後藤正文×小田嶋隆 文章を「書く」ことについて(2)

第6回

後藤正文×小田嶋隆 文章を「書く」ことについて(2)

2019.01.10更新

 2018年10月に発売となり、文筆家の方々をはじめ、その巧みな文章に多くの賞賛の声が集まっている『凍った脳みそ』(後藤正文著)。一方、コラムニストとして、日本最高峰の文章を世に送り出し続け、ミシマ社からは『小田嶋隆のコラム道』を発刊している小田嶋隆さん。昨年12月3日、満を持して、このお二人による対談イベントが行われました(@青山ブックセンター本店)。テーマはずばり「文章を『書く』ことについて」。新年の特別企画として、2日間連続で、その一部をお送りします。

■前編の記事はこちら

(聞き手・三島邦弘、構成:星野友里、須賀紘也、写真:池畑索季)

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『凍った脳みそ』後藤正文(ミシマ社)

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『小田嶋隆のコラム道』小田嶋隆(ミシマ社)


尻にお金を使うのか、それとも音に使うのか

小田嶋 『凍った脳みそ』の3割は、欲しいんだけどすごく高い機材を買うために、「それをなぜ買わなければいけないのか」と自分を説得するための文章でできていますよね。

後藤 そうですね。今も現在進行形で悩んでるんです。見積書が届いて。また大変な「諭吉」が出ていくんです。

小田嶋 はたから見たら無駄なものですよ。「このマイクは1万5000円で、こっちは15万円です」と言われても、きっと我々の耳には違いがわからないと思う。でもそこに大金をつぎ込んでいるわけでしょ。

後藤 そうですね。でも、性能的には5、6万からいい音の世界が広がっていくんです。次はまあ、だいたい80万くらいからすごい世界があらわれますね。世の中金かと思いますよ。だから金銭感覚がおかしくなってきます。「めちゃくちゃお金を使っちゃう」という意味ではなくて、ありとあらゆるものを機材で換算するようになるんです。

小田嶋 わたしが個人的にわかりやすかったのはシャワートイレの問題と比較してたでしょ。シャワートイレ換算で、「尻に金を使うのか、それとも音に使うのか」というミュージシャンとしての葛藤が描かれている。でも欲しい機材を全部買えるわけじゃないですよね、諭吉にも限りがあるから。

後藤 でも「実は諭吉失ってない説」もあるんです。アナログ機械は値があんまり下がらないんですよ。

小田嶋 諭吉を一時的に離すけど、また戻ってくるっていう話ですね。

後藤 そうなんです。むしろ高く売れることもある。以前僕が20万で買った機材が、いま輸入代理店を通して40万になっていたり。

小田嶋 それはアナログレコードの収集家がときどき自分に言い訳しているときのものですね。切手を集めている人も「つぎ込んでるようだけど値があがっていくんだよ」と言ってますよ。僕は「そんなことない」と言ってるんですけど。

後藤 「投資だから」と思うと買えるんですよ。

―― 後藤さんはどんどんいろんなものを集めて、どんどんエンジニア志向になってらっしゃいますよね。

後藤 そうですね。音響派になってきちゃいましたね。音がいいと、「曲はなんでもいいや」となっちゃいますね。

会場 (笑)

清水の舞台から不法投棄

小田嶋 文章を書くときって、まずはざっと書いて65点の第1稿ができますよね。いじると75点くらいのができるんです。でもう一回いじると77点ぐらいになる。でもある程度いじると、「もうこれ以上時間かけても点数上がらないかもな」という状況になって、僕は「8割ぐらいの出来だな」という文章を送っちゃうんですよ。「清水の舞台から不法投棄」と呼んでいるんですけど。後藤さんは音楽をつくるときの最終的な完成度はどんな感じなんですか?

後藤 音楽って、よくわからないところがいいんだから、完璧じゃなくていいと思っていますね。ただ、本でいう字の形や紙にはこだわろうというのが音響派の感覚ですね。

小田嶋 いい文章を書くんだけど、こだわってしまうせいで2000字の文章に2週間もかけるようなライターがいるんですよ。能力ではなく性分の問題としてそうなってしまう。音楽業界にもそういう人が多いと思うんですけど、どうなんですか?

後藤 人によりますけど、僕は完ぺきな瞬間を押さえたいわけではないというか。録音というのは一瞬を切り取って作品にして出してるので、要は写真に似ているんです。いい写真が撮れたとしても、こだわる人は「次の瞬間にはもっといい写真撮りたい」ということになっていくんですね。「でもなかなかそうはいかないよね」と。

小田嶋 そこは自分のなかでどんなふうに解決しているんですか。

後藤 ぼくらは楽理を習っていないからこそ、音楽も間違いがあったほうががおもしろいと思ってる部分がありますね。楽譜におこせる音楽だけが偉いわけじゃないって。ぼくはどっちかっていうと二度と演奏できない音とかのほうが好きなんですよ。

小田嶋 そうは言いながらも、打ち込みの音楽なんだけど人間味を出すために、ドラムのなまりを表現しようとする話が出てきたじゃないですか。そこにはすごくミュージシャンらしい印象を受けて、感心しました。

後藤 そうですね。人間味をつけるのは難しくて。逆は簡単で、「クオンタイズ」というんですけど、簡単に演奏のズレを直せるんですよ。ただそれも、直すのがよくないということではなくて、音楽の場合は直してたって音がよくなるならばいいんじゃないかと思ってて。でもプレイヤーからしたら、作品のためにと言って音をいじられるのって嫌なことなんですよね。僕も嫌ですもん。

「オイオイ、ここに革命児がいるのに」

――(会場のお客さま) 音楽や文章をつくるときに、「多くの人に届けたいな」とか「たくさん売れたいな」と考えたりしますか?

後藤 「自分が楽しければいいや」と思ってます。いろいろ背負い込んでしまっていたとき、2004年から2005年ぐらいかな、音楽が楽しくなかったんですよね。今はそんなことないですよ。たった20人しかいないライブでも、空気がめちゃくちゃいいときとかあるんですよ。3万人ぐらい集まってるけど、「俺たちが勝手に楽しいだけでなんのやりとりもない」みたいな空間ができることもある。だから「数が価値じゃないんだな」と思ってるんです。でも、来週アルバム出るんですけど。

会場 (笑)

―― いよいよ『ホームタウン』発売ですね。

後藤 売れ行きのランキングが低いと、「チェッ」とか思ってる自分もいますよ。そういうめんどくさいところがあるんです、すみません。

――(会場のお客さま) 音楽を作っているときに、自分で「これ絶対売れるだろうな」と思ってつくったのに売れなかった曲と、「えっ、これくらいでつくったのに、なんでこんなに売れちゃってるの」という曲はどれですか?

後藤 難しい質問ですね。僕からしたら、だいたいどの曲もつくりながら感動して、ひとりで鳥肌立ってたりするんです。人の音楽を聴いて泣いたことはないけど、自分の音楽で泣いたことはあります(笑)。『新世紀のラブソング』という曲ができたときは、「これで時代が変わるんだ」と感じました。それなのに、メンバーにデモを送ったら、誰からも返事が来なかった。「オイオイ、ここに革命児がいるのに」と思いましたね。

会場 (笑)

後藤 思ったより売れてるんだな、という曲は『リライト』ですね。すごい傑作だとは思ってないけど、世界中でワーッと喜ばれるから。やっぱり自分はズレてるんだなって思う。『ロッキング・オン』の渋谷陽一さんが、「バンドとかアーティストが、今までで一番ヒットしている曲を歌っているときって、みんなあんまり楽しそうじゃないんだよ」というようなことをおっしゃっていて。

小田嶋 そうかもしれないなあ。レディオヘッドが『クリープ』を嫌っているみたいに。

後藤 そうですね。でも山下達郎さんはライブで絶対『クリスマス・イブ』をやるんですよ。MCで「『なんだ山下またやるのかよ』と言われるけど、この曲だけを聴きに遠くからやってくる人もいるから俺は毎回やるんだ」と説明したことがあるんです。俺たちも『リライト』、毎回楽しくやっています。

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(終)

 2018年、ミシマ社でもっとも多くの人に読まれたのが、お二人の本でした。『上を向いてアルコール』と『凍った脳みそ』、未読の方は、ぜひ今年の初読みにいかがですか?


プロフィール

後藤正文(ごとう・まさふみ)
1976年静岡県生まれ。日本のロックバンド・ASIAN KUNG-FU GENERATION のボーカル&ギターを担当し、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける。ソロでは「Gotch」名義で活動。また、新しい時代とこれからの社会を考える新聞『THE FUTURE TIMES』の編集長を務める。レーベル「only in dreams」主宰。著書に『何度でもオールライトと歌え』『凍った脳みそ』『銀河鉄道の星』(ミシマ社)、『YOROZU 妄想の民俗史』(ロッキング・オン)、『ゴッチ語録 決定版』(ちくま文庫)がある。

小田嶋隆(おだじま・たかし)
1956年東京赤羽生まれ。幼稚園中退。早稲田大学卒業。一年足らずの食品メーカー営業マンを経て、テクニカルライターの草分けとなる。国内では稀有となったコラムニストの一人。著書に『小田嶋隆のコラム道』『上を向いてアルコール「元アル中」コラムニストの告白』(ミシマ社)、『ポエムに万歳!』(新潮文庫)、『地雷を踏む勇気』(技術評論社)、『超・反知性主義入門』(日経BP社)、『ザ・コラム』(晶文社)など多数。

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