東京あたふた族東京あたふた族

第2回

『東京あたふた族』本日発売です!

2022.11.10更新

 こんにちは。ミシマガ編集部です。
 本日いよいよ、益田ミリさんのエッセイ集『東京あたふた族』がリアル書店先行発売となります!

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『東京あたふた族』

あたふた族は、せわしない。
なにを隠そうわたしもその一員である。

 そう帯に記されているこの本は、日々を「あたふた」と過ごしてしまいがちな私たちを、「大丈夫!」と励ましたり、「こんなこと覚えてる?」と立ち止まらせて、深呼吸する時間をくれる一冊。
 不安があっても、失敗しても、焦っても、「私って "あたふた族" だなぁ・・・」と思うだけで、ちょっと笑えて、救われるから不思議なんです。
 本日のミシマガでは、そんな本書の内容とことばの魅力をじっくりお伝えします!

3部構成で、長編小説のようなエッセイ集!

 本書は、『そう書いてあった』『しあわせしりとり』に続いて、ミシマ社から約3年半ぶりに刊行となる益田ミリさんのエッセイ集です。

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左から、『そう書いてあった』『東京あたふた族』『しあわせしりとり』

 全280ページという充実のボリューム。
 2015年~2022年のあいだに、朝日新聞「オトナになった女子たちへ」、京都新聞「みかづき小道」、ミシマ社の雑誌『ちゃぶ台』などさまざまな媒体で発表されたエッセイと、本書のための書き下ろしエッセイが収められており、

1 上京物語
2 東京あたふた族
3 終電後

という3部構成で、1冊の本として新たな命が吹き込まれています。
 目次をのぞいてみると・・・こんなタイトルが並んでいます。

部屋探し/家電を買う/ひとり暮らし/防犯対策/新しい自分に/母がくる/マーマレードはお好き?/テキトーの練習/おもしろいことを言える人/スマホ越しの友/自分への手紙/マリトッツォ/最強のアドバイス/推しがほしい/待つ楽しみ/久しぶりの帰省/いけないクセ/わたしよりあの子/「気持ち」の重さ/本当の本当の本当の同時/まじめに遊ぶ/のび太と遊んだ空き地・・・

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 第一章の「上京物語」は、益田ミリさんが26歳で、イラストレーターになるために大阪から上京した当時を描いた作品。
 第二章の「東京あたふた族」は、コロナ前~後(2019年~2022年)の日常。
 第三章の「終電後」は、近年に発表された長めの傑作エッセイ。

 まさに、デビュー直前から今日までの、作家・益田ミリさんの「日々」を味わい尽くせる一冊。最初の1篇から最後の1篇まで、ひとつひとつのエッセイが、20年以上にわたる物語のようにつながっています。

 でも・・・「あたふた族」ってどういうこと? 益田ミリさんのことばが、なんで「あたふた」な心に効くの?
 お待たせいたしました。それでは、各章の内容にもう少しふみこんで、「あたふた」な私たちを応援し、心を揉みほぐすことばの数々をご紹介します!

「そしてわたしは夜を手にいれた」

 まずは第一章「上京物語」から。
 ミリさんは26歳で上京を決断します。

 夢を抱え、次のステージへと進むために、一歩踏み出す。そのとき誰もが、豊かな「ひとり」の時間を過ごすことになるのではないでしょうか。

 上京を決めたのが二六歳。住むところを探すためひとり新幹線に乗った。
 部屋などさくさく決まるものと思っていた。不動産屋に入る、この部屋にします、了解です。三ステップくらいでいけるんだろうと気楽に構えていたところ、どの不動産屋にも断られつづける羽目になる。
(...)しかしわたしには掟があった。「見つけた不動産屋に絶対入る」という恐ろしい掟である。

(『東京あたふた族』P8-9「部屋探し」)

 上京直後の益田ミリさんの日々には、覚悟や寂しさがある一方で、予想以上の新しい出会いや発見に満ちた、新しい自由の感覚が漂っています。

 上京前は地元にいる友人らと毎晩のように長電話していた。上京してからは手紙に変わったが、よくよく考えると紙に書くほどの話がないことにみなが気づき、やり取りもそう長くはつづかなかった。
 そしてわたしは夜を手にいれた。
 ゆったりとした自分の時間。友だちとの楽しかった長電話は過去の層となり、新時代がやってきた。

(P28-29「新しい自分に」)

 部屋にはまだゴミ箱がなかった。なぜなら都会暮らしに似合うカッコいいゴミ箱を探していたからである。
「ゴミ箱なんかなんでもええやないの」
 母は呆れていたが、わたしにしてみればいろいろこだわって揃えたかった。

(P35「母がくる」)

atafutatower.jpg初版限定で「あたふた東京タワー」写真付!

 わたしは整骨院に通いながらあることを実践していた。大阪弁を使わない、である。大阪弁を封印し、テレビドラマの人たちが話している風の言葉をまねて先生たちとの会話を試していたのである。するとこれまでの自分の雰囲気とは違う人物が形づくられていった。ちょっとおっとり気味のわたしである。

(P47「言葉のトンネル」)

 わたしは絵を描きたくて東京にやってきた。この人たちは音楽なんだ。同じじゃないか。夜が明け始めて外に出ると、決まって東京の空気をおいしいと感じた。ワンルームの部屋に戻ってからでも、しばらくは音楽が全身に張り付いたままだった。

(P69「クラブに行く」)

 新生活、引っ越し、挑戦、人生の岐路・・・そうしたときに自分が抱いてきた気持ちに、ミリさんのみずみずしい言葉によって出会いなおせます。

「今日はもうテキトーの練習だ」

 第二章の「東京あたふた族」に描かれるのは、益田ミリさんが現在の日常のなかで出会うあれこれ。
 表題作「東京あたふた族」も、本章に収められています。

 落ち着いている大人は、かっこいい。
 わたしが思う落ち着いた大人とは人の話を最後まで聞ける人である。よくいるではないか、相手が話し終わらないうちから話し始めてしまう人。ああいうのはどうも落ち着きがない。あたふたして見える。「あたふた族」と名づけているのだが、なにを隠そうわたしもあたふた族の一員なのであった。(...)
 ところで、わたしのような「あたふた族」には相容れぬ一族がいる。「全部言う族」だ。その名の通り全部言わないと気が済まない人々である。

(P103-105「東京あたふた族」)

「あたふた族」と相容れぬ「全部言う族」とは、どんな人たち? ぜひ、本書を読んで確かめてみてください。

atafutaillust.jpg描き下ろしの1コマ漫画も!

 そしてこの章では、「こんなきれいなものがあった」「あんな気持ちになった」と、見過ごしてしまったたくさんのことを思い出したり、「私も明日はこれをやろう!」と思える日々の楽しみ方に出会ったりできること間違いなしです。

 わたしは決めた。
 次回からああいう場合はテキトーに切り抜けよう。
 テキトーというめちゃくちゃ便利なものを忘れていたことに気づいたのである。
 (...)
「いーんです、いーんです、このままで」
 テキトーだ。
 今日はもうテキトーの練習だ。

(P110-111「テキトーの練習」)

 ラーメンを食べ終え、おやつ用の甘いパンを買い、コーヒースタンドでコーヒーを飲んで家へと向かう。いい日だ。完璧だ、と思った。

(P109「マーマレードはお好き?」)

atafutatobira.jpg扉にもかわいい仕掛けが! 装丁デザインは大島依提亜さんです。

「片方だけがすべてじゃない」

 第三章「終電後」には、長めのエッセイが5本収録されています。
 子供時代の遊び、東京で思い出す故郷・大阪のこと、「片方だけではない」世界の豊かさ・・・。
 上京から25年後、東京で暮らす家で、ミリさんは何を思う? 長い時間を旅できるような作品が集まっています。

 ルールを考えたのはむろん父だ。勝たねばいくら子供でも絶対にお菓子はもらえない。だからこそ盛り上がった。
「遊ぶときは、まじめに遊ばなあかん」
 父は遊びの最中にテレビをつけることを許さなかった。だらだらとおやつを食べるなどもってのほか。

(P258「まじめに遊ぶ」)

 終電が過ぎた深夜。誰もいないドーム内の改札を眺めに行った。時折、清掃や工事をする人々が横切っていく。
 ひっそりと静かだ。どうしてこういう光景に魅了されるのだろう? 夜の商店街や、夜の小学校。そういうものにもやはり惹き付けられてしまう。同じ場所なのに昼間の顔が正解とされている。片方だけがすべてじゃないのに。

(P266「終電後」)

 遊び場は団地の敷地や、その隙間につくられた簡素な公園だった。山も森も海もなかったが、取り上げられたわけじゃない。わたしには最初からそれだけだった。
(...)大開発された地で生まれ育ち、神社の祭りを楽しみにするような暮らし方を経験してこなかったのだ。
けれども、団地中を走り回って遊んだことや、ベランダから見ていた木もまたわたしの子供時代にとって大切なものだったように思える。足りないものを数え安直に甲乙をつけたくない。人の心の中はそんなに単純にできていない。

(P270-272「のび太と遊んだ空き地」)


 いかがでしたでしょうか?
 ぜひ、本屋さんで『東京あたふた族』を手にとって、冬の長い夜に、年末のせわしない時間に、益田ミリさんの文章を味わい、くすっと笑い、ほっと一息ついていただけたらと思います。

 そして・・・、本日ご紹介したような「ことば」にさらに触れていただくために、特別な展示を行います!

益田ミリ『東京あたふた族』エッセイのことば展

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 最新エッセイ『東京あたふた族』の刊行を記念して、東京の山陽堂書店で、益田ミリさんの「ことば」に焦点を当てた特別展を開催します。
 なんと、この展示のための描き下ろしイラストも、たっぷりと! ミリさんの作品世界をお楽しみください。

☆会場限定特典として、カバーイラストをあしらったオリジナル缶バッジをプレゼントします!(※ミシマ社より刊行の益田ミリさん著作ご購入の方が対象です)

詳細はこちら

<会期>
2022年11月22日(火)~12月3日(土)
月~金:11~19時、土:11~17時(日・祝休み)

<会場>
GALLERY SANYODO
〒107-0061 東京都港区北青山3-5-22 山陽堂書店2F
東京メトロ表参道駅 A3 出口から徒歩30秒

<お問い合わせ>
03-3724-5616(ミシマ社)

このほかにも、全国各地でフェアを開催予定です。ぜひ、こちらをチェックください!

展示・フェアについて

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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