語尾砂漠

第8回

ヨーダである、私は・・・

2022.11.13更新

ヨーダ語はOSV

 映画「スター・ウォーズ」シリーズに、ヨーダというキャラクターが出てきます。
 シリーズの中の長老的な存在で、主人公たちを導く重要なキャラクター。その外見は非常に特徴的で、小柄で緑色の肌、耳が非常に大きいなど、いかにも「エイリアン」という感じです。
 そしてもう一つ特徴的なのがその話し方。
 使っているのは英語なのですが(まぁ、ハリウッド映画ですので)、その英語がとても特徴的で、俗に「ヨーダ語」(Yodish)などと呼ばれているそうです。

 その最大の特徴は、目的語が冒頭に来ること。

Truly wonderful, the mind of a child is.
(本当に素晴らしい、子供の心というものは)
The greatest teacher, failure is.
(最高の教師である、失敗というものは)

 日本語の語順はSOV(主語、目的語、動詞)、英語の語順はSVO(主語、動詞、目的語)なのに対し、ヨーダ語はOSV(目的語、主語、動詞)というわけです。
 ちなみにこうしたOSV型の言語は数少ないけれど現実に皆無というわけではなく、たとえばベネズエラの先住民が使っているワラオ語などがそれにあたります。ただ、OSV型の言語は全世界の約0.3%しかないそうで、やはり、かなり珍しいようです(『あなたの知らない、世界の希少言語』日経ナショナルジオグラフィックより)。

ヨーダ語の「is」は語尾っぽい?

 そして、このヨーダ語を聞いて、私は思ったわけです。
 このヨーダ語の「is」って、なんだか英語の語尾っぽいなと。

 ご存じの通り、英語には語尾という概念がありません。
 あえて言えば、俗にいう付加疑問文、例えば
This is a pen, isn't it?
(これはペンですよね?)
 のisn't itが語尾に当たるようにも思えますが、あくまで例外。
 日本語で「これはペンです・・・とは言えませんよ」というように、最後の最後まで結論をぼやかすような芸当は、英語ではなかなかできないわけです。
 まぁ、そんなことができて何になる、という気もしますし、そもそもそれがペンかどうかなんて見りゃわかるだろ、という気もしますが。

 しかし、ヨーダ語ならこれと同じことができるのではないか、と思いつきました。
A pen, this is not!
(ペンである、これは......いや、違う)
 みたいな表現ができるのではないかと。

語尾をひねくり回す新キャラクター待望

 調べてみると、世の中にはモノ好きがいるもので(人のこと言えませんが)、「ヨーダ語自動翻訳サイト」なるものがありました。
 早速、「This is not a pen」と入れてみると、
Not a pen, this is.
 と、出てきました。

 あ、否定は冒頭にて行うんですね、ヨーダ師匠・・・。

 ということで、残念ながらヨーダ語でも、「語尾を使って意味を取っ散らかす」という芸当はできそうにありませんでした。
 スター・ウォーズの新シリーズではぜひ、語尾をひねくり回してジェダイの騎士たちを翻弄するキャラクターが出てきてほしいです。
 「フォースとともにあれ、と私個人としては思わなくもないけれども本当にそうかと言われると何とも言えないのが正直なところと言っても過言では・・・」みたいな。

松樟太郎

松樟太郎
(まつ・くすたろう)

1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ビジネス書の編集をする傍ら、新たな文字情報がないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。著書に『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)『究極の文字を求めて』(ミシマ社)がある。

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