後藤正文×小田嶋隆 文章を「書く」ことについて(1)

第6回

後藤正文×小田嶋隆 文章を「書く」ことについて(1)

2019.01.09更新

 2018年10月に発売となり、文筆家の方々をはじめ、その巧みな文章に多くの賞賛の声が集まっている『凍った脳みそ』(後藤正文著)。一方、コラムニストとして、日本最高峰の文章を世に送り出し続け、ミシマ社からは『小田嶋隆のコラム道』を発刊している小田嶋隆さん。昨年12月3日、満を持して、このお二人による対談イベントが行われました(@青山ブックセンター本店)。テーマはずばり「文章を『書く』ことについて」。新年の特別企画として、2日間連続で、その一部をお送りします。

(聞き手・三島邦弘、構成:星野友里、須賀紘也、写真:池畑索季)

noumiso_shoei.jpg『凍った脳みそ』後藤正文(ミシマ社)

column_shoei.jpg『小田嶋隆のコラム道』小田嶋隆(ミシマ社)

本筋と妄想を織りまぜて、要約させない書き方

―― 文章の専門家である小田嶋さんから見て、後藤さんの『凍った脳みそ』はどうでしたか?

小田嶋 ここしばらく読んだ本で、こんなに枝葉の部分がおもしろかった本はなかったです。『凍った脳みそ』は、「スタジオ作るよ」と最初に宣言したものの、それが深みにズルズルはまっていく過程を描いた話じゃないですか。なるべく短く要約しろと言われたら、「1人の男が、深みにはまっていく姿」ぐらいな話ですよね。

後藤 はい(笑)。

小田嶋 だけど、本筋と関係ない妄想を織りまぜて、要約をさせない書き方をちゃんとしているんですよ。ゴキブリとの会話だとか、ゴキジェットアマだとか、牛丼屋ババアだとか。

会場 (笑)

小田嶋 本筋を書きながら、「ちょっと妄想が浮かんじゃったから、その話も聞いてよ」というふうに脱線しながら書いていくっていうのは、やってみると難しいんです。妄想は妄想で一つの話として成り立たせながら、「一人の男がスタジオをつくるその苦労を語る」という全体の流れもある。これは本当にすごいこと。

後藤 ありがとうございます。

小田嶋 コラムは、まず対象があって、それについての批評や着眼をみせるものなんです。だからなにについてでも書ける。だけど、エッセイは自分を書かないといけない。すると愚痴か自慢話のどちらかになるんですけど、なおかつ微笑ましいというか、共感を持たれるように書かなきゃいけないんです。これはすごく難しい。それができた人はあんまりいない。さくらももこさんはそれができた人だと思うんです。

―― なるほど。

小田嶋 ゴッチさんもそれができてるのはとても見事だと思います。なぜできてるかというと、やっぱり「ゴキブリとの会話」のような妄想部分がおもしろいからなんですよ。「地の文章でストーリーと描写を進めてることとは別に、筆者の妄想が別のサブストーリーをつくっていて、それがおもしろい」というのがエッセイを成功させる要素だなというふうに思います。

0109_2.JPG小田嶋隆さん

歌って気持ちがいいのが正解

―― 小田嶋さんは『小田嶋隆のコラム道』という本を書かれています。

後藤 僕も読みました。おもしろかったです。結局書き方は教えてくれないんですけど(笑)。

小田嶋 そうなんです。実は『コラム道』で一番強調したかったことは、「文章の定型の書き方を身につけてしまうと、二度とぶっ壊れた文章を書けなくなってしまうよ」ということです。『凍った脳みそ』の文章を、カルチャーセンターとかがやっている「文章の書き方教室」に提出すると、かなり真っ赤に修正されると思う。文章を書く初心者がやってはいけないことを全部やってますから。

会場 (笑)

小田嶋 文章教室は、まず欠点を直して新聞記事のような文章を書かせようとするんですよ。「途中で枝葉に入るなよ」とか、「余計なものはわかりづらくなるから入れるな」と。あと気に入った比喩、「ゴキジェットプロ」とかを繰り返し使っているのも、「独りよがりな表現だ」と嫌われるでしょうね。
 文章の定型を意識して書くと、能率的だし意味も伝わりやすくはなるんだけど、絶対につまらなくなる。イチローも野茂も王貞治も、野球の基礎とは対立するフォームなんですよ。小学生レベルで直されるような特徴を持ちながら、世界の一流プレイヤーになった人が何人もいる。ということは、基礎というのは、あくまでも初心者のための練習用メソッドであって、プロの演奏家にとっては、かえって足かせになりかねない物騒な代物だということです。

―― なるほど。それは勇気が出る話ですね。

小田嶋 一度新聞記者の記事の書き方を覚えてしまうと、スラスラ書けるようになるから、その書き方に頼っちゃうんですよ。「あの個性的だったスイングはどこにいっちゃったの」となってしまうから、ゴッチさんにはこの道を極めていただきたい。

後藤 うれしいです。

小田嶋 文章を書くときと歌詞を書くときでは、制作するモードは違いますか?

後藤 歌詞の場合、メロディーが子音と母音の指定をするので、あとは韻とかフロウとかを守っていけばできていきます。
 先ほどの話に近いですけど、「歌詞には間違った言葉がない」と思ってるんですよ。文章が破滅的に壊れててもいいし、日本語がめちゃくちゃでもいいんです。歌えば勝手に歌詞の意味は通るので。だから歌って気持ちがいいのが正解と思ってます。「歌詞が書けない」とスタジオで叫んでいるミュージシャンたちを見て、「なんでもいいのに」と思っています(笑)。

0109_1.jpg後藤正文さん

「プリちゃん」と呼んだところで・・・

小田嶋 ゴッチさんが朝日新聞で連載している短い文章は、枝葉に行かずにスッキリ書いているじゃないですか。「こういう引き出しも持ってるんだ」というのが意外でした。

後藤 人称が違う影響ですね。『凍った脳みそ』では「俺」ですけど、新聞で書くときは「僕」で書いてます。

―― なるほど。『コラム道』に「文体と主語」という章があって、「ちょっと脱線したりとか、そういうときに『俺』は有効である」ということが書いてあります。

後藤 「俺」はアホっぽいじゃないですか。「僕」には取り繕っている感じがある。「僕」と言っているときには、カーテンを閉めて線引きをしているような感覚がある。「俺」は網戸から開けていますからね。

小田嶋 そう。「俺」はアホっぽいけど、正直者なんですよね。「僕」と書く人は、軽くウソをついていそう。でも新聞で、しかも500字ということになると脱線するわけにもいかないですから、なかなか「俺」じゃ書きにくいですね。
 新聞の紙面に文章を書くときには、「中学生から高齢者まで全員にわかるように書かなければいけない」と言われているんですよ。そうなると、例えば「プリアンプ」とかそういう言葉がいきなりは使えないことになっているはずです。

後藤 そうですね。「もうちょっと噛み砕いて書いてください」と言われると思います。

小田嶋 『凍った脳みそ』ではずいぶんマニアックなことに触れながらも、すごくマニアックなところを抑制しながら書いてらっしゃるなと思いました。プリアンプとマイクのくだりには、おそらくすごくマニアックなことを書いてあると思うんですよ。だけどなんとか音楽に詳しくない人にも読めるようにしようとされていますよね。

後藤 でもプリアンプのことを「プリちゃん」と呼んで、「マイク」という彼氏がいて、「ミキちゃん」も出てきて、擬人化することによってさらにわかりづらくなっている。

小田嶋 伝わってはいないんだけど、おもしろくはあるんですよ。

後藤 なるほど、結果言っていることはわからないんだ。

会場 (笑)

小田嶋 そうそう。だって生半可に伝わることじゃないですから。すごく繊細で微妙な境地の話だから。それをなんとか伝えようとして、もがいてる姿がすごくおもしろいんですよ。

後藤 自分でもニヤニヤしながら、「これ噛み砕くために人の名前にしてるけど、全然わかんないなあ」と思います。「『プリちゃん』と呼んだところで・・・」みたいな。

後編に続く



プロフィール

後藤正文(ごとう・まさふみ)
1976年静岡県生まれ。日本のロックバンド・ASIAN KUNG-FU GENERATION のボーカル&ギターを担当し、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける。ソロでは「Gotch」名義で活動。また、新しい時代とこれからの社会を考える新聞『THE FUTURE TIMES』の編集長を務める。レーベル「only in dreams」主宰。著書に『何度でもオールライトと歌え』『凍った脳みそ』『銀河鉄道の星』(ミシマ社)、『YOROZU 妄想の民俗史』(ロッキング・オン)、『ゴッチ語録 決定版』(ちくま文庫)がある。

小田嶋隆(おだじま・たかし)
1956年東京赤羽生まれ。幼稚園中退。早稲田大学卒業。一年足らずの食品メーカー営業マンを経て、テクニカルライターの草分けとなる。国内では稀有となったコラムニストの一人。著書に『小田嶋隆のコラム道』『上を向いてアルコール「元アル中」コラムニストの告白』(ミシマ社)、『ポエムに万歳!』(新潮文庫)、『地雷を踏む勇気』(技術評論社)、『超・反知性主義入門』(日経BP社)、『ザ・コラム』(晶文社)など多数。

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