「関わりしろ」をつくり、お客さんを主役にした売り方(1)しごとのわ通信

第11回

「関わりしろ」をつくり、お客さんを主役にした売り方(1)

2020.03.11更新

 2020年1月23日、『ほどよい量をつくる(しごとのわ)』の出版を記念して、「僕たちがこれを選ぶ理由。これからの売る・届けるを考えよう」をテーマに、下北沢の本屋B&Bにてイベントが開催されました。
 ゲストのALL YOURS代表の木村まさしさんと、ブックマンションの中西功さんは、『ほどよい量をつくる』の本や連載でスポットを当てた方々。「つくる量と価格」「お客さんとのつながり」「届け方」という3つの柱のうち、「お客さんとのつながり」と「届け方」に特色のある展開をされています。木村さんはアパレルブランドとして、中西さんは新しい形の本屋さんとして。
 お客さんとの距離感、オンラインとリアルの使い分け、「余白」の作り方・・・。初対面とは思えないほどドライブしていくお二人のお話に、会場のお客さんがぐんぐんと引きこまれていくのを肌で感じました。お話の内容を、2日間にわたりお届けします。(文・編集部)


 まずは、ゲストのお二人から、それぞれの事業について説明していただきました。ALL YOURSの「YOURS」とは「あなた」、お客さんのこと。着る人に寄り添い、ファッション性より使い勝手や耐久性を重視した服をつくるメーカーです。実店舗はあるけれど在庫を抱えずにすべてオンラインで決済を行う方式で「24ヶ月連続クラウドファンディング」や「47都道府県ツアー」などユニークな販売方法やTwitterなどSNSを生かしてお客さんを巻き込む展開を仕掛けていらっしゃいます。

 一方、中西さんは、建築家の弟さんと一緒に作った無人の本屋「ブックロード」と、84人の方に棚を貸してみんなで運営する本屋「ブックマンション」を運営していらっしゃいます。無人の本屋では、店主が普段居ないにも関わらず、お客さんが本を寄贈してくれたり、自由に本のディスプレイをしてくれたり、多くの人が関わる余地のある本屋になっているのだとか。またブックマンションでは本棚を一般の方々に貸し出すレンタルボックス方式で84人の本屋さんの集合体としての本屋を営んでいます。

 話は、それぞれのお客さんとの関係性のつくり方、から始まりました。

お客さんを特別視しない

甲斐 お二人に共通していることは、お客さんとの距離が近いことだと思うんです。ただお店やブランドを作っただけで盛り上がるとはかぎらないですよね。お客さん、共感者を増やしていくためにやっていること、工夫していることを教えてください。

木村 お客さんを特別視しないってことですかね。最近世の中が面白くなくなったと思うのは、サービスが過剰になりすぎて、お客さんが受け身になっていることだと思うんです。
 たとえばAmazonを使うと、次の日に届くじゃないですか。これって特殊なことだと思うんですけど、それが当たり前になって、次の日に届かないとイラっとするようになってきたでしょ。そうやって世の中が速く正確になっていっていく中で、ブレーキのかかるサービスっていいなって。僕らはそういうものを提供したい。まあうちの場合は今「ほどよい量」が作れてないから、注文いただいてから届けるまでにかなり時間がかかってしまっているんですけど(笑)。

甲斐 それは戦略ではなくて、ですね(笑)?

木村 はい(笑)。ただ、そういうことも含めてお客さんに理解してもらおうと。そのためには「サービスを提供する人」と「サービスを受ける人」という関係じゃ成立しない。お客さんに僕らがやっていること、なぜ届くのが遅いのかというところまで理解してもらえないと難しい。

甲斐 理解してもらうために、具体的にはどんなことをされているんですか?

木村 基本は全部正直に話すってことでしょうか。なぜ遅くなっているのか。なぜだかお客さん相手だと「原料高騰のため値上げします」といったふんわりした言い方になっちゃったり「お客さんに言っちゃいけないこと」というのがなんとなく線引きされているんですよね。僕らにとって買ってくれた方は仲間なので、ちゃんと伝えよう、と。

甲斐 お客さんとのコミュニケーションがとても煩雑になりそうですが、手段としてはどんな?

木村 TwitterはじめSNSが多いですね。社内ではカスタマーサクセスって言葉を使っていて。僕らの商品は一度買って終わりではなくて、買った瞬間からお客さんとの関係性が始まるサブスクリプション型のビジネスに近いんです。実際は買い切りなんですけど。耐久性が高くて直せる服、捨てないで済む服をつくろうというのが根底にあるので、買った後の方が付き合いが長いんです。

起きていることをみんな信用する

甲斐 中西さんはいかがですか。無人本屋を作っただけでは、なかなかお客さんは来ないと思うんですけども。

中西 そうですね。僕の場合、仕組みとして、無人の本屋とブックマンションというみんなで運営する本屋をやっているので、お客さんに使っていただいて初めて完成するんです。お客さんの関与する余地がたくさんあるんですね。むしろ何かしてくれないと何も始まらない。
 たとえばある方が、金魚の本の前に金魚のおもちゃを飾ってくれていたことがあったんです。勝手にチェ・ゲバラの本のコーナーがつくられていたこともあったし、今だと店内にレコードが展示されていたり。そういうのをTwitterで投稿すると、お客さんの反応がすごくいいんです。僕が「最近こう思う」みたいなことを投稿しても全然反応ないのに(笑)。

木村 うちも同じですね。お客さんの投稿から知って入ってくる人の方が多い。

中西 僕の考えとかより、みんなお客さんがどうそこに関わっているかや、何が起きているかを知る方がリアルだし、信用するんだと思います。

甲斐 私から見ると、その時中西さんが店で起きていることを逐一Twitterなどでレポートするって行為がすごく重要だと思うんですよね。でないと、お客さんの反応もないわけで。

中西 そうかもしれないですね。店で起きていることを投稿することで、ああ本を置いてもいいんだとか、ここまで関わっていいんだという取扱説明書みたいな役割にもなっているのかもしれないです。

木村 お店が遊び場にもなっているんでしょうね。遊びの作品を紹介するからみんな喜ぶ。それで、またやりたくなるっていう。その時こちら側でお客さんをコントロールしないことがすごく重要ですよね。

中西 そうですね。オレの店というよりお客さんに自由に使って、くらいの方がいいなと思っていて。ブックマンションの棚を借りている方がZINEを作ったときは発表会をしてもらったり。みなさんに主役になってもらう場にはなってると思いますね。お客さんのアイデアでイベントもしますし。買い手・売り手という二項対立ではなくて、混じるようにして店が運営されてるなって思います。

こっちが信じきったら、お客さんも信用してくれる

木村 僕もそうですけど、中西さんも性善説でやってますよね?

中西 そうなんですよ。無人の本屋なんて、やろうと思えば本を勝手に持っていくこともできると思うんですけど、今までそういうことは起きてないんです。鏡の法則じゃないですけど、こっちが信じきったらお客さんも信用してくれるのかなと思って。

木村 ルールって、輪を乱す1人のために作るでしょ。100人いて1人が輪を乱したら、その1人のためにルールを作っちゃうから、99人の人がその代償を背負わなくちゃいけなくて。でも1人のことを気にしなかったり、認めてしまったりすると、いいほうに解釈したルールになると僕は思うんですよね。そういうことをやられてますよね。

中西 企業だったらその1人を気にするのかもしれないですが、個人でやっているので全体として成立していればいいのかなって。これで6年半続けてこられたので、それだけいい人たちがいることの証だなって思いますね。

甲斐 ブックマンションの方はどうですか?みんなで本屋をつくる上で、お店の質を担保するためのいろんな工夫がありましたよね。本棚を一つ借りるのに月額3,850円がかかって、一冊売れるごとに100円をお店側に納めるとか。

中西 そうですね。拾ってきた本を50円でもいいから売れればいいやってことではなくて、ちゃんとした本を500円とか1000円とか値付けして売っていただくために最低100円を対応料としていただくようにしているんです。一つだけルールをつくって、全体がうまくまわるようにってことを考えますね。

甲斐 無人の本屋さんにしても、ブックマンションにしても、権利とかなく「どんどん真似してください」というのが中西さんのスタンスなんですよね?

中西 そうですね。基本的には取り組みやすい本屋さんづくりのフォーマットを作って、それをやりたいと思った人にそれぞれ自由に作ってくださいというスタンスです。やりたいと思った人がそれぞれ作ったほうが、その土地に適応していくと思うので。
 よく「邪道だよね」って言われるんですよ。無人の本屋は作るし、みんなでやる本屋も作るし。でも本屋さんが減り続けている中で「こんな本屋もありだよね」というものを提示していかないと、どんどん衰退していってしまう。そうすると他の人も「ならこんな本屋もありじゃない」となると思うので、その「あり」を作っていきたいですね。

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(後編はこちら)

しごとのわ編集部

しごとのわ編集部
(しごとのわへんしゅうぶ)


「しごとのわ」とは?
仕事について考えるとき、成果や時間、お金を意識することがあっても、輪を意識することは少ないのではないでしょうか。小さい輪でも大きな輪でも構いません。会社や家庭、地域、過去と未来、わたしとあなた。切り離さなければ、輪はできます。仕事を考えるときそんな輪を大切にしたいという想いから、ミシマ社とインプレスの2つの出版社で起ち上げたレーベルです。

編集部からのお知らせ

「しごとのわ」から新しい本が発刊になりました!


1119101054-520x.jpg『ほどよい量をつくる』甲斐かおり著(インプレス)

 大量生産・大量消費による食品ロスや環境負荷など、その弊害が叫ばれて久しいですが、「ではどうすればちょうどよい量をつくれるのか」に対する明確な回答はありません。
成長のためにはとにかく多くつくって多く売ることが当たり前という風潮のなかで、あえて生産を抑えることへの抵抗もあり、そもそも「ほどよい生産量」を決めることは覚悟が必要です。
 そんななか、従来とは違う「つくりすぎない」取り組みをして成長している企業もあります。ほどよい量、ほどよい時間、ほどよい成長……。これまで当たり前だった「大量生産」や「無理な時短」、「急成長」とは異なる「ほどよさ」をどのようにとらえ、実現しているのか。本書では、そのような事例をひもとき、自分のビジネスに活用するためのヒントを提示します。

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