語尾砂漠

第6回

ちむどんどんするさー

2022.09.25更新

言葉尻を捕らえる

 この9月で完結するNHK朝の連続テレビ小説「ちむどんどん」は、いろいろな意味で話題を呼びました。
 いろいろな意味というか、主に否定的な側面が多かったようです。
 いわく、「主人公が勝手すぎる」「成長しない」「話が出来過ぎている」など・・・。

 私も観ており、確かに言いたいことが湯水のように湧いてくるドラマであったのは事実です。
 ただ、ネット上で飛び交っている批判の中には、どう考えてもいちゃもんや、言葉尻を捕らえただけの悪意あるものも多かったと感じています。

 ともあれ、私は内容よりも、やはり語尾が気になります。
 具体的には、沖縄の人に特有の語尾「さ」です。
 これこそまさに「言葉尻を捕らえる」以外の何物でもない気がしますが、気にせず続けます。

「さ」という語尾

 「ちむどんどん」とは「胸がわくわくする」という意味ですが、例えば
 「ちむどんどんするさー」
 みたいに使われます。
 「さ」というよりも「さー」と少し伸ばすように使われるようです。

 このドラマの主人公は沖縄生まれで、最初は沖縄本島の山原、その後は横浜・鶴見の沖縄タウンが舞台になります。
 そのため、ドラマの中で主人公たちがしゃべるのも「沖縄っぽい」言葉です。
 「沖縄っぽい」と言ったのは、専門家に言わせれば、ここで使われているのは本当の沖縄の言葉ではないから。  
 ただ、それは当然の話で、本当にネイティブの沖縄の言葉を使ったら、視聴者のほとんどが置いてきぼりになるでしょう。
 おそらく言語考証の人は、「沖縄っぽさを出しつつ、誰にでもわかる沖縄弁でしゃべらせる」という結構難しいチャレンジをすることになったのではないかと思います。
 そんな中、沖縄っぽさをとてもよく演出してくれているのがこの「さ」という語尾なのです。

 「さ」という語尾は全国的に使われていると思いますが、どちらかというと「人に何かを強調して伝える」際に使われる印象があります。それもちょっとキザな感じで。
 「そうさ、俺たちは自由なのさ」
 「だから俺はこう言ってやったのさ」
 みたいな。中二病やアメリカかぶれのような、口に出すと恥ずかしい語尾、それが「さ」なのかもしれません。       
 ただ、沖縄の言葉だとその印象はなくなり、むしろ柔らかい印象になるのが面白いところです。

やっていることと語尾との「認知的不協和」

 さて、前述したように批判がやたらと多かったこのドラマ。
 その中でも反発が強かったのが、主人公・暢子の自分勝手なふるまいでした。
 例を挙げれば、
 「うちはお金がないけど東京にいくさー」
 「友達の恋人を強奪するさー」
 「その恋人の母親に弁当をひたすら送り付けるさー」
 「イタリア料理を学んだけど、それは忘れて沖縄料理店開くさー」
 みたいな行為の数々です。

 暢子が実際に上記のようなセリフを吐いたわけではありませんが、こうして並べてみると、えげつない行為に語尾の「さー」がまったくもって不釣り合いです。
 「さー」という語尾を使う天真爛漫な暢子がえげつない行為を繰り返すたび、視聴者はちょっとしたサイコパス感を感じたのではないでしょうか。

 もしこれが、別の語尾を使う主人公だったら、どうだったでしょうか。

 「うちはお金がないけど東京にいくぜよ」
 「友達の恋人を強奪するぜよ」
 「その恋人の母親に弁当をひたすら送り付けるぜよ」
 「イタリア料理を学んだけど、それは忘れて沖縄料理店開くぜよ」

 いまどきこんな坂本龍馬チックな語尾を使う人がいるのかどうかはさておき、だいぶ印象が違う気がします。
 やってることのえげつなさは変わりませんが、そこには「私は嫌われたって自分の信じる道を行く」という、一種の力強さが感じられます。

 やっていることと語尾との「認知的不協和」こそが、このドラマに批判が集まってしまった理由の一つなのではないか。
 暢子が「さー」という語尾を使っていなかったら、むしろ「力強く我が道を行く主人公」という評価を得られていたのではないか。
 そんな思いを持ちつつ、最終回を楽しみに待ちたいと思います。

松樟太郎

松樟太郎
(まつ・くすたろう)

1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ビジネス書の編集をする傍ら、新たな文字情報がないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。著書に『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)『究極の文字を求めて』(ミシマ社)がある。

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