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第4回

『東京あたふた族』刊行記念!「私の上京物語」座談会 (後編)

2022.11.19更新

 こんにちは。ミシマガ編集部です。
 11月15日、益田ミリさんの『東京あたふた族』が公式発刊となりました!
 本書は「上京物語」「東京あたふた族」「終電後」の3部構成となっており、第1章の「上京物語」には、益田ミリさんが26歳で、イラストレーターになるために大阪から上京したときのことが描かれています。
 本日のミシマガでは、平均年齢25.2歳(!)、まさに上京当時のミリさんとほぼ同年齢のミシマ社若手メンバー5人が、「上京物語」を読んで語らった座談会の模様をお届けします!
 一人暮らしをはじめる、社会人になる、という経験のまっただなかで、まさに毎日「あたふた」しまくっている私たち。・・・それぞれがどんな思い出を重ねて、本書を読んだのでしょうか?

前編はこちらから

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益田ミリ『東京あたふた族』

【メンバー紹介】

suga.jpg スガ

入社4年目。1994年生まれ。神奈川県出身。生粋のハマッコとして育ち、ミシマ社入社と同時に実家を出て東京都内に引っ越す。「永遠の新人」の称号を恣にしている彼は、ミリさんの下積み時代のエピソードをくりかえし読んでは、笑ったり笑えなかったりしながら、深く深くジーンとしている。

yamada.jpg ヤマダ

入社3年目。1997年生まれ。愛知県出身。大学進学と同時に上京。ミシマ社入社と同時に京都に引っ越す。最近「どの土地にも自分のアイデンティティはない」という孤高のセリフを口にしていた。

sumi.jpg スミ

入社2年目。1995年生まれ。島根県出身。大学進学と同時に上京。メキシコにも約2年間滞在。過去9年間で7回引っ越し経験のあることを謎の自慢にしている。

nishio.jpg ニシオ

入社1年目。1998年生まれ。千葉県出身。大学進学のため沖縄へ引っ越し、4年間過ごす。ミシマ社入社と同時にふたたび関東へ。沖縄で仕込んだ語尾の「さ~」も、東京では必死にこらえてます。

ohbori.jpg オオボリ

入社1年目。1999年生まれ。神奈川県出身。ミシマ社入社と同時に実家を出て、京都に引っ越す。人生初の一人暮らしに大奮闘中。たった4年間しか住んでいない御殿場に一番のふるさと愛を持つ。

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(左からスガ、ニシオ、オオボリ、スミ、ヤマダ。座談会はオンラインにて行いました)

「なにかの過渡期」にいる人へ

オオボリ 私の心に残ったフレーズはこちらです。

上京したての、なんにもない、ひとりっきりだった日々が今でも懐かしい。それは、図工の時間、まっさらの画用紙を配られたときの浮き立つ気持ちに似ていた気がする。

P52「バイト探し」より

 私は今年の4月から一人暮らしをはじめたのですが、引っ越して最初の一週間くらいは、本当に人と話さなくて、その、「あれ?」みたいな戸惑う感じが、この表現にすごいリンクしていて、わあーっと思い出しました。

 なんでミリさんは、ふつうなら病んじゃうかもしれないような状況でも楽しいことが見つけられるんだろうって思ったんです。

家電もそろった。引っ越しの各種手続きも済んだ。この流れでいくと次はイラストの売り込みになるはずが、わたしはなにもせず日がな一日眠っていた。

P18「ひとり暮らし」より

編集者の机上のペン立てに、わたしの名前がわかるようなモノを立ててもらうのはどうか。(...)わたしには時間があり、思いついたら試してみればよかった。

P60「不思議な編集部」より

「わたしには時間があり・・・」というところ、私なら「あー、時間を無駄にしてる」とどんどん気持ちが下がっていってしまうと思うのですが、ミリさんのいろいろな行動からは、すべてを可能性として捉えているという雰囲気が漂っていて。

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(描き下ろしの一コマ漫画も収録しています!)

スミ 無職になって、知らない街に出てきたのに、飄々とした明るさがあって、それがたまらなく魅力的ですよね。

 友だちもいないし、生活習慣も変わったし、家電やゴミ箱さえも整っていない。引っ越しをすると、多かれ少なかれみんなそういう「漂流感」を味わうと思います。

 この先の生活への期待もあるけど、孤独でもある。「なにかの過渡期」がすごくリアルに描かれている気がして、こういう感覚ってあるなぁ! と気づきました。

ヤマダ だから、きっと、上京じゃなくても、転職とか、生活環境が変わる人が読むと自分に置き換えられると思います。

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(扉にも「あたふた」な仕掛けが・・・)

のんびりする? 思いつめる? これぞあたふた族の脳内!

スガ 私は自分が「あたふた族」であるという強い自負があり、作中の「あたふた」エピソードの数々には共感と自分ごとのようにヒヤヒヤすることが多かったです。そのなかでも、「そうそう、これがあたふた族の脳内なんだ!」と勝手に思ったのがここ。スミさんが引用していたのと同じ、タバコのところです。

上京してきたのだ。東京でわたしを知る人はほぼいない。新しい自分を演出するチャンスである。
(タバコを吸ってみよう)
 今から思えば妙ちきりんな発想であるが、本来わたしはマジメであるので結構マジメにそう考えたはず。

P27「新しい自分に」より

 そうなんです、私も自分ではマジメなつもりなんですが、それが裏目に出ているのか、あとから考えると「なんでそんなことを考えていたんだろう」とか「そんなこと気にしていたんだろう」と思うことがよくあります。

スミ たとえばどんなことですか?

スガ これというのは思いつかないですが・・・。日々そんなことの積み重ねです。でも、とくに引っ越しの前後は多い気がします。柄にもなく風水とかパーソナルカラーを気にしてみたり。家具選びのときに、けっこう真剣に思いつめたりしていました。

スミ パーソナルカラー・・・(笑)。でも、変われるチャンスかもしれないと思いますよね。

スガ たしかにそういうこともあって、引っ越しとか上京のときはいつも以上に力んで、そのせいでいろんなことが気にかかって、余計にあたふたしてしまうんでしょうね。

 少し反対の話になりますが、就職して上京したあとって、意外にヒマだなって思ってみたり、事前に力んでいたわりに拍子抜けすることって多かったんですよね。

慎重派であるはずのわたしがどうしたことだ。あてもなく上京したあとは昼寝三昧の日々。(...)

 自分を試してみたい気持ち。家族と離れたくない気持ち。行くか行かぬかずいぶん迷った末に出てきた東京だった。迷ったり選んだりする必要もなくなり、どどっと睡魔がきたのかもしれなかった。

P21「ひとり暮らし」より

 第1章の「ひとり暮らし」や「新しい自分に」を読むと、劇的な出来事って意外にないですよね。自分自身もときに妙にのんびりしながら、新しい町や仕事に馴染もうととにかくあたふたしていたころを思い出して、ジンワリしました。

 そして、日常に劇的なネタがなくっても、たまたま隣の席にいる人のふとした仕草から、その人の心の奥底で流れているものを汲み取ったり、ミリさんが過去の自分自身の体験や感じた思いと重ね合わせたり。人生経験の浅い私でも共感したり、心が軽くなったりできるんです。ミリさんのエッセイを読んでいると、どんな修行をすればこんな文章を書けるのだろうといつも驚いています。

***

 いかがでしたでしょうか。

『東京あたふた族』は、人生の節目や何気ない日常のなかで出会ったことのある場面を思い出しながら、益田ミリさんのみずみずしい言葉を味わえる一冊です。

 ぜひ、お手にとって、みなさんの「上京物語」を重ねあわせていただけたらうれしいです。

(終)

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

編集部からのお知らせ

くまざわ書店グループ×ミシマ社×益田ミリ記念コラボフェア開催!

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『東京あたふた族』発刊に先駆けて、全国のくまざわ書店グループ店(くまざわ書店、アカデミア、いけだ書店、球陽堂書房)約100店舗にてコラボフェアを開催中です!
 フェア期間中に、ミシマ社より刊行の益田ミリさんエッセイ・コミックエッセイなどの対象書籍をお求めの方には、新刊『東京あたふた族』をモチーフにした益田ミリさん描き下ろしイラスト入りのブックカバーをプレゼント!(※)
 くまざわ書店グループ限定デザインの、ここだけのブックカバーです。この機会にぜひ、益田ミリさん作品をお求めくださいませ。

※特典ブックカバーはなくなり次第、配布終了となります。ご了承ください。

■開催期間:2022年10月20日から順次スタート(1~2ヶ月程度開催予定)

■開催店舗:全国のくまざわ書店グループ店 約100店舗(店舗リストはこちら
      (※グループ店でも開催しない店舗もございますのでご注意ください)

■購入特典:益田ミリさん描き下ろしイラストを使用したオリジナルブックカバー(紙製)
      対象書籍ご購入の方にプレゼント(書籍1冊につき1枚)

詳細はこちら

東京あたふた族 エッセイのことば展@山陽堂書店

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『東京あたふた族』の刊行を記念して、益田ミリさんの「ことば」に焦点を当てた特別展を開催します。
 会場には、描き下ろしイラストもたっぷりと展示されます! 「益田ミリの世界」を、じっくりとお楽しみください。

■開催期間:2022年11月22日~12月3日

■場所:山陽堂書店 2F GALLERY SANYODO

 〒107-0061 東京都港区北青山3-5-22 山陽堂書店2F
 東京メトロ表参道駅(銀座線、千代田線、半蔵門線)A3出口から徒歩30秒

■営業時間:平日11:00〜19:00 土11:00〜17:00  日祝休

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