(インプレス)

 大量生産・大量消費による食品ロスや環境負荷など、その弊害が叫ばれて久しいですが、「ではどうすればちょうどよい量をつくれるのか」に対する明確な回答はありません。
 成長のためにはとにかく多くつくって多く売ることが当たり前という風潮のなかで、あえて生産を抑えることへの抵抗もあり、そもそも「ほどよい生産量」を決めることは覚悟が必要です。
 そんななか、従来とは違う「つくりすぎない」取り組みをして成長している企業もあります。ほどよい量、ほどよい時間、ほどよい成長・・・。これまで当たり前だった「大量生産」や「無理な時短」、「急成長」とは異なる「ほどよさ」をどのようにとらえ、実現しているのか。本書では、そのような事例をひもとき、自分のビジネスに活用するためのヒントを提示します。

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