誠光社 堀部篤史さんインタビュー 『90年代のこと』ができるまで(2)

第2回

誠光社 堀部篤史さんインタビュー 『90年代のこと』ができるまで(2)

2018.11.27更新

1126-1.jpg90年代のこと 僕の修業時代』堀部篤史(夏葉社)

 ミシマ社京都オフィスが引っ越して、ますますご近所になった誠光社。その店主の堀部さんの本が、11月に夏葉社から発刊しました。タイトルは『90年代のこと 僕の修業時代』。本がちょうど誠光社に届いたところに居合わせたタブチ(90年代生まれ)が、さっそくインタビューに伺いました! 1日目は本のことを伺いましたが、2日目は、DJもやられる堀部さんに90年代の音楽について語っていただいています。旧ミシマガでの人気コーナー「本屋さんと私」(気になる人に、読んできた本や通ってきた本屋さんなどをインタビューするコーナー)が復活しました。

(聞き手・構成:田渕洋二郎)

音楽から見る90年代

堀部 この本のなかでもHIPHOPがどうこうとか書いてたんだけど、やっぱりエッセイなので、どうしても伝えられない部分もあって。せっかくなので、音楽を紹介しますね。聴いてみれば「90年代的」なあり方が体感できると思います。

ーー 楽しみです!

堀部 これは1989年リリースの作品なんだけど、デ・ラ・ソウルというグループの"3 Feet High and Rising"っていう1stアルバム。ある意味90年代を予見するような作品で、これの一曲目が"The Magic Number"っていう曲なの。

1.

「MAGIC NUMBER」 DE LA SOUL

堀部 これは最初、スキットっていって、コントみたいな感じのしゃべりから始まるの。HIPHOPが生まれたのはサウスブロンクスっていう、マンハッタンの北部の荒廃した街で。そこには黒人や移民たちのような低所得者が住んでいた。ブロック、つまり町内の祭をするときにレコードをかけるんだけど、そこでブレイクビーツっていう、演奏がドラムだけになる部分で、みんなが盛り上がるのね。そこがあんまり盛り上がるから、ブレイクを長くかけようって、同じレコードを二枚持ってきて、ブレイクの部分を繰り返しかけるわけ。そのときに、MCが「盛り上がってるかい?」みたいなことをバ~ッとしゃべる。それがラップミュージックになった。ヒップホップっていうのは、DJ、ラップ、ブレイクダンスなんかを含む全体のカルチャー。

ーー かっこいいですね。

堀部 最初はターンテーブルでライブ演奏しながらラップをしたわけだけど、サンプラーっていう楽器が普及してからは、ドラムのループだけ録って、その上にいろいろ味付けしたらオケができるようになる。このアルバムも膨大な音楽のサンプリングからできています。例えば冒頭の"The Magic Number"って曲は、こういう楽曲をサンプリングしている。

2.%22THREE IS A MAGIC NUMBER

「THREE IS A MAGIC NUMBER」 BOB DOROUGH

ーー いい感じですね〜

堀部 ポップでしょ? さっき聴いた「three is a magic number~♪」っていうフレーズは、この曲から引用してるわけね。これはマルチプリケーションロックっていって、要するに子どもに数学を教える教育番組のサウンドトラックなんです。

ーー そうなんですか!

堀部 フォーキーな演奏なんだけど、けっこうグルーヴィーで。これを歌ってるのはボブ・ドローっていうジャズ・ヴォーカリストで、マイルスデイヴィスと共演したりしてるような人なのね。この曲だけでなく、このサントラにはいい感じのジャズ・ヴォーカリストが参加してて、非常にクオリティが高いんです。これが歌のフレーズの元ネタ。で、ドラムがまた以外なところからサンプリングしてる。

3.

「CRUNGE」 LED ZEPPELIN

堀部 これはレッド・ツェッペリンの「クランジ」って曲。おなじみのハードロックバンドね。要するに彼らは、ドラムの部分をレッド・ツェッペリンをサンプリングしてループさせて、歌のフレーズを教育番組から引用している。

ーー 繋がっているんですね!

堀部 そう。一時期のHIPHOPってこういうふうにつくられていた。当時は、その元ネタがあるという構造すらも知らなかったんだけど、やっぱりクラブ行ったりとか、音楽雑誌を読んでると、なんとなく彼らが紹介してるレコードとかがあって、それを探し回って聴いてみると、さっきのマルチプリケーションロックだったりとか...、レッド・ツェッペリンだったりするのね。で、やっぱりサンプリングされたり引用される音楽っていうのはそれ自体も良いんだよ。

ーー ふんふん。

堀部 デ・ラ・ソウルのこのアルバムは、HIPHOPの流れの中でも異色で。黒人音楽なんだけど、マッチョじゃなくてナードなもの、かつ白人が好んで聴いていたような音楽を引っ張ってくる彼らのセンスみたいなものっていうのがすごくよかったのね。型にはまらなくってなんか飄々としている。そういうセンスに共感した。そして元ネタを探していくことで、てんでばらばらに知識を広げていくっていう...。こういうふうに、縦軸の文脈を解体して横から引っ張ってきて、つながるものから横に広がっていく。こういうのがDJ的というか90年代的な考え方なんです。

ミックステープの作り方

ーー 本の中にもミックステープのことが書かれていましたよね。

堀部 そうそう。さっき紹介したみたいな感じで関連性をみつけてテープをつないでいく。

 ほかにもこんなのがあって。オリジナル・サヴァンナ・バンドっていう70年代のキッド・クレオールっていう...、その名の通りカリブ系とイタリア系をルーツに持つブロンクス出身の人が中心になっていたグループで。

4.

「Cherchez La Femme」Dr. Buzzard's Original Savannah Band

堀部 要するにビッグバンドとディスコを融合させた感じ。ディズニーランドのジャングルクルーズっぽいというか。行ったことないから知らんけど(笑)。

ーー ないんかーい(笑)。

堀部 本当に独特で。こういうロマンチックなものも意外とHIPHOPで引用されてたりとかもするんです。デ・ラ・ソウルもサンプリングしてた。で、こっちは竹内まりやの昔のLPなんだけど、アレンジとか曲のテンポとかほんとそっくり。

5.「戻っておいで私の時間」竹内まりや.jpg

「戻っておいで私の時間」竹内まりや

ーー ほんとですね!

堀部 さっきの続きみたいでしょ? テンポとかアレンジがすごく近いものをかけると違和感ないわけなんですよ。こういうふうにして違和感のないつながりで、いかに幅広い分野の音楽をスライドさせていくかがミックステープ作るときの肝。こういうつなげ方って自分は創作してないんだけど、ある種の編集ではある。この飛躍っていうのは、いろんなものを聴いてないとつながらないわけで。

ーー 面白いです。

堀部 黒人音楽ばっかり聴いてても、竹内まりやみたいな邦楽のポップスばかり聴いていても、このつながりはみえてこなかったりする。それって、文脈で本棚を作ることと同じなんです。食の本のコーナーであれば、グルメ漫画のとなりに食文化論や池波正太郎の随筆を置くとか。

 それが90年代的なものの考え方だと思う。でも世紀をまたいだころにパラダイムシフトが起こって、そういうものの新鮮味がなくなっちゃった。で、どういうことが面白くなったかって言うと、また時代は回帰するのね。何を語るかではなくどう語るか、という時代に。例えばこの音源なんかがわかりやすいかも。ひとまず聴いてもらっていいですか。

♪「菊地成孔の粋な夜電波」235回放送「ノンストップビートルズ特集」

堀部 実はこれ、ビートルズの歌詞を意訳して朗読してるんです。

ーー あっ!! 歌詞なんですね!

堀部 「ハードデイズナイト」ね。

ーー だから何回か繰り返してたんですね。

堀部 みんな、ビートルズが何歌ってるか、なんて気にしないで聴いているでしょ。というよりも懐メロみたいに消費されて、ほぼ記号化しちゃってる。そこらで流れてるからね。

ーー たしかにそうでした。

堀部 でも、こういうふうにして朗読を聴くと、やっぱり労働者階級の歌っていう感じがするでしょ。「キツイ一日がやっと終わったぜ」とか「犬みてえにこきつかわれて」とか。すごくロックンロールな感じがするし、やっぱり不良の荒々しい音楽だっていうふうに聴こえるんですよね。

ーー ほんとですね。

堀部 これもある種のDJだし、物の見方を違ってみせるという意味では編集なんだけど、あきらかに90年代的な価値観とは違う。サンプリングとか引用、編集の時代が終わったときに、「誰もが知ってること」をどういうふうに語るかとか、ある程度のバックグラウンドとともに、どう自分に結びつけて表現するかってことが重要になった。何を知っているかではなく、どう語るか。これは個人的にも大きなパラダイムシフトだった。

おまけにちょこっと、80年代のこと

ーー ちなみに、13歳以前の、修業以前の時代っていうのはどんな感じだったんですか?

堀部 なんの記憶もない(笑)。ほんまに(笑)。ほんまにぼんやりしてただけやし、すごく本読んでたとかでもないし...

ーー そうですか(笑)

堀部 ただやっぱり、実家が蕎麦屋やから、景気のいいときは大晦日とか売り子をした。お金を勘定するのとかも、暗算が得意やったし、売れてる感じがやっぱり楽しいってなって、そういうのあったね。

ーー なるほど。本の中で高校生で『ガロ』を読んでいた、とありますけど、それを読むまでにその萌芽みたいなのはありましたか?

堀部 クラスで中心になってるやつらのノリとか、おもしろくないと思ってたから、なんかそうじゃないものを志向していたというのはあったかもしれません。メジャーに対するマイナーみたいな。「先生のお気に入り」みたいなやつが大嫌いだった。いまとなってはちゃんと授業聞いときゃよかったって思ってるけど(笑)。

 そのときにメジャーである『ジャンプ』とか『マガジン』ではなく『ガロ』みたいなマイナーがあったっていうのは、割と気楽な抜け道で。マイナーに共感する友人もクラスに何人かはいたし。選択することで自分の立ち位置を作れて、仲間と共感できるような牧歌的な時代だったと思いますよ、ほんとに。

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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