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第7回

寄藤文平さんに、『バンド』の装幀についてきく

2019.11.10更新

 『バンド』の見本が会社に届いたとき、ちゃぶ台の上において、思わずいろいろな方向から眺めて見とれてしまったくらい、なにかが完璧で、萌えてしまうこの装幀。今回は、デザインを手がけてくださった寄藤文平さんに、お話をうかがってきました。

(聞き手、構成:星野友里)

①書影2.jpg

聞き手の木村俊介さんの文体に合う書体

―― 今回の『バンド』のデザインで、一番のポイントとなったのはどこでしょうか?

寄藤 そうですね、木村さんの文体のファンなので(※編集部注:寄藤さんはこれまでにも、『善き書店員』『インタビュー』など、木村さんのご著書の装幀を手がけてくださっています)、その文体に合う書体というのが僕のなかで重要なポイントでした。
 キャップスという組版所がもっている「文麗」という、今回の本文に使った(正確には漢字は筑紫明朝体で、かなが文麗)書体が、木村さんの文章の漢字とひらがなの量に合っていると思って、この書体でいきたいと思いました。
 それと本書はカタカナの単語もよく出てくると思うんですけど、この書体はカタカナがきれいに組めるんです。ひらがなも、ビシッとラインが出ているのに、全体の印象がやわらかいという、特殊な書体なんですよね。
 この書体を使ったのが、まずこの本の、一番の骨格となっています。

②本文写真.JPG

―― 本の装幀を考えるときは毎回、まずは本文の書体から考えられるのでしょうか?

寄藤 いつもがそうというわけではないのですが、とくに木村さんの文章は書体がよくないと、文体の感じ、声で話している感じがうまくでないような気がして。テキストがカチッと硬いと、その良さがでないというか、書体のあり方によって、文の伝わり方が影響を受けやすいんですね。

―― たしかに、本書は1ページあたり16行を入れているのに、ページにゆとりがあるように見えて、とても読みやすいと思います。

寄藤 あとは、見出しまわりにはアクシスという、ものすごく四角い書体を使っています。文麗にアクシスというのは、普通はぶつかるというか、当たりが悪いというか、組み合わせにくい書体なのですが、今回は、この組み合わせもうまくいったなと思っています。

カバーイラストは、身体の線で演技をつけている

―― カバーのイラストは、すごく少ない線なのにすごく似ています。一番やりやすかった人や一番苦労した人は誰でしょうか?

③4人のイラスト.jpg

寄藤 一番やりやすかったのは尾崎さん(一番右)で、ちょっと難儀したのが小泉さん(左から2人め)ですかね。
 顔は比較的似やすいんですけど、身体の線の重なりが全体的に難しいんです。カオナシさん(右から2人目)の左肩が落ちている感じとか、小泉さんもご本人から見て左肩が落ちている感じとか、肩の位置を変えて、顔の位置を変えることで、全体の演技をつけているんです。前を向いているけど振り返っているとか、正面を向いているけど右を見ているとか。そうしないと、絵がただの記号になっちゃうんです。

―― なるほど・・・!! ついつい顔に注目してしまいますが、身体の線の工夫があるから、ここにいる感じがするんですね。それがなかったら、棒人形のようなものに近づいてしまうということですね。

寄藤 そうそう。尾崎さんでいえば、胸板がスッと落ちているところと、首から肩の線が特徴的ですよね。

カバーがブルーになる可能性もあった

―― 本文の冒頭は、「目次」と「まえがき」の用紙の上の部分をかなりカットして、本文とは用紙を変えていて、その次に入っている「バンド」の歌詞もまた、別の紙を使いました。

④冒頭見開き.jpg

寄藤 そうですね。紙の上をカットするのは『インタビュー』でもやっていますが、今回は歌詞のタイトル「バンド」が見えて「目次」とのバランスがいいように、これくらいしっかりカットすることになりました。

―― 結果的に、CDの歌詞カードのようで、いいですよね。

寄藤 今回は、この部分の紙の色の組み合わせも、うまくいったと思います。青い見返し、青白い紙の目次、さらに少しだけ青白い歌詞の紙から、黄色系の本文用紙へ、という組み合わせですね。たとえば見返しのところに黄色系の紙がくると、急に全体がしけるんですよ。

―― 色校正ではブルー系の用紙でもカバーを刷ってみて、検討しましたね。

⑤白とブルー2.jpg

(左がホワイト、右がブルー

寄藤 構造的には、カバーもブルー系の紙だと、完結する感じがあったんです。でも実際に見てみると、ちょっと暗かったですね。絵が死んでしまうというか、白と黒のコントラストで見せているので。

王道と先端をぶつけている感じ

―― 帯のコピーの書体や配置も、すごく新鮮です。

⑥帯表1.JPG

寄藤 自分でも発明だったと思うんです。3ワード改行ということはやったことがなくて、しかも、その下の明朝に行間なしでぶつけるというのは、あんまりやらないんですけど。今回やってみて、これはアリだなと思いました。
 「いよいよやばい、そろそろ入稿しないと、さすがに怒られちゃう」というときに、「あれも違う、これも違う、あ、これだわ」って、本当にギリギリでしたけど、よかったです。

―― はい、ギリギリでした(苦笑)。表4(本の後ろ側)ではヨコ組みでも、同じ組み合わせ方をしていますね。文字として読もうと思えば読めるし、遠目にみると柄のようでもあります。

⑦帯表4.jpg

寄藤 ちょっとコラージュしたようにも見えますよね。最近プログラミングの勉強をしていて、HTMLで文字を組むと、けっこう平気で、文字が勝手に改行して重なって出てくるんです。その感じをおもしろいな、と思ってそのエッセンスを取り入れました。

―― 装幀全体として、白に黒という王道でもありつつ、今っぽくもある。

寄藤 そうそう、気分としては王道と先端をぶつけている感じですね。
 この本は、かなりパーマネントな内容だと思います。100年経っても、人が集まって何かを成し遂げようとしたときには、この本がリアリティを持つと思います。

―― たしかに本当にそう思います。今日はいろいろと教えていただき、ありがとうございました!

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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