「買う理由」がほしいしごとのわ通信

第8回

「買う理由」がほしい

2019.11.25更新

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 この本『ほどよい量をつくる』を書き始めてからお会いしたいと思っていた人は何人かいたけれど、最後まで取材が叶わなかったのが、ALL YOURSの木村昌史さんだった。
 木村さんは今年の春から、47都道府県で試着販売会を開催する全国行脚の旅を始めたばかりでなかなかつかまらず、ついぞ本の締め切りに間に合わなかったのだ。
 この連載を機に、はれて話を伺うことができた。

 お会いしたかった理由に、ALL YOURSが2015年以降クラウドファンディングで累計5000万円近い額を獲得する勢いのあるアパレルブランドだということもあったが、もう一つ、木村さんがALL YOURSを立ち上げる前、10年以上にわたってRight On(以下、ライトオン)という大手の衣料品メーカーに勤務していたと知ったことがある。

 ライトオンといえば、ジーンズを中心とするセレクトショップ兼メーカー。全国に500店舗をもつ大手チェーンである。そこを抜けてアパレル分野で独立したということは、大手では実現できなかったことをやろうとする何か思いがあってのことではないか。そうでなくてもアパレル分野の仕事の規模感による違いを、身をもって知っているに違いない。そんな話をぜひ聞きたいと思ったのだ。

トレンドではなく、道具としての衣服

 ALL YOURSの服は「着心地がよくて丈夫」なのが売りだ。世の中におしゃれな服はいくらでもあるし、アウトドアブランドなど機能性に特化した服もある。じゃあALL YOURSの服は何かと聞かれれば、使い勝手がいい、実用性が高い、という言い方がしっくりくる。
 木村さんの言葉を借りれば「生活の中で使うのにちょうどいい機能をもつ服」。

 「丸洗いできる」「シワにならない」「3時間で乾く」「世界一ストレスフリー」といったコピーがオンラインサイトには並んでいて、じつは人は長いことそんな服を求めていたのではないかという気さえしてくる。でも考えてみれば、そうした機能を正面から"売り"にした外着は今までに少なかった。
 従来の服は、ファッション性か、アウトドアなどの特殊な機能性で勝負する世界だった。

「ぱっとお店に入ってこられた方には、初めはちょっと高いねと言われるんです。パンツで1万6500円〜2万3000円するので。いつも買っている量販店のより高いなって。でも一度試着してもらうと、安いねって言われます」

 ALL YOURSの「YOURS」とは、買い手、着る人のこと。
 服が主張するのではなく、着る人が主役の服。その人のセンスで着こなしやすいように徹底してシンプルに。使い勝手はよく、耐久性も高く。だから余計な外装はしない。

たくさん人が居てこそ学べたこと

 木村さんがALL YOURSを立ち上げたのは2015年。2012年までライトオンで働いた。学生時代のアルバイトに始まり、大学卒業後は店舗勤務を経て、本部のバイヤーに。ここで大きな数字を動かす面白さや、服づくり、流通の多くを学ぶ。

「ALL YOURSを一緒に創業した原さんとはその頃から一緒に仕事をしていたんです。当時から自分たちとしてはベストだと思うものをつくっていたし、今考えてもいい商品だったなと思うものがいくつもあります。でも思うように売れないものもあって。何でだろう?と店を見にいくと棚の一番下に置いてあったり、売る人に商品の良さが伝わっていなかったりする。
 ライトオンって全国に500店舗近くあってアルバイト含めると働いている人が5000人近くいるんですよ。毎日全国の店のどこかに1人は新人が入っているような。そこで、今日入った人でも売ることができるようなわかりやすさが大事だなと思ったんです」

 「水をはじくパンツ」「めちゃくちゃ伸びて気持ちいい」など一言で伝わる商品づくりはこの時期に生まれた。今のALL YOURSの服づくりにもつながっている。

買う理由があれば

 学んだことも多かったが、次第に、自分の思う方向性と、会社のものづくりの姿勢が合わない面も出てくる。

「例えば、リーバイスには501ってずっと売っている商品がありますが、ライトオンでは毎年新しい商品をつくるんですね。今年のトレンドはこうだからと新商品を開発して。それって新しい商品への買い替えを促すことになるんです」

 お会いした日、木村さんが着ていたのは60年代のChampionのスウェット。中学生の時に買ったビンテージものだという。袖口が擦り切れていて着古した感じがカッコいいなと思った。

「例えばこれも、つくられたのはおそらく60〜70年代。僕が買った時には発売当時より高かったと思うんです。時代を経て価値の上がるものがつくりたい。何年も着られるものをと思うんだけど、新しいものを投入せざるを得なくて、自分に嘘をついているような気にもなってきて」

 さらにライトオンでは一商品につき10万から多いもので20万点近くを生産することもあり、商品開発には一年近くをかける。小さくつくって商品の改良を重ねていくということができない。

 そしてもうひとつ。気付いたことがあった。自分たちがどれほどいい服をつくって、気に入って着てくれているお客さんがいたとしても、その人には感謝を伝える相手がいないということだ。

「その人はお礼を言う術がないし、会社からもその人の顔は見えない。プライスと商品バリューの取引だけで、根本的に愛し合えない関係が出来上がってしまっているなと思ったんです。旧来型の企業の限界を感じました」

 それは会社に居ながらにして、改善できることではなかっただろうか。

「やはり規模感ですかね。経営層と考え方が一致しない限り、難しいところもありますよね。ただ今なら僕、ライトオンへのアイディアめっちゃあるんですよ。例えば路面店をもっと地域密着のコミュニティ型にして地域に役立つ店にするとか。
 いま僕らにとって、極端に言えば、買うものって何でもいいじゃないですか。それが、理由付けをしてあげることでその店で買う理由が生まれる。10万円する服は無理でも、今よりちょっと高い服を買ってもいいなと思っている人は結構いるのに、選択肢がないって声をよく耳にします」

 この本を書いた目的の一つに、会社勤めの人にも楽しく仕事をするための参考になるヒントがあればという思いがあった。
 大手では実現しにくいことがある一方で、大手にしかできないこともある。自社に有利なだけでなく、お客さんにも、仕事相手にも、地域にとってもいい結果になる解があれば、それが自分の仕事の達成感として返ってくる部分もあるのではないか。

次の"あたりまえ"をつくる人たちに

 これまでALL YOURSではクラウドファンディングを中心に販売促進を行ってきた。雑誌に写真と数行の説明が載るだけでは服の良さがなかなか伝わらず、かといって卸を通してセレクトショップに入ってもシンプルなため埋もれてしまい、詳しく説明できる販売員がいないとどんな商品かわからない。「やべぇ、いいものができたけど、売れないぞって」

 そこで起業後まもなく始めたのが、クラウドファンディングだ。一回目から369人の支援により400万円近くが集まった。

 おのずとネットリテラシーの高い、IT系などスーツでなく普段着で仕事をしている方たちに受け入れられた。すごくオシャレでなくてもいいけど、ダサいのは嫌。仕事でも着られる、楽な普段着を求める層にぴたりとハマった。

「これまでのファッション界では情報をトレンドとして売ってきたところがあると思うんです。買わせるまではテンションを上げるけど、その後がない。僕らにとってはそこから先が大事。プロダクトそのもの、服が身体に訴えることってあると思うんです。着やすいから思わず着ちゃう、みたいな」

 2017年から2019年にかけては「24ヶ月連続クラウドファンディング」により新商品を続々と開発。そして今年、全国各地で試着会を行う47都道府県行脚に出た。
 次なる課題は、インターネット上ではなく、リアルの世界でどう広めていくか。

「この旅で出会ったのが、次のALL YOURSの服を着て欲しい人たちでした。一言でいうなら、"次のあたりまえをつくる人たち"。
 たとえば、いま地方では何代も続く農家や酒屋の跡を継ぐ若い人たちがすごく頑張っていて、どんどん海外にも目が向いています。
 造り酒屋の跡継ぎが、どうやってフランスの料理店のワインリストに載るかを真剣に考えているんです。そうした人たちが作業着じゃちょっとなという時に選ばれる服になりたい」

 そうしたお客さんは、ALL YOURSが応援したい人たちであり、支持されたいお客さんでもある。

「何を買うかって、今や選挙みたいになってきていますよね。一票を投じてもらうには、支持される理由がないといけない。そのために何をするかが大事だなって。
 僕、パタゴニアをものすごく尊敬しているんですけど、いまうちの服すべてにおいてサステナブルなものづくりができているかと言えば、まだ胸を張ってそう言いきれないところがある。そこは引き続き挑戦していきたい」

 次のあたりまえをつくるーー。『ほどよい量をつくる』で紹介したのも、一票を投じたい会社ばかりであることに気付いた。

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ALL YOURS 共同代表の木村まさしさん。池尻大橋のお店にて

ALL YOURS オンラインショップ

しごとのわ編集部

しごとのわ編集部
(しごとのわへんしゅうぶ)


「しごとのわ」とは?
仕事について考えるとき、成果や時間、お金を意識することがあっても、輪を意識することは少ないのではないでしょうか。小さい輪でも大きな輪でも構いません。会社や家庭、地域、過去と未来、わたしとあなた。切り離さなければ、輪はできます。仕事を考えるときそんな輪を大切にしたいという想いから、ミシマ社とインプレスの2つの出版社で起ち上げたレーベルです。

編集部からのお知らせ

『ほどよい量をつくる(しごとのわ)』出版記念イベント開催決定!

 2019年12月3日(火)19時15分~、紀伊國屋書店新宿本店9階イベントスペースにて、『ほどよい量をつくる(しごとのわ)』出版記念イベントを開催します。

 かねてより「これからのビジネスは個人から始まる」を説かれているスマイルズの遠山正道さんと、急成長中の「Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)」の山下貴嗣さんをお招きして、これからの仕事の"ほどよい量とは何か?"を探ります。

詳しくはこちら

「しごとのわ」から新しい本が発刊になりました!


1119101054-520x.jpg『ほどよい量をつくる』甲斐かおり著(インプレス)

 大量生産・大量消費による食品ロスや環境負荷など、その弊害が叫ばれて久しいですが、「ではどうすればちょうどよい量をつくれるのか」に対する明確な回答はありません。
成長のためにはとにかく多くつくって多く売ることが当たり前という風潮のなかで、あえて生産を抑えることへの抵抗もあり、そもそも「ほどよい生産量」を決めることは覚悟が必要です。
そんななか、従来とは違う「つくりすぎない」取り組みをして成長している企業もあります。ほどよい量、ほどよい時間、ほどよい成長……。これまで当たり前だった「大量生産」や「無理な時短」、「急成長」とは異なる「ほどよさ」をどのようにとらえ、実現しているのか。本書では、そのような事例をひもとき、自分のビジネスに活用するためのヒントを提示します。

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